スポーツの世界には、「バニスター・エフェクト」として知られる効果が存在する。この名前は、1984年に世界初の “1マイル(約1.6km)4分切り” を達成した英国人中距離ランナー、ロジャー・バニスターから取られている。
バニスターがこの記録を達成する以前、世間では「人間が1マイル4分を切るのは不可能” と思われていた。しかし、バニスターはこの常識が “常識ではない” ことを証明。そしてさらに重要なことに、この限界突破は、他のランナーたちによるさらなる記録更新に繋がった。
【Red Bull Rampage】では、過去20年に渡り、マウンテンバイク版「バニスター・エフェクト」が確認されている。【Red Bull Rampage】ほど多くの偉業や世界初が記録されてきたスポーツイベントはないに等しい。
このスポーツイベントは、「マウンテンバイクでできること」の再考を促してきた。そして、20周年を迎えた今年も変わらなかった。世界最高クラスのフリーライダーたちを米国ユタ州に集め、シャベルとピッケルを渡し、ライン造成をしてもらえば素晴らしい連鎖反応が起きるということを、私たちは再確認することになった。
【Red Bull Rampage 2021】のフルリプレイをチェック!
Red Bull Rampage 2021
今大会で開幕20周年を迎えたレッドブルの名イベント『Red Bull Rampage』。異常な程のスキルと精神力が試されるこのフリーライドを制し、最強のMTBライダーの称号を手に入れるのは一体誰だ!!
今回まで、【Red Bull Rampage】でフラットドロップ・テールウィップをメイクしたライダーあるいは【Red Bull Rampage】4回制覇を達成したライダーはいなかった。しかし、ブランドン・セメナックがその両ライダーになった。
彼は、走りたいラインを走って歴史に新たな1ページを加えるプロセスを私たちに見せてくれた。セメナックは2本目のランで、自分を含めたG.O.A.T.(Greatest of All Time)ライダーだけに許される非常にテクニカルでチャレンジングなラインを走って世界を驚かせた。
格下の若手スロープスタイルライダーとして参戦した【Red Bull Rampage】で初優勝を記録してシーンを騒がせてから13年後、セメナックはその創造性と才能で4回目の【Red Bull Rampage】優勝を手にした。また、2位にはスタイリッシュで安定感のあるランで知られるカート・ソルジが入り、3位にはダークホースのリード・ボッグスが入った。
01
ブランドン・セメナック
【Red Bull Rampage 2021】で最も大きな注目を集めていたのがブランドン・セメナックだった。なぜなら、シングルクラウンフォークを採用したバイクを持ち込んでいた唯一のライダーだったセメナックがどのようなトリックをメイクするのかを予想するのが難しかったからだ。これまで、テールウィップとバースピンは、【Red Bull Rampage】ではメジャーなトリックではなかったが、セメナックはここを変えようとしていた。
【Red Bull Rampage 2021】ブランドン・セメナックのウイニングランをチェック!
3分
See Semenuk's winning run at Rampage's 20th anniversary
Watch the winning run from Red Bull Rampage 2021 to see Brandon Semenuk make history yet again in Utah.
ディフェンディング・チャンピオンのため、セメナックのラン1の出走順は最後だった。そしてそのラン1で彼がジャンプをミスして落車した瞬間、観客全員からため息が漏れた。あのG.O.A.T.が表彰台にさえ上れないのか?
しかし、ラン1を最下位で終えたセメナックは、ラン2で見事に復活した。ラン2では出走順が1番だったセメナックは、史上初の【Red Bull Rampage】4回目の優勝が懸かる中、ランをスタートさせた。
ラン2のセメナックは、最初のダブルドロップをクリーンに抜けたあと、トボガン、バースピンをメイクし、さらにはラン1でミスしたフラットスピンもメイク。そしてその直後に【Red Bull Rampage】初となるビッグドロップでのテールウィップも成功させる。しかし、最大のハイライトとなったのは、ラストジャンプでのバックフリップ・テールウィップだった。このランで80ポイントを獲得したセメナックは暫定首位に立った。
ラン1でミスをしたあとは、ただ自分の走りたいランをしようと思った
この結果、セメナックが優勝できるかどうかは、後続ライダーたちのラン2次第となった。プログラムが進み、後続ライダーたちのスコアがセメナックのスコアに近づいていくにつれ、緊張は高まっていったが、最終ライダーのカイル・ストレートがセメナックを上回る可能性が消えた瞬間、セメナックの偉業達成が確実となり、【Red Bull Rampage】史上初の “通算優勝回数:4” が決定した。
優勝が決まったセメナックは次のようにコメントした。「ラン1でミスをしたあと、身体がのってきて、緊張が消えた。ただ、自分の走りたいランをしようと思った。【Red Bull Rampage】での優勝はそれぞれ特別だけれど、今回は本当に特別だ。仲間たちがこのイベントのために努力を重ねてくれたし、ここに戻って来られたこと、岩山に戻れたこと、そして全員が笑顔を見せてくれていることを本当に嬉しく思う」
02
カート・ソルジ
セメナックは4回目のタイトルを楽に手に入れたわけではなかった。同じく4回目の優勝を狙っていたカート・ソルジのようなライバルライダーたちがセメナックに迫るランを次々と披露したからだ。ソルジは最後に優勝した2017年のラインに似たラインを用意し、ラン1では一時首位に立ったが、結局、4位でラン2を迎えることになった。
そのラン2で、ソルジはラン1をさらにレベルアップさせ、エアタイムとスタイルが際立つライディングを披露したが、テクニカルなトリックを詰め込んでいたセメナックを上回ることはできず、88.33ポイントの2位で終えた。
「これまでに何回も走っているロケーションだから、練習に十分な時間を割けるはずと思うかもしれないけれど、実際はいつも時間が足りなくなってしまう。天候のような不確定要素が多いからね。だから、今年も期待していたほど練習できなかった。本番で調整しなければならない部分があった」
「最近のフリーライドシーンはとても良い状態にある。若手とベテランの両方が高いモチベーションでシーンをプッシュしているから、もっとハードなライディングがしたいと思えるんだ」
03
リード・ボッグス
3週間前、リード・ボッグスは【Red Bull Rampage 2021】に出場できるかどうかさえ分かっていなかった。最初はバックアップライダーとしてリストアップされていたからだ。しかし、直前に正式に招待されると、彼のモチベーションは一気に高まった。
そして気合い十分で迎えたラン1は、途中まで表彰台を狙える内容だったのだが、360ドロップでタイヤがパンクするというまさかのアクシデントに見舞われてしまった。しかし、彼は気落ちすることなくラン2で見事に盛り返し、87ポイントを記録。3位に入ったボッグスは、キャリア初の【Red Bull Rampage】表彰台フィニッシュを手にした。
04
その他のハイライト
表彰台に立てるのは3人だけだが、他のライダーたちも素晴らしいハイライトをいくつも生み出してくれた。
まず、ビッグトリックのメイクで有名なトム・ヴァン・スティーンバーゲンが、フラットドロップでの特大フロントフリップで観客を沸かせた。残念ながらそのあとにクラッシュしてしまったが、このトリックでベストトリックアワードを獲得した。
そして、【Red Bull Rampage】の鉄人、キャメロン・ジンクがタフネスアワードを獲得した。練習中にビッグクラッシュを喫していたジンクは、本番に出られるかどうかが不安視されていたが、無事ラインアップに名を連ねて、力強いランを披露した。
最後のアワードは、ブラージ・ヴェスタヴィクが獲得した。練習中にクラッシュしてしまった彼は本番を欠場したが、その情熱が評価され、マクギャリー・スピリット・アワードを受賞した。ヴェスタヴィクの勇気溢れるライディングは、故ケリー・マクギャリーを称えるために創設されたこの賞に相応しいものだった。
「こんなに素晴らしい賞をいただいてしまって言葉がない。僕は9歳からケリー・マクギャリーのファンだから、本当に信じられないね。【Red Bull Rampage】は僕を大きくプッシュしてくれた。僕はこのイベントで可能性を見出すことができた。しかも、イベント関係者全員が素晴らしい。今回の受賞を実感できるようになるまではしばらく時間がかかると思う。地元に帰ったあとでちゃんと理解できるようになるはずさ」
05
まとめ
約1年のブランクを経て復活したユタ州ヴァージンでの9日間は、フリーライド・マウンテンバイクの “ホームカミング” のような雰囲気に包まれていた。集まった観客の中には、ジョシュ・ベンダーやトーマス・ヴァンダーハムのようなレジェンドたちの姿も確認できた。【Red Bull Rampage】はコンペだが、ライダー全員が恥ずかしがることなくお互いを励まし合い、お互いの成功を喜んでいた。全体が盛り上がれば、全員が恩恵を得られるというわけだ。
しかし、【Red Bull Rampage 2021】で最もエキサイティングだったのは、「未来が確認できた」ことだった。これから5年後、今年確認できたことが「普通」になっている可能性がある。【Red Bull Rampage 2021】を熱心に観戦していた次世代ライダーたちが、フリーライド・マウンテンバイクシーンをネクストレベルへプッシュするかもしれない。少なくとも、彼らは「正しい参考書」を手に入れたはずだ。
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