モロッコの壮大な景色。
© Dai Wako
サーフィン

プロサーファーであり、フィルマー【和光大】とは?

プロサーファー、サーフコーチ、トラベラー、フィルマーと、多彩な顔を持つ和光大。彼は一体何者なのか?
Written by Daisuke Sato
読み終わるまで:8分公開日:
和光大というオトコを紐解く前に、まずはこの美しく壮大な動画を観て欲しい。
▲サーファーや旅人の夢を実現したこのロードムービーは、企画、撮影、編集のすべてを和光大がたった1人で行っている。もちろんドローンでの撮影も、だ。プロサーファーとしてだけではなく、いまやフィルマーとしても注目を集める存在だ。

和光大(わこう だい)

和光大。

和光大。

© Shingo Makino

和光の動画作品を観ると、どちらかといえばコンペティターとしてよりも、スタイルを重視するサーファー像を想像してしまうが、意外にも幼少期からコンペ一筋の生活を送ってきたという。
「『プロサーファーになりたい』という夢を実現するため、小学校6年生のときに家族で鎌倉市に移住しました。ここから本格的なコンペティターとしての活動を始めて、中学に上がると、4〜12月は国内の試合を渡り歩き、12〜1月はハワイで練習、3〜4月はオーストラリアで練習という、今思えば贅沢な幼少期を過ごしました」
パイプライン(ハワイ)

パイプライン(ハワイ)

© Greg Gyselinck

ちなみに、中学1年生の時に約2ヶ月間ハワイに滞在したが、この時のステイ先がなんと、ASP(現WSL)で2度のロングボードワールドチャンピオンを獲得したボンガパーキンスの自宅だったという。このハワイでの経験はかけがえのないものとなり、現在の和光大を成すきっかけとなった。

◆サーフィンの名門校に留学◆

中学卒業を機にコンペティターとしてのさらなる成長を求めて、オーストラリアのクイーンズランド州・ゴールドコーストにあるパームビーチ・カランビン・ステイトハイスクールにサーフィン留学をする。トライアルを受け見事合格し、所属した同校のサーフィン部は、ミック・ファニングを筆頭に、オーストラリアを代表するサーファーを数多く輩出する名門校だ。現在は、トッププロを目指す、多くの日本人サーファーの留学先として認知されているが、日本から留学し、日本人としてサーフィン部に所属したのは、和光大が初めてだったという。
The theatre of dreams

The theatre of dreams

© Andrew Shield

ちなみに、和光の先輩にあたるレッドブル・アスリートのミック・ファニングは、2007年、2009年、2013年と3度のワールドタイトルを獲得したレジェンドサーファー。2018年にWSLからの引退を表明した。
▲レッドブル・アスリートのミック・ファニングが、いかにスゴイかは上の動画を見ればわかる。
「ハイスクール時代は、授業の一環としてサーフィンができたこともあり、毎日のように海に入ることができました。学校に行っているのに1日に3ラウンドサーフィンができることもあって。ジュニアの大会や学校別の大会、ツアーなどにも出場し、高いレベルの中で切磋琢磨しながらサーフィンを学ぶことができました。この当時、まだ日本では一般的ではなかったコーチングという概念に触れ、実際に教えられる立場として体験できたことは僕にとって大きな収穫でした」
ハイスクール卒業後は、サザン・クロス ユニバーシティのサーフィン学科に入校。サーフィンだけではなく、サーフィン業界全体、それを取り巻く環境、ビジネスサイドなど様々なことを学んだ。結局、15〜20歳までのトータル5年間をオーストラリアで過ごした。

◆好調から一転、徐々にくるい始めた歯車◆

成人と同時に留学を終え日本に帰国。帰国したその年にJPSAのトライアウトを受け、2回目のチャレンジで見事合格。その年のJPSA第3戦、第4戦では優勝を果たし、ルーキーイヤーにも関わらず、トップシード入りを果たした。日本でのプロ生活を華々しくスタートさせた和光だが、「できるだけ最短で世界に出たい」という強い思いが、逆に彼の歯車を少しずつくるわせていった。
和光大。

和光大。

© Shingo Makino

「私生活でのちょっとした問題も重なってしまい、2年目・3年目のシーズンは自分にとって苦しい時期でした。完全に負のシパイラルに陥ってしまい、最終的にはプロサーファーなのに思うようにサーフィンができない状態に……。ずっと海外だったので気軽に相談できる人もいなくて、ひとりで抱え込んでしまったのも良くなかったのだと思います。最終的には『オレ、サーフィンなんでやってるんだろう』って考えるまで追い込まれていました」
Gold Coast, Australia

Gold Coast, Australia

© Marc James

「ここから抜け出さなければ」が、どん底から絞り出した和光の答えだった。そして今一度、「自分は何がしたいのか」を見つめ直したとき、自然と出てきたのは「もっとサーフィンをやりたい」というシンプルなものだった。学生時代、毎日のようにサーフィンをしたオーストラリアへ再び戻ることを決意する。すべてを白紙に戻し、もう一度輝きを取り戻すために。
「2度目のオーストラリアでは、朝から海に入り、夜はレストランで料理を作る。毎日がその繰り返しでした。でもこの1年間は本当に充実していて幸せでしたし、『今を生きている』っていう感覚にすごく満たされていました。次第に『何かを得て帰りたい』と思うようになり、今度はビジネスを学ぶための学校に通いました。2回目のオーストラリアは最終的に計3年ほどの滞在となりました」
和光大。

和光大。

© Shingo Makino

◆サーフコーチとして開花◆

ビジネスの学校に通い始めると、並行して16歳で体験し、興味を抱いていたコーチングの技術を学び始めた。次第に日本からキッズを受け入れるようになり、着実にレベルを上げて帰国するキッズが評判を呼んだ。和光がコーチングの先生と慕うクレイトン・ニーナバー氏は、2018年にNHKで放送された「奇跡のレッスン」に世界トップクラスのサーフコーチとして出演している。このとき和光もアシスタントコーチとしてクレイトン氏をサポートし、番組に出演。日本国内においてサーフコーチとしての和光の存在に注目が集まるきっかけとなった。ちなみに、クレイトン・ニーナバー氏はレッドブル・アスリートのジョーディ・スミスを育てたサーフコーチとしても有名だ。
ーー大好きなオーストラリアの海、そこでのサーフィンは、和光の心の傷を徐々に癒していった。そして、幼い頃からコンペ一筋の生活を送り、自宅と海を行き来する毎日を過ごしてきた自分が、まったく知らない美しい景色が世界中にあることに気付かせてくれた。
2度目のオーストラリアでの生活が終わりを迎える頃、彼女との電話口である言葉が自然とこぼれた。

「あのさ、一年後の今日から世界一周の旅に出ない?」

彼女の答えは2つ返事だった。

「いいよ、行こう!」

「本当にポロっと、自然と口から出た言葉だったんです。でも彼女が快諾してくれて。そこから1年間、費用の準備や旅の計画、動画の撮影技術やドローンの操縦・撮影技術の習得、動画の編集技術の習得など、じっくり、綿密に準備を進めました」
和光の撮影したモロッコの風景。

和光の撮影したモロッコの風景。

© Dai Wako

◆世界を目にし、記録し、表現する旅へ◆

そして、2018年11月30日、2枚のサーフボードとカメラ機材を手に、世界のまだ見ぬ美しい景色を直接目にし、記録し、表現するため、和光大は旅に出た。
3ヶ月をかけて、インド、スリランカ、エジプト、モロッコ、スペイン、ポルトガル、フランス、アメリカ、カナダの全9カ国を回った旅の記録。そして、この旅の記録こそ冒頭に紹介した動画(モロッコ編)だ。モロッコ編以外の旅の記録も見たい人は、和光のYouTubeチャンネルをぜひチェックしてみてほしい。
モロッコの壮大な景色。

モロッコの壮大な景色。

© Dai Wako

そして、旅を終えた和光が次に公開した動画作品が以下。
「本当はもっと多くの国を回りたかったのですが、時間に制約があったので今回は9カ国で旅を終えました。旅先での景色は本当に美しく、3ヶ月間興奮しっぱなし。ただ、それと同時に美しい自然とは対照的にゴミの量もすごくて……。世界遺産のあるエリアはものすごくキレイに保たれているけれど、隣の街に行くとゴミが溢れている」

◆自然や人に対して僕ができること◆

「モロッコでは、自然がただ美しいというだけではなく、強さを感じたといいますか、ここで僕ひとりがとり残されたら、確実に死ぬなっていう。そういう強さを感じさせる自然も絶対に残していかなければいけないと強く感じました。旅から戻ってきてからは、自然や人に対して、僕ができること、僕たちができること、を日々模索しています」
次なる旅へ。

次なる旅へ。

© Shingo Makino

ちなみに、フィルマーでもある和光にお気に入りの動画を聞いてみたところ、感銘を受けたと話してくれたのが現在「Red Bull TV」で配信中の以下の動画。
「僕は、個人を対象とした映像作品では、その人の価値観や考え方、姿勢がわかる作品が好きです。観ていて本を読んでいるような感覚になれるもの。自分と異なる価値観に触れられるのがいい。この作品は、そういった要素をカバーしていておもしろいです。それと、単純にスゴイ! たった一枚のショットのために、サーファーよりも危険なポジションに入る。僕のコンセプトである『今を生きる』っていう考え方にも通ずるところがあり、この作品に感銘を受けました」
和光大。

和光大。

© Shingo Makino

2019年11月28日、和光大は個性豊かな3人のプロサーファーたちと、1台のキャンピングカーに乗り込み、新たな旅に出る。
モロッコを皮切りにヨーロッパへと移動、最終目的地はアイスランドのオーロラを臨むファンウェーブだ。
それぞれが自然や人に対して今できることを、「今を生きる」というテーマのもとで自分なりに考え、悩み、表現する旅。
この旅の記録は、ロードムービーとして2020年4月に上映会が予定されている。
和光大の動画作品、活動を知りたい人はInstagramの公式アカウント「@wombat0828」をチェック。
(了)
◆Information
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◆撮影地協力