Ross Edgley
© Ross Edgley
マラソン

1400kgの車を牽いてマラソンを走った男

19時間以上をかけて重さ1400kgのMINIを牽きながらマラソンを完走した人物の肉体の秘密を探る。
Written by Phillippa Stewart
読み終わるまで:10分Published on
フィットネスの専門家にしてスポーツ科学者のロス・エドグレイは、スポーツ向けの健康食品会社The Protein Worksを立ち上げた経営者だが、彼は重さ1400kgのMINI Countrymanを牽引してマラソン距離を達成した超絶アスリートでもある。
この#WorldsStrongestMarathon(世界最強マラソン)というチャレンジを成し遂げるため、彼は1日16時間以上にも及ぶハードなトレーニングを8ヶ月間にも渡って積み重ねた。この前代未聞のチャレンジの舞台となったのは、英国有数の名門サーキット、シルバーストン・サーキット。彼はシルバーストンで車を牽きながら19時間36分43秒をかけてマラソン距離を完走した。このチャレンジは、Teenage Cancer Trust、Children With Cancer、SportsAid、そしてUnited Through Sportといった、がん治療研究基金のために行われ、2000ポンド(約32万円)もの募金を集めることに成功した。
我々のような普通の人間にとっては、マラソンだけでも相当なチャンレンジになるが、彼は1tを超える重さの車を牽きながらこれを成し遂げた。一体、何が彼をこのチャレンジに向かわせたのだろう? 6000kcalものカロリーの摂り方から筋骨隆々の完ぺきなボディを仕上げる方法まで、ロス自身の言葉で解き明かしていこう。
#WorldsStrongestMarathon(世界最強マラソン)というチャレンジを思いついた理由は?
私は数多くの障害物レースに出場しているのですが、あるとき友人たちとテーブルを囲みながらチャリティーのための募金を集める方法を相談していたんです。みんなが「マラソンが良いんじゃないか?」などと口々に話している中、ある人が冗談で「じゃあ、車を牽きながらマラソンするっていうのはどうだ?」と言ったんです。私は「これはひょっとすると悪くないアイディアかもしれないぞ」と思いましてね。私は元来「自分には不可能だ」と言えない気質なので、こうした突拍子もないアイディアに引き寄せられてしまうんですよ。
こうしたチャレンジには、以前にも挑んだことがあるのですか?
私はかつて水球をやっていて、英国代表に選ばれた経験もあるのですが、もともとは小柄な体型だったんです。当時はせいぜい5フィート10インチ(約1m55cm)といったところだったのですが、コーチには「ロス、もうちょっと身長が伸びないとオリンピックには行けないぞ」とよく言われたものです。その意見はもっともなものでしたがね! それで、水球にふさわしいより大きな体を手に入れるため、私はウェイトトレーニングに励むようになったんです。
30歳を迎え、既に水球から引退していた私は「じゃあ、次は何をやろうか?」と考えていたんです。水球のおかげで非常に強い肉体を手に入れていましたし、長年の水泳から非常に高い持久力も得ていました。そこで、この2つの長所をひとつに融合してみようと思ったんです。
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常識では、トライアスロンのような持久力を必要とするスポーツと、重量挙げのような筋量を必要とするスポーツをまったくの別物と考えてしまいがちですよね。そこで私は、この2つの要素をあえて融合させてみようと考えたのです。
ロス・エドグレイ
それだけに、Twitterでこの#WorldsStrongestMarathonというハッシュタグが18時間にも渡ってトレンド入りしたのは嬉しかったですね。トライアスロン選手たちとウェイト系のアスリートたちが共にTwitter上で会話していたんです!
このチャレンジを行った日の天候は、これ以上ないほど最悪のコンディションだったそうですが…?
過酷な天候でした! 兄がこの日わざわざ仕事を休んで、約10マイル(16km)も傘をさしながらついてきてくれたんです。彼のおかげで、少なくとも私はびしょ濡れにならずに済みましたよ。兄には深く感謝しなければなりませんね。
見たところ、あなたの体型はどちらかと言えば痩せ型のようですが、実際はどのようなトレーニングを行ったのでしょう?
私は幸運なことに、かつて世界最強の怪力男として知られたジェフ・ケープス、オリンピック100m走金メダリストのリンフォード・クリスティー、そして史上初めてデッドリフトで1000ポンド(約453.5kg)を持ち上げたアンディ・ボルトンらと共にトレーニングする機会を得ることができました。私は彼らからそれぞれ学べるだけのことを学び、彼らも非常に多くのサポートをしてくれました。レッドブル・アスリートも同様だと思いますが、スポーツでは運を天に任せて未知の領域に飛び込まなければならない局面があるので、彼らは大きな助けになりました。
マラソンとウェイトリフティングを組み合わせたこのチャレンジに向けたトレーニング方法はただひとつです。実際に車を背中に括り付けて牽くことが、一番のトレーニング方法なんですよ。しかも、ひたすら何時間もかけてね。16時間牽き続けた日もあります。
ところで、なぜ車にMINIを選んだのでしょう?
F1世界選手権発祥の地でもあるシルバーストンを、英国生まれのMINIを引っ張って走ることは非常に英国的でしょ? とはいえ、MINI Countrymanが標準のタイプよりもかなり大型だったことは想定外でしたね。MINI Countrymanは総重量1.4tもあるんですから! 今思えば、もっと小型の標準的なMINIを指定しておけば良かったんですが、後の祭りでした。
自分と車をどのように繋いでいたのでしょう?
これだという製品に出会うまで、4種類ものハーネスを試しましたよ。中には、負荷に耐えきれないハーネスや、ひどい擦り傷を生じてしまうものもありました。擦り傷にはかなり悩まされましたよ。最終的には、ハーネスを車側に繋ぐトーイング・バー(牽引棒)を使用しました。アウトドアショップに行って、私が「MINIを牽きながらマラソンを走りたいんだけど、良いロープはある?」と訊ねたときの店員の表情をビデオに撮っておけばよかったなと思いますよ。どうやらその店員はそのショップで働きはじめてまだ日が浅かったらしく、「すぐに店長を呼んできます!」と言って走っていきましたね。
擦り傷への対策はどのように?
TLC(擦り傷防止用のバーム)は必須ですね。あらゆる塗り薬を多用しましたよ!
このマラソンにおける最大のチャレンジは何でしたか?
体力面では、8ヶ月にも渡って出来る限りの準備を重ねてきたので大きな問題はなかったと思います。とはいえ、最も厳しかったのは睡魔と戦いながら常にモチベーションを保つことでした。ここではRed Bullが大いに役立ちましたね!
チャレンジを終えた今、脚の状態はいかがですか? 疲労はもう完全に取れたのでしょうか?
それが、脚の状態は驚くほど良いんですよ。チャレンジを終えて数日後には再びランニングをこなせるようになっていましたし、背中にかかるMINIの重さから解放されたせいか以前よりもかなり速く走れるようになりましたね。これはある意味衝撃的でしたよ。とはいえ、チャレンジ終了後2日間くらいは、まだハーネスを装着したままのような感覚が残っていましたね。体に残ったアザも酷かったです。
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現代科学は時として、人間の身体が持ち合わせている耐久性と無限のパワーを過小評価してしまいます。
ロス・エドグレイ
多くの人々がトレーニングについて「休息日を設ける」、「ほどほどにしておく」と言いますが、体にかかる負荷に立ち向かうためには、最終的にはより多くのトレーニングをして身体機能を高めることが必要になってきます。私はこのチャレンジの直前まで本当にハードなトレーニングを重ねましたが、そのおかげでチャレンジ終了後たった1日から2日ですっかり身体が回復しました。現代科学は時として、人間の身体が持ち合わせている耐久性と無限のパワーを過小評価してしまいます。
このようなチャレンジでは、精神面で大きな壁に当たる局面があると思います。更にMINIを牽くとなると、その精神的な負荷は相当だったと思います。どう立ち向かいましたか?
真夜中にこのチャレンジをスタートしましたが、午前7時の頃には雨と寒さでシルバーストン・サーキットのちょっとした路面の傾斜にも足を滑らせてしまうようになっていました。上り斜面で滑って転倒し、車ごと逆方向に10mも引きずられてしまったこともありました。ゆっくりと慎重に、なんとかその斜面を攻略しましたよ。精神的に大きな壁に打ち当たったのは、7マイル(約11km)から10マイル(約16km)の間だったと思います。私は事前にできるだけ沢山の栄養を体の中に取り込んでおきました。炭水化物から脂肪までありとあらゆる栄養素を摂取し、要するに2倍のエナジーを確保しておくというアプローチで臨んだのです。こうした方法をとらなければ、私の体はあっというまに筋グリコーゲンの枯渇に陥っていたはずです。
このチャレンジで摂取したカロリー量は?
数字で見る #WorldsStrongestMarathon チャレンジ

数字で見る #WorldsStrongestMarathon チャレンジ

© Ross Edgley

約6000kcalといったところでしょうか。アーモンドバターをまるでヨーグルトを食べるかのようにスプーンで流し込みました。アーモンドバターだけでは所定のカロリー摂取量に満たないこともあるので、ココナッツオイルも足しました。
非常に見事な筋肉をお持ちですが、どのように鍛え上げたのでしょう?
沢山の人々から、「脚の筋肉がつかない」もしくは「もっと強い脚の筋肉がほしい」といったメールが私のところに寄せられますが、背中にMINIを括り付ければ、確実に筋肉量は増えるでしょうね。適応の法則というものですよ。
現代のフィットネス思想には、あるトレンドが見受けられます。それはデッドリフトの前にバイセプスカーリング(編注:二頭筋カール。上腕を動かさずにダンベルを胸の位置まで持ち上げるトレーニング)をこなすという、段階を踏んだトレーニング理論です。一方、旧ソビエトのアスリートたちを振り返ってみると、現代の我々が持っている常識とは大きくかけ離れていることが分かります。彼らの筋強度とコンディション維持における思想は、実に先進的なものでした。彼らは、ランニング、跳躍、投擲、筋肉の引き/押しを総合的に重視していたんですね。そこには、バイセプスカーリングやビーチウェイト(編注:ロサンゼルスのマッスルビーチを起源とした、ジムではなくビーチでウェイトトレーニングをするというトレンド)などというものは一切存在しなかったのです。
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ですので、私も基本に戻って、タイヤやソリを牽いたり、ベンチスクワット、デッドリフトを沢山こなしたりしながら、コンパウンドセット(編注:メインのトレーニングを行ったあと、連続で補助トレーニングを行ってターゲットの筋肉を追い込む強化トレーニング)で追い込んでいます。
レッドブル・アスリートたちのような無駄のない肉体を手に入れたいなら、筋肉の見た目はあくまでも副産物だと心得るべきです。たとえば、優れたスノーボーダーはしっかりした体幹と綺麗に割れた腹筋を手に入れているはずです。スノーボードのトリックにはこのような要素が必須ですからね。ですので、まずは自分が情熱を注ぐスポーツで上達することを目指すべきです。そうすれば、必要な筋肉はおのずとついてくるはずですよ。
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ロス・エドグレイは人間の身体機能のポテンシャルをさらに押し拡げ、スポーツ科学/フィットネス/栄養学の未踏分野を専門に精力的に研究している。ロスの InstagramTwitterFacebookをチェック!