HIPHOP 80's-00's
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ミュージック

ラッパーの服はなんでダボダボだったの? 〜歌は世につれ世は歌につれ〜|丸屋九兵衛に会いに行く

『bmr』編集長にして、SF評論家、決めゼリフ収集家、世界史ダークサイダー…と数々の風変わりな肩書きを持つ男。彼がこの頃気になること、それは〈音楽〉と〈メッセージ〉と〈ファッション〉の関係性?
Written by 天田 輔
読み終わるまで:10分公開日:
丸屋九兵衛。音楽情報サイト『bmr』編集長にして、SF評論家、決めゼリフ収集家、世界史ダークサイダー…と数々の風変わりな肩書きを持つ男。ときには、古代中国にまつわる五つの真実について意外なトリビアを披露し、ときには突然、「ネコのように生きたい」と真剣に語り出したかと思えば、またあるときにはブラックミュージシャンのグッとくる「本名」を集め始める……平たくいうと“変わったおじさん”だ。
会うたびに違う種類のもの想いに耽っている彼に、最近は何を考えているのか、また今回も尋ねに行ってみた。
——丸屋さん、おひさしぶりです。
宇宙、そこは最後のフロンティア。…ねえ?
——ねえ?って。それ、スタートレックに毎回出てくる、有名な語り出しでしょう?
あとさ、あとさ、「公民権運動」って昔、社会の授業で習ったでしょう。
——まずはその謎のテンションの説明をしてくださいよ。
つまりとても素敵な本を買ったんですよ。
——はあ。

〈スタートレック〉と〈公民権運動〉のつながりって?

この本(「カリフォルニアからアメリカを知るための54章」著・越智道夫)には、多くの目を見張る指摘があって。
公民権運動(1950〜60年代に全米で起こった社会運動。主にアフリカ系アメリカ人の人たちが、彼らの社会的な地位の向上を訴えた。「キング牧師」の名前を聞いて思い出す人も多いはず)が盛り上がっていったなかで、アメリカ社会には多くの変化が生まれました。そしてそれは映画産業にも決定的な変化をもたらした。それは意外にも、「西部劇」がなくなったこと。
——荒野で向き合ってガンマンが決闘して…、あと、バーの扉が左右にパタンと開くみたいな、あの「西部劇」?
公民権運動っていうとアフリカ系アメリカ人の運動だけを想像しがちなんだけど、他にもラテン系アメリカ人とか、ネイティブアメリカンの人たちの社会的地位の向上も訴えた運動だったんです。
で、西部劇って基本的に、ネイティブアメリカンの人たちを痛めつける話だったりするから、そういう映画はそれ以降なくなっていくんですよ。
——あー、西部劇の主人公たちは、アメリカ大陸を開拓していく人たちだから。
そう、新大陸を開拓していくにあたって、ネイティブアメリカンの生活や文化を壊していったことを正当化していた感覚を、葬り去ったのが公民権運動だった。
だけど、アメリカ人の文化や気質のなかには、開拓者精神というか、常にフロンティアを求める感覚があるんでしょうね。西部というフロンティアを描く映画やドラマが見られなくなってしまったら、アメリカ人の国民性として物足りなくなってしまった。そこで新たにドラマのモチーフとして描かれたのが…、宇宙というフロンティアだった。
——宇宙、そこは最後のフロンティア!
ねえ? だからスタートレックが始まったのって、1966年。公民権運動のゴールとなった〈公民権法の成立〉の翌々年。
映画やドラマには、時代時代の社会のありようが反映されていることが多い。
音楽もそうだよな、ってことを今日は考えてみたいんです。
——なんと! ここまでが導入部!

歌は世につれ、世は歌につれ。

先ほども言ったように、60年代のアメリカには公民権運動がありました。いわゆるブラックカルチャーが社会的地位を少しずつ向上させていくなかで、彼らが奏で、歌う音楽にも自然と熱がこもっていった。そうしてそれまでのリズム&ブルース(R&B)は、ソウルミュージックへと分化していきます。ソウルフルな、アツい音楽。
そうした気運を受けてか、60年代終盤までは、ロックやフォークといったジャンルの音楽も、どんどんメッセージ性が強くなっていった時代でした。政治への疑問から〈ラブ&ピース〉を掲げたヒッピー・ムーブメントが興ったのもこの時期ですね。
——それが70年代になると?
69年には、ウッドストック・フェスティバルという伝説的なフェスがあり、〈音楽〉と〈メッセージ〉の結びつきもピークを迎えます。70年にはジミ・ヘンドリックスが他界し、音楽の中からメッセージ的な熱量が突然なくなっちゃうのが70年代なんですよね。
やがて70年代末〜80年代初頭には空前のディスコブームが起こります。それは享楽的で、メッセージ性とは無縁でした。
——80年代には、コワモテのヒップホップの人たちも台頭してきますよね? 彼らは言わば〈メッセージ性〉の人たちではないの?
80年代後半に出て来たN.W.Aとパブリックエナミー。彼らには確かに、メッセージ性が強くありました。それで日本でも『ヒップホップ=メッセージをぶちあげるもの』というイメージが出来てしまうんですけど、彼らはどちらかというと特例。
ヒップホップは別に〈メッセージの音楽〉じゃないんですよね、〈自己主張の音楽〉なんですよ。
だって初めてラップでレコード化された曲:シュガーヒルギャングの「ラッパーズデライト」の歌詞で言ってるのって『おれの家にはカラーTVがあって、NBAの試合がカラーで見られるんだぜ!』みたいな内容。
——そうか、メッセージというより〈オレ自慢〉だ。
そう、こんなにアクセサリー持ってるとか、こんな車に乗ってるとか。自己主張のなかにそういうオレ自慢があり、メッセージもあり。自己主張と自己主張を戦わせるのが、ヒップホップの重要な一側面だったんですよね。
〈オレ自慢〉っていうより〈暴力自慢〉の人たちも出て来て、それがギャングスタ・ラップと呼ばれるようになるんだけど、東海岸には〈オレ、セクシー自慢〉みたいな、“オレってモテるぜ系”もちらほら出てくる。
やがて今現在のヒップホップにも、やっぱりメッセージ性は少ないですよね。
——今のヒップホップのひとたちは主に何を歌ってるんでしょう。
すごくノンポリに見えますよね。なんかおしゃれで。
軽い〈オレ自慢〉みたいな感じでしょうかね。闘争心はあきらかに失せてますよね。トラックも音数が少なかったり。あと確実に洋服は細くなってますよね。

ラッパーの、服のサイズも世につれて。

——ヒップホップのひとたちの、近年の洋服のスリム化を丸屋さんはどう見てますか?
歴史を振り返ってみると、80年代も結構細いんですよ。
——そっか、いわゆる“だぼだぼファッション”になる前の時代だ。
本当に“だぼだぼ”だったのは1997年から2006年くらいの間だったかもしれないですね。
——お茶の間では、ヒップホップといえば“だぼだぼの服”みたいな印象があるけど、実は“だぼだぼ”だった時代ってそんなに長くない…。しかも2006年から数えてももう10年以上経ってる。
RUN DMCなんか今見ると、けっこう細いですよ。全盛期のボビー・ブラウンも。90年代初頭から少しずつ太くなってきて、ももはちょっと太いけど、くるぶしあたりは細かったり。(笑)
——過渡期だ!(笑) でも、太くなっていったきっかけは、なんだったんでしょうね。
昔、キッド・フロストというメキシコ系ラッパーが言ったのは「お金がかかるから、何度も買い替えなくてすむように」って。子供には大きい服を買い与えるってやつ。
——お母さんが学生服と体操着は大きめなやつ買っちゃうのと一緒!? でもそれから時代を経てもう一回細くなっていったのはなぜだったんでしょう?
ヒップホップのハイファッション化ですね。モード化と言ってもいいかもしれない。ASAP ROCKYなんて20万円のセーター着てたりするし。
——昔の〈オレ自慢〉全盛の頃のラッパーさんたちは、そんなじゃなかったのに…。
〈オレ自慢〉全盛の頃のラッパーたちは、自慢のタネが貴金属なんですよね。
ジャラジャラ貴金属つけて、でもパンツはジーンズ、上はTシャツだったり。実はあんまりお金がかかってなかった。
ところが最近は、ルイ・ヴィトンとかグッチとかを身につけるようになったんですよね。経済的な意味では明らかに向上してますよね。
あとは、ハイファッションブランド側が、ヒップホップに歩み寄っているということもあります。00年代初頭に、ルイ・ヴィトンがグラフィティのようなデザインを取り入れたのを憶えてますか?
——あ、手書きの白い文字がカバン一面にびっしり書かれてるみたいな。
なぜハイファッションがヒップホップに寄り添ってきたかといったら、やっぱりヒップホップが市民権を得たから。つまり売れるから。
なおかつヒップホップ側も、シーン全体に金銭的余裕が出てきて、そういうブランド品を買えるようになった。
昔は白いTシャツに、でかい貴金属のネックレスをドーン、みたいなね。
——パリっとスーツなのに野球帽かぶってたりとか。
入団したての野球選手みたいなね。
そんなわけで今日はブラックカルチャーを象徴する音楽の歴史を簡単に辿りました。音楽における〈メッセージ性の強さ〉が公民権運動を一つの始点としていることを考えると、現在のヒップホップがハイファッション化してメッセージ性が希薄になっていることは、政治的メッセージを発する必要性が少なくなった、という世相を表しているのかもしれませんね。
——あ、急にいい感じにシメようとしてる。
メッセージ性が薄れるということは、それはそれで喜ばしいことなんですね。もっとも、本当に平和な時代なのか?という疑問はあります。公民権運動の頃のような「わかりやすい目標」の代わりに、見えにくい差別と戦わねばならなくなったような。
なんにしても、歌は世につれ世は歌につれ。そしてファッションもまた世相につれて変化する、時代の鏡ということですね。
——シメようとしてますよね。
ありがとうございました!
——満足そうですね。

<イベント情報>

2017年11月24日(金)@レッドブル・スタジオ東京ホール
丸屋九兵衛トーク【Soul Food Assassins vol.3】
アメリカ黒人史解読:映画『ドリーム』と『ゲット・アウト』から読み解く
1960年代のNASAを描く感動実話『ドリーム』(日本公開9月末)。そして、現代を舞台にしたホラー怪作『ゲット・アウト』(日本公開10月末)。
ブラックカルチャーをより深く理解し、尊重するために、ふたつの映画の共通項を紐解きます。
開場18:30 / 開演19:00(終演20:30予定)
<チケット / 詳細>
丸屋九兵衛トークライブ【Q-B-CONTINUED vol.20】
マイティ・ソーにお仕置き! 北欧神話の秋、ラグナロクの夜
映画『Thor: Ragnarok』に、『マイティ・ソー バトルロイヤル』という邦題がつけられた瞬間から、我々の戦いは始まった。
ルートヴィヒ2世もワーグナーも夢見てきた世界。それが北欧神話。
『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』や『折れた魔剣』、さらには『アメリカン・ゴッズ』。その他モロモロの作品をインスパイアした、ファンタジー界の源流の一つだ。
開演20:40(終演22:40予定)
<チケット / 詳細>