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8月上旬、英国の格闘ゲームファンが喜びを爆発させた。その導火線となったのが、ある英国人プレイヤーが繰り出したベガのサイコインパクトだった。
Benjamin “Problem X” Simonは、EVO 2018で自分が世界最強の『ストリートファイターV』プレイヤーのひとりであることを証明した。
ベガをメインに据えているProblem Xは、その優れたスキルでライバルたちを圧倒しながらグランドファイナルへ進出すると、前年王者のときどを倒して初の世界王者となった。
グランドファイナルのときど戦は、前半こそ五分五分の内容でときどがリセットに成功したが、後半は非常にスキルフルなプレイと、世界最強レベルのプレイヤーしか持ち得ないメンタルの強さを披露したProblem Xが押し切った。
Problem Xの優勝は “ラッキー” ではなかった。彼のプレイの質と判断の良さは、長年に渡るハードワークと努力の賜物だ。EVO 2018優勝は彼が実力で勝ち取ったものだ。
しかし同時に、ロンドンの『ストリートファイター』シーンがなければ、彼が世界王者の称号を得ることはできなかったとも言える。
ロンドン - EVO王者を育む街
熱心なコミュニティがなければ、今のロンドンの『ストリートファイターV』シーンはなかった。
このゲームと、トーナメントへの純粋な愛情から生まれたグラスルーツコミュニティ、そしてWinner Stays On(以下、WSO)をオーガナイズするLogan Samaをはじめとするコミュニティリーダーたちのおかげで、ロンドンのプレイヤーたちは、スキルを高めるため、そして世界レベルのステージで成功を収めるために必要な "コンペティティブな環境" を手にできている。
経験豊富なベテランプレイヤーたちは、リアルな空間に集い、仲間と切磋琢磨することがトップへの近道だと幾度となく発言しているが、Logan Samaは、WSOを毎月開催することで、ロンドンの『ストリートファイター』シーンにその “近道” を提供している。
Loganは、今年からRed Bull Gaming Sphere London(Red Bull Gaming Sphere Tokyoの詳細はこちら)で定期開催されるようになった自分のイベントがProblem Xに与えた影響について、次のように語っている。
「俺たちは力強い “仲間意識” が生まれるように工夫しているんだ。切磋琢磨できる環境、ハードワークが報われる環境を心がけている。定期的に実戦を重ねれば成長できる」
Red Bull Gaming SphereでWinners Stays OnやPractice Quartersが定期開催されているロンドンは、チャンピオンを育む環境が整っているのさ
「Problem XはWSOに7年間通い続けている。ほぼ皆勤でね。あいつはひたすら努力を続けているんだ。限界までハードワークをしている。結果がそれを物語っているよ」
「WSOは、英国のプレイヤーたちにトップレベルのプレイヤーと対戦できるチャンスを提供している。EVO 2018が終わった今、その “トップレベルのプレイヤーと対戦できるチャンス” の信憑性にいちゃもんをつける奴はいないだろうね」
「WSOはプレイヤー育成の中心に位置してきたし、Problem Xのようなプレイヤーたちによって、ロンドンにはチャンピオンを育む環境が整っていることが証明された。Red Bull Gaming Sphere LondonでWinners Stays OnやPractice Quartersも定期開催されているしね」
ソリューションX
しかし、EVO 2018で33位タイと健闘した『ストリートファイターV』プロプレイヤーのPackzは、Problem Xが優勝した理由は、突き詰めれば本人のたゆまぬ努力に尽きると考えている。
「定期的にプレイできるシーンの存在はプレイヤーの成長にとって非常に重要だけど、正直に言わせてもらえば、Problem Xは立派なシーンがなくても結果を出せたと思う」
「彼はひたすらプレイを続けているし、あらゆる問題のソリューションを見つけようと努力を重ねているからね」
インタビューを終えたProblem Xは、とにかくベッドで眠りたいって言ってたよ
Problem Xが世界最強プレイヤーのひとりになれたのは偶然ではない。イベントに頻繁に顔を出してプレイを続けていたからだけでもない。トップレベルでプレイをするためには、影の献身と圧倒的なメンタルの強度が必要になる。
英国出身のベテランプレイヤーで、現在は主にコメンテーターとして活躍しているFemi “F-Word” Adeは次のように語っている。
「ときどのようなプレイヤーを相手にする際にどれだけ強いメンタルが必要になのかについて世間は忘れがちだ。Problem Xは、EVO 2018優勝後のあらゆるインタビューを終えたあと、とにかくベッドで眠りたいって言ってたよ」
最強のひとりへ
Problem Xは、キャリアスタート直後から将来を嘱望されていたわけではなかった。しかし、彼には最初から自信があった。F-Wordは、Problem Xと初めて会った約10年前からその自信の大きさに感心していたと振り返っている。
「2009年にProblem Xからメールをもらったんだ。“Problem Xだ。よろしく。僕はサガット使いなんだけど、今度のSVB(Super VS Battle:かつて英国で開催されていたトーナメント / ウメハラを含むトッププレイヤーも多数出場していた)で優勝できると思う” ってね」
「“いい根性してるぜ” と思ったよ。結局、SVBは強豪揃いだし、優勝は難しいんじゃないかって返事をしたんだけど、自信の大きさが気に入った。あの日以来、友人関係が続いているんだ」
「Problem Xは『ストリートファイターIV』時代を通じて練習を重ねていた。色々なキャラクターを試しながらプレイしていたけれど、大きな結果は残せなかった」
「奴にようやく注目が集まり始めたのは、複数の日本人プレイヤーを倒して優勝したEGX 2017さ。そして今、奴はさらに成長したってわけだ」
Problem Xは数年前まで注目されていなかったプレイヤーかもしれないが、ロンドンの他のプレイヤーたちは、彼には頂点に立てる才能が備わっていることを以前から知っていた。
EVO 2018を17位タイでフィニッシュしたロンドン出身のプレイヤー、Claude “Hurricane” Dibotiも、以前からProblem Xの才能を信じていた。
「僕は5年前に格闘ゲームコミュニティに加わったんだけど、Problem Xはトップに立ち続けていた。ヨーロッパ圏内で複数のトーナメントを制していたし、米国でもそれなりの成績を残していた。彼ならやれると思っていたよ。EVOかCapcom Cup、もしくはその両方で優勝できるってね」
ときど対策
『ストリートファイター』シリーズはコンボをマッスルメモリに刷り込むだけのゲームではない。もちろん、そのような記憶作業も重要だが、世界の頂点に近いレベルでプレイするためには、何が起きても動じないメンタルを用意しておく必要がある。
Problem Xの勝因は強い意志だけではない。グランドファイナルの対戦相手、ときどが何をしようとしているのかを理解していた “深い読み” も勝因のひとつだった。
Problem Xは、帰国後に放送されたWinner Stays On SessionsでのLoganとのインタビューの中で、次のように振り返っている。
「リセット後のときどは、リードしていた僕のリズムを乱そうとしてくるはずだと読んでいた。EVO 2017でPunkに対して挑発的に仕掛けていったように、ときどがリセット直後に僕の動きを先読みしてくるだろうと読んでいた」
Problem Xを優勝に導いたのはスキルだけではなかった。対戦相手のプレイスタイルを瞬時に分析し、勝利に必要なソリューションを導き出せる “読む力” も優勝に貢献したのだ。
EVO 2018優勝は最高の瞬間だった。そう感じたのは、Problem Xと英国人プレイヤーたちだけではなかった。世界の『ストリートファイター』コミュニティもそう感じた。
今回のProblem Xの優勝によって、英国の格闘ゲームシーンは世界に名乗りを上げた。この勝利は、小規模だがタフなロンドンのシーンが今後世界から注目されることを意味している。F-Wordは、Problem Xが優勝した瞬間は、まるで映画のようだったと振り返っている。
まるで映画『ロッキー』みたいだったね。俺は半べそだったよ
「Problem XがEVO 2018を制したあと、本人の姿をほとんど見かけなかったんだ。でも、みんなでMandalay Bay Hotelのカジノに行って、他の一般客と一緒にテーブルに座っていると、誰かが突然 "なあ、あんたチャンプだろ? おい、Problem Xだぜ!" って叫んだんだ」
「そのあとは連鎖反応でどっと盛り上がった。まるで映画『ロッキー』みたいだったね。全員が手を休めて、拍手を始めた。カジノのディーラーも拍手していたよ」
「正直『すげーな!』って思ったね。俺は半べそだったよ。魔法のような瞬間だった。それまで全然姿を見かけなかったのに、いきなり姿を現して、大騒ぎになったんだからさ。Problem Xが誰だか知らない人も声を上げて、拍手をしていた」
「あの瞬間、EVO王者の意味を理解したよ。奴が何を勝ち取ったのか、奴が何になったのかをね。クレイジーだよ」
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