Shauna Coxsey performs during a training session in Liverpool on Jan. 20, 2015.
© Shamil Tanna/Red Bull Content Pool
ボルダリング

トップクライマー ショウナ・コクシーが明かすトレーニングのすべて

英国人トップクライマーが具体的なメニューからメンタルまで、トレーニングのすべてを明かしてくれた。
Written by Howard Calvert
読み終わるまで:9分Published on
ショウナ・コクシーは地元のクライミングウォールを初めて登った4歳からクライミングシーンを自分のものにしてきた。少女時代から年齢を遙かに上回るスキルを備えていた彼女は、やがて英国内や世界各国のイベントを転戦するようになり、いくつもの優勝を手にしていった。
クライマーの宿命とも言えるいくつかの大きな怪我に悩まされながらも、コクシーはその度にリハビリを重ねてウォールへ復帰し、2016年と2017年にはIFSCクライミングワールドカップを含むボルダリング・ワールドタイトルを制した。東京オリンピックではクライミング英国代表にも選出されている
入念に用意されたスケジュールに沿って進められている高密度のトレーニングプランとコクシーを支えるコーチングチームが、彼女の成功の大きな要因となっている。
IFSCクライミングワールドカップ2016で優勝したショウナ

IFSCクライミングワールドカップ2016で優勝したショウナ

© Yuta Yoshida / Red Bull Content Pool

オリンピックのクライミングは特殊な複合競技になっているため、コクシーは得意のボルダリング(全高4mのインドアウォールに用意されている課題をギアなしでクリアするカテゴリー)に、リードクライミング(ロープで安全を確保された状態でどこまで上まで登れるかを競うカテゴリー)とスピードクライミング(全高15mのルートを登る速さを競うカテゴリー)を組み合わせたトレーニングをする必要がある。このトレーニングが、彼女のフィジカルとメンタルに大きくて新しいチャレンジをぶつけていた。
今回は、コクシーがどのようなトレーニングをしているのかを本人に説明してもらった。
− ボルダリング、スピードクライミング、リードクライミングの3カテゴリーのトレーニング時間をどのように管理しているのでしょうか?
とてもチャレンジングです。ひとつのカテゴリーだけでも、週6~7日トレーニングしてようやく少しレベルアップできるかどうかですが、そこに更に2カテゴリー分の異なるトレーニングメニューを追加しているからです。
トレーニング全体の要求度はとても高いですね。身体の異なるエナジーシステムに個別に負荷をかけなければならないので。クロスオーバーしている部分も多少ありますが、ボルダリング、リードクライミング、スピードクライミングは個別でトレーニングするのが理想です。
英国・シェフィールドのThe Climbing Worksでトレーニングするショウナ

英国・シェフィールドのThe Climbing Worksでトレーニングするショウナ

© Jake Thompson / Red Bull Content Pool

− 2021年に向けてどのようなトレーニングを積んでいくのでしょう?
複合競技としてのクライミングはこれまで存在しなかったので、参考にできるものがありませんでしたし、何が正しいのかも分かっていませんでした。ですので、できる限り多くの知識を手に入れて、自分に合ったトレーニング方法を見つけていくしかありませんでした。
いくつものチャレンジがありますし、自分がすべきトレーニングを見つけるのは簡単ではありません。ですが、今は優秀なコーチングチームが支えてくれていますし、新しい環境に上手く対応できていると思います。
とはいえ、1年を通じて予定を立てるのは難しいですね。怪我をすることも考えられますし、スケジュールが変わる時もあるので、年間スケジュールを決めるのは不可能です。
− 平均で週何時間トレーニングしているのでしょうか?
今は1週間で15種類のトレーニングセッションをこなそうとしています。トレーニング内容によって時間は変わってきますが、トレーニング6日とオフ1日が基本です。1日に2~4トレーニングセッションをこなすようにしています。
オフシーズンは、ウォールでのトレーニングと他のフィットネストレーニングのバランスが50/50になります。シーズンインが近づくにつれて、ウォールで全カテゴリーのトレーニングに取り組む時間が増えていきます。
− 長期休暇は取っていますか?
冬の間に2週間ほど休んで、リフレッシュするようにしています。昨年はその一部を膝の手術に充てたので、休暇は1週間しかありませんでした。短かったですね。数年前から休暇はどこかへ旅行して、クライミングをしないようにしています。
私はインドアでのトレーニングが多いですが、アウトドアクライミングもするので、昔は休暇を使って世界各地のアウトドアクライミングを巡っていました。ですが、これではちゃんとしたオフにならないので、最近はしっかり休むこと身体の声に耳を傾けることを意識しています。
複合競技としてのクライミングはこれまでなかったので、できる限り多くの知識を手に入れて、自分に合ったトレーニング方法を見つけていくしかありませんでした
友人でもありコーチでもあるリア・クレーンと長年組んでいる

友人でもありコーチでもあるリア・クレーンと長年組んでいる

© Band of Birds

− コーチングチームについて教えてください。
チームとの関係は良好です。まとまっていますし、彼らの努力には本当に感謝しています。チームとの距離感はとても近いです。トレーニングスケジュールの準備段階には私もかなり大きく関わっています。
ですが、私には自分に必要なトレーニングプランを具体的に設定できるだけの専門知識や能力が備わっていないので、それぞれ異なるフィールドでエキスパートとして活躍しているチームメンバーに助けてもらっています。自分のチームには自信がありますし、現状にはとても満足しています。
− ウォールでのトレーニング内容を教えてください。
各カテゴリーで色々なトレーニングをしています。クライミングとフィットネストレーニングの量をとにかく増やす時もありますし、特定のムーブに集中的に取り組む時もあります。
また、クライミングだけに絞って、様々なスタイルをひたすら試していく時もあります。具体的で基本的なトレーニングになる時があれば、自分のフィーリングに任せた自由なトレーニングになる時もあります。
リードクライミングでは、コンフォートゾーンの外側に出ようとしています。前腕に大きな負荷がかかってかなり疲労しているので、上手く対応する方法を学んでいるところです。ルートを細かく分けて分析してからフルランを重ねています。
− ジムでのトレーニング内容を教えてください。
クライミングは全身運動なので、脚、体幹、腕、指を含むすべてを鍛える必要があります。私はBeastmakerフィンガーボードで指一本ずつ鍛えています。
周りからいつも興味を持たれるのですが、私は指専門のコーチをつけているんです。また、前腕専用のトレーニングプランを立ててくれる前腕専用コーチもつけています。ですので、かなり長い時間、木の板にぶら下がって過ごしています(笑)。
あとはストレングス系トレーニングにもかなりの時間を割いています。レッグプレススクワットプルアップなどの基本メニューが多いですね。指のストレングスに関しては、指専用トレーニングメニュー週3時間こなしています。フィンガーボードを使った前腕専用トレーニングメニュー週3時間ですね。
かなり長い時間、木の板にぶら下がって過ごしています(笑)
− メンタルに一番大きな負荷がかかるトレーニングはどれですか?
以前は前腕のトレーニングが苦手でした。とにかくきついからです。ですが、最近は前向きに取り組めるようになりました。
それでも退屈に感じてしまう時があります。私は同じことを繰り返すのが好きではないですし、無理矢理やろうとすると気分が上がりません。ですので、ドキュメンタリーを観て気持ちを高めてから取り組んでいます。
メンタルを鍛えるためにスポーツ心理学者と組んでいる

メンタルを鍛えるためにスポーツ心理学者と組んでいる

© Jake Thompson / Red Bull Content Pool

− メンタルトレーニングは取り入れていますか?
スポーツ心理学者と組んでいます。スポーツ心理学は非常に重要ですね。クライミングには特に重要だと思います。トップレベルのクライミングとボルダリングでは、初めてのルートや課題に挑むことになります。そして、ルートや課題の解決にはメンタルが大きく関わってきます。
私は心理学に興味があるんです。多くのアスリートが読んでいる『The Confidence Gap』や『The Chimp Paradox』のような本はとても興味深いと思いますし、『新インナーゲーム』は最も面白いコーチング本のひとつだと思います。
− ストレッチや可動性トレーニングはどうでしょう?
ストレッチはそこまで時間をかけていません。ウォールにいると知らない間にストレッチしているからです。ウォームアップで踵を高く上げるムーブにかなりの時間を割いているので、自然に脚をストレッチしています。また、クライミングそのものが腕のストレッチになっています。
睡眠はショウナのベストを引き出す重要な要素のひとつ

睡眠はショウナのベストを引き出す重要な要素のひとつ

© Jake Thompson / Red Bull Content Pool

− トレーニングにおいて睡眠はどの程度重要ですか?
私は寝るのが好きなので、長時間寝ます。しかも、すぐに寝ることができます。世間では睡眠がとても軽視されているので、睡眠の地位を高めていく必要があると思います。特にトップレベルのスポーツではリカバリーに欠かせません。睡眠はとても大事だと思います。
良質な睡眠にはリラックスできる環境を用意することが大切です。快適なベッドだけではなく、快適に過ごせる空間を用意するんです。ですので、私のベッドルームは綺麗に片付けられています。リラックスできる環境を維持することにかなりの労力を割いています。
− 怪我はどのように予防しているのでしょうか?
怪我の予防はあまり上手くないですね(笑)。クライミングは全身に大きな負荷がかかるスポーツなので、怪我を防ぐのは簡単ではありません。限界をプッシュして自分を成長させながら、プッシュしすぎて怪我をしないようにする微妙なバランスが求められます。
私はキャリアを通じて何回も怪我に苦しんできましたが、努力をしてさらに強くなって復帰してきました。ですので、今や怪我は自分の興味の対象と言えますし、リハビリはかなり得意です。努力して復帰を目指すプロセスに恐怖を感じていません。そのプロセスを熟知しているからです。身体はひとつだけなので、十分な時間をかけてケアする価値はあると思います。
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