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発想の飛躍と言うべきか、計算されたチェスの一手と言うべきか − 2019年を新規IPでスタートさせるというフロム・ソフトウェアの判断は、彼らの、既存の枠を飛び越えて考える能力と、手元にあるもので折り紙のように意外な何かを作り出せる能力のもうひとつの証左だ。
日本が世界に誇るこのユニークなビデオゲームデベロッパーは、2009年の『Demon’s Soul』を焼き直したり、『Bloodborne 2』を開発して大衆に媚びたりするのを避け、彼らの特徴のひとつであるアクションアドベンチャーの再構築を目指した。
彼らは、時代の流れに合うことを願いながら、自分たちを支えてきた宝箱を完全に分解し、細部まで徹底的に吟味したあと、2019年最大の成功が見えるビッグタイトルのひとつに数えられる作品に仕上がるまで、自分たちのストロングポイントと基盤を理想まで高めていった。
このような経緯で生み出された『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(以下『SEKIRO』)は、“Soulsborne / ソウルズボーン” (※)と『天誅』シリーズの間に位置するような、アクションアドベンチャータイトルだ。
※:『Dark Souls』シリーズと『Bloodborne』を組み合わせた英造語。フロム・ソフトウェア系"死にゲー"を指す際に使用される。類語 > Metroidvania / メトロイドヴァニア。
『SEKIRO』のプレイヤーは、“隻狼” という孤独な忍びとしてプレイする。葦名の手勢に主君の少年をさらわれ、自らの左腕も失った隻狼が荒れ寺で目を覚まし、その左腕がミステリアスな忍義手に置き換えられていることに気付くところから、『どろろ』を思わせる血なまぐさい剣戟復讐劇がスタートする。
これまでのヴィクトリア朝的な世界観とは異なり、『SEKIRO』は日本の戦国時代が舞台で、「運命と成長」の物語が日本の中世とひとりの主人公を軸に紡がれていく。ひとりの主人公に固定された物語はフロム・ソフトウェアの作品としては意外だが、新しい何かを作り出す楽しさは新たなチャレンジを生み出すことになった。
ディレクターを担当した宮崎英高は次のように語っている。
「開発プロセスを通じて学べたことはいくつもありましたが、一番驚かされたのは、主人公を固定することが物語に与える影響の大きさでした」
「これまでの私たちの作品は、世界全体が作り出す物語に焦点を当てていましたが、主人公を固定することで、完全に異なるストーリーテリングが可能になりました。私には、非常に新鮮で魅力的に思えました」
「プレイヤーエクスペリエンスを重視して物語を強要しない、またはプレイヤーが創造力を働かせて物語の断片を繋げられるスペースを用意するという、過去作品で採用してきたストーリーテリングの手法は今も有効だと思っています。ですが、今作のアプローチにも独自の魅力があると思っています」
この魅力を生み出した要因のひとつが、フロム・ソフトウェアの新しい開発体制だ。
今作では、宮崎が大まかなプロットの用意とディレクター業を担当したが、実際の文章と台詞の大半は、他のスタッフが用意した。このような協働が「楽しくて刺激的な要素を数多く生み出し」、今後のプロジェクトにおける「ベストな開発プロセスの見つけ方」の土台をもたらした。
今作でのワークフローの変化は、ストーリーの協働創出の新しい方法を見出す助けになったが、同時に、作曲家の北村友香やリードゲームデザイナーの山村勝をはじめとするフロム・ソフトウェアの他のクリエイティブたちに「新しい刺激」を模索させたり、死と美が生み出すコントラストの独自の解釈を追求させたりすることにもなった。
宮崎が続ける。
「私たちが『SEKIRO』の美術デザインで強く意識していたことのひとつが、鮮やかな色使いでした」
「開発の初期段階で、日本の美観に影響を与えてきた色々な要素を振り返っていったのですが、その色使いの美しさに魅了されました。それで、その色使いを『SEKIRO』の美術デザインのコンセプトのひとつに採用することに決めたのです」
「日本的な色使いを効果的に使用して、ダイナミックな戦闘に魅力を加え、『SEKIRO』の世界全体を彩色することを強く意識していました。こうすることで、独自性とドラマ性をさらに高め、フロム・ソフトウェアが考える戦国時代と自分たちらしさを表現しようとしました」
「今振り返ると、いくつかのエリアでやり過ぎてしまったかなと思う部分もありますが、それも私たちらしいかなと思っています(笑)。ネタバレはやめておきますが、個人的には、仏教をモチーフとしているエリアがとても気に入っていますね。廃墟感と鮮やかな色彩を組み合わせ、そこに仰々しい要素を加えることで、素晴らしい効果が生み出せています」
フロム・ソフトウェアによるその誇張された色彩とサウンドデザインは特別珍しいものではないが、ディテールは異常とも言えるレベルで追求されている。あらゆる物がメインアトラクションを引き立てる背景としてただ置かれる代わりに、動きや息吹を感じさせるものとして描かれており、これがゲーム全体に徹底されている。
刀がぶつかり合う音は歌のように響き、北村友香が手がけた楽曲群は、隻狼の脇を通り過ぎる草葉や炎と美しく絡み合っているように感じられる。また、テクノロジーの秀逸さも光っており、我々全員が悪夢を見るきっかけとなった、あの “E3 2018のトレーラーに出てきた大蛇” の表現力は、1997年の映画『アナコンダ』を『Snake Pass』に思わせる。
これらに、デフォルト音声が日本語で、英語圏でリリースされる全バージョンに日本語と英語音声(および英語字幕)が収録されるという事実を加えれば、『SEKIRO』が複数のポイントから没入できる作品であることが明確に理解できる。
では、戦闘はどうなのだろうか?
忘れてはいけないのが、『SEKIRO』がフロム・ソフトウェアのゲームだということだ。今作でも、プレイヤーは厳しく罰せられることになる。そう、何回も。
『SEKIRO』も、「ゲームシステムを最大限活用して、チャレンジをクリアしたプレイヤーに大きな達成感を与えたい」という宮崎の考えに沿って開発されている。あの難度は今作でも健在で、『Souls』シリーズのあのレベルが別世界に持ち込まれている。
今作では、クラス、ステータス、ソウル稼ぎの代わりに、剣戟、隠密、鉤縄、忍義手、スキルツリーの解放やアイテム購入に使える経験値や銭が用意されている。キャラクターのカスタマイズオプションの数は過去作品群よりも少ないが、ジャンプ専用ボタンが用意されている『SEKIRO』は、 縦の動きと周辺環境を利用する移動方法が探索に深みを加えている。
宮崎は戦闘について次のように説明している。
「今作『SEKIRO』の戦闘と戦略には、これまでの作品とは異なる非常にユニークなアプローチが必要とされるので、ファンの皆さんと新規プレイヤーの皆さんの両方にチャレンジを提供するはずです」
「主人公は、ステルスで背後に忍び寄ったり、動き回ったりしながら、攻撃の糸口となる位置を見つけていきます。忍義手を駆使して、難しい状況を効率良くクリアしていく時もあります。また、敵を欺くこともできます」
「このような特徴を備えている『SEKIRO』は、これまでのフロム・ソフトウェアの作品と比較すると、ピュアなアクションよりも戦略性を重視している作品になっていると思います」
今作における最大の変化は、間違いなく「体幹」システムだ。
敵の体力を徐々にゼロに近づけていく正攻法を好むプレイヤーなら、敵の攻撃パターンを読み、その隙を突いて攻撃していけば良い。しかし、今作では、強攻撃をガードさせたり、相手の攻撃を見切ったり、弾いたりする受け身系テクニックを使うことで、敵の “体幹” を崩していくことができる。
そこに忍義手に装備する「義手忍具」を使った攻撃を絡めれば、体幹をさらに大きく崩すことが可能で、敵の体幹ゲージが溜まったタイミングで攻撃を仕掛ければ、必殺技に相当する「忍殺」で体力を一気に削れる。
しかし、宮崎は、より強い敵を相手にする時は、敵の体幹ゲージが回復するのを防いだり、敵の体力を追い込んで回復スピードを弱めたりすることも重要だと指摘している。
また、「SHADOWS DIE TWICE」(影は "二度" 死ぬ)というタイトルが示す、フロム・ソフトウェアの "死の新しい概念" も詳しく述べる価値があるものだ。
宮崎が説明する。
「“回生” は、本質的には、死にすぎてゲームのリズムが崩れてしまうのを防ぐためのシステムです。“回生” の使用にはデメリットがありますし、“回生” を使用するためにわざと死を選ぶような状況もあまりありません」
「私たちが今作で描こうとしていた忍びの戦いは、常に死の可能性があり、常に高い緊張が伴うものでした」
「ですが、その理想をそのまま表現してしまうと、主人公が死にまくるようになり、結果的にゲームのテンポが崩れてしまいます。“回生” はここを解消するために用意されたシステムです」
「ですが、“回生” システムは、敵に奇襲を仕掛けるのにも使用できるので、プレイヤーの判断にある程度の影響を与えることになると思います。このシステムがあるおかげで、プレイヤーは一度退却して冷静になったり、忍殺を狙ったり、忍術で戦況を一変させたりすることができます」
「先ほど、“回生” を使用するためにわざと死を選ぶような状況はあまりないと言いましたが、ゲーム内には死を選べるアイテムが存在しますので、このアイテムを使えば、“回生” システムを発動できます」
「また、アイテムを使って死んだ場合は、先ほど話したデメリットは発生しません。また、想像していなかった意外な戦略を編み出せる時もあると思います」
言い換えれば、『SEKIRO』では、想定外を想定しておいた方が良いということだ。
今作には、隻狼の強化などが行える拠点や、超高難度なボス戦、物の怪を切れる刀、不死斬りなどが用意されているが、そのナラティブとストーリーテリングは、よりパーソナルなゲーミングエクスペリエンスを得てもらうことを目的として内側に隠されている。
そしてこの配慮にはもうひとつの正当な理由がある。
世の中には、情報を提供し続けるというゲームデザインを採用しているがゆえに、その過剰な情報がゲーム自体の面白さを消してしまっているAAAタイトルが存在する。このようなAAAタイトルは、「没入感が得られるメディア」というビデオゲームのコンセプトから自分たちを切り離してしまっている。
ビデオゲームは、自分たちのクリエイティビティと判断に刺激とチャレンジを提供してくれる現実逃避手段として機能すべきで、『SEKIRO』と、戦略を駆使してリアルタイムで “ビルド” を作っていくそのシステムは、それらをクリアしているだけではなく、デベロッパーが自分たちの伝統的価値観と基本原理に挑み、新たな成功を生み出せることを示している。
宮崎は次のようにまとめている。
「プレイヤーの皆さんには、忍びの戦闘の力強さと激しさ、スリルを感じて欲しいですね。これらを中心に置いている『SEKIRO』は、ゲームプレイ、世界観、ストーリーの魅力と相まって、特徴的なスタイルを打ち出していくと思います」
「プレイヤーの皆さんが、私たちが考えた孤独な主従関係を楽しんでくれることを願っています」
『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』はPS4・Xbox One・PCで3月22日にリリース予定。
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