10月22日から11月17日までの約1ヶ月間で14のイベントを展開、多様なスタイルの音楽を楽しむことができるフェス「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」。そのなかでも注目を集めるのが、11月4日(土)にベルサール渋谷ガーデンで実施されるライブイベント「SOUND JUNCTION」だ。
このイベントではステージが4方向に設置され、そのそれぞれに個性的な音楽性で支持を得る4組のアーティストが登場。観客はそれらのステージに囲まれた状態でライブを楽しむことができる。
ここでは、同イベントに出演するKICK THE CAN CREW、水曜日のカンパネラ、中田ヤスタカ、Nulbarichの4組のアーティストを紹介。ジャンルはバラバラなれど各自のスタイルで日本の音楽シーンを盛り上げている彼ら。その魅力に少しでも触れてみれば、きっと心に刺さるものがあるはずだ。ぜひこの機会にチェックしてほしい。
KICK THE CAN CREW
現在、MCバトル人気を受けて大きな盛り上がりを見せている日本のヒップホップ・シーンだが、かつてその活況を凌ぐ勢いでブームを巻き起こしたヒップホップ・グループが、ここで紹介するKICK THE CAN CREWだ。
1997年にKREVA、LITTLE、MCUの3MCで結成された彼らは、メロディアスなラップと万人の共感を得られるリリックで人気を集め、2001年にメジャーデビュー。2002年には「NHK紅白歌合戦」に初出場するなど、同時期にブレイクしたRIP SLYMEらと共に、ヒップホップという音楽を日本のお茶の間レベルにまで浸透させた功労者のうちの1組と言えるだろう。
彼らは人気絶頂だった2004年に活動を休止し、それからはメンバーの3人それぞれソロ活動を行っていたが、2014年に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」へ出演して一時的に復活。そして結成20周年の節目を迎えた今年、ついに本格的な再始動を果たし、8月には約14年ぶりとなるニューアルバム『KICK!』をリリースした。
KICK THE CAN CREWの特長は何といってもキャッチーなメロディーとタイトなラップを組み合わせたスタイルにある。前述の紅白で歌われた代表曲「マルシェ」のようにリズミカルなポップチューンはもちろん、「アンバランス」や「sayonara sayonara」などのメランコリックな雰囲気を帯びた楽曲においても、軸になるのはあくまでも三者三様の個性がぶつかり合うラップ。だからこそ、彼らの楽曲はヒップホップ特有の高揚感と、ポップスとしての魅力を兼ね備えたものになるのだろう。
完全復活の狼煙となった新曲「千%」も、もちろんそういった彼らの特色が反映された楽曲に。KREVAが手掛けたエモーショナルなトラック上で絡み合う3人のラップは、熟練の極みを見せながらもフレッシュさを失っていないし、結成20周年を迎えてなお〈まだまだやりつくした感ゼロ〉と言い放つ彼らの心意気は実に快いものだ。「SOUND JUNCTION」のステージでも、きっと新鮮な風を吹き込んでくれるに違いない。
水曜日のカンパネラ
音楽シーンはもちろんファッション業界でも注目を集め、最近では女優業にも進出するなど、新たなポップアイコンとしてさまざまな舞台で活躍するコムアイ。彼女がボーカルを務める音楽ユニットこそが、水曜日のカンパネラだ。
そのコムアイに加え、ほぼ全曲のサウンド・プロデュースを手掛けるトラックメイカーのケンモチヒデフミ、〈何でも屋〉として裏方仕事をこなすDir.Fがメンバーとして所属するこのユニット。だが、ライブやメディアなどの表立った場所に姿を現すのは基本コムアイのみ。残りの2人は彼女のユニークな個性とカリスマティックな魅力を最大限に引き出すべく各自の業務に徹しており、コムアイはいわば水曜日のカンパネラの〈主演〉としてそのフロント役を担っている。
それだけでも独創的なユニットであることがわかるが、彼女たちの本当に注目すべきポイントはもちろんその音楽性とパフォーマンスにある。ケンモチによる最新のダンスミュージックの潮流を意識しながらも、その真似事では終わらない独自性を刻み込んだサウンドに、コムアイの妙な中毒性を持った自由すぎる振る舞いのラップ。しかも歌詞の内容は、「桃太郎」や「千利休」といった曲名からもわかる通り、実在・架空を含めた偉人や有名人をモチーフにしながらも、そこから連想ゲームを繰り返すかのように奇妙な脱線をしていくもの。おそらくこの不思議感は、実際に曲を聴かないことには伝わらないだろう。
例えばメジャー・ファースト・アルバム『SUPERMAN』からの楽曲「一休さん」は、コムアイがファンキーなディスコビートに乗せてとんちの利いた言葉遊びを連ねていくもの。そして「アラジン」は、マイケル・ジャクソンへのオマージュも忍ばせたクールなハウス・トラックなのだが、歌詞は〈アラジンの魔法のランプ〉→〈こする〉→〈研磨剤〉→〈ホームセンター〉と繋がっていったり……。そのような洒落たトラックとストレンジなラップの絡み、そしてコムアイのステージにおける奔放極まりないパフォーマンスは、観る者の心に大きな爪あとを残すはずだ。
中田ヤスタカ
‘01年に自身のユニットCAPSULEにてデビュー。日本を代表するエレクトロシーンの立役者であり、Kawaiiダンスミュージックからハードなトラックまで、その独自の感性によって世界中のアーティストから支持を受けている数少ない日本人アーティストである中田ヤスタカ。
音楽プロデューサーとして、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅなど数々のアーティストを世に送り出し、国内外のポップシーンを常に牽引してきた彼だが、近年ではソロ・アーティストとしても目覚しい活躍を見せている。
もともとはプロデューサー業と並行して DJ 活動も精力的に行い、主宰レギュラ ー・パーティーを抱えるほか、数々の世界的フェスや大型イベントでもプレイしてきた彼。今年は「ULTRA MUSIC FESTIVAL」の世界公式アンセム楽曲となる「Love Don't Lie (Ultra Music Festival Anthem)(feat. ROSII)」を発表し、「ULTRA JAPAN 2017」にも出演、ダンスミュージックのシーンにおいても確固たる実績を残してきた。
そんな彼が今年に入ってソロ名義で発表したシングル曲が、UK の人気シンガ ーであるチャーリーXCX ときゃりーぱみゅぱみゅをフィーチャリングした「Crazy Crazy」。彼特有のキラキラしたエレクトロ・サウンドと⻭切れの良いビートに、2 人の煌びやかに加工された歌声が重なり合う、まさに中田ヤスタカ節が全開のポッ プソングだ。海外での知名度も高いきゃりーと、グラミーのノミネート歴もあるチ ャーリーXCX を迎えることで、自身のサウンドを世界基準のものへと押し上げた 1 曲と言えるだろう。
また、彼は今回「SOUND JUNCTION」のテーマソングとして「Give You More」 を制作。ゲーム音楽への造詣が深い彼らしい 8 ビット系の電子音を散りばめながら も、雄大なメロディーと緩急の効いた展開がフロアを沸かせるであろうアンセム・トラックに仕上がっている。これらの楽曲を携えて、「SOUND JUNCTION」のステージではどんな光景を描き出してくれるのか、楽しみなところだ。
Nulbarich
今回「SOUND JUNCTION」に出演する 4 組のなかでもっともフレッシュな存在が、シンガー・ソングライターの JQ を中心とするバンド、Nulbarich(ナルバリッチ)だろう。2016 年より活動開始。シチュエーションなどに応じて、編成を固定せずサウンドを創造するというライブスタイルを取っている。
サウンド的にはソウルやアシッド・ジャズといったブラック・ミュージックからの影響が色濃く、同じくそれらのジャンルをインスパイア元に挙げているSuchmosやWONKといった新世代バンドと並べて語られることが多い。
そんな彼らが最初に注目を集めたのは、2016年6月にタワーレコードと配信限定で発表されたファースト・シングル「Hometown」。英語と日本語の入り混じった耳にしっくり馴染む歌声と、自然と身を揺らせてしまうような心地よいグルーヴ感は、デビュー作にして早くも完成の域に達しており、ここに収められたファンキーなレイドバックチューン「NEW ERA」は、後に自動車のCMソングにも起用された。
そして同年の10月にはファースト・アルバム『Guess Who?』をリリースし、セクシャルなディスコ・ポップ「Lipstick」ほか多彩な引き出しを開けて支持を拡大。2017年5月に発表したEP『Who We Are』からは軽快なギターカッティングに彩られたソウルポップ「It's Who We Are」という話題曲も生まれ、オリコンの週間チャートでは最高14位を記録した。
この9月にはジャミロクワイと来日公演のサポート・アクトを務めるなど、ライブにも定評のある彼らだけに、「SOUND JUNCTION」でも何かを起こしてくれることだろう。