WEC
【WEC】王者・平川亮が語った“7000文字のル・マンのヒミツ”を最速で完読してみせろ!!
すごくボリューミーな内容だったはずが、気づけばあっという間に終わってしまっている。そんな「耐久レース」と同じ気分を平川亮へのロングインタビューで存分に味わっていただこう。あなたは何分で読み終える?
モータースポーツの最高峰といえば、多くの人はF1と答えるのはある意味正解といえる。しかし、世界で最も過酷なレースは? と問われれば、モータースポーツ好きならル・マン24時間と即答するはず。
というのも、ル・マン24時間はその名の通りフランスはル・マン「サルトサーキット」で毎年行われる、24時間ぶっ通しで走り続ける耐久レース。
今年でいえば1周13.6キロのコースを380周も周回しているから、トータルの走行距離は約5177キロにも及ぶ。東京駅からの直線距離で例えると日本で収まりきるわけもなく、西はネパールのカトマンズをちょっと通り越し、東はアラスカのアンカレッジちょっと手前までの距離を1日で走り切るといえば、その過酷さはイメージできるんじゃないだろうか。
そんな世界一過酷なレースを制したのが、レッドブル・アスリートの平川亮選手なのである。
もちろんすでに多くのメディアでその結果や優勝の喜びなんかは語りつくされているが、そこはレッドブルとの蜜月な間柄。他のメディアでは聞けないような突っ込んだ質問で、ここでしか聞けないようなル・マンのこぼれ話をお届けしよう。
01
【遂にスタートォ】1000/7000字
ぶっちゃけ眠くなるよね?
──まず気になるのは眠気の問題。もちろん24時間フルで走り続けるわけじゃないけど、乗車タイミングは夜中や明け方にかかることもある。というわけで、当然ドライブ中でも飽きたり眠くなったりします?
平川:「飽きるとか眠いとかって感覚は、実際のところはほとんどなかったですね。ただレース本番の1スティント目か2スティント目あたりで、これがあと20数回あるんだって。飽きるっていうかこの先長いなって感じていましたね。
ただそう思ったのはその時だけで、あとはしっかりと集中できていたと思いますよ。最後に乗った時は7号車にトラブルがあったタイミングだったので、このまま順調に走り切りたいって思いから、時間の経過が遅いというかもっと早く時間が過ぎてもらいたいって、別の意味で長いなって感じていましたけど」
──もちろん24時間起きているってわけじゃないですよね?スタート前はギリギリまで寝てるとか、自分のスティントが終われば仮眠をとるとか。寝られるタイミングとかもあったのかなと思うんですが。
平川:「土曜日は朝からウォームアップがあったので6時からずっと起きていました。レーススタートが16時で自分が乗るのは20時過ぎなんですけど、なんだか昼寝とかもできなかったんですよね。1回乗った後のインターバルは4時間くらいあったんですが、その時もあんまり寝られませんでしたね。
意外と寝なくても大丈夫でしたが、正直身を削った感じなので、降りた後は顔がやつれていたかもしれないです」
──飽きや眠気はなかったとしても長時間ドライブし続けていると、どこかで集中力が途切れるなんてこともあるんじゃないですか? 走行中にふとレース後の晩飯を考えてみたり。
平川:「たしかに集中力をずっと保つことは難しかったですね。特に裏ストレートはすごく長いから、ただまっすぐ進んでいくだけなんですよ。ストレートの終わりあたりに300、200、100(メートル)ってブレーキングポイントを示すボードがあって、このボードを毎回チェックしながら僕なら100でブレーキを踏むんですが、200と100を間違えてブレーキを踏んだ時はありました。その時は気が緩んでいたんだと思います。
でもコーナーごとにリズムを作っていたし、毎周いろんなことがあったから、完全に集中力が途切れたってことはなかったです。今後はもしかしたら…、晩飯を考えちゃう時がくるのかもしれないですね(笑)」
──かなり神経をすり減らして挑むレースだったと思いますが、ちなみにレッドブルでエナジーチャージはしました?(笑)
平川:「レッドブルは飲んでましたよ。レースが終わって冷えたレッドブルを飲んだ時は滲みましたね」
02
【どんどん攻めてく】2000/7000字
トイレに行きたくなったら… ?(笑)
──晩飯の話が出たところで、レース中の食事事情ってあまり知られていないんですが、美食の街フランスだけに、レースウィーク中にチームが用意する食事って美味しくて食べ過ぎたりしました?
平川:「レースは土曜からスタートして、ウォームアップ時の乗る前とか乗った後とかは普通に食事を摂っていたんですが、日曜になるとあんまり食欲がなくなってきて。プレッシャーとかストレスってわけじゃないんですけど、食べる気が起きないというか、ゼリーとかで済ませていましたね。だから正直、何があったかすら覚えてないんですよ。ただ、ここは改善しないといけないかな。しっかりと食べておけば自分のパフォーマンスがもっと上がるんじゃないかとも思います」
──でもお腹が満たされちゃうと、生理的には出したくなっちゃったりしますよね。長時間のドライブだし、レース中にトイレに行きたくなったり...?
平川:「もちろんその辺りは考えていますよ(笑)。でも1スティントが長丁場だと過去には走っている最中に……、ってドライバーもいたみたいです。もちろん小さい方ですよ」
──それってシート上で解放しちゃうってことですか? 次のドライバーは大変ですよね(笑)
平川:「そんなことがないように、食事とか乗る前のトイレとかは準備しているので、まだ自分はしたことはないですけどね。ただ、緊張するとトイレに行きたくなることもあって、例えばスーパーGTとかではグリッドにクルマを持って行ったら、スタート前にトイレに行くこともありました。行ってしまえば安心できるってのもありますね」
──基本中の基本の部分ですね(笑)ちなみに(上記のような)様々なアクシデントを含め、実は今回のレース中にやってしまっていたミスとかってありますか?
平川:「練習ではブレーキのタイミングが遅すぎてまっすぐ行っちゃったことは何回かありましたね。レース中のミスはなかったんじゃないかなと。夜のスティントで最後にタイヤがなくなっちゃって、しかも冷えてグリップが低下しているタイミングでブレーキロックさせちゃった時があったのですが、自分のコントロール内で収められたので許容範囲内でした」
03
【まだまだこれから】3000/7000字
ル・マンでの1番の思い出は?
──レース本番はもちろん、1週間のレースウィークを通していろんな出来事があったと思いますが、大変だった思い出ってありますか?
平川:「思ったよりも睡眠が取れなくて。今年はコロナの影響もあってテストから本番までに休息日がなかったんですよ。
前の週の日曜日にテストで走って、月曜にはインタビューやチームの打ち合わせ、水曜には夜の走行練習、ほかにも朝早くからチームのミーティングがあったり。
特に夜の走行練習は12時過ぎまで走って、その後自分でも映像を見て復習をしていたので、レースウィーク全体で考えると物理的にもメンタル的にも忙しかったですね。そう考えるとむしろレースでクルマに乗っている時の方が落ち着けていたかもしれませんよ」
──ちなみに優勝したらもらえるロレックスがかなりスペシャルなものだと聞いたんですが? 刻印が入ってるとかだったらぜひ見せてもらいたく...!(←だいぶ欲張り)
平川:「もちろんいいですよ。裏にル・マン24時間ウィナーって彫ってあります。今年はWECでいくつか手に入れられるチャンスはあるので、あと1つは獲りますよ」
──おぉーー!!お宝を見せてもらったついでといってはなんですが、レースウィーク中に撮った写真の中で自慢の1枚とか秘蔵の1枚とか、ル・マンでのベストショットとかあったりします?
平川:「自分でSNSとかもやってないので正直、まったく撮ってないですね……。唯一というか撮ったのは“ど●兵衛”の写真くらいです(笑)」
──よりによって“ど●兵衛”って……(笑)。まったくル・マンっぽくないんですが、コレは日本から自分で持って行ったわけじゃないですよね?
平川:「これはチームが用意していたモノなんですけど、結構人気あるんですよ。1週間前に用意されていたんですけど、なくなるなって予想していたので、1週間分くらい(部屋に)隠しておきました。ブレンドン(ハートレー)とかコレが大好きで、テストデーから何個も食べていたくらい。僕が隠していることも知ってました。他の写真は……、本当にこれくらいしかないですね(笑)」
04
【後半戦突入】4000/7000字
本当はチェッカーを受けたかった?
──自分の全スティントが終わってマシンを降りた時って、やっぱりやりきった感とか解放感とかありました? これで安心して眠れるみたいな。
平川:「やりきった感はあったんですが、自分が降りた後もまだ4時間くらいあったんですよ。GTとかのレースで考えると倍の時間くらいあるんですが、やっぱりクルマの状態とかも気になっちゃいました。でも自分はもう何もできないから、映像とかも極力見たくなかったですね。眠気はまったくなかったんで、もう最後は祈ってました」
──充足感があったということですが、完全燃焼でもうしばらくは乗りたくない、みたいなのはあったりします?
平川:「いや、なんだか寂しくてもう少し乗りたいなって思いましたよ。路面がよくなってクルマも速くなっていったんで、もっと攻めてみたかったりとか。でもトラブルとかクルマの状態とかもあるから、現実的には不可能なんですけど」
──「最終的には俺にチェッカーフラッグ受けさせろ!」とか思いました?
平川:「フフッ…」
──「フフッ」って確実に本音漏れましたよね(笑)。優勝が決まったタイミングはどんな気持ちでした?
平川:「いや、実際はまだこのクルマに対する経験が浅いので、チェッカーを受けさせろまでは正直思わなかったというか、勇気はなかったですね。走り終わってからもチーム内ではもっとピットの中に来いって言われていたけど、もう映像とか見たくなかったですからね。
優勝が決まってもなんだか実感がなくて、どっちかというと終わっちゃったんだって。今思えばもうちょっと喜べばよかったんですけど、その時は、あぁ優勝したんだ、みたいな不思議な感覚でしたね」
──なんだかこのクールさがこれまでの平川選手のイメージ通りなんですが、優勝しているのに冷静すぎますよね。もっと全身を使って喜びを表現するとかないんですか?(笑) さすがに表彰台に登った時とか。
平川:「いやホントに、演じてるとかではないんですけど今もあんまり実感がないくらいですから。優勝はしたけど、もう少し何かできたんじゃないかと思うくらいです。来年はもっといろんなメーカーが出てきて、より厳しい戦いになってくると思うんですけど、もっと自分が強くならなくちゃいけないと思いますね」
05
【勢いは衰えない】5000/7000字
WECはF1よりもおもしろくなる!
──日本人最年少での総合優勝って肩書きもありますが、それも実感はないですか?
平川:「正直、最年少とかそーゆーのはどうでもいいんですよ。そこは逆に若いドライバーに破ってもらいたいですし、自分もそんな彼らに負けないようにがんばらないといけないんです。でも、これまでもいろんな最年少記録を作ってきましたが、28歳で最年少って正直どうなんですかね(笑)」
──そういった意味でも若いドライバーが成長するためのアドバイスがあれば。例えばどんなことをすれば世界を獲れるとか、フィジカル面とかメンタル面とかでやっておいた方がいいことや、自分が実践して効果があったトレーニング方法など、何か具体的にあれば!
平川:「人それぞれ、いろんな走り方とか考え方があると思うんですよ。だから自分自身もまだコレって完成されたものがあるのではなく、まだまだ成長していく過程だと思っています。そういった意味では日本国内だけじゃなくって海外に出るとさらにその刺激も増えて、新しい発見もありますね」
──もっと若いドライバーも海外に進出してみてもらいたいと?
平川:「う〜ん。ぶっちゃけて言えば人それぞれなんで、言い方は悪いかもしれませんがどうでもいいですかね。たださらに若い、カートをやっている10代の子たちの目標として、F1だけじゃなくてWECも目指してもらいたいかな。たぶん今後はF1よりもWECの方がおもしろくなるはずだし、もっといろんな世界があるよって知ってもらいたいなと思います」
06
【もうすぐ完走っ】6000/7000字
ル・マン24時間を終えて今思うことは?
──トヨタの5連覇、しかもワンツーフィニッシュはメディアでも取り上げられていたけど、帰国後の周りの反響はどんな感じでした?
平川:「フランスではメディアでもバンバン取り上げられて、本当に凄いことを達成したって賞賛されまくったんですが、日本に帰ってきたら意外と温度差があったというか。あんまり話題になってなかったんですかね。総合優勝って凄いことだと思うんですけど、こんなもんかなって。そんなことも優勝した実感が湧かない原因かもしれませんが」
──モータースポーツ好きの間では話題になっていたんですけどね。
平川:「やっぱり一般のメディアさんに取り上げてもらえないと、小さい子供達にも凄さとか魅力とか、あんまり伝わらないのかなって思いました。そういった面では日本でももっとモータースポーツに注目が集まるようになってくれるといいんですけど」
──ぜひ平川選手から子供達に翼をさずけてもらえれば(笑)。ル・マン24時間総合優勝ってこんなに凄いことなんだってバンバンアピールするとか。
平川:「アピールとか得意じゃないんですよね……。その点ではヨーロッパ人はうまいので、ちょっと見習わなきゃいけないかなって思いますね」
──国内外のレースで勝ちまくって、平川亮ブームを巻き起こしちゃってください!
──ちなみにル・マン翌週には日本でスーパーフォーミュラに出場していましたけどタフですよね。
平川:「そうなんですよ。ル・マンが終わってその週にSUGOがあったので、その準備も忙しかったです。しかも飛行機が直行便でなく、乗り換えも遅れていて火曜着予定が水曜の帰国になっちゃたんです。だからスーパーフォーミュラはバタバタの状態で臨まなくてはいけなくて。この忙しさも優勝を実感できない理由かもしれませんね」
──まったく違ったマシンでのレースとなりましたが、頭と体はついて来ました? ぶっちゃけWECのマシンとスーパーフォーミュラではどちらが乗りやすいとか、自分のスタイルに合うとかってあります?
平川:「やっぱりスーパーフォーミュラは車重がWECよりも半分近く軽いのと、自分の好きなようにセットアップができるから乗りやすいのは乗りやすいですね。
WECのクルマは3人でセットアップを合わせているから、乗り方を工夫することでドライビングの引き出しが増えるのは楽しい部分なんです。クルマの使い方次第で他のドライバーよりも速く走れたりするんですが、正直に言えばWECのクルマは超乗り辛いですよ(笑)。でも今までやってこなかった乗り方を見つけることで、スーパーフォーミュラにもつながるので、どちらが好きとかはないですね」
──3人でセットアップを合わせるというのは、ル・マンの8号車は誰かが中心になった仕様で仕上げられているということ?
平川:「いや、基本的には3人に合わせるというか、あんまり好みが分かれることもなかったんですよ。クルマやタイヤの使い方は決まっていたようなので、ドライバーそれぞれがクルマに合わせるというか。BoPで縛られている部分も大きいので、エアロバランスやロールバランスくらいしか調整できないですし」
07
【ラストスパートォ!!】7000/7000字
今後の平川亮の目標
──最後に、もう半分以上過ぎちゃってますが、2022年の目標は?
平川:「今年でいえばWECはタイトルがかかっているので、世界タイトルを獲るのは直近の目標ですね。スーパーフォーミュラでいえば、自分は2位が最高位なのでチャンピオンを獲りたいというか、両方でチャンピオンを獲ることが目標ですね」
──まずはWECとスーパーフォーミュラの2冠を達成して、次シーズンもさらなる飛躍を目指すと。そのうえで世界から注目を集めて、子供達に憧れられるレーサーになる辺りまでが今後の目標ということで。そんな子供達に向けてアドバイスをするなら?
平川:「そうですね。諦めずに挑戦し続けることは重要ですね。自分も2016、2017年にル・マンでチャンスはあったんですが、モノにできなくて。でも諦めずに日本で成績を残していったおかげで、今年新たなチャンスをもらえて、ル・マン優勝にもつながっているわけですし。カートで優勝したいと思ったら諦めずに続ければ獲れるはず。自分も世界タイトルであったり、来年のル・マンで連覇だったり最多勝なんかを獲れるまで続けていくつもりですから。できるまでやるっていう強い意志を持ってもらいたいですね」
──おまけの質問なんですが、レース以外の私生活での目標とかもあれば聞きたいです!
平川:「私生活ですか。……あんまりないですね。というか、その質問がくるとは思ってなかったです(笑)」
読破達成!
半分近くのボリュームを、コアなレースファンからは怒られそうなバカ話に付き合わせてしまったのに、その真面目な性格から想像以上に受け答えしてくれた平川亮選手。昭和世代なら馴染みの深いキャッチフレーズ「24時間戦えますか」をリアルに戦い抜き、表彰台の頂上へと上り詰めた寡黙な男のアツイ一面を覗き見ることができた。国内外問わず第一線で活躍し続ける彼のさらなる飛躍に注目だ。
(了)
─[Information]───────
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