サッカー

サッカーと数学の関係とは?

サッカーを数学的見地から研究している英国の数学者を紹介する。
Written by Jonno Turner
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デイビッド・サンプター
デイビッド・サンプター
サッカーファンの数学者デイビッド・サンプターは、このスポーツに秘められた方程式の研究を長年に渡り続けてきた。
今回はサンプターが、数学的に優れたサッカー選手は誰なのか、EURO2016の優勝候補はどの国なのか、なぜジェイミー・ヴァーディの獲得がプレミアリーグ優勝の絶対条件ではないのかなどについて教えてくれた。計算機を片手に読み進めてもらいたい。
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まずは数学とサッカーを結びつけようと思った経緯について教えてください。
私はサッカー好きの応用数学者なんです。応用数学者として長年に渡り鳥や魚の群れ、アリの隊列などについての研究を重ねてきたので、その研究結果を世に出そうと思っていたのですが、生物の集団行動に対する世間の興味はさほど大きくないんですよ。もちろん、鳥の群れについてのドキュメンタリー番組などは存在しますが、サッカーほど世間へのリーチはありません。一方で、私はプライベートの時間の多くを息子のサッカーチームの指導に費やしてきました。10歳と11歳のチームなんですが、ピッチ上での彼らの動きを見ていると、あることに気付きました。サッカーは全員がボールに向かって走っているわけではなく、ピッチ全体を使って全員が色々な動きをしていますよね。その戦術的な動きが私の研究対象である動物の行動に非常に似ているということに気付いたんです。そこで、自分の研究対象をサッカーにしてみるのはどうだろうと考えたんです。それでOptaのデータを使ってプロの試合の分析を始め、サッカーにどれだけ数学を応用できるのかを確認してみることにしました。
研究を始めて最初に気付いたことは何だったのでしょう?
最初は感激しましたね。何かを研究する場合は、最もパーフェクトな例を使うのがベストとされています。ですので、2010-11シーズンのバルセロナの試合を大量に入手しました。数学的に考察すると、彼らのサッカーはまさにパーフェクトだということが分かりました。バルセロナの基本的なルールは、敵陣のペナルティエリア前で攻撃を仕掛けていく際に、ペナルティエリア内に誰かが進入できる状況を常に作るというものです。ですので、DFのマークを外して距離感を保ちながらDFとDFの間にポジションを取り、味方とのトライアングルをピッチのあらゆる場所で作っていきます。それゆえに、彼らはショートパスを延々と回すことができたのです。
粘菌と呼ばれる生物について学んだことがあるのですが、粘菌はトライアングルを形成して、養分を移動させていきます。バルセロナのサッカーは幾何学的な意味で言えば、この粘菌にかなり近いんです。
デイビッド・サンプター
ペップ・グアルディオラ監督(編注:当時のバルセロナ監督)が意図的に生み出した戦略だったのでしょうか? それとも偶然の産物だったのでしょうか?
意図的な部分もありますし、自然な部分もあると思います。どのサッカー選手も「トライアングル」は知っていますからね。いわゆるワンツーもトライアングルがベースになっています。数学はすべてが理論で片付けられる世界ではありません。サッカー選手はある意味それを証明している存在ですね。単純に私のように秩序立てて考えていないだけですし、彼らは故ヨハン・クライフが1980年代に編み出した3対3のボール回しをトレーニングで何時間も重ねてきたので、そのトレーニングがピッチで自然に活かされているだけとも言えます。トライアングルは非常にシンプルなプレーですが、非常に複雑な構造を作り出していくんです。
サッカーと数学は正反対だという人もいます。サッカーは自由な表現ができるクリエイティブなスポーツであるのに対して、数学は柔軟性に欠けると。あなたはどう考えていますか?
私はサッカーも数学も美しいと考えています。私はサッカーに数学を応用することで、数学は世間が考えるほどパーフェクトではないということを証明したかったんです。数学をサッカーに当てはめる場合は、現実世界を数学で表現する必要が出てきます。ですが、現実世界はそこまで簡潔なものではないですし、ランダムな要素も数多く含まれています。数学は想像以上にサッカーと似ています。汗水たらしてしっかりと取り組まなければいけませんし、システムの中で何が起きているのかを理解する必要もあります。バルセロナを「粘菌」と喩えたり、バイエルンを「ライオン」と喩えたりするのは自由ですが、そういう表現に辿り着くためには、しっかりと分析する必要があるんです。
数学は想像以上にサッカーと似ています
あなたは世間とは違った視点からサッカーを見ているわけですが、サッカー観戦を普通に楽しめるのでしょうか?
そこは難しい問題なんですよね。たとえば、今年のユーロ2016のような面白い大会だと困ってしまいます。研究対象として見てしまうと、試合の見方が変わってしまいますから。2年前までは研究対象ではなかったので、単純にゴールやパスなどを追っていたわけですが、今はほとんどボールを追わないんです。どうやってユニットとして動いているのか、どうやってビルドアップしているのかなどに興味があるんです。ランダム性、パスの数学的構造、一切予想できない魔法のような瞬間など、サッカーは様々な視点から楽しむことができると思います。このような特徴がサッカーをスペシャルなスポーツにしていますし、こちらがどれだけ分析をしても、その魅力が消えることはありません。
数学を使って試合結果を予想することは可能でしょうか? 2015-16シーズンのプレミアリーグはレスターが優勝しましたが、これについてはどう説明しますか?
レスターは非常に面白いケースでしたね。表面上、彼らのサッカーはプレミアリーグ下位のチームが採用するスタイルでしたし、私もクリスマス前の段階では彼らの優勝はないと考えていました。「平均値への回帰」理論(編注:中間地点で平均値より良い結果でも、最終的には平均値に近づいていくという考え方)と同じで、彼らも後半に調子を落とすだろうと考えていたんです。ですが、10連勝をしたチームにこの理論を当てはめることはできません。そこで、別の要因を探っていくと、レスターはロングボールを使っていましたが、他のチームよりもひたすら「ゴールに向かって」プレーしているということに気付きました。たとえば、ウェストハムはまずサイドに展開して、そのあとでディミトリ・パイェなどがクロスを入れていくスタイルですが、レスターの場合は、エンゴロ・カンテなどの2列目の選手が前線のリヤド・マフレズやジェイミー・ヴァーディへダイレクトパスを出してどんどん “前” へ走らせます。これはデータにもしっかりと出ています。レスターのロングボールはあくまでゴールへ向かうためのもので、ウェストハムやサウサンプトンのロングボールとは違うんです。
そのようなシステムに慣れているマフレズやヴァーディは、他のクラブへ移籍しても成功するでしょうか? 魔法を起こすためには11人全員の相性がピタリと合う必要があるのでしょうか?
移籍先が採用するシステム次第だと思います。ヴァーディがアーセナルへ移籍するという噂がまことしやかに流れていますが、ちょっと驚きましたね。数学的に考えれば、彼に移籍は理に叶っているとは思えません。アーセナルがレスターのシステムを採用するのなら話は別ですが。アーセナルは戦術の分析スタッフを何人も抱えていて、彼らは「ゴールが生まれやすい状況」をはじきだしています。つまり、敵陣のペナルティエリア内でシュート体勢まで持っていくにはどうしたら良いのかを逆算しているわけです。2015-16シーズンのアーセナルがやや苦戦を強いられたのはこれが原因です。どのチームもアーセナルはエリア外からはゴールを狙ってこないということを知っていたんですね。ですので、対戦相手としてはエリア内の人数を揃えておけば良かったんです。この戦術を採用しているアーセナルでは、ヴァーディよりもオリヴィエ・ジルーのようなFWが適しています。ですが、もちろん、アーセン・ベンゲル監督はそこを理解しているはずです。
ヴァーディが移籍先で活躍できるかどうかは戦術とシステム次第
プレミアリーグで大活躍したレスターシティ
プレミアリーグで大活躍したレスターシティ
近代サッカーは数学を上手く取り入れていると思いますか?
まだまだというところですね。今はスカウトで利用されている程度です。プロクラブは何千、何万もの選手をチェックする必要がありますから、数学を使って絞り込んでいくわけです。私が興味を持っている戦術的な部分ではあまり利用されていませんね。ですが、その理由は私には理解できます。監督は良く分からない数学者に「もっと綺麗なトライアングルを作ってください」なんて指示を出されたくないからです(笑)。ですので、数学が活用されるまでにはもう少し時間がかかると思います。もちろん、私もこの分野の研究を続けていきたいですが、クラブが所有するデータへのアクセスが認められる必要があります。クラブが所有するデータは非常に細かいですし、まずはしっかりとした基礎研究が行われる必要がありますね。数学者が関わってくるのはそのあとです。
数学者として面白いと思う選手はいますか?
ディミトリ・パイェのような選手は非常に効果的だと思います。2015-16シーズンのプレミアリーグで、彼は他の誰よりも数多くのパスをペナルティエリア内に送り込みました。90分間で平均3.7本のパスをペナルティエリア内に送り込んだんです。このようなデータが対戦相手の警戒を促すのかどうかは分かりませんが、これだけでは役に立ちません。なぜなら、チームや選手がどれだけの効果を生み出すのかを理解するためには、もっと長い時間をかける必要があるからです。それはさておき、2015-16シーズンのプレミアリーグで気に入っていたのはカンテとパイェですね。ユーロ2016のフランス代表に2人揃って選ばれているのは嬉しいですね。
ズバリ、ユーロ2016で優勝するチームは?
純粋な数学的見地から言えばドイツでしょう。彼らは実に数学的なサッカーをしていますよ。ユーロ2016のウクライナ戦はチャンスを逃していましたが、攻撃的MFのボールの動かし方は数学者としての私が見たいサッカーです。ポゼッション重視で、ボールを左右に動かしながらゴール前に迫っていきます。効率的で優れたサッカーですね。
ユーロ2016の優勝候補筆頭はドイツでしょう