ウルトラマラソンはただのロングランではない。このレースでは高い持久力が求められ、人間の限界が試される。では、初心者はどこから始めて、どのようにトレーニングを積んでいけば良いのだろうか?
ウルトラランナーになるための準備
ウルトラマラソンの世界に入るためには、連日のロングランを含めながら1週間の走行距離を徐々に増やし、持久力を高めていく必要がある。ロングランを続けることでレース当日のコンディションや疲労をシミュレートし、慣れていく。また、トレイルや丘陵地など様々な地形を走ることでウルトラマラソンの予測不可能な地形に慣れることも重要だ。
ウルトラマラソン上達アドバイス おすすめ9選
世界最高レベルのウルトラマラソンに何回も出場した経験を持つプロウルトラランナーのトム・エヴァンスは次のようにアドバイスを送っている。
「何よりもまず先に 超長距離を走ることを意識してください。そしてその意味を自分の中で見出せたなら、完走が見えてきます。5kmランナーが3ヶ月でウルトラランナーになるのは不可能ですが、考えすぎてしまう人が多いのも事実です。ですので、まずはウルトラマラソンに挑む意味を見出すことが重要です」
01
トレーニングをシンプルにまとめる
エリートランナーのエヴァンスは非常に細かいトレーニングスケジュールを組んでいるが、初心者ウルトラランナーはトレーニングをシンプルにまとめるべきだと考えている。
「トレイルで超長距離を走るためには、強靭な肉体を手に入れる必要があります。なぜなら、岩や石で脚を痛めてしまう可能性があるからです。ですので、早い段階から足首の可動性と筋力を高めるジムトレーニングを取り入れましょう。のちのち助けになるはずです」
02
多様な地形で走る
トレイルや丘陵地など多様な地形を走り、ウルトラマラソンの予想不可能なコースに慣れておこう。スピード強化メニューと登坂力強化メニューを組み合わせて、ペースが激しく上下するウルトラマラソンに必要なスピードと筋力を手に入れたい。
03
レースコンディションをシミュレートする
ウルトラランニングで優れた成績を残すためには、トレーニングでレースをシミュレートしておくことが不可欠だ。つまり、レースに似た環境と様々な地形でのトレーニングが重要になる。可能なら時間帯もシミュレートしておきたい。
また、温暖な地域で開催されるレースに出場するなら暑熱対策もしておき、山岳地帯で開催されるレースに出場するなら、テクニックと獲得標高をシミュレートできるアップダウンのある地域でトレーニングしておきたい。夜間も走り続けるレースなら、夜にヘッドランプを装着して走ることに慣れておこう。
04
ジムを活用する
ウルトラマラソンに向けたトレーニングの究極の目標は、疲労を含むウルトラマラソン特有の様々なチャレンジに向けてフィジカルとメンタルを鍛えることだ。トム・エヴァンスは次のようにアドバイスを送っている。
「ウルトラマラソンでは、スタート直後の1時間とゴール直前の1時間では走り方が大きく異なります。ランニングエコノミーやフィットネスのレベルが下がれば、怪我をしてしまい、完走できなくなります。これを避けるために、ジムでフィジカルコンディションを調整する必要があります」
「登坂力を高めるためには、臀部とハムストリングにフォーカスしましょう。グルートブリッジやシングルレッグ・ヒップスラスト、シングルレッグ・デッドリフトなどがおすすめですが、レースを完全にシミュレートできる高めのボックス・ステップアップがベストですね。片脚6回ずつを4セット行いましょう」
「下りに強くなるためには、足首と大腿四頭筋、股関節屈筋を鍛える必要があります。左右のバランスを鍛えるメニューや体幹を鍛えるメニュー、ウエイトを持ったウォーキングランジやウォールシット(空気椅子)が効果的です。これらは疲労状態での下りで大きな助けになってくれます」
05
栄養補給プランを用意する
ウルトラマラソンは凹凸の多い地形で超長距離を走るため、かなりのエネルギーを消費することになる。トム・エヴァンスは次のようにアドバイスを送っている。
「ウルトラマラソンの栄養補給プランはマラソンのそれとは大きく異なります。マラソンより走行時間が長くなりますが、ランの強度は下がるので、体内のエネルギーシステムの使い方が異なるのです。ですので、適切な準備が必要になります」
正しい栄養補給ができれば、レースを通じて十分なカロリーを確保することができる。トレーニングで様々なフードやドリンクを試して自分に最適なものを探そう。エナジーを長時間維持できるものを見つけておきたい。エヴァンスが続ける。
「私にとって栄養補給はトレーニングの重要な一部ですので、ピリオダイズドプログラムとして準備しています。たとえば、休息日は6時間のランニングをこなす日よりも必要カロリーが少ないので、炭水化物を減らしたプロテイン重視の食事を摂ります。逆にロングランをこなす日は炭水化物を多く摂取します。栄養補給プランや食事内容はトレーニングやレースによって大きく変わります」
好きなことをやっているなら、成功を収めるのは簡単です。私はあえて難しい目標を設定して、その目標を達成するまで続けます
06
用具に慣れておく
ウルトラマラソンでは、ハイドレーションパックやトレッキングポールなど特有の用具が必要になるので、トレーニングからこれらに慣れ親しんでおくことが重要になる。当然、シューズやソックス、ウェア、フードやドリンクも同じだ。レースで使うものに事前に慣れておけば、当日に振り回されなくなる。
レースで使う予定の用具を2セット購入して、レース前に慣らしておくことをおすすめします
07
メンタルを鍛える
ウルトラマラソンに向けてメンタルを鍛えておくことはフィジカルを鍛えるのと同じくらい重要だ。集中力、レジリエンス、モチベーションを長時間・長距離に渡って維持できる能力が完走とリタイアを分けることになる。トム・エヴァンスは次のように語っている。
「突き詰めれば、ウルトラマラソンの99%はメンタルです。完走できるのはメンタルが強いからです。フィジカルの強さではありません。世界最高のトレーニングメニューを積んでも、レースで求められるのは強いメンタルなのです」
ビジュアライゼーション(視覚化)やポジティブなセルフトーク(言い聞かせ)を含むメンタルトレーニングは、レースで厳しい局面を迎えたときに生まれる自己疑念やネガティブな思考を打ち消すのに役立つ。また、レースを複数の小さな目標に分けて捉えれば集中を維持できる。 “まだ先は長い” とメンタルが疲れてしまうのを回避できるのだ。
08
我慢を学ぶ
ウルトラマラソンでは、我慢は美徳であり、重要な戦略でもある。我慢ができれば、アップダウンの激しいレースをクリアなマインドで乗り越えることができる。レースでイージーに飛ばせるセクションは一部しかないこととエフォートレベルのコントロールが成功に繋がることを事前に理解しておくことが重要だ。
11分
アレックス・ロウダイナ: 24時間火山3峰登下山チャレンジ
どんな問題やコンディション、予測不可能な出来事が起きようとも、冷静に集中を維持することが重要です
09
レースカレンダーを最適化する
レースシーズン全体を確認しつつ、自分の身体をいたわることを優先すれば、より健康的で満足感が高いウルトラマラソン活動の継続とベストパフォーマンスの発揮を両立できる。
出場するレースを厳選してリカバリーを優先しよう。手当たり次第出場する代わりに、重要なレースだけ出場するようにすれば、トレーニング効率が高まり、各レースにフレッシュなエナジーとモチベーションで臨めるようになる。
出場するレース数を絞り込んで、十分なリカバリーができるようにしています
プロランナーの週間走行距離は?
いきなりプロウルトラランナーと同レベルの走行距離を消化する必要はない。自分で走れる距離を設定すればOKだ。
とはいえ、エリートランナーたちの走行距離に興味がある人は少なくないだろう。たとえば、ライアン・サンデスはレースの準備期間は週80〜200kmを走っている。つまり、1日4〜28km走っていることになる。
ちなみに、サンデスは距離よりも時間にフォーカスしてトレーニングを積んでおり、「トレイルランニングは、スムーズで走りやすく平坦なコースほどタイムが出ますが、テクニカルな山岳コースでは同じ距離を走るのに約3倍の時間がかかります」と語っている。
以上のアドバイスを参考にしてステップ・バイ・ステップで進めていこう。自分が走るすべての距離に意味があることを忘れないように!
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