01
プロの条件は“人のために滑ること”
ーーそういえば2022年にさくらちゃんはパウエルのプロライダーになったんですよね。
四十住さくら(以下:さくら)「そうなんですよ。パウエルからシグネチャーデッキ出して本格的にチームの一員って感じです」
森田貴宏(以下:森田)「すごいことだよね。俺らの世代にとってパウエルはスケート界のレジェンドが集まるデッキブランドの筆頭だよ」
ーープロっていう話が出たのでお聞きしますけど、スケートボードってどういう線引きがあってプロって名乗れるんですか? 近年はその線引きが曖昧になってきている感じがするんです。
森田「昔はシグネチャーデッキが出たらプロみたいな呼ばれ方をしてたけどね」
さくら「その辺は人によって曖昧になってきていますね。シグネチャーデッキを出していなくてもプロリーグの大会に出場すればプロっていう考え方の人もいるし、大会で賞金がもらえて生活していければプロっていう人もいるみたいですよ」
森田「俺はどちらかと言えばプロの大会に出てるからプロなんだっていう考え方はしないタイプなんだよ。俺自身47歳で、コンテストには出てないけど自分はプロスケーターだと思ってる。世界に目を向ければ50歳でプロスケーターとして活躍している人もいるじゃん。さくらちゃんが所属してるパウエルなんてそれこそスティーブ・キャバレロとかバッキー・ラセックとか余裕で50代のレジェンドスケーターをいっぱい抱えてるしさ」
さくら「私もプロコンテストの出場がプロかどうかの線引きだとは思いませんね。そうじゃないプロもたくさんいるので。いろいろな形があっていいと思ってます」
ーーそういえば過去に森田さんは “人のためにスケートする人はプロだと感じる” っとおっしゃってましたよね。
森田「今でもそう思ってる。基本的に俺は自分のためにスケートしてるけど、同時にファットブロスを筆頭に世話になってるスポンサーのために頑張ってたりもするわけだよ。プロって聞いて他に思いつくことは、海外のスケーターが来日した時に “負けてたまるか! ” って思える奴はプロを名乗る資格を持ってると感じる。簡単にいうとプロとしての心構えがある奴がプロを名乗る資格があるってこと」
さくら「よくわかります。スケートボードは個人競技だと思われてるけど、やっぱり一人じゃできないんですよ。家族、仲間、スポンサーとか、たくさんの人に協力してもらって成立してると思うから、恩返ししたいっていう気持ちは常に持ってます。一生かかる恩返しだと思いますね」
森田「人のために滑ってる時は気合が違いますよ。例えば子供の頃から中野でスケートしてる俺にとって、中野サンプラザの巨大ハンドレールはいつか攻略したい夢のスポットだったんだ。でもあまりにもサイズが大きいからずっと後回しにしてた。ところが33歳になってスケート仲間の結婚式のためにビデオレターを撮影することになって初めて挑戦する気持ちになれた。スケーター仲間に送ることのできる最大の “おめでとう” になると思ったんだよ。自分のためには挑戦できていなかったスポットでも友達のためなら怪我も恐れずに躊躇なく挑戦できた。それってすごいことだと思うんだよな。多少怪我はしたけど後悔はなかったね。その時に俺は人のためにスケートする方が力が湧いてくるんだってわかった」
さくら「私も同じような経験あります。X Games初の日本大会の時、決勝がママの誕生日だったんですよ。どうしても優勝をプレゼントしてあげたいと思って滑ったらいつもより良いランをすることができたんです。人のために滑るときはパワーが違う実感はありますね。この感覚は多くの人が理解してくれるんじゃないかな」
森田「本物のプロに自分本位な人はいないってこと」
02
個性を失ってまで何かに迎合する意味はない
ーーデッキカンパニーからスポンサードされるとビデオパートを撮ったりしますよね。さくらちゃんもこれからそういう活動をしていく予定ですか?
さくら「Red Bullでパートを作ろうっていう話が実際に進行してるんですよ。どういう作品にするかを悩んでるところなのでスケートビデオディレクターの森田さんに意見を聞きたいと思ってました」
森田「こういうビデオにしたいっていう具体的な構想があったりするの?」
さくら「私はパークなら自信を持って滑れるんですよ。でも一般的なスケートビデオはストリートの映像が中心だったりするじゃないですか。だからどうしようか悩んでるところなんです」
森田「そんなの悩む必要はないよ。自分が一番好きな場所で勝負すればいいと思うよ。スケーターがオリジナリティを失ってまで何かに迎合する意味なんてある?」
さくら「難しいストリートスポットをノーパッドで滑る映像が溢れている中にパークの映像が混ざったときにどう見えるのかが気になるんですよ。いわゆるパートっぽくない映像になりそうで」
森田「そんなことないよ。コンテストは自分のライディングで結果が決まるけど、映像はフィルマーとディレクターと協力して作っていくものでしょ。まずさくらちゃんは自分のやりたいこと、見せたいものをアイデアとして出せばいいの。フィルマーとディレクターが別の角度からアイデアを考えて話し合って、全体の構成を作り上げていくんだ。そういう共創的でクリエイティブな作業が映像制作の面白いところなんだから」
さくら「なるほど。じゃあ私は自分のやりたいことを基にアイデア出しすればいいのか」
森田「場所はさくらパークにしようってことになれば、照明はこれが良いとか画角はこれが良いとかさ、こんなトリックはどうだとか考えて、さくらちゃんにはスケートに没頭してもらうわけ。撮る側の気持ちとしてはいかにさくらちゃんの個性を映像で表現するかに頭を捻りたい。つまりチームとしていかに良い仕事をするかが大事なんだよ」
ーー良いパート映像を残したいなら良いチームで動かなきゃいけないんですね。
森田「そりゃそうだよ! カメラマンとライダーの間に壁があったりすると、そういうのが全部映像には表れちゃうんだよ」
さくら「じゃあいつか森田さんに映像をお願いしたい! 桜の季節にさくらパークで撮影したい」
ーーこれだけスケートボードの人気が高まると、自分でビデオを作りたいっていう人も増えてると思うんですよ。スケートビデオの構想の練り方って話題になる映像表現を目指そうっていう考え方なんですか? 多くの人に観てもらおうと思ったらどんな工夫をすればいいですか?
森田「確かに今流行りの映像の構成とかはあるよね。SNSのショート動画と相性が良い形っていうのかな。スラムしまくった後にビッグトリックをメイクするようなやつとかよく見かけるでしょ」
さくら「あるある。最後だけスロー編集になる映像とかもある。たしかにそういう目線で考えると流行りの表現ってあるのかも」
森田「ああいうのも悪くないんだけど、俺はあんまり作る気にならないな。やっぱり独自の世界観を持つ作品が評価されると思ってる。だからさくらちゃんの言う “桜の季節に” とかそういうのは大事な要素だよね。そういう感性を鍛えるためにも若いフィルマー、ビデオメーカーの子たちには映画をいっぱい観た方がいいよってアドバイスしてる。映像作家志望なのにあんまり映画を観ないっていう子が多いんだよ」
さくら「実は私もあんまり観ないです」
森田「スケートビデオクリエイター志望の子にはスケートに限らずたくさんの映像作品を観てほしいな。自分の好みのテイストとか表現方法を知っておくと表現の幅が拡がるからね」
ーースケートビデオを観るときにクリエイターならではの視点ってありますか?
森田「“桜の季節に撮影する” ってアイデアがあったでしょ。じゃあ春にその映像が公開されたとするじゃない。するとそれを観たクリエイターって “このビデオってこの春に全部撮影したの? 一日で撮ったの? すごくない?” っていう見方をするんだよ。今撮って、今編集して、今発表したのにこのクオリティは半端じゃないぞって。これはプロの仕事だなって感心することはあるね」
さくら「時間をかければ良いビデオになるってわけでもないんですね。確かに集中力がなくなりそう」
森田「スケートビデオ作る人はそういう見方をする。あと作品のテーマも大切。自分ならではの個性を映像で表現できてるかどうかってことだね。これから活躍していく若いスケートビデオクリエイターは斬新なアイデアと映像表現で俺たち世代の人間をビビらせてほしい。さくらちゃんの動画だと成人式に着物でランプ滑ってた動画は世界観がはっきりしててすごく良かった」
さくら「あの動画は分かりやすかったのかバズりましたね。次の映像も “桜と着物” みたいな日本っぽい映像にしたいと思ってるんですよね」
森田「さくらちゃんの個性とかスタイルが表現されてる映像をみんな楽しみにしてるはずだよ。みんなの想像を超えるような作品を期待!」
03
本物には上手い下手の尺度で測れない感動がある
ーーさくらちゃんはこれからプロとして海外、特にアメリカで活動していくことになるわけじゃないですか。まず日本と海外って何が一番違うと思いますか?
森田「やっぱり社会全体としてスケートボードが浸透してるのは大きな違いだよね。熱量が違う」
さくら「コンテストでもパークに入った瞬間に雰囲気が違いますね。オーディエンスの量も大会の規模も違うし」
森田「やっぱり社会全体としてスケートボードが浸透してるのは大きな違いだよね。今スケートボードが流行っていますっていう話じゃなくて、ちゃんと定着してんだよね。スケーター的価値観がアメリカ人の価値観の一部になってる。スケートやって何になるんだって冷めた意見はあんまり聞かないしさ」
さくら「アメリカでスケートしてたらおじいちゃんがハイタッチしてくれたんですよ。日本じゃ絶対そんなことにならない」
ーー海外のスケートシーンのスケールの違いがわかるエピソードですね。森田さんがアメリカのスケートシーンに飛び込んだときに感じたことはありますか?
森田「トリックひとつに賭ける想いの強さ、重さを感じた。決して抽象的な話じゃなくて、実際に目で見てわかるレベルで本気度みたいなものがライディング、体の動きに表れてるんだ。それが映像に収められて世界トップレベルのスケートボードとして知られていく。うまく表現できないんだけど、トリックに感情が込められてるように見える瞬間があってさ。ひとつの作品だなって思ったし、スケートボードが芸術だって言われるのも理解できた気がしたんだ。上手い下手の尺度で測れない感動があったね」
ーー具体的に誰っていうのはありますか?
森田「俺がアメリカの東海岸にいた頃、心の師匠としてたリッキーは印象深いね」
ーーイーストコーストのストリートキングで知られるリッキー・オヨラですか?
森田「そうそう、東海岸のストリートレジェンドだね。彼は街をプッシュしてるだけで芸術的なんだよ。プッシュなんて誰でもできるとみんな思うじゃない。違うんだよ。まずプッシュに自信のある俺ですら彼のスピードについていくのが精一杯。姿も動きも美しいし、まさに街と一体化してるように見えた。彼の後ろをプッシュでついていった時に、これまで命を賭けてプッシュし続けてきたリッキー・オヨラという存在の大きさ、重さを感じたね」
さくら「私も昔から知ってるスケーターのライディングを間近で観ると感動しますね。コンテストはそういう意味で最高の経験ができる場所でもあります」
森田「それがスケートボードのいいところ! マラドーナと一緒にサッカーすることは難しいけど、スケートボードは好きなスケーターと同じ公園やパークで一緒に滑ることができる。ヒーローを身近に感じられるでしょ」
さくら「コンテストなら観るだけじゃなくて同じ舞台に立ったりもできますよ」
森田「さくらちゃんくらいになると一緒に滑るどころか順位で上回ったりもできる(笑)。さくらちゃんはすでにキッズに憧れられるスケーター側になっちゃった」
さくら「そうだったら嬉しいですね」
森田「人間性がしょぼいやつなら勘違いしそうなくらいメディアで取り上げられてるじゃない。でもさくらちゃんはすごくしっかりしててプロとしての意識が高いと思うよ。俺だったら調子に乗りそうだもんな(笑)」
「プロと呼ばれる人間になるために必要なのは必ずしも技術ばかりではない」。スケートボードに限らず全ての仕事に通じる真理だと思いました。特にスケートボードは何よりも「スタイル」を重要視するスポーツ。技術だけではトッププロとは呼べない、という話には納得です。それぞれのスケーターが個々のオリジナリティを武器にスケートボードという自己表現を楽しんでいきましょう!それがプロスケーターへの近道になるかもしれませんよ!
(了)
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四十住さくら×森田貴宏の対談企画はまだまだ続きます。次回のテーマは『ぶっちゃけ日本ってプロで生活できる?』です。
第一回『ねぇ森田さん、ストリートスケートって何が面白いの?』by 四十住さくらの記事は【こちら】
第二回『なぁさくら、コンテストの面白さを俺に教えてくれ!』by 森田貴宏の記事は【こちら】