ツーリングカー
レーシングドライバー・平川 亮がスピードの裏側を語るスポーツコラム『BEHIND THE SPEED Vol.06』 (毎月公開)。スーパーGT/スーパーフォーミュラ
運の良さや一か八ではなく掴んだ勝利
スーパーフォーミュラ(以下、SF)の第5戦のツインリンクもてぎで初優勝を飾ることができました。
何よりもうれしかったのは、セーフティカーがタイミングよくコースに入ったとか、一か八かの作戦が見事に当たったとか、運任せのレースではなく、ドライコンディションの中でフリー走行、予選・決勝をしっかりと戦い、実力で勝利をつかむことができたこと。これまでチームとともにやってきたことを、ようやく走りで表現できました。
でも、8月のもてぎは本当に暑かった。
最初の5〜6周でドリンクを全部飲んでしまったこともあり、レース中は「早く終わってくれないかなぁ」とずっと思っていました。照りつける強い日差しでヘルメットの中が蒸れてしまい、走行中にバイザーを少しだけ開けてヘルメットの中に風を入れて冷やすほど。そんな状況だったので、ゴール後に喜ぶことを考える余裕はありませんでした。「初勝利なのに冷静だね」と言われましたが、暑さで意識が朦朧としていたのが本当のところです。それに勝ったといっても、まだ1勝ですから。
ゼロポイントがガソリンになって燃えてくれた
今シーズンはF1参戦のチャンスをつかむため、タイトル獲得を目指して開幕から戦ってきました。
ところが第5戦のもてぎまでノーポイント。僕自身のミスはありましたが、さまざまなトラブルやアクシデントも重ねり、「運が悪すぎじゃないか?」と思ったこともありました。でも何を言っても言い訳になってしまいます。だからこそ、ツインリンクもてぎでは、何が何でも結果を出したかった。ゼロポイントがガソリンになって燃えてくれたのかなと感じています。
その一方で、ここまで結果が出ないと、自分自身の能力を疑ってしまうこともありました。
スーパーGTでは何度も勝っているけど、SFで一度も勝てないということはフォーミュラには向いてないのかな……。そんな考えが頭をよぎったこともありました。
でも苦境に陥った時こそ、ドライバーは自分のやり方を信じて戦うしかない。ギャンブルを打って勝ったとしても、所詮は一時しのぎです。結局、次のレースになれば、悪い状況は何も変わっていないのです。実力で勝たないと軌道修正ができないですし、自分に自信も持てないと思います。
もがき苦しんだSFでの最初の3シーズン
僕が初めてSFに参戦したのは6年前の2013年です。最初の3年間は本当に苦しかった。チームメイトは優勝しているのに、僕は何をやっても勝てない。「どうやったら勝てるのだろう」ともがき苦しむ日々でした。結局、3年目のシーズンが終わったあとにシートを失いましたが、その時はもっと乗りたかったと思う反面、苦しさからようやく解放されたという気持ちがあったんです。
日本最高峰のフォーミュラカーレースへの参戦を2年間休んで、昨シーズン復帰を果たしました。今にして思えば、最初の3年間はドライビング、クルマを作ること、体力、レースの組み立てなど、あらゆる面が未熟でした。休んでいる間に自分の弱さを見つめ直し、それらをひとつひとつ潰してきたことが、今回の初勝利につながったと思っています。
今はただ次のレースが待ち遠しい。
チームのモチベーションは上がっていますし、メカニックやエンジニアたちは本当に一生懸命にやってくれています。もてぎの勝利で波に乗っているので、そのまま突っ走っていきたいです。
プロは勝利という結果で道を切り開く
最近、F1ではレッドブルがピエール・ガスリーを降ろし、アレックス・アルボンをスクーデリア・トロ・ロッソから昇格。マックス・フェルスタッペンのチームメイトに抜擢したことが話題になっています。
何があったのかは知りませんが、ガスリーには同情していません。僕ももてぎまでノーポイントで来ていましたが、もしこの成績が続いていたら、来年、SFに乗れない可能性が大きかった。今、所属しているチーム・インパルをクビになっていただろうし、レッドブルのサポート契約も打ち切られていたかもしれない。プロのレーシングドライバーは皆、そういう世界で生きているんです。
でも、フェラーリやメルセデスのようなメーカー系のワークスチームと異なり、レッドブルは飛びぬけたパフォーマンスを見せれば、誰でもF1をドライブできる可能性があります。レッドブルのキャップをかぶる僕だけでなく、SFやスーパーGTで戦っているドライバー全員にとってチャンスがある。アルボンを見ても、日本で戦っているレッドブル・ジュニアチームのドライバーたちよりも圧倒的に速ければ、F1マシンをドライブできるんですから。
実際、山本(尚貴)選手がチャンスをつかもうとしています。山本選手に対しては、正直うらやましい気持ちがあります。僕もF1に乗りたいですが、そのためには結果を出していくしかないんです。
モータースポーツは、ビジネスや政治的な側面も複雑に絡んでいます。たとえ結果を出したとしてもステップアップできるという保証はありません。でも僕は今、結果を出せば上に行けるというチャンスがある場所にいると思っています。僕の走りを注目してくれている人は確実にいます。
勝利という結果を積み重ねていけば、目の前に道が切り開かれ、ファンの皆さんも後押ししてくれる。そう信じて、これからも走り続けていきます。
(文責:川原田剛)
◆Profile
今、日本のレース界でもっとも世界に近いレーシングドライバー、平川 亮。1994年3月7日、広島出身。2017年スーパーGT最年少王者の平川が狙うのは、スーパーフォーミュラとのダブルタイトル。コース上では常にアツくアグレッシブ、だがマシンを降りるとクールで寡黙。25歳の彼が目指す世界の頂点への挑戦から目が離せない。
◆Information
・本連載の公開中記事がイッキに読めるまとめページはこちら >> レーサー平川 亮・連載【Behind The Speed】
・スーパーフォーミュラ第6戦岡山のRed Bull TV特別配信を実施。視聴はこちら