スキージャンプ

高梨沙羅が語る“強さ=自分軸を見つける”コツ【モチベーションを高めるには自分のご機嫌取りが重要】

好きなメイクや自分らしいファッションが、100%集中できる環境をつくる!? スキー・ジャンプ女子・高梨沙羅のライフスタイルから学ぶ、私たちが日常でも使えるアドバイス。
Written by Saeko Kudo/ Edited by Hisanori Kato
読み終わるまで:14分最終更新日:
モチベーションを高めるには自分のご機嫌取りが重要

モチベーションを高めるには自分のご機嫌取りが重要

© Teruhisa Inoue

かつては男子スキージャンプの圧倒的な功績と人気ぶりの陰で、マイナースポーツの域を脱せられずにいた女子スキージャンプ。その注目度を一気に押し上げ、今や彼女の存在を知らない人はいない大スタージャンパーこそ、高梨沙羅選手だ。
「ワールドカップ総合優勝女子最多」「ワールドカップ優勝数世界最多」「ワールドカップ表彰台世界最多タイ」(※取材日2021年3月14日現在)……例を挙げればキリがないほどの輝かしい記録。これほどの功績を納めながら、高梨選手は今もなおトップであり続けている。
と言っても彼女はまだ若干24歳のZ世代
普段はスマホでSNSをチェックしたり、鏡と向き合ってメイクの研究をしたり。同じ世代の普通の女の子と変わらない日常があるはず。(そうであって欲しい!)
たった24歳の女の子が、これほどまでに強くい続けられる秘訣とは何なのか?
それを紐解くべく、シーズン真っ最中である彼女の忙しい合間をお借りして独占WEBインタビューを敢行した。
※注: 聞き手=工藤早衣子(北海道釧路市出身、青文字系サブカル育ち。24歳の時は原宿でファッションスナップの日々を過ごし、今もかわいい女の子を目で追う癖が直らないミレニアル世代。スキーはボーゲンで挫折)
高梨沙羅。1996年10月8日生まれ、北海道出身。

高梨沙羅。1996年10月8日生まれ、北海道出身。

© Teruhisa Inoue

01

◆記録はモチベーションのひとつ。 今は自身の目標にまっすぐと向かうのみ。

ーーそれではインタビューよろしくお願いします!(画面越しに沙羅ちゃん!かわいいいいい最高)
高梨沙羅(以下:沙羅)「はい、よろしくお願いします
ーーさっそくですが、ドイツ・オーベストドルフで開催された《ノルディックスキー世界選手権》での銀メダル、おめでとうございます!銀メダル獲得の瞬間はどんな心境でしたか?
沙羅「ノーマルヒルでは複雑な心境ではあったんですけど。(2月に行われた同《ノルディックスキー世界選手権》のノーマルヒルでは銅メダルを獲得)ラージヒルでは自分の思うようなジャンプができたと思います。なかなか大きな舞台で自分の力を出せずにいたんですけれど、オーベストドルフに来て一番いいジャンプを2本揃えられたっていうのもありますし、今回は自分で納得のいくパフォーマンスができました。その辺は今までと少し変わったところなのかなと感じています
ーーノーマルヒルで悔いが残っていた分、ラージヒルでの結果に繋がるいい変化が生まれたんですね!大会シーズンが限られるからこそ、短期間での調整が避けられない過酷さが伺えます。ワールドカップの表彰台は合計で108回目。女子世界最多の記録を更新中ですが、どんな思いがありますか?
沙羅「正直言ってそんなに記録を重ねていくこと自体には執着がないというか、あまり意識していなかったところではあります。ただ目の前のことを繋げていったらそこまでいった、みたいな感じですね。でも色んな方にお祝いの言葉を頂いたりだとか、喜んでもらえてる様子を聞いたり目にしたりする機会が増えて。自分の周りになにか与えられるものができたんだな、というのは最近感じていたところです。なのでこれからも記録を伸ばしていきたいと思いますし、今は自分のモチベーションのひとつにもなっています
Sara Takanashi of Japan seen during practice in Planica, Slovenia on March 16, 2021.

祝・W杯歴代最多109度目の表彰台で世界記録更新!

© Samo Vidic / Red Bull Content Pool

ーーあんまり意識していなかったんですか!あと1回で男子も含めて歴代世界最多記録ですよ!?(フィンランドのヤンネ・アネホン選手が持つ108回が歴代最多記録)
沙羅「108回が最多なんですね(笑)。自分には総合優勝したいっていう目標があるので、そこに向かっている最中に記録の更新があったりしてほしいとも思うんですけど、なんか……そこまで意識したことはないです」
ーー記録にこだわらない姿勢、かっこいいです……!(私なら女子最多の時点で間違いなく勝ち誇ってる……なんかごめんなさい)
02

◆先輩選手への憧れの気持ちがすべての始まり。

ーーでは少し身近な高梨選手の一面も教えてください!本格的に競技を始めたのは女子選手の飛ぶ姿を見たのがきっかけだそうですね。
沙羅「そうですね、小さい頃は私の中で山田いずみさんが一番憧れの選手でした。なんでもいずみさんのマネをしたくて、同じ柄のグローブをつけたり。何歳も年上の大先輩なんですけど、もう使わなくなったヘルメットを『ください!』って言いに行ったりとか(笑)
ーーああ~身近なお姉さんに憧れる気持ち、わかります! 一緒にいるだけでちょっとドキドキするあの感じ!
沙羅「一緒に練習できる日とか、自分のジャンプよりもいずみさんのジャンプが気になってしょうがないって感じで。本当に大好きな先輩です
ーーケーキ屋さんになりたい的な夢とかはなかったんですか?
沙羅「将来の夢とかはあんまり考えたことがなかったですね。もう、『いずみさんになりたい』っていう(笑)。同じものを身につけるのがステイタスで、他の分野まで目がいってなかったと思います
ーーうちの地元はアイスホッケーが盛んでしたけど、あんまり身近に感じたことはなかったんですよね。高梨選手の出身地である上川町は雪が多いから、ジャンプがより身近なスポーツだったのかも。
沙羅「やっぱり学校の裏にスキー場があって、その横にジャンプ台があったので。スキージャンプには関わりの深い街だと思います。冬の体育もスキーでしたし、スキーの延長でちょっと飛んでみたらスキージャンプになったみたいな
高梨沙羅

高梨沙羅

© Samo Vidic / Red Bull Content Pool

ーーその『ちょっと飛んでみる』のハードルが高いんですよね……空中に浮くわけじゃないですか。怖くないのかなって思っちゃいます。
沙羅「今でももちろん、その時の状況によって怖いと思うこともあります。でももう慣れてるので、毎回怖いと思って飛んでるっていうことはないですね。実際、飛び出してちょっと行くと自分がどれくらい飛ぶかっていうのがわかってしまうんです。ほぼ無風な状態だと、初速とか高さで『大体これくらい行く』って。あとは風の影響とかに左右されるので、横風とか予期せぬ風が吹いた時に対応できなくなったりとかはちょっと怖いなと思います
03

◆好きなメイクや自分らしいファッションが、100%集中できる環境をつくる

ーーところで、高梨選手は競技生活の中でも自分らしいメイクやファッションを楽しまれていますよね。そういう『自分らしさを大切にする』っていうことが、すごく今の時代に合っている気がするんです。高梨選手の強さにも繋がっている部分なんじゃないかな、と。
沙羅「そうですね。やっぱり何をするにおいても、自分のマインドとかモチベーションで練習や試合の内容が左右されてしまう方ではあります。なので、いかに自分の“機嫌取り”をするのかみたいなことが重要になってくるんです
ーー自分の“機嫌取り”なんですね!
沙羅「メイクとか、自分の好きなファッションとかをすることによって、モチベーションや機嫌を高めているというか……練習に100%集中できる環境を作っているんです。逆にそれで何か練習に支障をきたすっていうことはなくて、自分の好きなものを身につけて練習することによって気持ちを高めていける。けっこう着るもので気分が左右されてしまうタイプなんです。新しい靴を履いた日はすごくいい気持ちでいつも以上に走れたりとか、新しいグッズを身につけると気分良くいられるとか
▲高梨沙羅のインスタ(公式Instagram)より。
ーーメイクとかファッションって自分のために楽しむものですもんね!まぁ、メイク失敗して1日落ち着かないとかがなければ(笑)
沙羅「でも最初の頃はありました!それこそ慣れてなくて、すごい時間がかかってしまうっていうことはあったんですけど……最近はなくなりましたね
ーー何かを参考にしたりするんですか?
沙羅「テレビで観たりとかインスタで見つけたかわいい女の子のメイクをスクショして、こういうアイラインの引き方するんだーとかこういう眉毛の描き方するんだ、とかを研究しています(笑)
ーーインスタをスクショ!やりがちなやつですね。どんな方をチェックしているんですか?
沙羅「最近は特定の人がいなくて。本当に普通の、インスタとかで流れてくる一般の女の子です。一昨年くらいにインスタを始めたら、メイクの内容だったり使っているものだったり情報がいっぱい入ってきて。それをチェックしたり、Pinterestを見たりもします。トレンドメイクとかは意識しているわけじゃないけど、チェックしているかわいい女の子はトレンドを取り入れている人がけっこう多いなって思いますね
ーーK-POPアイドル風とかチャイボーグ風とか、SNSはトレンドの拡がる速度が速いですよね。関係ないけど、高梨選手ももっとインスタ更新してくださいね(笑)。
沙羅「はい、頑張ります(笑)
04

◆練習の積み重ねとトライ&エラーが強靭な精神を支える柱となる

ーー海外遠征中に出かけたりとか、自分の好きなことをする時間はあるんですか?
沙羅「練習の合間とか練習終わった後とかに出かける時間はあるんですけど、あまり人がいる中に出かけるっていうことは少ないです。朝の散歩が多いですね。静まり返った街の中を走ったりとか、湖がある公園まで走って行ったりすることが好きなんです。友達が今聴いている音楽をプレイリストにして送ってくれて、それを聴きながら。走りに行く時ってカメラを持って行けない代わりに、iPhoneで風景の写真を撮ったりしています
ーー朝の静けさや自然の風景を楽しむのが合間の過ごし方なんですね。そうやって忙しい合間にも一人の時間を楽しんだり、好きなメイクやファッションで試合に向かったりすることが気持ちをいい状態に持っていく秘訣だということにすごく納得しました。好きなものに囲まれて自分らしく過ごすって、アスリートだけじゃなくてどんな人にも必要なことだと改めて感じます。
沙羅「たぶんこの競技の特性でもあって、どちらかっていうとフィジカル面も大事なんですけど、それよりもっと大事なのが精神面やメンタルなんです。頭の中のイメージをいかに作れるかっていうところが重要になってくるスポーツなので、いい状態を想像できるようにしておくことによって、よりジャンプのイメージが湧くというかアイディアが降ってきやすくなるような感じです
ーー自分と向き合う競技なんですね。
沙羅「そうですね。ジャンプを飛んで体が疲れたっていうことがあんまりなくて。どちらかというと精神的に疲れることの方が多いので、いかに精神面を安定させられるかが大事ですね
祝・W杯歴代最多109度目の表彰台で世界記録更新!

祝・W杯歴代最多109度目の表彰台で世界記録更新!

© Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

ーー確かに過酷な環境の中での競技は精神的にも追い込まれそうですね。そういう理不尽な状況の中でも平常心を保つコツはありますか?
沙羅「練習のうちに色んな失敗をしておくことですね。失敗しておくとそれの改善策が自分の中でわかるので『こうすれば大丈夫だ』とか切り替えられるようになるまで練習しておいて、何か起きた時にもすぐ対応できるようにしておくのが大事だと思います。試合の時はどうしても集中してるので“ゾーンに入ってる”っていうほどではないんですけど、それに近いような精神状態になっていて。何も考えなくても体が動くくらいまでに仕上げなきゃいけないので、相当の練習が必要です
ーーそこはもう『経験が自信をつくる』じゃないけど、ストイックに練習あるのみなんですね……。いわゆるスランプへの対策はありますか?
沙羅「スランプになったときは気分転換に一回ジャンプを離れるとか色んなタイプの人がいるんですけど、私はどうしてもそこを攻略するまで気持ちがすっきりできないタイプなんです。なのでジャンプを飛ばなくてもフィジカルトレーニングとか他のトレーニングをして、何かそれを改善できるようなきっかけを掴むようにしています。何かちょっとのきっかけでも大きく変わることができると思うので、そのいいきっかけを逃さないことですね。色々試すことがスランプに陥ったときの自分なりの攻略法だと思っています
ーー失敗を怖がって何もしないんじゃなくて、失敗が怖いからたくさん試すわけですね。これって消極的だったりなかなか行動に移せないタイプの人にぜひ知っておいて欲しい考え方!経験は宝です、本当に。
05

◆女子スキージャンプ界を背負う高梨選手の“なりたい像”とは?

ーー女子スキージャンプっていう競技自体をこんなに広めたのって間違いなく高梨選手のおかげですよね。今後の日本スキージャンプ界がさらに成長して、より多くの人に見てもらうためにはどんなことが必要だと思いますか?
沙羅「世界のレベルがどんどん上がってきているので、毎試合誰が勝つかわからない楽しさであったり臨場感っていうところにも競技の面白さが出てきています。あとはスキージャンプって団体とかミックスっていうチームでやる種目もあるので、そこで成績を残して注目してもらいたい。そのためにも相乗効果でチーム全体を引き上げていけるような影響を与えられないといけないなと思います
ーーでも高梨選手は競技だけじゃなく色々なところで注目を集める選手ですよね。メイクやファッションもそうですけどスポーツ界の中でも自分らしさを貫いていて、そこに共感されたり憧れられる存在だから、外側へ与える影響はすごく大きい。
沙羅「やっぱりスキージャンプ……特に女子はマイナー競技でもあるので、他の分野の方に興味とか関心を持ってもらうにも見た目的な部分が一番触れやすいのかなと思います。『なんだろうこの人?』っていう感じの印象を持たれたとしても、正直良くて。そこから少しでもスキージャンプのことを知ってもらえて興味を持ってもらえたら一番いいし、そうなれるのが理想だなって思います
祝・W杯歴代最多109度目の表彰台で世界記録更新!

祝・W杯歴代最多109度目の表彰台で世界記録更新!

© Teruhisa Inoue

ーーそれだけスキージャンプに貢献してきて、今もなお競技人生を続けられているモチベーションとはどうやって維持しているんでしょうか?
沙羅「やっぱり目標があることが一番です。自分がなりたい像がはっきりしているというか、向かっていく先がちゃんとあるっていうこと。それが今自分の中で一番続けていく理由です。その年によって世界選手権が目標であったりとかシーズンごとの目標もあるんですけど、一番変わらない目標っていうのが『人に影響を与え続けられる選手』になること。そこを目指していることはずっと変わらないと思います
ーーでは最後に、高梨選手のように何かに挑戦している同世代や次世代の方にアドバイスをお願いします!
沙羅「どんなときも行動するのは自分の気持ちと自分の判断だと思うので、どこに向かっていきたいのかっていうビジョンとかイメージをしっかり持つことが大事です。あとは変化を恐れないこと。今までの自分から変わらなきゃいけないときって来ると思うんですよね。周りのレベルや選手の技術が毎年のように変わっていくので、そこに食い込んでいくために色んなアイディアを自分の中で溜めておく。変化を恐れず自分がなりたいものをしっかり持って、とにかく挑戦するっていう気持ちが必要だと思います
どんな質問にも真摯に答えてくれる高梨選手。その姿は、まっすぐに自分の理想へと向かうジャンプへのひたむきさと重なって見えた。
高梨選手が貫く「自分らしくいること」。
そして競技の中で大きな課題となる「自分と向き合うこと」。
それは簡単なようで実は難しく、いくつもの障害や葛藤が立ちはだかる。
だからこそいくつもの山を飛び越えてきた彼女の強さへと深く結びついているのだろう。
この先の未来も輝いていられるために、揺るぎない「自分軸」を見つける。まずはそこから挑戦してみることで、高梨選手の背中を追いかけたいと感じた。
(了)
◆Information
トップアスリートの「心・体・技」を学んでパフォーマンスアップ! 知られざるプロの裏側に迫る『Red Bull Behind the Pro』の特設ページはこちら >> Red Bull Behind the Pro ―プロの裏側―
ウィンタースポーツ系の注目情報やキャンペーン情報を、レッドブル流に発信するプロジェクトが始動。特設ページはこちら >> Ready to Wiiinter
若きエースジャンパーの胸中に迫る関連インタビューは>>「小林陵侑」スキージャンパー幕開けから躍進、未来の話!