異なるユニバースで活躍する人気キャラクターたちのバトル。その派手な演出がディスプレイで表現される。ルールは変わったかも知れないが、圧倒的なコンボは残されており、敗戦の悔しさも変わらない。コミュニティの熱もそのままだ。ひと言にまとめれば、『Marvel vs. Capcom』シリーズが帰ってきたのだ。
『Marvel vs. Capcom: Infinite』がリリースされてからまだ1ヶ月も経っていないが、このゲームの米国における今までの流れを簡単に振り返っておこう。
不安から期待へ
2016年末にSonyが開催したPlayStation Experienceで『Marvel vs. Capcom: Infinite』(以下『MVCI』)の存在が突然明らかにされたあと、コミュニティのこのゲームに対する自信は、リリース日の2017年9月19日が近づくにつれて揺らいでいった。懸念は数多くあった。まず、アートスタイルは必要最低限にまとめられており、どこか納得できないものだった。また、ストーリーモードのデモは、ファンから愛されている『X-メン』シリーズと『ファンタスティック・フォー』シリーズのキャラクターが参戦しないという事実(GameSpotのインタビューでPeter “Combofiend” Rosasが認めた)以外、このゲームのポテンシャルについてほとんど触れていなかった。
懸念すべき部分はシステムにもあった。特定の必殺技の入力を簡単にし、『Ultimate Marvel vs. Capcom 3』よりキャラクター数を減らし、2on2のスタイルに戻したという事実は、『MVCI』が前作とは大きく異なるゲームになる可能性を示唆していた。しかし、米国内の格闘ゲームのメジャートーナメントでエキシビションやデモが展開されていくにつれて、あらゆるスキルレベルのプレイヤーが、このゲームの開発が順調に進んでいることを認めるようになり、やがて『MVCI』への期待が再び高まっていった。
先行配布の問題
『MVCI』がリリースされる1週間前、Capcomはこのゲームを一部のコミュニティメンバーに先行配布することを決定した。格闘ゲームの熱心なファンであるこのようなコミュニティメンバーはすぐにこのゲームに取り組み、シリーズの代名詞と言える派手なプレイを披露することで、このゲームの購入を考えていた他のプレイヤーたちに興奮をもたらした。また、この期間にいくつかのキャラクターが目立つようになっていった。自動でスペルを溜めることができるドルマムゥ、ロングコンボが狙えるダンテ、そしてムーブのポテンシャルが高い、高火力のウルトロンが人気を獲得した。
こうして、『MVCI』がリリースされた週の週末に開催された、このゲーム初のメジャートーナメントSouthern California Regionals(SoCal Regionals)に向けて、様々なテクニックがオンライン上でシェアされていったが、SoCal Regionalsの開催日とリリース日が非常に近かったことがユニークな問題を生み出した。SoCal Regionalsの『MVCI』に出場するトッププレイヤーの多くが、リリース前にこのゲームをCapcomから受け取っていた。
この事実が論争を巻き起こした。リリース前にゲームを手に入れたプレイヤーがリリース "直後" のトーナメントに参加するのはフェアなのだろうか? ロケーションテストやイベントのデモを試遊した他のトッププレイヤーたちはどう扱えば良いのだろうか? 簡単に答えは出なかった。この結果、格闘ゲームコミュニティを代表するトッププレイヤーたち(Echo FoxのJustin Wongなど)がSoCal Regionalsの『MVCI』への出場を取りやめてこの問題から距離を取ることになったが、彼らとは完全に異なるアプローチを取ったトッププレイヤーもいた。先行してゲームを手に入れていたプレイヤーのひとりで、格闘ゲームコミュニティの “ヴィラン” 的立ち回りでも知られているEVO王者Ryan “FilipinoChamp” Ramirezがドルマムゥとウルトロンの最強コンビでグランドファイナルまで進出し、Robert “SackTap” Cappsとのエキサイティングな戦いを制してタイトルを獲得したのだ。
FilipinoChampがSoCal Regionalsの『MVCI』にエントリーしたのはフェアだったのだろうか? これは結論を出すのが難しい問題で、コミュニティ内の意見は今も割れている。FilipinoChampは、EventHubsの記事の中で「個人的な意見を言えば、SoCal Regionalsはこれから何回も開催されるトーナメントのひとつに過ぎないし、このゲームのオフィシャルツアーに組み込まれていたわけでもない。ハイレベルなプレイヤーがどんどん参加して、ゲームをプロモートするのは、コミュニティにとっては良いことだとさえ思っているよ」とコメントしている。
また、FilipinoChampは、プロだけではなく、EVO 2017のようなメジャーイベントに参加した多くのプレイヤーもリリース前の『MVCI』にアクセスできていたことについても触れている。彼と同じく、リリース前に手に入れて、SoCal RegionalsにエントリーしたEvil GeniusesのChristopher “ChrisG” Gonzalesはさらに遠慮がなく、欧米の格闘ゲームコミュニティは長年に渡ってもっと大きな問題を抱えてきたとし、「僕たちはアジアのプレイヤーがアーケードで先行プレイしてきたことを禁止してこなかったじゃないか」とコメントしている。
ゲームの開発に参加していたコミュニティメンバーがメジャートーナメントのエントリーを自主的に回避してきた例はいくつもあるが(元CapcomのSeth Killianや現CapcomプロデューサーのPeter “Combofiend” Rosasなど)、そのようなプレイヤーの新規タイトルへのエントリーをルールで禁止した例は少ない。これは『MVCI』から始まった問題ではなく、おそらくこのゲームで答えが出る問題でもないだろう。
トーナメントの騒動
先日開催された別のトーナメントではまた別の論争が生まれた。『MVCI』を新規プレイヤーがプレイしやすいゲームにするために、Capcomはこのゲームにいくつかの新機能を追加し、シリーズの特徴だった複雑なコンボシステムを簡単にしている。たとえば、オートコンボは弱攻撃のボタンを連打するだけで8~9ヒットの基本コンボを繰り出せ、オートジャンプはエリアル始動技ヒット時に自動でジャンプできる。また、イージーハイパーコンボは2つのボタンを同時押しするだけで必殺技が発動できる。
このようなアシスト機能のトーナメントでの使用に関する論争は、先日開催されたトーナメント、The Fall Classicでピークに達した。開催地ローリー(ノースカロライナ州)のローカルプレイヤーJon Slaytonと『MVC』シリーズの有名なプレイヤーEric “Smooth Viper” Arroyoの対戦は、Slaytonが2-0でSmooth Viperに勝利したのだが、Slaytonがイージーハイパーコンボを使用していたという理由から、トーナメントオーガナイザーがこの結果を差し戻した。Slaytonはトーナメントから敗退になったわけではなく、再戦を指示されただけだったが、コミュニティの中には、対戦中に問題が指摘されなかったことを微妙に思ったプレイヤーがいた。
Capcomの『MVCI』オフィシャルトーナメントシリーズBattle for the Stonesに含まれていないトーナメントは、このような新機能の使用を許可するかどうかを独自に判断できるが、現時点ではBattle for the Stonesのオフィシャルルールはこの点について触れていない。SoCal Regionals(Battle for the Stonesのオフィシャルトーナメント)は、このような新機能の使用を禁止していたが、CapcomのBattle for the Stonesのウェブサイト上には、使用に関するルールは記されていない。
同じような機能を備えている他のゲーム(『Killer Instinct』のコンボアシストモードなど)は、メジャートーナメントでの使用を許可している。彼らはこれらの機能がプレイヤーベースを大きくすると信じており、同時にプレイヤーに大きなアドバンテージを与えるものではないと考えている。また、The Fall Classicで論争を巻き起こす原因となったイージーハイパーコンボは、ハイレベルな対戦では必殺技のカウンターとして使用されており、シリーズの過去作品では別の形で(オンオフが可能なオプションとしてではなく)、ゲームシステムの一部として組み込まれていたこともあるというのは、興味深いポイントとして記しておくべきだろう。
CapcomがBattle for the Stonesのアシスト機能の使用に関するオフィシャルルールを近日中に発表すると言われているが、本記事執筆時点(2017年10月4日)では何も発表されていない。
明るい未来
このような論争(や、間違いなく弱体化されるはずのReality Stoneを使用したスパイダーマンの笑えるほどの強さなど、格闘ゲームコミュニティのメンバーが発見した "おバカな" ゲームプレイ)があるものの、格闘ゲームコミュニティは『MVCI』を楽しんでいるように見える。今後もこのような論争が続くはずだが、このシリーズに対するコミュニティの情熱と興奮には、今まで以上の熱が感じられる。
Twitterアカウント@RedBullGamingJPをフォローして、ビデオゲームとeSportsの最新情報をゲットしよう!