Social Innovation

より良い世界をDIY!社会起業家・中村伊知哉氏が語るイノベーターの心得|Red Bull Basement University

© Teruhisa Inoue
音楽ディレクター、国家公務員、大学院教授など様々な経歴を持つ中村伊知哉氏が2019年のRed Bull Basement University審査員に就任! 次世代を切り拓くイノベーターの理想像などを本人にインタビュー。
Written by 山本雄太郎公開日:
我々を取り巻く社会にはいまだ様々な問題があるが、我々の頭の中にはそれらを解決に導くアイデアが無限に眠っている。大切なことは、アイデアをカタチにしてみることだ。
Red Bull Basement Universityは、世界中の大学生が自分たちのキャンパス・ライフをより良くするための革新的なアイデアを創出し、テクノロジーを利用して構想を実現するというプロセスを経験することで、学生たちが次世代のイノベーターへと成長していくことを目的としたグローバルプロジェクト。2019年版は9月9日より開催中となっている。
そんな本プロジェクトの審査員の一員として、2020年4月開学予定の情報経営イノベーション専門職大学(仮称)学長の中村伊知哉氏が就任した。
中村伊知哉氏。1961年3月19日生まれ、京都府出身。
中村伊知哉氏。1961年3月19日生まれ、京都府出身。
同氏はロックバンド"少年ナイフ"のディレクター活動を経て、旧郵政省でインターネット政策の推進に尽力。その後、マサチューセッツ工科大学(以下:MIT)メディアラボ客員教授や、スタンフォード日本センター研究所長などを務めるなど、現在も行政機関・民間団体の双方で辣腕を振るう社会問題解決のスペシャリストだ。
本稿では中村氏本人へのインタビューをもとに、こうした幅広い経歴をたどるに至ったアイデアの源泉や、それを実行に移す中で形作られた哲学などに迫っていく。現代社会で必要とされる理想的なイノベーターとはどのような人材なのか、ともに考えていこう。

◆京都生まれパンクロック育ち、原動力は"人とのつながり"

2019年8月31日、京都のライブハウスで行われたスリーピースバンド"VAMPIRE!"の結成40周年ライブに、二代目メンバーとしてステージ上でベースを奏でる中村伊知哉氏の姿があった。
学生時代、パンクロックと出会ったことを切っ掛けに音楽制作に打ち込むようになったという中村氏。それから時は流れた現在も、立場は変われど"作り、人に示し、批評される"というプロセスを繰り返す生き方を一貫して続けている。
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「学生時代にもっとも力を入れていたのはパンクロックです。最初に出会ったのは高校生のとき。学校をサボって古着屋めぐりをしていたら、いきなり店内のスピーカーから流れ出した"Sex Pistols"に衝撃を受けまして……『音楽ってこれでいいんだ!』って、自分でも作れるんじゃないかと思ったんですよ。大学に入ってからは音楽作りばかりやっていましたね。
現在大学を作ろうとしている僕が言うのもなんですが、当時は大学の授業なんて何の役にも立たないだろうと思っていたので、出席した試しがないんです。仲間たちと音楽作りをし、それを人前で示し、批判され……という毎日を過ごしました。改めて思えば、その後も僕がやっていることって根本的には当時と変わらず、"作る"ことなんです。」(中村氏)
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和装がトレードマークの中村氏。先のロックライブにも、着物姿で出演していたそうだ。
和装がトレードマークの中村氏。先のロックライブにも、着物姿で出演していたそうだ。
京都大学在籍中、音楽作りをしていた仲間内には後に世界的なプロトランペッターとして活躍する近藤等則氏や、ロックバンド"BO GUMBOS"を結成する久富隆司氏らがいた。
自身もロックバンド"少年ナイフ"のディレクターとして活躍していたものの、彼らの才能を目の当たりにして挫折感を抱いた中村氏は、大学卒業後に旧郵政省に入省。彼らのような才能のあるアーティストたちがより活躍しやすい環境作りをすべく、インターネット黎明期だった日本における通信自由化政策などを、積極的に推し進めていく。
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「自分には才能がないと音楽の道を諦めた後、ならば才能がある連中がもっと活躍しやすくなる場を作ろうじゃないかということで、自室にこもって勉強して郵政省に入りました。インターネット関連の政策や法律を作ったり、郵政省を辞める直前には省庁再編で総務省を作ったりもしたんですが……。
役所の職員は出世するとですね、国会議員まわりなど偉い人の相手をするコーディネーターでしかなくなるんですよ。これでは政策を作れない、もっと現場に携わりたいなと思っていた時期に、ちょうどMITで子どもの研究所を作るっていうプロジェクトの募集がかかって。『はいはい!』って手を挙げて即渡米したという感じで(笑)。それからは、ずっと何かしらのプロジェクトに関わり続けていますね。」(中村氏)
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郵政省を退官した中村氏が、1998年にMITメディアラボ客員教授、2002年にはスタンフォード日本センター研究所長を務めたことは冒頭にも触れた通り。その後も内閣府知的財産戦略本部委員や、内閣府クールジャパン戦略推進会議委員、さらには慶應義塾大学教授に就任しているが、これらはあくまで同氏の数々の経歴からほんの一握りを紹介したに過ぎない。
そして2020年4月には、新設される情報経営イノベーション専門職大学の学長に就任予定と、いまなお活躍の幅を広げ続けている。中村氏のこの類まれなバイタリティの源になっているものとは、いったい何なのだろうか?
中村氏のそのほかの経歴については、ぜひご本人のホームページを参照のこと。
中村氏のそのほかの経歴については、ぜひご本人のホームページを参照のこと。
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「僕のモチベーションは、人とのつながりです。つながることで『これを一緒にやらないか?』と話が自然に入ってきて、『おもしろいね』ということで次から次へと始めていく。あまり、意図的に設計をして『次はこれをやろう』と計画を立てて進めていくタイプではないんですよね。
大学でバンドをやっていたときも大学内で活動することは少なくて。"少年ナイフ"のディレクターも始まりは大阪の公園でしたが、結果的に世界に羽ばたくことになった。組織の中で閉じたことをやることは全くなかったです。
その後も結局同じで、外にいる魅力的な人たちとコミュニケーションしたり、コミュニティを作ったりという中でプロジェクトが自然に起こっていって……要するに、飲み会ばっかりやっているということですよ(笑)。」(中村氏)
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中村氏にとって"人とのつながり"は、活動の原動力であると同時にインスピレーションを得るための場でもある。同氏がこれまでの出会いの中で刺激をもらった人物として挙げる人々には、ある共通点があったそうだ。
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「忘れられない出会いは数多くあります。大学で軽音をやっていたころもそうだし、政府の中にもものすごい連中がいて。外国に出たらMITメディアラボを組織したネグロポンテさんだとか、株式会社アスキーを立ち上げた"100ドルパソコン計画"提唱者の西和彦さんだとか、ソフトバンクグループ創業者の孫正義さんにも若いころにお会いしました。どんな世界でも、上には上がいるということを思い知らされましたね。
彼らは、全員が"Think big, go punk."です。まるで鳥の目のごとく物事を大局で捉え、なおかつそのスケールに臆することなくチェンジ&クリエイトしてやろうというマインドを常に絶やさない。これぞパンクですよね! そして一方で、彼らは頭の中はビッグなんだけど、地に足がついたことから1個1個地道にやっていく人たちでもあります。だから彼らの言葉に説得力が生まれるし、僕もそういう人たちに惹かれます」(中村氏)

◆重要なのは"What"よりも"How"

音楽活動をともにした仲間たちの活躍の場作りに始まり、内閣府での知的財産の創造や保護、コンテンツや文化の情報発信戦略などの場にも広く携わってきた中村氏。
新たに生まれたアイデアを埋もれさせることなく世の中に広めていくという活動の中で、同氏が大切にしてきたポイントは大きく3つある。
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「僕のプロジェクトをやるかどうかという判断基準のひとつ目は、それをやることが新しいかどうか。ふたつ目は、それにニーズがあるのかどうか。社会性はあるのかということですね。そして3つ目が、それをやり続けたら"世界一"になれるかどうかです。どんなにがんばっても世界で1位にはなれないモノならば、『それはだれか別の人がやってくれればいいや』と思うんですね。
もちろん大前提として、"自分が加わって、それを心からおもしろがれるかどうか"という部分も大事ですが。関西人ですから、おもしろいことに関しては貪欲です(笑)。」(中村氏)
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一方で、アイデアを創出すること以上にそれを実践することが、最も苦労する部分であり重要であるとも説く中村氏。
それはちょうど、Red Bull Basement Universityが掲げる"実戦経験の中での成長"というテーマとも重なるところだ。
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「アイデアをカタチにするために大切なことは、成功するまでへこたれないこと。僕も何かを始めるときは、最初に『成功するまでやめないぞ!』と言い聞かせています。どんなプロジェクトでも"What"より"How"のほうが大事だと考えていて。何をやるかというアイデアはすぐ出るし選びようもありますが、その後どう実現するかというフェーズでは"What"の段階の10倍くらいのエネルギーが必要ですから。
ひとりひとり関係者を説得して反対者を抑えて、予算を獲得し、『実現できました!』に至るまで無数のステップがある。そこが一番大事だよということを、つね日ごろから自分に言い聞かせています。」(中村氏)
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数々の経験から培った哲学を語る中村氏。
数々の経験から培った哲学を語る中村氏。
幾度となく"How"のフェーズに立ち向かい、それをクリアーしてきた中村氏は、これから社会でチャレンジしていこうとする学生たちに対してこんなアドバイスも残してくれた。
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「"How"へと取り組むにあたり、大切したいのは仲間の存在だと思うんです。成功するまでへこたれないでいられるように、どうチームを組むか。ひとりだとへこたれちゃうのは当たり前のことなので、2~3人くらいで諦めないことを誓えるような仲間を見つけられるかどうか。そこでプロジェクトの成否も決まってくるのかなと。
それと同時に忘れたくないことが、"ポリシー"ですね。僕の言う"ポリシー"とは、政府が決めた法律のことではもちろんなく、単純な方針のことを指しているのでもありません。そのプロジェクトが、"社会の役に立つかどうか"を問うているんです。例えば"iPhone"は素晴らしい製品ですけれども、なぜ世界中で使われているかと考えたときに一番素晴らしかった部分は、デザインでも、テクノロジーでも、販売戦略のマネジメントでもなく、"iPhone"がみんなの役に立つ製品だったから――素晴らしいポリシーを持つ製品だったからだと思うんです。
どんなに小さなことでもいいから、そこにニーズがあって、みんなが喜んでくれる。そんなことをやり続けることが大事なのではないでしょうか?」(中村氏)

◆プロジェクトを通じて"T字型"イノベーターへの成長を期待!

現在、教授として大学運営に関わっている中村氏は「今後、大学は世界的な変化の波にさらされるだろう」と予見している。
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「現代は勉強するだけであれば、世界中の教授たちが自分の授業をネット上に無料で公開しているから、すべてオンラインで学ぶこともできます。では、大学とは何のためにあるのだろうというと、ひとつの“場”なのだろうと。コミュニティを作ることはオンライン上でもできますが、現実に集まって何かを創造するという大学の機能も重要になってくるはずで。バーチャルとリアルの両面から新しい観点をもって創造していく大学として情報経営イノベーション専門職大学(以下、iU)を作ります。この大学に入学する学生もそうですが、
Red Bull Basement Universityで「大学ってもっとこんな形でも使えるよね」といった提案が出てきてくれたら僕自身とても嬉しいし、それをすぐにでも本学でも採用していきたいと考えています。本プロジェクトの“コラボレーションとエンパワーメントでエクスチェンジしていこう”という考え方は、まさにそれそのものがオープンイノベーションの本質であり、大学がこれから実践していくべきことだと感じます。」(中村氏)
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現状を嘆くばかりでは仕方がないと、中村氏は2020年、新設大学の学長に就任することを決断した。
現状を嘆くばかりでは仕方がないと、中村氏は2020年、新設大学の学長に就任することを決断した。
変化が求められる時代の中で、大学はどう変わっていけばいいのか。「そのヒントとなるアイデアはプロジェクトに参加する学生たちからたくさん出てくる気がします」と、Red Bull Basement Universityに期待感を抱く中村氏。
最後に、中村氏に対し"現代社会に求められるイノベーターの理想像"を伺うと、こんな答えが返ってきた。
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「僕は"T字型"の人間だと思う。自分の専門を持っていて、それを横展開できる人。
T字の柱となる専門分野だけ伸びていたところで、どうしても立ち行かなくなってしまうんです。確固とした専門領域を持ちながら、コラボレーション力を持っている人というのが必要になってくると思います。
縦と横、両方を磨く必要があるというのは大変なことですが、積極的に取り組んでみたい。と思える多くの学生がiUにも入学してくるでしょう。そういったチャレンジできる人、Red Bull Basement Universityのようなプロジェクトにトライしてみようと思う人なんかは、まさに"T字型"の人間になれる可能性を秘めている人だと思いますよ。」(中村氏)
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2019年、Red Bull Basement Universityに新たな時代を担うイノベーター候補たちが集う。
2019年、Red Bull Basement Universityに新たな時代を担うイノベーター候補たちが集う。
今回のRed Bull Basement Universityでは、学生たちによるどんなキャンパス・ライフ・ハック術が展開されていくのだろうか。次世代の"T字型"イノベーターの活躍に、ぜひ注目したい。
(了)

◆Red Bull Basement Universityとは?

大学生が自分たちのキャンパス・ライフをより良くする革新的なアイデアの実現と次世代のイノベーター育成を目指すプログラム。
本プログラムは一般的な「ビジネスコンペ」とは異なり、プレゼンテーションでアイデアが選ばれた学生は、メンターのサポートを受けながらアイデアを進化させ、カタチにします。
一般投票と審査員による選考で勝者が決定し、勝者は日本代表として12月12日(木)~12月15日(日)にカナダのトロントで開催するグローバルワークショップに各国の勝者と共に招待されます。
募集期間は9月9日(月)~10月28日(月)、応募方法などその他詳細は右記専用サイトにて >> Red Bull Basement University
※前回、最終選考に残った各国代表者のアイデアはこちら >> Red Bull Basement University:ファイナリスト16案