Gaming
Alaric ChooとIan AngはゲーミングチェアメーカーSecret Labの共同設立者だ。カリスマ性とやる気に溢れている若者という彼らが醸し出すイメージは、あらゆるスタートアップ起業家に期待するイメージそのものだ。しかし、これは彼らにとって初めての “仕事” ではない。2人はかつて『StarCraft 2』のプロプレイヤーだったのだ。
Chooが説明する。「『StarCraft 2』で1年くらいセミプロとして活動していたんだ。それからプレイヤーとしては一歩引いて、自分で組んだチームを率いるようになった。そのチームのプレイヤーたちは、自分より高いレベルでプレイしていたし、サポートが必要だったから、僕はスポンサー料を集める役目を担ったんだ」
チームマネージメントに専念すべくプロレベルのプレイから身を引いたChooとは異なり、Angは長年に渡りSEA(東南アジア)のトーナメントシーンでプレイを続けた。Angは、Go4SC2 CupなどいくつかのSEA圏内のトーナメントで優勝した他、同圏内のトッププレイヤー相手にも勝利も収めた。結局、Angがトッププレイヤーとして扱われることはなかったが、それでもSEAの中では知られた存在だった。残念ながら、Angものちに複数の理由から現役を引退することになったのだが、特に大きな理由がひとつあった。
「2010年に400ドル(約44,800円)のビジネスチェアをゲーム用に買ったんだ。手首と背中に痛みを感じていたからね。でも、そのビジネスチェアでは痛みが解消されなかった。それでそのままプロプレイヤーとしての活動を終えたんだ。痛みが悪化してしまったのさ。そのビジネスチェアを約3年使ったあと、海外メーカー(現在は彼らのライバルメーカー)のゲーミングチェアを輸入した。でも、油圧系が調子悪くなった時に、たったひとつの交換部品を見つけるだけでも大変だということに気が付いたんだ。輸入業者、代理店、本社の間をたらい回しにされたよ」
しかし、安価なチェアとセットアップが原因で体に痛みを感じていたプレイヤーはAngだけではなかった。Chooもまた同じ問題を抱えていた。そしてこの事実は、この痛みは個人の問題ではなく、シーン全体が抱える問題だということを示すことになった。
Chooが説明する。「トーナメントが近づいて練習量が増えていくと、1日に最低5~6時間は個人練習に費やしていた。それですぐに手根管症候群の兆候が出始めたんだ。手首に痛みが生じて、指の感覚がなくなり始めた。僕が当時使っていたチェアは決して安くはなかった。300ドル(約33,600円)ほどのエルゴノミックチェアだった。でも、背中と手首に適切なサポートを得られなかった。あと、当時のトーナメントはかなり狭い会場で開催されていて、テーブルを置くスペースも十分じゃなかったし、アームレストなしの酷いチェアしかなかった」
プロゲーマーが家具メーカーになるというのはやや奇妙な転職に思えるかもしれないが、実は非常に納得のいく話だ。言うまでもなく、ゲーミングシーンに関わるハードウェアメーカーの数は多く、ハイレベルなPC、キーボード、マウスを揃えるのは比較的簡単だ。しかし、ゲーミングチェアとなると選択肢が少ない。そして、SEAのゲーミングチェアの状況はさらに酷かった。
Angが説明する。「SEAには僕が満足できるゲーミングチェアがひとつもないことに気が付いたんだ。ルックスが美しくて、長時間座っていても快適で、適切な価格で、保証も付いているチェアがひとつもなかった」
「この問題をAlaricに話したあと、2人でシンガポールの状況の改善に取り組むことに決めたんだ。リサーチをして、自分たちのゲーミングチェアをデザインしようってね。また、ゲーミングチェアの現状を変えるには、僕たちは有利な立場にいると思えた。2人ともトーナメントシーンを知っているし、PCの前で長時間過ごす大変さも知っている。背中を正しくサポートしてくれないゲーミングチェアでゲームを長時間プレイするのが辛いことを理解しているんだ」
この問題の解決に取り組むことを決めた2人は、しばらくすると東南アジア圏内でベストクオリティのゲーミングチェアを世に送り込むようになった。現在2人が率いるSecret Labは2種類のゲーミングチェアを生産しており、最低限の機能を備えているエントリーモデルOmega(リクライニング、アームレスト、レザー)と、実際に触れるまでその良さが分からない数々の機能(ベロア製ヘッドレストなど)を備えている、490ドル(約55,000円)のハイエンドモデルTitanを用意している。
「1日8時間以上チェアに座るなら、体を支えてくれる快適な製品が必要だ。ゲーマーは、最大の効率性と価格に見合った満足感をゲーミングチェアに求めている。また、ゲーマーはゲーミングチェアについて知識があるから、故障したときは修理担当と直接話をしたい。僕たちは代理店と小売店を完全にカットしているから、そのようなゲーマーが納得できるサービスと製品を提供できている」
無理のない価格で優れた機能が手に入る製品に24時間サポートも用意しているSecret Labは大きな成功を収めている。Secret Labは東南アジア圏内に優れたゲーミングチェアメーカーが存在しないという問題を解決するために立ち上げられた企業だが、最近は世界を相手にビジネスを展開しており、ヨーロッパと米国を含む世界各地で販売されている。世界中のプレイヤーが元『StarCraft 2』プロプレイヤー2人がデザインしたゲーミングチェアに座って、自分たちが抱えている痛みを軽減することができるのだ。また、彼らは現役プロプレイヤーと協力して、彼らにパーフェクトなゲーミングチェアのデザインも進めている。
「僕たちはプロプレイヤーやゲーミング業界関係者を沢山知っていたから、Secret Labを立ち上げた当初から定期的にフィードバックがもらえた。製品開発段階から定期的にフィードバックを受け取っているよ。プロプレイヤーだけではなくて、全てのカスタマーからね。彼らの意見を取り入れることで製品をさらに良くしようとしているんだ」
2人がプロプレイヤーだった当時、彼らに選択肢はなく、それゆえに2人は体を痛めることになった。しかし、彼らはその問題を放置する代わりに、自分たちとみんなのために解決することを決意した。低クオリティなゲーミングチェアがプロプレイヤーの健康を脅かすことはもうない。
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