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■連載インタビュー 【レッドブル・アスリートの軌跡と情熱 Vol.4<ガチくん編>】
2008年よりアーケードで稼働開始した対戦格闘ゲーム『ストリートファイターIV』(以下、『ストIV』)。その競技シーンにおいて、広島の地から全国区まで名を轟かせた若獅子の姿があった。
ガチくんは、当時から全国屈指の『ストIV』強豪プレイヤーとして知られ、現在は『ストリートファイターⅤ』(以下、『ストⅤ』)のラシード使いとして世界を相手に戦うトッププロゲーマーだ。
Red Bull kumite 2017の準優勝で世界的に注目を集め、2018年11月にはeスポーツ部門のレッドブル・アスリート契約を締結。その年の"CapcomCup 2018"を制覇するなど、輝かしい戦績を積み上げてきた。
そんな彼のこれまでの軌跡と、情熱の在りかについて、本人へのインタビューをもとに解き明かしていこう。
◆坊主が嫌でアーケードゲーマーに!?
1992年4月23日に広島県で生まれ、根っからの野球少年として育ったという、ガチくんこと金森識裕(かなもり・つねひろ)。
そんな彼の贔屓の球団は"広島東洋カープ"……ではなく、"横浜DeNAベイスターズ"だというエピソードは、ガチくんの愛すべき天然キャラっぷりを知るファンのあいだでは有名な話である。
スポーツ少年だったガチくんは、「野球がやりたい」という名目で中学受験をするが、本当の理由は地元の怖い先輩がいる中学を避けるためだったという。
また、野球部に入部するつもりだったものの、練習がキツイという話や、坊主頭にする必要がある、ということ聞き一変、入部を断念し、地元の友人のたまり場となっていたゲームセンターに足繁く通うようになる。
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「当時は『DrumMania(ドラムマニア)』や『太鼓の達人』など、おもに音楽ゲーム(以下、音ゲー)を中心に遊んでましたね。周りの音ゲー仲間との繋がりもあってすごく楽しかったのですが、ある日ふと"スコアを競うだけなのもつまらんな"と思ってきて一気に冷めたんですよ。
それが高校2年生くらいかな。ちょうどそのころに『ストIV』が稼働し始めて。それをやってる人たちがすごくかっこよく見えたんです。ひとりで黙々と練習して、対戦もして、なんというか"侍"っぽいなと」(ガチくん)
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幼少期、弟とスーパーファミコンの『ストリートファイターII』を遊んだ経験はあれど、当時のゲーセンを席巻していたのは、自分が生まれる前から腕を磨き続けてきたであろう名もなき猛者たちだ。
そんな大人たちのなかに紛れ、その背中に追いつきたいと、もがいた日々は非常に充実していた、とガチくんは振り返る。
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「当時は"アミパラ"というゲーセンに通っていたんですが、それこそ30代くらいのサラリーマンなど、すごく強い人も多くて、ぜんぜん勝てんし、すぐに負けて交代してました。それでも楽しかったし燃えてましたね。
自分は格闘ゲーム(以下、格ゲー)が初めてだし、強くなる方法もまったくわからないというなかで、最初は本当に見よう見まねで、とにかく"マゴ"さんや"おじさんボーイ"さんなど、上手なプレイヤーの対戦動画を見て、練習を繰り返しました。それがわりと形になってきて、1試合ずつ勝ちを拾っていくことがどんどんモチベーションに繋がっていって。
プロゲーマーになったいまでも人の対戦動画を見るのはすごく好きですし、他人の動きを研究して自分のものにものにするという作業は、強くなるうえで欠かせないことだと思っています」(ガチくん)
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手探り状態のスタートから、徐々に広島の強豪サガット使いとして頭角を現し始めたガチくん。
それからほどなくして、彼は東京で開催される大会にも遠征するようになり、自身の知名度を全国区のものにしていく。まさに"俺より強い奴に会いに行く"を地で行くような男である。
2016年に『ストⅤ』が発売されてからはラシード使いとして、Red Bull 5G 2016では準優勝をおさめるなど活躍をするが、一方では行き詰まりも感じていたと語る。
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「2017年の"第6期 TOPANGAリーグ"では本戦に招待されたのですが、自分のなかではかなり自信があったものの、結果は惨敗だったんです。そのときに、広島だけでやっていくのは限界があると思い上京を決意しました。
ここまで格ゲーをやってきたんだし、最後に東京で勝負してみて、それでもダメだったら踏ん切りを付けて辞めようと」(ガチくん)
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結果的に、この決断がガチくんを世界まで羽ばたかせることになったのは、いまや誰の目にも明らかだ。
上京からわずか1ヵ月後のRed Bull Kumite2017で準優勝を果たした彼は、翌年の"CapcomCup2018"を制覇。同時期にeスポーツ部門のレッドブル・アスリート契約を締結した。
当時のガチくんにとって"画面の向こう側の存在"だったマゴ選手とも、いまや世界屈指のプロプレイヤー同士として、ネット上の配信番組などで共演する間柄となった。
◆"下の世代"との切磋琢磨から見出した、勝負強さ
1990年代から脈々と続いてきた格闘ゲームシーンにおいて、『ストIV』当時から"若手強豪"と目されてきたガチくん。
『ストⅤ』の発売を機に、自分よりさらに下の世代が多数参入してきた現状については、焦燥感のようなものも感じているのだという。
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「やっぱり、もういままでみたいに上の世代にかわいがられているという感覚ではないですよね。そろそろ"引っ張っていく立場になっていくんじゃろな"っていう感覚もありますし、何より下からの突き上げがすごい(笑)。最近の若手は本当に強いですし、いい意味で生意気な子が多いので(笑)。
ただ、そうやって尻に火を付けてくれるような存在がいないとダメだなと思っていますし、そのなかで負けたら取り残されてしまうという危機感もあります。どうしてもチャレンジャー精神というのは薄れていってしまうものなので、"しっかり兜の緒を締め直さにゃいかんな"と」(ガチくん)
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若手プレイヤーが急速に力を付けてきたなかで、ガチくんと同じラシード使いのライバルも各々存在感を強めてきている。
"もけ"、"竹内ジョン"といった盟友たちの名前を挙げつつ、彼は自分にしかない強みを「勝負強さ」であると語った。
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「みんな上手くなってきているので、どこで差を付けるかというのはすごく難しい問題です。だからこそ、へんに差を出そうとするよりは自分らしくプレイしることがベストなのかなって思っていて。
強いて言えば、僕の強みは勝負強さなのかなと。体力ゲージが最後の1ドットまで追い詰められても、"ここからまくってやるぞ!"という意識はつねにありますし、実際逆転したことも多いと思うので。
ただ逆に、攻め手に回った際にあえて時間を掛けて倒しきろうとする悪いクセみたいなのもあって、"本当だったらもっと楽に倒せる方法もあったのに!"と思うこともありますね。自分の性格もあるんでしょうけど」(ガチくん)
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ガチくんにとって下の世代の存在とは、自身の長所や短所を浮き彫りにしてくれるまたとない相手のようだ。
彼らとはふだんから練習をともにしたり、情報交換をする仲でもあるようだが、そうした風通しの良さについては先人たちの功績も大きいのだという。
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「『ストリートファイター』のコミュニティは、あまり歳の差も感じさせないような雰囲気があって、すごくいいなと思いますね。先輩プレイヤーにもすごくラフに疑問をぶつけられるし。
結局のところ、格ゲーコミュニティってまだまだ人数が少なくて、"小さい村"みたいなものでもあるんですよ。するとやはり近い人間に頼ることになるし、そのなかで手の内を隠すよりも情報共有していこうとなるのは必然なのかなと。
同キャラ使いのあいだでも同じ。そのほうが上達スピードも早いし、攻略レベルも進んでいくので、いいことづくめだろうと僕は思っていますね」(ガチくん)
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◆世界王者の重圧を振り切って、再びチャレンジャーとして
上京を経て間もなくブレイクし、一躍スターダムを駆け上がったガチくん。
その活躍の傍らには、つねに彼を支え鼓舞し続ける妻の"内助の功"があった。
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「妻のサポートには本当に助けられましたね。東京に出ることにしたのも、彼女のひと言が決め手になりましたし。当時はまだ結婚前でしたけど、自分が"東京に出たいんじゃけど"と相談したら、"上京するのかしないのか、いまここで決めて!"と言われて(笑)。"はい、行きます……"と。
僕はけっこう優柔不断なところもあって、迫られんと決断できんのですよ(笑)。あのときには、"やっぱりこういう人が近くにいてくれるのはありがたいなぁ"と思いましたね。
妻は仕事も辞めていっしょに着いてきてくれましたし、上京したてでいっぱいいっぱいな時期もたくさん手助けしてくれて、ストレスなくゲームに打ち込める環境を作ってくれたのも、やっぱり妻のおかげ。
大会で負けた後でストレスが溜まっているときにも気遣って接してくれますし、ゲームプレイ以外の面で、外での見えかたみたいなところも第三者目線から"こうしたほうがいいんじゃない"と提案してくれるし。プロゲーマーとしてやっていくなかで、すごく助けられています」(ガチくん)
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ファンの存在あってのプロゲーマー。以前はファッションに関して無頓着だったというが、妻のプロデュースを受けるうちに意識も改革されたのだとか。
2019年には"CapcomCup2018"の賞金で新婚旅行に出かけたなどハッピーなエピソードは尽きないが、同時にプレイヤーとしては納得のいかない1年だったとも振り返っている。
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「2019年は1年通してぜんぜん納得できなかったシーズンでした。なんとなく大会に集中できていないということが多くて、やはり"CapcomCup2018"を制覇したことがすごく重荷になっていたんだと思います。
僕自身、大会で優勝するという経験があまりないなかで、うれしい気持ちはありつつも、あの舞台で勝った以上は結果を出し続けなきゃいけないという焦りがありました。
たまたま優勝できたんじゃないかと思われるのも嫌で、"CapcomCup 2019"への出場が確定してるにもかかわらず無理して大会を転戦したりもしましたし、周囲からも"そこまでしなくていいんじゃない?"と言われていたんですが……それでも"とにかく出たいんで"と。
2019年はとにかく結果を残そうと必死でしたし、負けたくないという気持ちが前に出すぎていましたし、チャレンジャー精神も忘れてしまっていたんだと思います」(ガチくん)
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2018年に自身初の世界大会での優勝を経験したガチくんにとって、その年の総決算と目される"CapcomCup 2018"で手にした世界王者の称号は重くのしかかった。
しかし、見えないプレッシャーとの戦いで得たものも大きい。
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「結局、去年(2019年)は、いろいろと意識してやりかたを変えた部分が裏目に出たこともあって、2020年はやりたいようにやっていこうと前向きに考えられるようになりました。
そういう意味では、なかなか体験できないような状況を経験できた年だったとも思えますし、今後のスキルアップのために活かしていきたいですよね。2020年は再スタートという気持ちでがんばりたいです。
また、去年は南アフリカのRed Bull Hit The Streetという大会でプレゼンターを務めさせてもらったりもして、今後もそういったプロジェクトには積極的に関わっていきたいと思いました。ぜひ、大会以外での活躍にも注目してもらえたら嬉しいです」(ガチくん)
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広島から世界へと羽ばたき、頂点を極めるまでの快進撃。若手の台頭による焦燥感や、王座に就いて感じた苦悩。
それらすべてを糧に、再びチャレンジャーとして原点回帰を果たしたガチくんの、今後の活躍に期待したい。
10分
第3話: ガチくん (金森識裕)
第3話あらすじ: 「ストリートファイター」の世界で戦う者にとってもっとも過酷な戦場、カプコンカップ2018で優勝を果たしたガチくんは、まさに歴史を作り出した。2019 年、Red Bull Kumite で人気選手になった彼は、自分を育んだ大地で再び戦いに乗り込む。【最強プレイヤー密着ドキュメンタリー (シーズン 1/第 3 話/日本語)】
▲ガチくんのドキュメンタリー映像『<Esports Unfold> Gachikun on the road to glory』。
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◆Information
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