最大100人のプレイヤーが最後のひとりを目指して戦う合うビデオゲームジャンル “バトルロイヤル” は、約2年前から世界的なブームになっている。
このジャンルのプロシーンでは、世界中からチームが集まって1マッチでプレイヤー100人が戦うビッグイベントが開催されているのだが、このスケールゆえにコメンテーターやアナリストの仕事がかなり難しくなることがある。
『Player Unknown’s Battlegrounds』(以下『PUBG』)はバトルロイヤル系esportsシーンをリードする老舗タイトルのひとつで、2019年からは独自の地域別プロリーグを立ち上げたことから他のesportsタイトルで活躍していたタレントが続々と集まってきている。
現在の人気esportsタイトルの多くは、1チーム対1チームのフォーマットが採用されているが、『PUBG』はこのフォーマットとは大きく異なるフォーマットが採用されており、1マッチで16チームが同時にプレイする。
このスケールを誇る『PUBG』のキャスターを担当するためには、『Counter Strike: Global Offensive』や『League of Legends』のような他のesportsタイトルのキャスティングスキルとは完全に異なるスキルが必要になる。
マップは他とは比較できないほど広く、チーム毎に降下ポイント(スタートポイント)が異なり、様々なアクションがあらゆる場所とタイミングで発生する。
esportsタイトルのキャスティングは知識が重要だ。キャスターたちは各ゲームのナラティブを伝えつつ、画面上で何が起きているのかについても分かりやすく伝えていく必要がある。
しかし、『PUBG』では、ひとつのエリアで4~5チームが戦っている最中に、マップの逆側で別の2チームが戦いを始める可能性がある。
これらすべてのナラティブをフォローし、それぞれの戦闘で何が起きているのかを分かりやすく正確に伝え、さらにはその他のロケーションの状況も把握するというのは、他のesportsタイトルの1チーム対1チームでのキャスティングとは完全に勝手が異なる。
今回は、Richard “Simms” Simmsが、『PUBG』の激しいマッチのキャスティングに何が必要なのかについて詳しく解説してくれた。
『PUBG』のベテランキャスターとして知られるSimmsは、次のように話を始める。
「1プレイずつ追っていく “プレイ・バイ・プレイ・キャスター / 実況” から各プレイの背景や意図を説明する “カラーキャスター / 解説” への転向はキャリア最大のチャレンジになった」
「実は『PUBG』へ移る前の僕は『Halo』シリーズの実況担当として長年活動していた。でも、僕の考えでは『PUBG』で “実況” は不可能だ」
「激しい銃撃戦が展開される確率が高くなるマッチ後半では実況できるかもしれないけれど、マッチ全体は絶対に無理だ」
「そして『PUBG』への転向に伴うもうひとつの大きな変化は、定期的にキャスティングをすることで自分のミスが明確に確認できるようになったことだね」
「Redditユーザーのフィードバックは大きな助けになっているし、今も “えーと” や “あの” などの繋ぎ言葉を減らしたり、発音を修正したり、ボキャブラリーを増やしたりするための努力をしているところだ」
『PUBG』の実況が難しいというなら、解説が残りの選択肢になる。つまり、各チームの背景を説明したり、各アクションを分析したりするキャスティングだ。
各チームの降下ポイントの違いを解説したり、それがゲーム展開にどのような意味を持っているのかを説明したり、各チームの戦術について分析したりしていくこのキャスティングスタイルは特別新しいものではなく、スポーツ中継で昔から見られるものだが、『PUBG』では完全に異なるカラーキャスティングスキルが必要なる。
Simmsが続ける。
「さらに『PUBG』では地域ごとにトーナメントオーガナイザーが異なるから、グローバルイベントを視野に入れて地域から地域へと移動し、各地域のキャスターと組みながら全体図を見ていくオブザーバーの重要性はいくら説明しても足りないくらいだ」
「キャスターにとって、オブザーバーはコンビを組むキャスターと同じくらい重要だ。広い視野で16チームを捉えるために、オブザーバーは戦闘が起きそうなタイミングを先読みし、チョークポイントをモニタリングしながら、キャスターたちが話している内容に反応していく」
「ブロードキャストチームは、16チームそれぞれの “Aポイントに降下してからBポイントでキルされる / Bポイントで生き残るまで” のストーリーを練り上げつつ、その途中で訪れたチャンスとピンチについてのディスカッションを仕掛けていく必要がある」
コメントをしないオブザーバーにさえもこのようなユニークなチャレンジを投げかける『PUBG』は一筋縄ではいかない。
しかし、それでもストーリーを “語る” 係とストーリーを “見せる” 係の間に美しくてソリッドなハーモニーを生み出し、ハイクオリティな視聴体験を提供していかなければesportsタイトルとして "生き残れない" 。
しかし、バトルロイヤルがまだ新しいジャンルであること、視聴体験の全体的なクオリティを向上させるためのテクノロジーが随時開発・投入されていることを踏まえると、『PUBG』のストリーミングシステムが完成していると考えるのは難しい。
興味深いのは、『PUBG』のリーグやメジャートーナメントを担当しているキャスターの多くが、このシーンを専門にしているということだ。
現在活躍している『PUBG』キャスターの中で、過去に他のタイトルでキャスターを担当した経験を持つ者は少ない。
その理由のひとつには、このゲームのトーナメントシーンがまだ新しいというのが挙げられるだろう。また、このゲームのキャスティングのユニークな必須条件を満たすのが簡単ではないというのも理由として考えられる。
そして、『PUBG』をリリース直後からプレイしていて、その頃からキャスティングをしていた人だけがこのゲームの注目ポイントを正確に理解できているというというのも理由だろう。
いずれにせよ、PUBG Corp.は視聴体験のさらなる向上を目指していることを明言しているため、キャスティングチームも確実にレベルアップしていくはずだ。
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