ダンス

『これがブレイキンの良いところ』AmiとB-Boy/B-Girlによる座談会!

金メダリストのAmi (湯浅 亜実)と3人のB-Boy/B-Girlがブレイキンについてディスカッションする特別企画
Written by Tatsuya Matsui / Edit by Hisanori Kato
読み終わるまで:13分Updated on
B-Boy/B-Girlたちによる座談会!
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  • 近年急速にブレイキンに注目が集まっています。頻繁に世界大会がウェブ配信され、メディアではそのリザルトが報じられるようになりました。しかし、ブレイキンというカルチャーの面白さ、奥深さは短いニュース報道で伝わるような軽いものじゃないはず。本記事ではシーンをさまざまな角度から見てきた4人のブレイカーにブレイキンの魅力を語ってもらい、その魅力の片鱗に触れたいと思います。
 
🔴【中編】【後編】はこちらで✅
 
01

ブレイクダンス? ブレイキン? 名前はともかく“かっこよく踊れ”

 
ーー今日はブレイキンの魅力を深掘りしようということで、ブレイキン・シーンに属しながら多方面で活躍する4人に集まっていただきました。まずはそれぞれのバックグラウンドを軽く聞いてよろしいですか?
Gandhi 僕はグラフィックデザイナー、アーティストですね。
Miharu フォトグラファーのMiharuです。主にフィルムで写真を撮っています。
Kose クリエイティブ・ディレクターとしてプロダクションをやっています。
Ami 私はブレイキンを仕事にしています。レッドブル・ダンサーのB-Girl Amiです。
ーーこのシーンをまだあまり知らない読者のために基本的なことからお聞きしたいんですが、ブレイキンっていうダンスジャンルってどういうものなんでしょうか。
Miharu いわゆるブレイクダンスですね。アクロバットな動きが特徴のダンススタイルって言えばいいのかな。
Gandhi B-Boyの4大要素“ラップ・DJ・グラフィティ・ブレイクダンス”のひとつですね。
ーー“ブレイクダンス”っていう呼ばれ方と“ブレイキン”って呼ばれ方があるじゃないですか。何か違いがあるんでしょうか。
Gandhi 定義するのは難しいですよ。呼ばれ方って時代と共に変わる部分もありますから。一昔前は“ブレイクダンスは競技、ブレイキンはちょっとローカルでヒップホップでリアル”みたいな印象がありましたけどね。今はそこを気にする人は少なくなってきたんじゃないかな。
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© Takaki Iwata

Kose 何周か回って「ブレイクダンスって呼ぶ方がかっこいい」って雰囲気もありますよね。クラシックでコアな感じがするっていう。
Ami 確かに呼び方がいくつかあるとややこしいですよね。私が自己紹介するときは「ブレイクダンサーです」って言うんですよ。でも、競技としては“ブレイクダンス”じゃなくて“ブレイキン”。「ブレイキンのブレイクダンサーAmiです」って言われたら、混乱するのは理解できますね。いちプレイヤーとしては呼び方のこととか気にせずに良い踊りを追求することにだけ集中してるから、私は正直、呼び方はなんでもいいって立場です。
ーーやってる人からしたら別にどうでもいいよって感じですか?
Gandhi 名前なんて浸透しちゃえばそれが正解ですから。昔は呼び方もいろいろありましたからね。10年前ならブレイクダンサーは“ブレイカー”でしたし。海外では“ブレイクボーイ”って呼んだりしてましたよね。やたらかっこ良く聞こえたりして。
Kose ブレイキンのことを“B-Boying” “B-Girling”って呼ぶ時代もありましたからね。
Miharu 今は“ブレイキン”と呼ばれているってことで良いんじゃないですか。当人たちは呼び方にこだわる余裕がないほど練習ばかりしているので気にならないって感じです。名前はどうあれ、一番大事なのは“かっこよく踊る”ってことですから。
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Gandhi 間違いない。気になるのは、メディアで“ブレークダンス”って伸ばし棒で紹介されることくらいかな。あれはダサいし、単純に間違ってるからやめてほしいです(笑)。
Kose “ブレークダンス”は一番キツいですね(笑)。
ーー“ブレークダンス”と間違って紹介されることがあるって話に関連して、他にも誤解されていることってありますか? 間違った情報が蔓延するとブレイキンの魅力って十分に伝わらないと思うんですが。
Ami 一番多いのは「頭で回るダンスだよね?」っていう思い込みじゃないですかね。大きく間違ってはいないんですけど、全員がヘッドスピンするわけじゃない。ブレイキンの見どころは頭で回るだけじゃないぞって。もっと深くて面白いってことを伝えたいです。
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Gandhi いまだに言われます?
Ami よく言われますよ。メディアが取り上げるブレイキンのダンスシーンは、パッと見てわかる大技だからしょうがない部分があるのはわかるんですけど、ちょっと複雑ですよね。
Kose ダンサーじゃないと細かいムーブの凄さに気がつかないですからね。テレビで足技特集が組まれてたら逆にビビりますよ(笑)。
Gandhi 他のダンスとの差別化が、頭で回るかどうかになっちゃってるのかなぁ。Koseくんはヘッドスピンはやらないの?
Kose 回れるコンディションをキープしてるつもりではいます(笑)。
ーーヘッドスピンをしないっていうトップクラスのダンサーもいるんですか?
Ami たくさんいますよ。本当にスタイルは千差万別ですから。そういう面白さも伝わればいいんですけど。
Gandhi 最近は少しずつ伝わってる感じもありますね。ブレイキンの話をするとトップロック(立った状態で踊り、フロア系ムーブへ繋ぐ導入部)の真似したりする人も増えてきましたよ。Amiちゃんがレッドブルを背負ってメディアに出たり、Red Bull BC Oneで活躍したりしてくれてるおかげかもしれないですね。
 
02

ブレイキンから学んだ「感性」「即興」「努力」

 
ーー今回の対談のテーマが「これがブレイキンの良いところ」っていうことでお聞きしたいんですけど、ご自身の活動のどこにブレイキンが活かされているか聞いてもいいですか?
Kose 僕がプロダクションをやっている中で2つあるんですよ。ひとつは“物差し”になること。何をするにも自分の中に基準があると思うんですけど、ブレイキンがすごく役に立ってるんです。
例えば努力の基準の話をすると、ウインドミルを人前で披露できるクオリティに持っていくまでにどれくらいの努力が必要なのか僕は知ってるんです。少なく見積もって1日10周回るとしても、週6で練習すれば年間3000周はしなくちゃならない。どの程度の努力をすればどの程度のレベルまで持っていけるっていう感覚があるんですね。それがクリエイションのクオリティを担保してくれてます。B-Boyは何かを突き詰めて極めていく人たちですから。
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ーープロダクションのチームは全員ダンサーなんでしたっけ?
Kose そうです。ブレイキン・シーンを見てきて、その中から間違いない感性を持っている仲間を集めた感じです。実はそれがもう一つの強みにつながっていくんですけど、ダンスを通じて培ってきた言語感や知識が、替えの効かない“コミュニケーション言語”になってるんですよね。クリエイティブな仕事をする上で、色や形、動きっていうもののグルーヴ、感性が共有されているから良いものが作れるんです。「ここはもうちょっとフリーズ入れる感じが良くない?」みたいなやりとりで言いたいことや目指す完成形を伝えられるのは、僕がブレイキンからそういった感性を得てるからこそですね。
ーークリエイションの必須ツールのひとつになってるんですね。Gandhiさんはアーティストで1人の作業が多いと思いますけどどうですか?
Gandhi 感性を得られるっていうのに完全に同意です。僕は中学生の頃、スケートボードとグラフィティというクリエイティブ色強めなカルチャーを通ってきたんです。高校生からHIPHOPやブレイキンに目覚めたんですけど、自然と自分しかやらないムーブを考えてオリジナリティを求めるスタイルになっていったんです。自分らしさをムーヴに落とし込んで、完成度を高めていく過程や経験が僕の“ものづくりの感性”を形作ってますね。今やっているアートは間違いなくその延長線上にあって、B-Boyならではのアートの形を探しています。表現の可能性はまだまだあると思っているので毎日が楽しいですね。
ーー「感性」がひとつのキーワードみたいですね。フォトグラファーのMiharuさんはどうですか?
Miharu フィルムならではの味だったり、現像しないと何が撮れているかわからないっていうのはブレイキンの魅力に近い部分がありますね。ブレイキンのバトルはどんな曲がかかるか、どんな踊りをするかわからない出たとこ勝負みたいなところがありますからね。チャレンジ精神というか。
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Kose ブレイキンの儚さみたいなものを感じますね。相手や曲に合わせて常に即興で踊るし、毎回違って当たり前っていう。現像しなきゃわかんないっていうのはブレイキンに似てるかも。
Miharu フィルム写真の撮影ってなかなか思った通りの作品にならなかったりするんですよ。撮影の度に新しい学びがあるのである意味常に修行してるみたいなところがあって、それを楽しめる忍耐力、努力みたいなのはブレイキンで慣れてるっていうのはありますね。
ーーブレイキンの写真も撮るんですか?
Miharu 普段はファッション関係の仕事が多いんですけど、ブレイキンの写真も撮ります。独特のブレ感やグルーヴ感もフィルムならではの質感で切り取れるので楽しいですね。
ーーブレイカーのAmiちゃんは今の仕事について何かあります?
Ami ブレイキンが仕事なので何が活きているとかはわからないですけど、実はブレイキンで生活していこうと思ったことはないんです。いろいろな経験や出会いが本当にタイミング良く噛み合って今のダンサーという立場になっているというか。そういう意味では“即興”的なものはあるかもしれないですね。
ーー初めから大きな目標に向かってやってきたわけではない?
Ami 最初は単純にウインドミルができるようになりたくてブレイキンを始めたんです。師匠であるKatsu Oneさんのレッスンを受けたらすごく面白くて、ひたすら練習した結果、チームに入って、バトルで勝てるようになり、気がつけば海外の大会にも出場できるようになってました。その頃から自分の中でブレイキンの存在感が大きくなってきた感触があります。
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ーーブレイキンにのめり込んでいるうちに自然と今の流れになってたんですね。
Ami そうですね。でもレッドブルからサポートも受けながら、大学は大学でちゃんと通いましたよ。ダンスとか関係なく勉強は好きでしたから。就職っていうタイミングで“ダンサーとしてのチャンスを無駄にしたくない”って思ったのがブレイキンを仕事にする分岐点だったのかな。就職は頑張ればいつでもできると思うので、今はブレイキンに集中しようって感じです。
Gandhi 満点回答じゃないですか(笑)。
Miharui Amiちゃん見てると、本当に努力がチャンスを繋いでくれてるように見える。
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Ami 私は私、他は他なので周りのことは気にしたことはなくて、好きでひたすら練習してただけなんですけどね。
Gandhi そういう努力とか基礎を大切にする部分がブレイキンの上手さの秘訣なんでしょうね。
Kose みんなの話を聞いてると、ブレイキンから学べるのは単純にムーヴだけじゃないんだなって思いますね。
 
03

「バトル」と「ユニティ」が矛盾しないのがブレイキン

 
ーーブレイキンって毎週末、夜な夜なクラブ通いっていうイメージ持たれてると思うんですけど、みなさんを見てると非常に健全で真面目と言うか、努力家が多いですよね。
Gandhi “あいつより俺の方がうまいだろ”っていうバトル文化だし、ちょっとアグレッシブなイメージを持たれてるかもしれないですけど、実のところまったくそんなことはないですね。たまにダメな人もいるけど、それはどのジャンルでも一緒ですから。そもそも僕がブレイキンを始めたのは、HIPHOPのカルチャーに浸かりながら楽しく過ごせそうだからっていう。
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Kose 尋常じゃなくストイックじゃないと上手くなれないっていうのも単純にありますよね。ブレイキンのバトルに出場するようなやつは全員なんだかんだ真面目に練習する人間ですからね。どうしようもない荒くれ者は基本いないです。
Miharu Amiちゃんが活躍してるのはやっぱりめちゃくちゃ真面目に練習するからですもんね。
Gandhi 本当にだらしないやつは有名になれないですよ。ちゃんとしてる人が残って、ぶっ飛んでる人はシーンから離れていっちゃうんじゃないかな。念の為言っときますけど、もちろん事情は人それぞれなので辞めちゃう人全員が悪い人なわけじゃないですよ。当たり前ですけど。
Miharu ブレイキンの根源のひとつに、ギャング間抗争の平和的解決っていうのがあるんですよね。むやみに傷つけ合うんじゃなくてダンスで戦って解決しようっていう。それもあってブレイキン・シーンはバトルが主流でありながら、みんなピースでいられるのかもしれないです。
ーー良いカルチャーですよね。お互いに認めあってるのが伝わってきます。基本みんな仲良いですよね。
Ami みんな楽しみながら仲良くやってますよ。ブレイキンを上達したいっていう部分ですごく共感できますから。ブレイキンってオールドスクールを大事にする姿勢があるので、根源にある“ユニティ”が根付いてるんじゃないですかね。
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ーーなるほど。頑張ってる人たちが認め合いながら仲間の輪が拡がっていくと。でもバトルになったら?
Ami たとえ仲間でも手加減抜きの全力でやります。
Gandhi これがブレイキンの良いところですよ(笑)。
《取材メモ》
「ブレイキンを始めるのはちょっと敷居が高そう」。そんなイメージが吹き飛ばされる内容となった本対談。ブレイキンから「感性」を学び、「即興」で踊れるまで「努力」をするという話には頭が下がるばかりです。またブレイキンの歴史に触れつつ語られた「バトルとユニティが共存できるのがブレイキン」というパンチラインには大きく頷かされました。
もっとこの4人の面白い話が聞きたい!ということで本対談はもう少し続きます。続く第2回では「他のカルチャーでは味わえないブレイキンの魅力」をテーマにお届けします!
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【News】Red Bull BC Oneの開催決定&情報解禁!

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Red Bull BC One Cypher Japan 2023

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