【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色
© Photos by Kenji Haruta
スケートボード

【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色

16歳の時に世界大会で初優勝を果たし、これまで5度の優勝経験を持つ瀬尻稜。21歳を迎えたばかりの彼は今どのようにしてスケートボードと向き合っているのか……、その胸の内に迫る。
Written by Naoshi Imai
読み終わるまで:11分公開日:
  
昨年、現役トップライダーとしては異例となる世界大会「SKATE ARK」を自らプロデュース。そして、世界の強豪がひしめく中、見事優勝を果たすなど、実力を磨き続けながら、新しい可能性へも挑戦している瀬尻稜。そんな表舞台からは見ることのできないもう一つの彼の活動。所属するスケートボードチーム「ELEMENT」でチームメイトらと活動を共にし、自身の滑りを形に残すための映像作品(パート映像)の制作に励んでいる。世界のスケートボードを肌で感じてきた男が、次に目指すものとは?
【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色

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(稜とは昔からの仲だけど改めて)まずはプロフィールを聞いておこうかな。
瀬尻稜(以下、RYO) 1996年12月11日生まれ、出身は東京都練馬区です。5歳の時にスケボーを始めたので、スケートボード歴は15年目ですね。スタンスはレギュラーです。
  
これまでに世界大会で5度の優勝を収めてきた稜が、5年後、プロスケーターとして目指している姿は?
RYO 目指している姿は、まずは今と変わらずスケートをしていること。大会も好きだし、撮影も好き。両立しながら今と変わらず滑り続けていければと。具体的には世界のブランドから自分のプロボードを出したいっていうのが目標です。
  
5年後の26歳といったら、トップライダーとしてのピークというか、一般的にプロボードをリリースするリミットでもあると思うんだけど、今後5年でその目標のためにどういった行動を起こそうと考えている?
RYO そのためにはもっと自身の映像作品(パート映像)を出すことですかね。それとアメリカへ行って向こうのELEMENTのチームライダー達と一緒に滑って仲良くなる、彼らに認めてもらうっていう事も大切。それはアメリカにずっといるという訳ではなくて、日本にいても、ヨーロッパにいても、常に映像を撮りまくって、自分の滑りをパート映像として世の中に発信する事が大事ですかね。Instagramとか単発的に消えてしまうものではなくて。前回の『NEW WORLD ELEMENT』(※)から1年以上経っているし、自分の理想としては1年に1回は出したい。海外のライダーはそれこそ1年に2〜3個出す奴もいるし。どんどんパートを出して、映像で自分の滑りを見せ続ける事が大事だなと思います。
(※)……2016年にELEMENTから世界発信された映像作品。JAPANチームの中で瀬尻稜のパート映像が最後のトリを飾っている。
  
ELEMENT『NEW WORLD ELEMENT』- JAPAN PART(2016)
  
これまでコンテストにこだわって結果を残してきた稜が、最近の活動の中心として取り組んでいるのがパート映像だけど、そもそも興味を持ったキッカケは?
RYO 興味は昔からですね。小さい頃からビデオでスケボーのパート映像ばかり観ていたし、物心ついた時からカッコ良いって思ってた。ただ、小学生の頃はフィルマーの人とのつながりもなかったから、自分から「この技を撮ってほしい」という感覚にはならなくて。中学校ぐらいから、今まで観てた立場だったけど、今度は自分が見られる立場になっていきたいと思って、中学3年の時にトーマスくん(THOMAS FILM)というフィルマーと撮影し出したのが始まりでした。だからずっと憧れはあったし、ずっと観てきたのもパート映像だし、自然と撮りたくなっていった感じですね。
  
具体的に、影響を受けたパート映像は?
RYO FLIP『SORRY』のマーク・アップルヤードやアルト・サリ、ES『ESPECIAL』のダニー・ガルシア、リック・マックランクも好き、ジャンル問わず何でも観ていましたね。やっぱり衝撃を受けるライダーはカッコ良い。曲が始まってライダーが登場して、滑りと曲調と映像全体の流れっていうか。もう一回見たいって思える感覚? なんか自然と引き込まれちゃうんですよね。
  
FLIP『SORRY』- MARK APPLEYARD(2002)
  
コンテストと違って、その人の個性を最も知ることができるのがパート映像の魅力ですね
瀬尻稜
  
スケートボードの世界で、パート映像がこれだけ重要視されている理由は何だと思う? コンテストとは何が違うんだろう?
RYO たぶんだけど……、やっぱり一番個性が出せるからじゃないですかね。コンテストにはルールがあるし、決められた時間の中で滑らなくてはならない。コンテストと違って、その人の個性を最も知ることが出来るのがパート映像の魅力ですね。例えば、ある人は10段の階段が良いスポットに見えるけど、ある人は1段の段差だけど上手く使えばカッコ良く見せられるって思ったり。服装もそうだし、曲もそうだし、そういうのをみんなまとめて見せる事ができるのがパート映像だから、面白いし支持されてるんじゃないですかね。本当の意味で評価されるっていうか。たった3分のパート映像に1年2年って時間が必要だったりする。スケーターの単なる自己満足なんですけど、その自己満足の世界をみんなに観てもらって、多くの人達からリスペクトされたら、有名になれてお金も稼ぐことができる。そうやってシーンが回っているのがスケートボードの世界なんですよね。
  
パート映像の中でも“ストリート”(街中)で滑ることに特別な思いを持っていると思うんだけど、ストリートで滑る理由を教えてくれるかな。
RYO スケボー用にできていないストリートだからこそ、そこに無限の可能性が広がっていて、無限に滑り方があるって感じですかね。路面が悪かったり、他人に注意されたり、車に轢かれそうになることもあるけど、その分成功した時の感動も大きい。スケボー用に作られたパークでは、そこでいくら滑っていても新しい可能性は生まれない。ストリートは、その人の発想によって何処でもスポットになりうる。そうやって今まで誰も考えつかなかった滑りをストリートで進化させてきたからこそ、今のスケートボードがあると思うんですよね。
【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色

【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色

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普段ストリートで撮影する時はどのように行って、その撮影した映像はどうしているの?
RYO 自分でスポットを見付けて撮影に行く事もあれば、誰かが滑っている映像を見てその場所を教えてもらって撮影に行く場合もあります。お昼ぐらいに集合することが多くて、行きたいスポットを1日で2〜3箇所回って撮影する感じですね。大体がフィルマーとマンツーマンというよりは、フィルマー1人に対してスケーターが2〜3人って事が多いです。全員が一斉に同じスポットで滑る訳ではなくて、各自がそれぞれ滑りたいスポットで撮影する感じです。撮影した映像は、基本的にはパート映像のために溜めてるんですけど、例えば、自分がサポートを受けるブランドのPR用に「映像を使いたい」ってなった時にすぐに渡せるよう、常に溜めておくことが理想ですね。ただ映像や写真は古くなり過ぎると使えなくなってしまう事もあるから、そこは注意しています。
  
そう考えるとパート映像を作る上でフィルマーの重要性は高いってことだよね。稜が最も信頼しているフィルマーは誰?
RYO ヒデくん(田中秀典)ですね。信頼っていろいろあるんですけど、一番は撮り方が上手いって事。やっぱり命をかけてやる1トリックもあるから、撮り逃がしをされたら嫌だし、そうなると心から「この人なら大丈夫」って信頼できる人にお願いしたい。アングルもカッコ良く撮ってくれて、スポットにもすごく詳しいから、1つのスポットで撮影が終わって、次どうしようってなった時もすぐ良い提案をしてくれるし。ツアーの時も俺らの体調を考えてくれたり、たくさんの経験があるから上手くスケジュールが組めたりとか、ヒデくんと動く時はいつも撮影がスムーズにいきますね。
【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色

【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色

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“プロ”と“アマチュア”の線引きは、世界と日本ではだいぶ認識が違うと思うけど、稜が考える“プロ”と“アマチュア”の違いを教えて?
RYO やっぱり一番の違いは、プロとして自分モデルのデッキを出しているかいないか。それがスケートボードの世界では一つのプロ基準で、自分の名前の入ったデッキやシューズが売られたらプロだし、売られていない奴はアマチュア。だから俺も、デッキとシューズに関しては、世界基準から見るとアマチュアスケーターだと思ってる。ただし、それはスケーター目線からみた考え方でもあるし、一般的に見たらスケートボードでお金を稼いで生活していたらプロなのかなって思います。
  
 稜が“プロ”としてこだわりを持っている事は?
RYO “楽しむ事”じゃないですかね。俺がスケートボードを始めた頃、いろいろなプロスケーターにデモやイベントで会えたりして、やっぱりカッコ良くて憧れだった。いくらプロとして、スケートボードが仕事になっても、そういった人達がつまらなそうにスケボーしていたら嫌だし、雑誌に載るにしても、楽しさが伝わらなかったら寂しいと思う。だから、自分がスケボーが好きで楽しんでいる姿を見せるのが一番大事なのかなって思っています。
【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色

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年齢が若いとか年上とか関係なく、大会に出ようって思っているスケーターが増えてきている事が純粋に嬉しいし、その中で結果を出している彼らを本当にリスペクトしています
瀬尻稜
  
堀米雄斗(18歳)のストリートリーグ3位入賞の快挙や、世界アマチュアコンテストDAMN AMでの池田大亮(17歳)の優勝、ELEMENT MAKE IT COUNT世界戦での本橋瞭(17歳)の活躍など、成長著しい後輩たちをどう感じている?
RYO 後輩とは思っていないですけどね(笑)。同世代の仲間として単純に嬉しいです。俺の5年前は海外の大会に一緒に行くスケーター仲間は1人もいなくて、1人で海外の大会へ行って、日本人は自分だけって状態で滑っていた事がほとんどでした。今だったら日本人5〜6人で世界の大会へ出場するとかが当たり前になってきていて、年齢層が若いとか年上とか関係なく、大会に出ようって思っているスケーターが増えてきている事が純粋に嬉しいし、その中でこういった結果を出している彼らを本当にリスペクトしています。一番感動したのは雄斗のバルセロナのストリートリーグ3位の時で、俺も出場したことがあるから分かるけど、他の大会とは違う緊張感とか、独特な雰囲気があって、周りも見えていないぐらいガチガチだったんですよね。あの舞台で表彰台まで登った雄斗がすごいなって思います。いろんなプレッシャーもあったと思うし、でもあの環境で一人で頑張って結果を出したっていうところにリスペクトしたいですね。
  
稜はこれまでに世界大会で5回の優勝を果たしているけど、“世界に誇れる自分の武器”は何だと考えている?
RYO 自分の武器……、なんだろうな〜? 自分の滑りに対して「ココを見て欲しい!」っていうのは特になくて、自分の滑りを見て感じて欲しいのがパート映像なんですよね。観ている人が俺の滑りを見てどう思うか。パート映像の撮影では、自分がやりたい事をやっているし、得意な事をやっている。でも自分自身では“武器”って感覚じゃなくて。でも、他の人から見ると「俺にはできないからすごい」って言われるから、それが自分の武器なんですかね。結局、パート映像はストリートで撮影することがほとんどで、路面の具合や障害物があったりとか、周辺の環境など、乗り越えて撮影するから難しいし、そこにカッコ良さがある。自分にしかできない使い方とか滑り方、自分が得意とする滑りをいかにそこで最大限魅せられるか。スケボーの良さの1つが、“みんなが違う”って事で、俺は得意だけどあの人は苦手、あの人は得意だけど俺はできないとか。その人しかできない事を認め合えるのが、スケボーの良いところだと思うんですよ。本場アメリカでは、個性のある奴がプロスケーターになるんですよね。メッチャ上手いけど何年もそのチームでプロになれない奴もいて、この差ってやっぱり個性だと思うんですよ。だから俺は自分にしかできない滑りを残し続けるだけです。
  
  
5歳の時にスケートボードと出会い、11歳にしてAJSA(日本スケートボード協会)年間チャンピオンを史上最年少で果たすと、3年連続(2010〜2012)で年間優勝を獲得。その後、世界のコンテストと活躍の場を広げ、フランス、チェコ、カナダ、中国、そして昨年の日本と、世界各都市で開催された世界大会で5度の優勝経験を持つ瀬尻稜。現在21歳。Red Bullを始め、OAKLEY、ELEMENT、EMERICA等のトップブランドからサポートを受ける。これまでの自身のパート映像作品に、THOMAS FILM『MONSTER CRUISE』(2015)、ELEMENT『NEW WORLD ELEMENT』(2016)があり、2018年発表予定のELEMENTの次回作『FAR EAST FLOW』に向け、現在精力的に撮影を行なっている。
【瀬尻稜の現在地】21歳のプロスケーターから見える景色

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