与えられた命を懸けスノーボードを発信し続ける男

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.100

Sean Ryan
Sean Ryan© ITSUKI

11月12日(土)、13日(日)の2日間、東京・渋谷の代々木公園に雪が降る。今年で6回目を数える「 SNOW BANK PAY IT FORWARD」をご存知だろうか。スノーボードのレール大会が開催されていることから、多くの専門誌などを通して目にする機会も増えているかと思うが、少しずつ進化を重ね、スノーボード以外にも、スケートボードやダンスパフォーマンス、アートからライブに至るまでを網羅したビッグイベントと化した。“ヨコノリは社会貢献”というキャッチコピーを掲げ、「ヨコノリ」「アート」「音楽」が三位一体となった2日間。これらの楽しさを通じて、骨髄バンクや献血の普及活動が目的とされている。

ではなぜ、スノーボードやこうしたカルチャーと骨髄バンクが結びつくのか。それは、このイベントを主催するひとりの男が、スノーボードと骨髄バンクによって命を救われたからにほかならない。彼の名は、“ダゼ”こと荒井善正。

ダゼは「慢性活動性EBウイルス感染症」という難病に冒されて、骨髄移植以外には助かる道を絶たれてしまうことに。スポンサーを獲得した直後、ようやくライダーとしての道を歩み始めて間もない頃だった。その闘病中に初対面を果たしたのだが、抗がん剤治療により髪の毛は抜け落ち、顔は腫れ上がっている状態だった。

100万人にひとりの難病という運命を受け入れて、生存率30%という決して大きくはない可能性を信じ続けてこれたのも、家族や妻である育子さんはもちろん、スノーボードを通じて出会った仲間たちの存在が大きかった。そして、当時はおよそ30万人が登録していたドナーの中からひとつの命を受け取ることができ、輸血にも救われた。だからこそ、スノーボードを普及することと、ドナー登録者や献血を増やすことに、彼は与えられた命を捧げて取り組んでいるのだ。

闘病中、ダゼが次のように話してくれていたことを思い出した。

「医者から病気のことを告げられたときには落ち込んだし、兄ちゃんとの骨髄の型が合わなかったときは本当にショックだった。そのときはどんなこともマイナスにしか考えられなかったけど、みんなのおかげで自分の中に変化が生まれてきたし、前向きになることができた。自分がこうなることで、同じように困っている人の気持ちも少しは理解できたから、これからオレには伝えていくべきことがたくさんあるんだと思っている」

これから生き続けられるかどうかわからなかった2007年12月に、このように力強く語っていたダゼ。2008年の夏に移植手術を受け、2009年3月には奇跡的な回復力を発揮して雪上復帰を遂げた。強すぎる想いは、時として医学の常識を超えるのかもしれない。それは、生きていられることが当たり前ではないと知り、死と真正面から向き合い、ただ生きるのではなく、より力強く“活きる”ことで、自らが持っている力以上のものを生み出せるのだということ。さらには、逆境に立たされたときこそ大きな力を発揮でき、逆境があるからこそ活きられるのだということを証明したのだから。

2011年から始まった本イベント「SNOW BANK PAY IT FORWARD」は、ダゼが難病を克服する前から思い描かれていた。その“活きる”という力がカタチとなったイベントである。初めからビッグイベントだったわけではない。イベント運営はド素人だったダゼの活きる力が周りの心を動かし、スノーボーダーはもちろん、アーティストやミュージシャンらが一丸となって取り組んできた5年間があってこそ、ここまでの規模に進化を遂げた。当日は彼を支えてきた友人のひとりである國母和宏も来場予定だ。

今週末、初雪を味わいに代々木公園へ足を運んでみてはいかがだろうか。

野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード・ジャーナリスト。1974年生まれ。千葉県松戸市出身。スノーボード歴24年。専修大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社でスノーボード・エディターとしての道を歩み出し、2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」に従事。編集長として10年3ヶ月に渡り職務を遂行し、2016年3月に退社。2013年に開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員を務める。また、X GAMESのほか各種スノーボード競技において、テレビでの解説やコメンテーターとして活動するなど、その幅を広げている。2016年8月18日、スノーボードメディア「 BACKSIDE」をローンチ。フリースタイルスノーボーディングを再構築することで、シーンのさらなる活性化を目指す。

Written by DAISUKE NOGAMI