Formula Racing

クルマを速く走らせる=速いレーシングドライバーじゃない!

レーシングドライバー・平川 亮がスピードの裏側を語るスポーツコラム 『BEHIND THE SPEED Vol.04』 (毎月公開)。スーパーGT/スーパーフォーミュラ
Written by Tsuyoshi Kawarada
読み終わるまで:5分公開日:
Ryo Hirakawa

Ryo Hirakawa

© Maruo Kono

ドライブとはパズルのようなもの

レーシングドライバーにとって速いということは、クルマを速く走らせることだけではないんです。
ドライビングに関して言えば、スーパーフォーミュラ(SF)やSuperGTに参戦しているドライバーに腕の差はほとんどありません。僕の印象では、F3でチャンピオン争いの経験をしたことのある選手は、ほぼ全員が速く走るためのスキルを感覚的に身につけています。
レーシングカーのドライビングはシンプルです。マシンの走らせ方は2パターンしかありません。タイヤのグリップを使うのは大前提ですが、突っ込み重視と立ち上がり重視のふたつだけ。それをコーナーごとにどのように組み合わせて、1周をまとめていくのかがドライバーの仕事です。いわばパズルのようなものです。
ただし、プロはそのパズルを一瞬で解いて、短時間でマシンの限界を見極めなければなりません。国内のサーキットでは走り慣れているのでパズルの"正解"はわかっていますが、SFでは1〜2周目はタイヤなどが温まっていない中、その時のコンディションでの限界の走りをイメージし、実際にタイヤが温まった時にはその走りを実践して、しっかりとタイムを出さなければならない。そして同時にクルマを評価して、セッティングをどんどん詰めていかなければプロとして通用しません。

正解のラインはほぼひとつ?

さらに言えば、サーキットでは風向きや路面状況が刻々と変わっていきます。その変化を感じ取ったら、すべてのコーナーをどう走ればいいのかを一瞬にアップデートし、実践する能力も必要となります。
でもマシンのスピードが高くなればなるほど、身体には強烈な負荷がかかってきますが、逆にマシン操作はより繊細さが要求されるのです。そういう複雑で緻密なことを、トップカテゴリーで戦うドライバーたちはみんな同じようなレベルで実践しているのです。
それが一番わかりやすいのは雨あがりの時。
ライン取りは無限にあるはずですが、不思議なことにラインは1本になっていきますよね。結局、トップカテゴリーになると、ドライバーが考えることはほぼ一緒で、最終的にほとんど同じパズルができあがるのです。
Ryo Hirakawa

Ryo Hirakawa

© Red Bull Japan

「遅いクルマで速く走る」は有り得ない

ドライビングでほとんど差がつかないので、クルマを作る能力は速さを構成する重要な要素となります。実際、ドライバーの中にドライビングの技術よりもクルマをつくる能力が高い人間もいます。要は、その両方のトータルでラップタイムは決まっていきます。
いいクルマを作るためには経験やセンス、エンジニアとのコミュニケーションの能力などが必要ですが、強いフィジカルがあることが大前提です。限界領域で走り続けることで、セッティングは詰められ、いいクルマが作られていきます。
よくマンガの中には、どんなクルマに乗っても速いというドライバーが登場しますよね。現実にはそんなことはあり得ないんです。可能性があるとすれば、レベルの低いレースでの話。トップカテゴリーでは、どんなに実力のあるドライバーであったとしても遅いクルマに乗ったら絶対に速く走れません。
でも本当に速い人は、遅いクルマを速くすることができる。
現実の世界ではマンガの続きがあって、数周走ったあとに「コレとソレとアレを変えてくれ」とマシンの改善点をエンジニアに対して指摘して、完成したマシンで驚異的なタイムを叩き出す。それが本当に速いドライバーだと思います。

トップドライバーには変な人はいない

あとはリーダーシップも重要な要素です。かつてミハエル・シューマッハーは、チームをひとつにまとめ牽引していき、F1で史上最多7度の世界チャンピオンに輝きました。チームのみんなが「コイツの言うことを信じてやってみようと」と思わせるだけの人間性があるドライバーの周りには、いいパーツやエンジニアが自然に集まってくるのです。
だからトップカテゴリーに行くと、ヘンなヤツはひとりもいません。本当にいい人ばかりです。
つまり速いドライバーは、腕があり、フィジカルとメンタルが強くて、クルマが作れて、コミュニケーション能力があり、頭と人間性がよくて、海外で走る場合は語学力も求められます。ルックスもいいに越したことはないですね。スポンサーやメーカーの看板になるわけですから、カッコよさも大事です。僕も肌の黒さだけは誰にも負けないんですけどね。
とにかく速く走るためには、人間の能力が全部必要になると言っても過言ではありません。ひとつでも欠けていたら、速く走ることができないんです。そういうギリギリのところで戦っているからこそ、体調管理は万全にしておかないといけません。
そう言った意味で面白い話があります。
先日、SuperGT第4戦がタイのブリーラムで開催されましたが、初めてタイに行った時にヒドい目にあいました。現地の料理を食べたのですが、あまりの辛さでお腹を壊してほとんど眠れず、大変な思いをしたんです。それからは海外のレースに行っても現地料理にチャレンジすることはありません。毎日ホテルのレストランで食べ慣れたものだけを食べ、おとなしく過ごすようにしています。
万全な体調で走ることは、“速い”ドライバーの最低条件です。
(文責:川原田剛)
Profile
今、日本のレース界でもっとも世界に近いレーシングドライバー、平川 亮。1994年3月7日、広島出身。2017年スーパーGT最年少王者の平川が狙うのは、スーパーフォーミュラとのダブルタイトル。コース上では常にアツくアグレッシブ、だがマシンを降りるとクールで寡黙。25歳の彼が目指す世界の頂点への挑戦から目が離せない。
◆Information
・本連載の公開中記事がイッキに読めるまとめページはこちら >> レーサー平川 亮・連載【Behind The Speed】
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