「スノーモビルの世界記録」というキーワードから想像すると、雪上でのスピードや登坂能力と考えるのが一般的。あくまでも“スノー”を想定して造られた“モビル”なのだから、雪上(時に氷上)でのアクションと紐付けられるのは当然のこと。しかし、世の中には予想外の使い方を編み出すアクティブな人間はいるもので、スノーモビルを水上で走らせるツワモノが現れ出したのだ。しかもそんなツワモノも1人や2人ではなく、すでにウォータークロス・チャンピオンシップとしてヨーロッパでは大きな大会が開催されているから驚き。
そんなスノーモビルの水上滑走。これまでの世界記録は、ヨーロッパ・ウォータークロスチャンピオンのAntti Holmbergが叩き出した180km。この記録を塗り替えるため、チャレンジしたのがこの映像のMorten Blien。市販のポラリスPMK800を駆って見事212kmにまで更新したというのだ。
単純に滑走距離といっても、スノーモビルは雪上走行を想定しているため、水上に持ち込めば沈んでしまう。そのためクローラーで水を掻き推進力を常に与え続けることで浮力を得なければならない。当然、浮力を得られるだけの推進力と、滑走距離を得るための省燃費を考慮したアクセルワークは必須。さらに200km以上もの距離を、その状態をキープし続けなければいけないため、この記録は精神/肉体ともに酷使した大記録なのかもしれない。とはいっても、ただでさえ“なぜ水上にスノーモビルを持ち込んだのか”なんて疑問が浮かぶところ、その滑走技術を磨くなんて発想は、ウォータークロスに参戦するライダーでなければ考えつかないはず。常識的に考えればジェットスキーじゃダメなの? と考えてしまうのは、自分が感性の研ぎ澄まされたエクストリームフリークでない証拠かもしれない。
もちろん雪が溶ければ水になるため、エンジンやドライブなどの主要構造は防水性能が与えられているのは当たり前だが、スノーモビルの取り扱い説明書に「水上使用禁止」とは書いていない。そもそもスノーモビルを水上で使うなんて発想は想定外のため、わざわざそんなことを書かなくても…、というのがホンネといえるはず。実際に日本国内でスノーモビルを製造するヤマハ発動機の広報担当に確認したところ、「えっ!? スノーモビルで水上を走っちゃうんですか? それやっちゃダメでしょ」とのこと。万が一、この世界記録にチャレンジするなら、すべて自己責任でお願いします。