.
© Ryo Kuzuma
スケートボード

『なぁさくら、コンテストの面白さを俺に教えてくれ!』by 森田貴宏

第2回(2/4)はコンテスト・クイーンの四十住さくらがアンダーグラウンド・キングの森田貴宏へ、競技としてのスケートボードの魅力を力説します! 全く別のアプローチでシーンを盛り上げる二人による夢の対談をぜひ!
Written by Tatsuya Matsui / Edit & Interview by Hisanori Kato
読み終わるまで:14分最終更新日:
ストリートスケートに焦点を当てた前回に続き、第2回ではコンテストスケートについて語り合ってもらいました。森田氏がコンテストに興味を失ってしまったきっかけや、コンペティターだからわかるコンテスト現場の面白さなど盛りだくさんの内容でお届けします!
インタビュー前に行われた、2人のスケートセッションをチェックしてから記事を読むとより楽しめます👇
01

【スケートボードがスポーツとして認められてきている】

ーー森田さんはストリートスケートのイメージが強いですけど、コンテストに出場していた時期ってあるんですか?
森田貴宏(以下:森田)あるよ。俺の親はスケートボードなんて遊びだろっていうスタンスでさ。いわゆる部活的なスポーツとは違うと言われ続けてたんだよ。その意見も一理あるから、それ言われちゃうと大会で成績残すしか親を納得させる方法が無くてさ。そういう理由でコンテストに出場してた時期もある
四十住さくら(以下:さくら)それは意外ですね。何歳くらいの時ですか?
森田「初めて出場したのは中3の時。その時のリザルトは今でも覚えてて30人中25位だったね。後ろから5番目だったことが悔しくてさ。大会に向けた練習もやるようになって次の大会で20人中9位になったんだ。ルーティン考えたり、スタミナつけたりね
.

.

© Ryo Kuzuma

ーー負けず嫌いで、親に対して挑戦する形でスケートにのめり込んでいくのはさくらちゃんと似てますね。
森田「そうだね。スケートボードはまったく理解されてなかったから
さくら「ストリートが好きだったのに、いやいや大会に出てたんですか?
森田「そういうわけでもないよ。パークで滑るのも結構楽しんでた。ビデオとか観ると海外のスケーターがいかにも選手っぽいスタイルでスケートしてたりしてさ。それがかっこいいと思ってたからね。使いもしないのにヘルメットとかパッドとか買ったりしたよ。結局大会当日くらいしか使わないんだ
さくら「ルール上つけなきゃいけない時とかありますもんね
森田「そうそう。あとパークだと転ぶ時にパッド使ってニースライドするでしょ。ストリートでは絶対にしない動きだから楽しくてね。無駄にニースライド連発して遊んだりしてたよ。妙にかっこいいんだ
さくら「ニースライドが楽しいと思ったことはない(笑)。痛くないから嬉しいってくらい。スケート始める時に怪我しないっていう約束を親としたからパッド類はいつもつけてるけど
  • ニースライドは下の動画の07:58〜でチェック

20分

四十住さくら - 540への挑戦

世界大会での優勝経験を持つ女性ライダー、四十住さくら。毎日5時間の猛特訓を続けている彼女は、さらなる高みを目指し高難易度トリックの習得を決意。何度挑戦しても上手くいかない日々が続いたが、彼女は決して諦めようとしなかった。

ーープロテクター類を使う理由が、選手っぽくてかっこいいからっていうのはいかにも森田さんらしいですね。最近のコンテストプロにもそういう感覚ってあるんですかね。
さくら「大会にもよる部分はありますね。Vansパークシリーズなんかはあんまりコンテストっぽくなくてノーパッドで楽しむ方向なのかな。でも全体的にあんまりファッショナブルかどうかっていうトレンドはないと思いますよ。個人の趣味の範疇というか。パッドをつけなきゃいけないからその分動きやすい服装になってる感じはありますけどね
ーー動きやすさを重視するようになってるんですね。スケートボードのスポーツ化が確実に進んでるような気もしますね。
さくら「スケートボードがスポーツ化してるというか、スポーツの一つとして認められてきてるってことだと思うんですよね。それと同時にメジャーな世界大会も増えてきてる中で選手たちは結果を強く求められてるような風潮も感じるんですよ。なんか今までよりかなり本気になってるというか
.

.

© Ryo Kuzuma

森田「楽しくないなら問題だけど、そういうわけじゃないならそれもありなんじゃない? 技術を磨いてたくさんの人がそれを観て感動したりするわけだからさ。それってすごいことだよ。スケートボードがこんなふうになるなんて思いもしなかった。最近のコンテストを観てると俺らの時代から大きく変わったんだなと感じるよ
02

【コンテストの見どころは選手のクリエイティビティ】

ーーさくらちゃんが最近のコンテストを観てて上手いなとか、目立ってるなって思うスケーターはいますか?
森田「俺もそれは気になる。コンペティターは観客と違う目線を持てたりするからね
さくら「男子パークのキーガン・パルマーとかはすごいなって思いますね。単純にスケートの技術的な部分がすごいのは当たり前なんですけど、彼は人間的にもナイスガイなんですよ。
成績がいいスケーターってちょっとクールすぎる人が多い印象なんです。あんまり他のスケーターと喋らなかったりするんですけど、キーガン・パルマーはいつでもみんなにフレンドリーだし、アドバイスしてくれたりするんですよね。彼はそういう意味ですごく目立っていて尊敬してます
森田「それはかっこいいスケーターだね。テレビでは伝わらないリアルな情報だ
ーー森田さんもテレビでコンテスト観たりするんですか?
森田「コンテストを追いかけてる感じではないんだけどタイミングが合えば観ることもあるよ。
フランスで撮影していた時にホテルに戻ったらちょうどスケートのコンテストをやってたんだ。そしたら日本人スケーターも出場しててね。シグネチャー・トリックの“カミカゼ・フリップ”っていうのをメイクしててびっくりしたな
さくら「あ〜、知ってます
森田「初めて見る板の回転とグラインドでさ。背面に回転するエゲツない技でぶっ飛ばされたね。ああいうのを見せられるとコンテストってすごいなって思うよ
.

.

© Ryo Kuzuma

ーー森田さんはコンテストのどこに注目して観てるんですか?
森田「やっぱりクリエイティビティかな。技術の部分は全員すごいからあんまり驚かないんだけど、今までに存在しない世界初のトリックを見せられちゃうとスケーターとしてはどうしても盛り上がる。それが一番の刺激だね。カミカゼ・フリップでアメリカのコンテストの上位に食い込むなんてヤバすぎるよ
さくら「誰もやってないトリックをバシッとメイクして、たくさんの人が盛り上がってくれるっていうのはコンテストの醍醐味のひとつですね。大会って自由じゃないとか言われるけど別にそんなことないと思う。大会にやっちゃいけないことがあるわけじゃないし。選手それぞれの魅力を一気に見比べられるっていうのもコンテストの面白いところですね。
あとは単に出場するのが楽しいっていうのも大きいかな
森田「なるほど。確かにお祭り的な楽しさはあるよね。今日はどんなやばいトリックが見れるんだろうっていうワクワク感。“そのトリック、マジか!?”って言いたいんだよな
03

【他人と同じトリックで勝っても全然面白くない】

ーーストリートスケートのビデオをよく観る人の意見としては、コンテストのライディングってどれも同じように見えちゃうっていうのもあります。勝つためのルーティンが似てきちゃうっていうことはありませんか?
さくら「最近のコンテストを観てるとみんな似てきてる気がする。パークの女子だったら、みんな540とキックフリップ・インディをルーティンに入れてますよね
森田「やっぱり勝つためのスケートっていう部分なのかな。さくらちゃんはどうなの?
さくら「みんながやってるトリックは避けたいなって思ってます。そういう競争は好きにやっといてって感じ。他人と同じことはできればやりたくない
.

.

© Ryo Kuzuma

森田「それは最高だね
さくら「だから新しいトリックにいつも挑戦してる。540はノーグラブでメイクできるように変更したり
森田「確かにノーグラブの540をやる人はいない
さくら「女子コンテストでは初だったはずです。同じ技ばっかりやって勝ってたとしても面白くないと思うんですよね。一回勝った大会は2連覇したいけど、一回目と同じような勝ち方はしたくない。最近は、誰もやってない勝ち方を目指すようになりましたね
森田「へー。勝ち方にこだわるレベルに突入してきてるんだね。初めて世界チャンプになったのはいつだっけ?
さくら「19歳ですね。日本開催の大会だったからすごく嬉しかった
森田「19歳で目標達成か。すごいな。しかも初代女王なんだよね?
さくら「初代日本女子チャンピオンで、初代アジア女子チャンピオンで、初代世界女子チャンピオンで、初代オリンピック女子チャンピオンで、Vansの初代女子チャンピオンかな
.

.

© Ryo Kuzuma

森田「マジで凄すぎる。19歳ですでに本物中の本物だ。やっぱり競技だと若い人が有利になったりするの?
さくら「今私は20歳で若いって言われるけど、他の選手を見てると15歳前後が一番調子いい気はする
森田「15歳はかなり若いね。でもそれくらいが体も軽くて怪我もしにくいし疲れもたまらないんだろうな。ハードな練習にもついていける
さくら「苦手なトリックもメイク率上げないといけないから練習はハードになりがちなんですよ。昔は一日中滑っても眠れば体力が回復してたけど最近は次の日に疲れが残ったり、体が痛かったりします
森田「もう考え方がアスリートだ。一日にどれくらい練習する?
さくら「昔は8時間くらいは練習しても何も問題なかったんですけどね。最近はきつくなってきた。昨日は結構滑りましたよ。朝10時から夜8時くらいまでほぼ休憩なしで練習したから、今日は体が痛いです
森田「超人じゃん。おじさんには絶対無理。おじさんの体は正直だからね(笑)
04

【勝ちだけを求めるとつまらなくなる】

ーーさくらちゃんの話を聞いてだんだん森田さんもコンテストに興味が出てきましたか?
森田「別に嫌いだとか興味がないわけではないんだよ。昔は出場してたくらいだし
.

.

© Ryo Kuzuma

さくら「なんで大会に出なくなったんですか?
森田「最後の大会は俺が23歳の時だったんだけど大会に出なくなった理由は自分との価値観の違いなのかな。コンテストの結果を左右する要素ってトリック数とその完成度の二つが大きいと思うんだ
さくら「基本的にはそういうことになりますよね
森田「自分が出た最後の大会は、当時の俺自身が納得のいく美意識でルーティンを滑れた結果、順位は6位だった。俺がやりたかったことはほぼ全部できたし、俺のスピードで滑れて、演技としても完成度は高かったと思う。でも6位。俺自身の滑りには納得出来たけど、順位には納得出来なかった。
その理由はパフォーマンスに対する価値観の違いだったと思う。当時の俺はある程度大人になってたし、自分の考えも定まって来てた頃。自分的にはデカいトランジションを使ったビッグトリックや、テクニカルトリックよりも、ストリートのどこにでもあるようなトランジションを使って、シンプルな技にこだわった俺らしいストリートスタイルを体現することに価値を見出してたの。大会に勝つ為に技を選ぶっていうよりは、俺自身の姿勢を見せに行くって感じね。だから俺がやるカーブボックスでのフルスピードのブラントスライドより、メロウなスピードでレイルにフリップインの方がコンテストでは有効だった。その時に俺がコンテストで出来ることはもうないと思った
さくら「スケートを点数化することの難しさですね。明確な採点基準みたいなものが存在しないし
森田「まさにそう。でもそれで腐っててもしょうがないからさ。その大会でずっと目標にしてた先輩に1回だけ予選で勝てたし、もう良いかなって思った。そこから気持ちを切り替えて、俺のステージはやっぱりストリートだ!日本のアンダーグラウンドなライディングを収めたビデオで世界に認められるようなスケートビデオを作ってやるって思ったんだよね
.

.

© Ryo Kuzuma

さくら「“勝つスケートボード”を続けることに興味がなくなっちゃったんですね。勝ち方が見えてきちゃうとつまらなくなるっていうのはちょっとわかるな。だから常に新しいことに挑戦したくなる。誰もやっていないトリックを追い求めちゃう
森田「さくらちゃんがコンテストに出場し続けるモチベーションは“楽しい”って部分と“挑戦”っていう部分なんだね。10代から注目されてるし、人間的にも立派ですよ。これだけ注目されてて、もし人間性がしょぼかったら性格ひんまがっちゃってるよ。俺は16歳くらいからメディアに出れるようになって調子こいてたからな(笑)。世界一になってるのに本当にしっかりしてる
さくら「昔から知ってる友達には何にも変わらないねってよく言われるかな。逆に変われないのかもしれないけど
05

【遊びが練習で、練習が遊び。だから上手くなる】

ーーコンテストがこれほど盛り上がることってスケートボードの歴史を振り返ってもなかったことじゃないですか。スケートシーンに与える影響も大きいんじゃないかって思うんですがどう思いますか?
森田「そりゃ影響は大きいよ。だってそもそもスケーターがめちゃくちゃ増えてるでしょ。特にキッズスケーターの増え方は尋常じゃない。コンテストの影響だけじゃなくて、この3年間の世界情勢も関係してると思うけどね。ソーシャルディスタンスを保ちながら外で遊べるスケートボードが選ばれたっていう話はよく聞くよね。
こんなにシーンが社会的に盛り上がったことは33年間スケートボードしてて経験したことがない
さくら「本当にガラッと変わりましたよね。どこに行っても初心者向けのスケートスクールを開催してた。しかも満員
森田「そうみたいだよね。そもそもスクールの会場になるようなスケートパーク自体が増えた。この流れを社会にキープし続けることが大事だね
ーーなんか良いことばっかりに聞こえますけど、負の側面ってあったりしますか?
さくら「怒ってる親を見かけるようになった。スケートパークで子供を叱ってるんだよ。子供は普通に滑りたいのに親はコンテストに勝たせたいって感じ
森田「キツイねー。“スケートなんかするな”って時代から“スケートできないのか”って怒られる時代へ変わったのか
さくら「コンテストに勝ちたい子供が、自分の意思で追い込んでスケートしてるならいいんだけど、スケートボードを強制されるのは嫌だな
森田「そうだよな。そんなのひとつも楽しくないもんな
さくら「楽しくない。何のためにスケートボードしてるんだろうってなりそう
森田「横で見てるだけの親がごちゃごちゃ言い出したら腹立つだろうな。“じゃあお前がやってみろよ”って言っちゃいそうだ(笑)
さくら「やったら難しいのわかるからね(笑)。だいたいコンテストで勝ってる人ってスケートボードを楽しんでる人が多いし。堀米くんとか椛とかが親に何か言われてるところなんて見たことない
森田「確かに堀米雄斗の親父は何も口出ししてなかったかも。さくらちゃんは?
さくら「態度が悪かったらたまに怒られるけど技術的な部分は何も言われたことない。怒られながらスケートしてがんがん上手くなる人なんていないでしょ
森田「なんか親の方がスケートにマジになりすぎちゃうのって応援するっていうのとは違うと思うな。たまに泣いてる子とか見かけるもんね
ーーなんか悲しいですね。
さくら「真剣になるのも理解できるんだけど、やっぱりスケートボードって元々遊びですから。遊びが練習で、練習が遊びなんですよ
森田「良いこと言うねー
さくら「だから中学生、高校生くらいでスケート辞めちゃう人が増えてるらしい。本当はもっと自由で面白いんだって言っていかないといけないのかも
ーーコンテストってスケートボードなのになんか堅苦しいなって思ってたんですよ。実際にさくらちゃんの話を聞いているとコンテストってイメージよりも自由に参加できる遊びなのかもしれないですね。
森田「スケートボードに貴賎なしだな
さくら「仲間と競争しながら上手くなるのは楽しいですよ
黄色いキャップは、森田氏が“俺のアニキ”と語る中野の超老舗スケートショップ、FATBROSの萩原氏。

黄色いキャップは、森田氏が“俺のアニキ”と語る中野の超老舗スケートショップ、FATBROSの萩原氏。

© Ryo Kuzuma

メディアで大きくスケートコンテストが取り上げられるのが嬉しい一方で、スケートボードが採点スポーツになっていってしまうようで少し悲しいという複雑な心境を抱えていましたが、さくらちゃんの話を聞いて「スケートボードは良いところをひとつも失ってない」と思うようになりました。スケーターはスケーター。遊びから学んで成長していく姿は変わらないのかもしれません。
四十住さくら×森田貴宏の対談企画はまだまだ続きます。次回のテーマは「プロになること、プロであること」です。※3月頃公開予定
(了)
■□■□■□■□■□■□■□■□
第一回『ねぇ森田さん、ストリートスケートって何が面白いの?』by 四十住さくらの記事は【こちら
.

.

© Ryo Kuzuma

■□■□■□■□■□■□■□■□

関連コンテンツ

作品名【POSSIBLE -可能性をカタチに-】

年齢や経験値の壁を越えて輝く日本人若手アスリート3名のドキュメンタリー。幼い頃から数々の大会で活躍してきた彼らに、若手ならではの新たな挑戦や課題が次々と押し寄せてくる。悩みや迷いを乗り越え成長していく彼らの姿を追う。

1 シーズン · エピソード3
全エピソードを見る