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ミュージック

RBMA: 田中宏和レクチャー

Written by 齋藤あきこ
ゲーム音楽にダブやテクノなどの音楽性を取り入れたパイオニアがRBMAレクチャーに登壇
RBMA: 田中宏和レクチャー
RBMA: 田中宏和レクチャー
アーティストというと、不規則な生活や型破りな性格、なんてイメージがあるけれど、そんなステレオタイプがあてはまらないこともある。Hip Tanakaこと田中宏和さんは、ファミコン黎明期からエンジニアとして活躍し、ゲーム音楽にダブやテクノなどの音楽性を取り入れたパイオニア。
10月16日(木)、Red Bull Music Academy Tokyo(以下RBMA)で彼のレクチャーが開催された。会場はRBMAの生徒たちで満員。インタビュアーは「ディギン・ イン・ザ・カーツ」プロデューサーのNick Dwyerがつとめた。レクチャーを通してずっと謙虚な姿勢を崩さない田中さんの姿に、「日本のかっこいい音楽は会社員が作ってきたのだ」と胸を打たれた。
田中さんはゲームミュージックを手掛けたミュージシャン、コンポーザー、エンジニア。1980年〜1998年、任天堂に所属し、ゲーム&ウオッチやファミコン、ゲームボーイなどの企画及びゲームプログラム、サウンドデザインを手がけた。彼が生み出した音楽は「バルーンファイト」、「メトロイド」のほか、ゲームボーイ版「テトリス」、「ドクターマリオ」、「マザー」、「マリオペイント」など。レッドブル・ミュージック・アカデミーが制作した、日本のゲーム音楽の歴史に迫るドキュメンタリー・シリーズ「 ディギン・ イン・ザ・カーツにも登場している。
■たまたま会社で音楽担当にまずは、田中さんのバックグラウンドから。田中さんは京都生まれ。夏は海で泳ぎ、冬はスキーが出来るような恵まれた自然の中で育った。音楽を好きになったきっかけは、母が小学校の教師をして事もあり、4歳の頃からピアノを習わせてもらったこと。中学生・高校生時代にはビートルズやカーペンターズを聞いている、普通の少年だった。バンドも友人と遊び程度に組んだぐらいで、音楽家を志したことはなかった。
田中さんが任天堂に入社したのは1980年のこと。「おもちゃの会社だから気楽だと思った」というのが入社の理由。音楽を作るとは予想もしていなかった。
「僕が入った時の任天堂は、インベーダーやトランプの会社で、業務用ゲーム機はあったものの、家庭用のコンピューターゲームはありませんでした。当時は「エレクトロニクスの時代」と呼ばれ、任天堂の開発もそういう方向に進んでいました。山内社長の「業務用ゲーム機は撤退し、業務用ゲームが遊べる家庭用ゲーム機を作れ。」という指示がでたのは入社2年目でした。
当時、任天堂で開発に関わっていたのは十数人。田中さんは音の担当になり、完全に独学で音作りを始めた。しかも当時は、電子回路を設計する事から音づくりを始めなければならなかった。
「全部入社後に独学で学びました。ゲームの効果音を作るためには、簡単なシンセサイザーの回路を設計しなければならない。はんだごて片手に基板をいじって、音を変えるために抵抗やコンデンサーの値を調整して周波数の値を変化させるんです。当時使っていたのは、モニタがない「TTY」というコンピューター開発ツールも全部手作りです。朝出社して、夜中まではんだごて片手に開発をしていました。楽しかったですね」
田中さんがゲームの音楽を作るときには、そのゲームをひたすら遊ぶ。そうすると、どんな音が、どれくらいの音量で鳴るべきか、がわかってくる。
「非効率なようですが、ずーっと開発中のゲームをプレイして、どんな音が必要なのかを探るんです。ゲームのディレクターとも話し合い、僕がゲーム内容に言及する事も多かった。任天堂の「楽しませるものをつくろう」という姿勢は一貫していて、なかでも宮本(茂)さんのこだわりはすごかった。朝から晩までずっとゲームの内容を考え続けているんです。どんな単純なゲームでも、アーケードゲームの時代から、ドットのひとつのレベルまでこだわって、ゲーム性というものに、ほんとうに厳しく接する。それはすごく勉強になりました」
田中さんが手がけた「ドンキーコング」のマリオの歩行音では、コンデンサーの充放電を利用して、歩くタイミングによって違うように音が変わるように調整するこだわりを見せた。
「そうすると、音が可愛くなるんです。僕らはずっとそんな感じで、ひたすら会社に籠って新しいソフトの開発や更に将来に向けた携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」の開発にも取り組んでいました。ファミコンが発売されても流行っているってことすら知らなかったし、世界中でブームになっても、それから5年ぐらい社内の様子が変わることはありませんでした」
RBMA: 田中宏和レクチャー
RBMA: 田中宏和レクチャー
■斬新な音楽性
田中さんが手がけた音楽には、印象的なメロディと、ただのBGMとして聞き流せない仕掛けがある。というのも、田中さんは「ダブ」や「テクノ」をゲーム音楽に取り入れ、それまではBGMに過ぎなかったゲーム音楽に、音楽性という概念を与えたパイオニアなのだ。1984年に発売されたファミコンのゲーム「レッキングクルー」で、既にダブの要素を取り入れている。
「ファミコンは3音しか使えません。それでいかにゲームに沿った、飽きない音楽を作るか?と考えた時に、そのとき聴いていたダブのスタイルを使ってはどうか?と思いついた。限られた音で豊かな表現を目指したいとき、ダブの音楽の構造が合ったんです」
そもそも田中さんが、ダブを初めて聞いたのは京都の喫茶店。ランチのスパゲッティを食べていたら、まるでリズムが取れない、不思議な音楽が聞こえてきた。
それが初体験でした。リズムが取れなくてパスタが食べづらい(笑)。ベースとドラムしか聞こえなくて、「病気になったみたいな音楽だ」と思って。それからハマっていきました
1985年に発売された「バルーンファイト」は、スライ&ロビーへのオマージュだという。
「ファミコンの音づくりでは、矩形波のひとつをドラムのようにする創意工夫をしていました。プログラムには時間がかかりましたが、そういう音が出ると「スライみたいだ!」と思って、どんどん楽しくなってくるんです。そうやって、夜中の2時、3時まで会社で音楽を作っていました」
会社員として音楽を作るいっぽうで、80年代には自らレゲエバンドを結成し、会社の休日を利用してライブ活動も行った。「会社の人は来ませんでしたねえ」と当時を振り返る。バンド名は「シャンプーズ」もしくは「ルーツロッカーズ」。オーガスタ・パブロが来日したので「ピアニカを吹かせてほしい」とライブ会場を尋ね、断られたこともある。ほか「PIL」など、ロンドンで生まれたレゲエとパンクのクロスオーバーのシーンにも影響されたという。
それでは氏が語るあのゲーム音楽の裏側をご紹介!
<メトロイド>
「「メトロイド」は地下世界を舞台にした暗くて苦しいゲームです。普通のゲーム音楽は常にメロディがありますが、このゲームではクリアして初めてメロディが聴けるような仕組みにしました。ゲームをクリアした時だけ最大限のカタルシスが得られるゲーム音楽が作りたかったんです。実は映画「バーディ」が発想のもとになっています。当時、ゲーム業界では映画のサントラのような音楽が流行っていたんですよね。」
<ドクターマリオ>
「ゲーム中には、楽しい気分の時も危険を感じる時もありますよね。だからこの曲の中には楽しい感じもハラハラする気持ちも、いろんな要素が入っています。この頃には音楽大学を出た人もゲーム音楽を作るようになったので、僕なりにいろいろ工夫をして個性を出しました。音程じゃない音程を意識的に入れたり、曲中に割り切れない小節を差し込んだりしています」
■現在進行形のチップチューン
それ以降も、ゲームボーイのサウンド開発やテレビアニメ「ポケットモンスター」主題歌「めざせポケモンマスター」の作曲などを手がけた田中さん。現在はポケモン関連のソフトやコンテンツなどを扱う「株式会社クリーチャーズ」の社長として東京で生活している。その多忙な生活の合間を塗って、個人的な音楽活動も続けている。そうして聴かせてくれた新曲は、ベース・ミュージックにファミコンのサンプリング音が乗った、ものすごくカッコイイものだった。会場からも熱い拍手が巻き起こる。
RBMA: 田中宏和レクチャー
RBMA: 田中宏和レクチャー
「朝ごはんを食べる前の30分とか、寝る前の1〜2時間を使って音楽を作っています。ソフトウェアはlogicです。8bitの音は、「ポケットカメラ」のシーケンサー部分で音を作ったものをサンプリングしてlogic上に組み込み、トラックメイクしています。昔、ファミコンの音楽を作っていた時と同じような気持ちで作っています」
田中さんはAbletonを使ったライブ活動も行っている。
「かつては、楽器が出来る、上達する、というプロセスが色んな意味で大きく音楽に影響を与えていたと思うのですが、最近はそれが変わりました。むしろ、楽器ができない人の作った音楽が主流になったりもしてます。クラブでは観客もスマホを見ながら踊ってますしね(笑)。自分が音楽を作るときにも「楽器ができない自分を想定し、その自分ならどう作曲に取り組むか?」みたいな事をよく考えるし、クラブでライブをする時には逆に作曲する気持ちをいかに注入するかということを考えています。」
田中さんのライブ、是非見てみたい。最後に、ゲーム音楽だけに限らない作曲について語ってくれた。
「自分は制限されるほど創作意欲が前向きになれるほう。「何が作りたいか」と言われても、見つけられないんですよ。そんな中で考えるのは、いろんな音楽があるけれど、動かされる自分の心はひとつだということ。良い曲を聴くたびに、「何に惹かれるんだろう」、「何が面白いんだろう」ということを考えます。結局は、未来を見せてくれる音楽が好きということなんだと思いますけど。いったい何が自分を惹きつけるのか?頭と体を使いなが模索し、同時に作曲に向かう、で、それを永遠に繰り返し、続けて行くんだと思います」
そんな田中さんは、11月13日に東京・渋谷のWOMBで開催されるイベント 『Red Bull Music Academy presents 1UP: Cart Diggers Live』に出演。当日は田中さんのChip TANAKAのライブセットのほか、Rustieによる古代祐三の音楽を中心にしたライブセット、Oneohtrix Point Neverによるシューティングゲームのトリビュート演奏、DUB-Russellと初音ミクとのコラボレーションライブなどが行われる。
■Red Bull Music Academy presents
『1UP: Cart Diggers Live』
2014年11月13日(木)19:00~22:00
会場:東京都 渋谷 WOMB