スキージャンプ

小林陵侑の291m超え大ジャンプがどれだけ凄いのか!? 専門家が詳しく解説

人間の限界を越えた小林陵侑のチャレンジは、何がどうすごいのかについて、誰にでもわかるくらい優しく解説! 実は彼、私たちが目で見る以上にすごいことをやってのけています。
Written by Red Bull Japan
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© Dominik Angerer / Red Bull Content Pool
人間=陵侑が“まるで鳥”に見える壮大なチャレンジ!
by 山本敬三教授

【チャレンジのポイント!】

解説者:山本敬三教授。北翔大学スポーツ教育学科でスキージャンプ競技を中心にスポーツ動作の分析を行う。*本記事は、291m大ジャンプのチャレンジ前に教授へインタビューしたもの。
01

なぜスキージャンパーは遠くまで飛べる!?

――山本敬三教授が研究されているバイオメカニクスですが、ものすごく簡単に説明すると、どういった分野のご専門ですか?
 
教授 バイオが“生体”でメカニクスが“力学”なので、文字通り人間の動きを力学的に分析する学問です。
 
――スキージャンプでは流体力学も重要になってくると聞きました。これもバイオメカニクスの一環ですか?
 
教授 別の学問分野です。ジャンプの場合は、“人間がどう動くか”ということを分析するためにバイオメカニクスが必要です。その人間に対してどういった空気の流れが起こり、どういう空気の力を得たのかってことも知る必要があります。
 
――そこに、流体力学も必要になってくると。
 
教授 そうです。僕の研究室ではジャンパーがどうやって体を動かして、その動きが流体的にどのような意味があるのか、それを解釈するために2つの学問を組み合わせて研究しています。
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――すごく初歩的な質問ですが、そもそもスキージャンパーは、どうして遠くまで飛べるんですか?
 
教授 私たちの身近にある飛行機で例えてみましょう!
飛行機がなぜ飛べるのかですが、それは空気の流れがあると風の力(空気力)がはたらきます。空気力の作用には空気抵抗と揚力の2つがあります。バイクや自転車で走っていると空気の抵抗を受けますよね。それが空気抵抗です。これは減速させる力です。飛行機も同じなんです。あれだけの速度で飛ぶわけですから、かなりの空気抵抗を受ける。でも飛行機には揚力(機体を持ち上げる上向きの力)を発生させる翼もある。
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――あの翼があることで上向きの力がもらえるってことですか?
 
教授 その通り!
前からあたった空気が翼によって下方向に曲げられる。空気の力を翼が曲げている。流れを曲げたんであれば、曲げた張本人は曲げた方向とは逆方向に力をもらえます。
 
飛行機の翼を体とスキー板で表現することで飛翔する
――いわゆる作用反作用の法則ですね。もしかしてスキージャンパーたちは、身体と板で飛行機の翼のようになってるってことですか?
 
教授 そうなんですよ。ただ、人間の体は、飛ぶために作られてないので飛行性能が良くありません。飛行機であれば受ける空気抵抗の約15倍もの上向きの力を翼が生み出しますが、スキージャンプの場合は空気抵抗のわずか1.2倍程度の力しか上向きの力を生み出せません。
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――ちょっと難しい内容ですね……。あとでじっくり考えてみます。ここに重力は関係しないんですか?
 
教授 もちろんあります。ジャンパーの総重量が道具を含めて約60~70kgあると仮定して、空気の力で持ち上げられるのは30kgくらい。結局は重力の方が大きいので落ちていく。この落ちていく速度を緩やかにしていく動作がジャンプの基本なんです。
 
――これまで漠然と見ていたスキージャンプの世界ですが、教授のお話を聞くと、ジャンパーたちが普段行っている一本一本の滑空がいかに命がけなのかが改めて理解できた気がします。
 
教授 彼らは鳥人なんです!
 
――今回のチャレンジ以前に普段彼らが当たり前のように行っているスキージャンプという競技そのものが凄いですよね。
 
教授 スキージャンプはフライト姿勢を形作って、空気の流れを読んで、バランスよく飛んでいくという人間の常識を超えたスポーツなんですよ。
02

陵侑選手の大ジャンプは何がどう凄い!?

――それでは、今回の大ジャンプについての質問です。これまでの世界最長記録253.5mを大幅に超えようという壮絶なチャレンジですが、山本教授が初めてこのプロジェクトについて聞いた時の印象を教えてください。
   
教授 レッドブルらしくて面白い! と思いました(笑)。
 
――陵侑選手の最長飛距離は252mで日本最高記録の保持者です。今回の飛距離はその自身の記録をも遥かに越えようというものですが、やはりこの差は大きいのでしょうか?
 
教授 考えられないくらい大きいです!
 
ジャンプ台の高さはビルの50階以上
――ラージヒルのジャンプ台は約140m。東京タワー展望台とほぼ同じ高さだと聞きましたが、今回はどれくらいの高さが必要になりますか?
 
教授 助走路も含めて約249mくらいが必要になると考えられます。
 
――ビルの高さに例えるとどれくらいですか?
 
教授 50階建て相当です。
 
――……それは想像以上です(苦笑)。テイクオフからランディング(着地)までの時間はどれくらいになりますか?
 
教授 ジャンパーは秒速30mくらいで飛びます。時速はおおよそ100~110km/時なので、300m飛ぶのに約8秒かかる計算になります。
 
――ラージヒルの飛躍は4、5秒と聞いたので、約2倍の時間を飛ぶことになるわけですね。
 
教授 一般の方はノーマルヒルやラージヒルだと、ジャンパーが空気の力を得て飛んでいることが分かりずらいと思います。よく、「勢いよく飛び出せば飛ぶんでしょ!」 なんていうとんでもない理論が出てきちゃったり(苦笑)。
 
――フライングヒルにまでなると流石に私たちも「確かにこれは飛んでいる!」といった感覚が味わえる気がします。
 
教授 今回はそのフライングヒルを遥かに超える挑戦なので、我々は“人が空を飛んでいる”ことが十分に理解できて楽しめる。そして陵侑くんは、鳥のように空を飛んでる気持ちが味わえるんじゃないでしょうか。それが今回の大ジャンプ一番の見どころかもしれません。
03

踏切・ジャンプ・着地で最も重要なのは?

――スキージャンプは踏切、ジャンプ、着地が重要になると聞きしました。今回は特にどのあたりがポイントになってくるとお考えですか?
 
教授 間違いなく踏切のテイクオフです。
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――踏切の瞬間ってことですね。
 
教授 ジャンパーは飛行機と違って飛べる姿勢で加速できません。クラウチング姿勢という加速するための姿勢でアプローチ(助走路)を滑ります。そこからフライト姿勢に移行する部分をいかに短時間でいかに正確に行うかがポイントになります。
 
テイクオフ直前のスピードは時速105~110km
――テイクオフ直前のアプローチの距離とスピードはどれくらいですか?
 
教授 私の予想ですと、加速のための助走距離に130~140mが必要になる。滑走速度は時速105~110km。逆にこれ以上のスピードが出ると、踏切の前のR1という曲線路での遠心力が大きくなりすぎるので姿勢が崩れた状態でのテイクオフになります。
 
――それだけのスピードで飛躍するわけですから、着地はかなり危険ですよね。
 
教授 上からドーンっと落ちてくる着地なら衝撃が大きいので間違いなく危険です。ただし、スキージャンプの場合は、時速120kmから130kmの速度で斜面に滑り込むように降ります。斜度が十分にあり、着地でうまく衝撃吸収できれば、それほど衝撃そのものは大きくありません。
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――とはいえ、衝撃は凄そうですけど……。
 
教授 板が大きな面積を持っているので、衝撃を板が分散・吸収してくれます。そのできなかった部分を膝や股関節で吸収します。もちろん、着地場所に十分な斜度があり、雪面がきちんと整備されていることが大切です。
 
ギアは必ずいつもと同じものを使用。特別なトレーニングは避けるべき!
――そうなってくると、やはり今回使用するギアは特別なものを用意する必要がありますよね。
 
教授 絶対にいつも愛用している普段通りのものを使うべきです。
 
――えっ、意外です!
 
教授 おそらく多くの方が、「遠くに飛びたいなら板を長くすればいいでしょ」といった考えを思いつくでしょう。
 
――思っちゃいました……。
 
教授 そんなに単純な話ではないんです(笑)。板を制御するのは人間の筋肉。自分が使ったことのない長さの板を使うとなると、どれだけの筋活動をすればその板を制御できるかがわからない。なので普段通りの板、スーツ、ヘルメットを使うべきです。
 
――トレーニングはどうでしょう。いつもとは違った特別な練習は必要ですか?
 
教授 こちらも特別なことは必要ないと思います。ジャンパーは自分の体と板を含めて飛行機の翼を形取っているんです。いつも作っている体の状態や姿勢を今回も作れるかどうかってことが重要です。
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04

陵侑を襲う最大の敵は“風”ってこと?

――それでは陵侑選手が鳥になる(鳥に見える)瞬間、つまりジャンプの空中姿勢時について教えてください!
 
教授 飛び出した後、ジャンパーに加わる力というのは重力と空気力の2つです。ジャンパーは重力の成分によってどんどん加速されます。加速するからといってジャンパーの速度が速くなるという単純な話ではなく、加速した分だけ空気抵抗が同時に大きくなります。空気抵抗が大きくなっていくと、あるところで重力と空気抵抗が釣り合うわけです。
 
――少し話が難しくなってきました(苦笑)。もう少しわかりやすくお願いします。
 
教授 車で例えると、アクセルを踏みながら同時にブレーキもかかっているような状態です。進もうとする力と止めようとする力が釣り合うと一定速度で進みますよね。今回のジャンプでは、スピードが一定になった瞬間の速度が時速120~130kmに達するんじゃないでしょうか。
 
――空中で受ける風の力はどれくらいですか?
 
教授 ジャンパーが風によって受ける力は2種類あります。ひとつはジャンパーを上に持ち上げる揚力。約300N(ニュートン)、kgでいうと30~35kg重の力でジャンパーは上に持ち上げられます。揚力が大きければ大きいほど飛行体としては優秀なんです。
 
――なるほど。
 
教授 そしてもうひとつが、ジャンパーが押し戻される力である抗力ですね。これはジャンパーを減速させる力。この値が大きくなると失速します。もし板が風で下に押し付けられると一回転する可能性だってあるかもしれません。
 
0.2秒で風&空気の流れを読んで体をコントロール
――やはりスキージャンプにおいて、風の力は大敵なんですね。
 
教授 重力は常に同じ方向、同じ力でジャンパーを下に引っ張ってくれる。だから人間はそれを知覚しやすいし、対策も取りやすい。ところが空気の力は、不規則で予想を立てにくい。自分の思ってもないところに空気の力が発生すると姿勢を崩す原因になります。サッカーのブレ球もこの不規則な空気力の作用です。
 
――横風にはどう対応するんですか?
 
教授 陵侑くんもよくやってますが手の動きです。少し後ろにしたり横にしたりしてコントロールします。
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――板も動かしたりするんでしょうか?
 
教授 板はかなりのボリュームがあるので、動かそうとすると、一気に風力の条件を崩します。重い板を動かすとなるとかなりの筋力活動を必要とします。とても危険な行為なので主に手で飛行をコントロールするわけです。
 
――風にうまく対応するためにはどのくらい瞬時に反応しなければならないのですか?
 
教授 風にうまく対応するためにはテイクオフ動作で良いフライト姿勢を形づくれていることが重要です。そのテイクオフで選手に与えられる動作時間はわずか0.2秒しかありません。
 
――0.2秒!?
 
教授 風に対して対応するのではなく、「このまま行くと次はこうなるぞ!」っと先を予想して行動しなければできないんです。これまで幾度となく飛んできたノーマルヒルやラージヒルとは違って今回のチャレンジは未知の体験。果たしてそれを読むことができるのか。そこが今回の鍵になってくると私は考えています。
 
――ダイナミックに見えるジャンプですが、争っている部分はmm単位なんですね。
 
教授 例えば陸上競技だと速く走るだとか、高く飛ぶだとか、遠くへ投げるだとか、同じ哺乳動物がやる動きを目指すわけですけど、スキージャンプは質が変わります。いかに風、空気の流れを読んで流れを味方につけて鳥になれるか、というものが選手に求められる気質なんです。
 
いかに普段のメンタル&体重でチャレンジできるかが非常に重要!
――精神的な部分はどうですか?
 
教授 見えないものに対して信じる力が大切になってくるのでかなりの部分を占めると思います。mm単位で動きを制御するチャレンジです。自分の精神が昂ったり落ち込んだりすることがあっても、いかに平常に戻すかという作業が必要になってくると思います。
 
――チャレンジ直前のメンタルコントロールも重要ということですね。
 
教授 メンタルだけでなく、食事のケアも非常に大切ですよ。アスリートはロボットではなく生物なのでご飯も食べるし水も飲む。そうすると重さの配分がずれる。mm単位のコントロールが求められる彼らにとって、ほんのわずかな差でも大きなミスにつながります。
 
――すべての行程を完璧にこなすにはテイクオフの一瞬が重要。そして事前に風を予測しながらミリ単位で手を動かして飛行をコントロール。この究極にシビアなミッションをクリアするためには、メンタルコントロールも必要! ということですね。今回のチャレンジがいかに凄いことなのかが改めて理解できました。山本教授のお話を聞いた後に改めてドキュメンタリーをチェックするとより楽しめそうですね!
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─[Information]─
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