競争が厳しい現代社会では、他人に抜かれないためにより強く、より速くならなければならないと感じがちだ。しかし、休みなくトレーニングを続けることはフィジカル・メンタル両方の健康に悪影響を与える可能性がある。だからこそ、休息日が重要なのだ。
休息日とは、筋組織の炎症や痛みを取り除き、痛んだ筋肉を回復させることを目的とする “ワークアウトとワークアウトの間のひと休み” だ。休息日を用意することで怪我をするリスクが下げると同時に、身体を再び負荷をかけられる状態に整えることができる。
しかし、研究では、休息日でも軽く身体を動かすことで回復力が高められる可能性があるという結果が出ており、このような運動を「アクティブリカバリー」と呼ぶ。
では、休息日はどの程度取るべきなのだろうか? そのうち何割をアクティブリカバリーに費やせば良いのだろうか? その答えはトレーニングの頻度と強度によって変わってくる。
たとえば、ハードトレーニングを週2日こなしているなら、残り4日をアクティブリカバリー、残り1日を完全な休息日に充てたい。ハードトレーニングを週4日こなしたいなら、残り3日をアクティブリカバリーに充てるか、そのうち1日を完全な休息日に充てるのが良いだろう。
何よりも重要なのは、MTBプロライダーのブルック・マクドナルドが言うように「身体には個人差があるので、自分の身体の声に耳を傾けること」だ。 アクティブリカバリー用スポーツ / アクティビティ 9選
ハイキングは休日に身体を動かす優秀な方法のひとつで、しかも新鮮な空気を身体に取り入れることもできる。美しい山や丘陵地帯の近くに住んでいる人にとっては、素晴らしい気晴らしにもなるだろう。
サーシャ・ディジュリアン© Christian Pondella
サポートとグリップに優れているハイキングブーツを履いて、比較的平坦なトレイルを歩こう。「アクティブリカバリー」の枠を越えないように、30分から1時間に留めたい。これ以上は簡単なトレイルでも身体に疲労が蓄積してしまう。
ストレッチは、ワークアウトの最後にやる5分間のランジだけを意味するわけではない。より長くより深いストレッチをルーティンに組み込めば、筋肉の痛みを大幅に和らげつつ、次のワークアウトに向けて身体の可動性を高めることができる。
マッテオ・ベレッティーニ© Gabriele Seghizzi
30〜50分のストレッチセッションには大きな効果が期待できる。YouTubeで探せばそのような動画が簡単に見つかるはずだ。あるいは、近所のストレッチクラスに通い、自宅とは違う場所でリフレッシュするのも良いだろう。プロがフォームを見てくれるので、安全かつ正しく行えているかどうか確認できるメリットもある。
ヨガはハードなワークアウトにもなるが、リラックスすることもできる。たとえば、ハタヨガは身体の動きと呼吸を合わせることを目的としており、ポーズを長く維持したあと、次のポーズへゆっくりと移行していく。
セリア・フェルナンデス© Romina Amato
このようなヨガは筋肉を伸ばしつつ、呼吸で身体を落ち着かせることができる。VeloVedic共同設立者でヨガ講師、サイクリストとしても活躍するベッチ・カーティスは「固い部位を伸ばしつつ、弱い部位を強化できるヨガは、サイクリストにとって “動く日常食” だと思います」と語っている。
サッカー、バレーボール、バスケットボールなどを遊びで楽しむのは、身体を動かすのに最適だ。新しいスポーツへの挑戦は、メンタルアジリティの強化にも適している。最近の研究では、新しいフィジカルスキルを学ぶと脳の神経可塑性(かそせい)あるいは統率力が強化されるという結果が出ている。 【Red Bull Neymar Jr’s Five World Final 2022】のネイマール© Youssef Loulidi
太極拳は痛んでいる筋肉をストレッチしつつ、柔軟性を高めることができる。また、ストレスや炎症を軽減する運動としても知られている。ゆっくりと丁寧に四肢を動かすこの拳法は身体に強い衝撃を一切加えないので、関節を休めながら血流を維持できる。
新しい仲間と知り合いたいなら、近所の太極拳道場を探してみるのが良いだろう。もちろん、YouTubeを活用して自宅で挑戦するのもグッドアイディアだ。
ジョギングでは身体が休まらないと考える人もいるかもしれないが、筋肉に大きな負荷をかけたり、心肺を使い過ぎたりすることなく血流を維持できる。楽しく走れるイージーペースが理想だ。会話を続けられる強度を目安にしたい。
【Wings for Life World Run 2021】プレイベントの参加者© Philipp Carl Riedl
ジョギングは少しキツいと感じるなら、ウォーキングでも良いだろう。近所を軽く歩き回るだけでも十分な運動になる。
フォームローラーを使った筋膜リリース(筋膜剥がし)では、他のアクティビティやワークアウトと同じ恩恵が得られる。また、どこでもできるのも大きなアドバンテージだ。必要なのは自分と床とフォームローラーだけだ。
フォームローラーを使用するマンプリート・シン© Ali Bharmal/Red Bull Content Pool
フォームローラーを使えば、痛んでいる筋肉の張りと炎症を軽減すると同時に可動性を高めることができる。張りが強いときは、痛くて仕方ないかもしれないが、すぐに慣れる。継続して使えばパフォーマンスが向上するはずだ。
もちろん、痛すぎる場合は身体の声を聞いて、完全な休息に切り替えよう。
ヨガやランニングと同じく、水泳も高強度なワークアウトになり得るが、イージーに取り組めば優秀なアクティブリカバリーにもなる。スピードやタイムを狙う代わりに、のんびりリラックスして泳いでみよう。 【アイアンマン70.3世界選手権 2019】のルーシー・チャールズ=バークレー© James Mitchell
このような低強度の水泳は、普段自分を支えている関節を休ませることができる。また、一部の研究者は、水に入ることで炎症を軽減できると考えており、ある研究では、HIITを終えたあと水泳に取り組んだトライアスリートの翌日のパフォーマンスが向上したという結果が出ている。
休日のサイクリングはツール・ド・フランスとは無関係だ。バイクにまたがって地元や自然の中を走るだけで良い。天候が優れないときは、エアロバイクに乗って関節を休ませてみよう。 【Red Bull Goni Pony 2021】の参加者© Sinisa Kanizaj
アクティブリカバリーとして取り組むサイクリングでは、息が切れたり、心拍が上がり過ぎたりしてはいけない。無理なく会話ができるイージーペースでペダリングを楽しもう。
アクティブリカバリーには無数のアドバンテージがある。筋肉痛の軽減、血流の維持、次のワークアウトに向けた可動性の向上が見込める。また、リンパの流れを良くする(老廃物を流してくれる)ので、エナジーレベルと免疫機能も向上する。
私たちの身体は常にコミュニケーションを取ろうとしている。完全な休息日とアクティブリカバリーのどちらが必要なのかは、身体の声に耳を傾ければ分かる。完全に疲れていて痛みも激しいなら完全に休むべきだが、高強度トレーニングで筋肉を使っただけで、エナジーレベルがまだ高いなら、アクティブリカバリーが良いだろう。