Stephanie Bendixsen at Red Bull's The Wrap Up
© Ken Leanfore/Red Bull Content Pool
Gaming

ステファニー・ベンディクセン:オーストラリアのゲーミングシーンを支えるひとりの女性

作家・ブロードキャスター・ストリーマーと様々な顔を持つ"自称オタク"がこれまでのキャリアを語ってくれた。
Written by Joe Ellison
読み終わるまで:10分Published on
ゲーミングシーンのヒロインと言われてまず思い浮かぶのは、猿が棲む古代寺院を覆う木の枝を鉈で切り落としながら前進するララ・クロフトの姿だろう。
しかし、ここ10年でオーストラリア、そして世界のゲーミング番組の顔役となり、伝統的に男性主体なゲーミングシーンにおけるエキスパートに関連するナラティブを徐々に変えている女性がいる。ステファニー・ベンディクセンだ。
2009年から2017年にかけてABC(編注:オーストラリア放送協会 − オーストラリアの公共放送局)の番組『Good Game』のホストを担当したあと、同じくオーストラリアの民放局で番組『ScreenPLAY』を1年間ホストし、さらにはレッドブルの『The Wrap Up』にも出演した彼女だが、最も鮮明に憶えているのは1通のファンレターだ。
ABC『Good Game』出演時のベンディクセン

ABC『Good Game』出演時のベンディクセン

© ABC

「少し不思議に思うんです。というのも、自分の好きなことを誰かと共有する際に他人から許可を得る必要はないからです。ですが、ある日、ひとりの女性から “あなたがテレビ番組でビデオゲームへの情熱を語ってくれたおかげで、私もビデオゲームが好きだと周りに言えるようになりました” というファンレターを受け取ったんです」
最近、彼女はPatreon経由でサブスクリプション制オンラインゲーミング番組『Back Pocket』も立ち上げた。視聴率を狙う絢爛なプライムタイム番組よりもこぢんまりとしたハウスパーティに近いこの番組は、国内外で人気を獲得し、さらには児童書を何冊も執筆している今もHexsteph(Hex)名義でTwitchでのストリーミングを楽しんでいる彼女にとって親近感が持てるものだった。
ゲーミングシーンを代表する女性のひとりとなった彼女が、ここまでの道のりを率直に振り返ってくれた。
− 最初にプレイしたビデオゲームを覚えていますか?
実家のPCに『Sky Runner』というゲームがインストールされていました。宇宙船を操作してルート上のタワーや撃ち落としていくと、やがて小さなバイクを操作できるようになります。非常にベーシックなゲームでしたが楽しかったですね。
− 子供の頃からゲーミングに夢中だったというのは本当ですか?
『Lensmoor』がきっかけでした。テキストベースのオンラインファンタジーゲームでした。両親からプレイを禁止されてしまったので、両親が寝るまで待ってからプレイしていました。当時はダイアルアップモデムの時代だったので、枕の下にモデムを入れて接続音が聞こえないようにしていましたね。
ビデオゲームに救われていた10代のベンディクセン

ビデオゲームに救われていた10代のベンディクセン

© Stephanie Bendixsen

− 両親にプレイ時間が長すぎると思われたのはいつですか?
学校の授業中に眠ってしまい、学校側から両親に連絡が行ったのがきっかけだったと思います。カウンセリングも受けました。当時の私はビデオゲームがすべてでしたが、依存状態と言えたのはあの時だけです。
− 相当面白いゲームだったのでしょうか?
学校には独自の社会とヒエラルキーがあるので通うのが難しかったですし、第二次成長期も迎えていたので、自分のことが好きになれなかったんです。ですが、『Lensmoor』では戦士Elvinとして堂々と振る舞えました。ですので、その世界にもっといたいと思うようになっていったのです。
− eスポーツチームが毎日長時間プレイするようになっている今、「ビデオゲームの長時間プレイ」に対するイメージに変化が起きていると思いますか?
チームプレイが必要なビデオゲームを長時間プレイすると、悪い意味での上下関係に繋がる可能性があります。たとえば、レイド戦で十分な活躍ができなくてチームに迷惑をかけていると悩んでしまうプレイヤーが生まれてしまう可能性があります。ですが、適度にプレイしている限り、何も問題はないでしょう。
私が受け容れられないのは、メインストリームメディアによってビデオゲームが悪役にされていることです。その一方で、週末にドラマやテレビ番組をまとめて視聴することは許されていますよね。ビデオゲームをプレイする方がテレビを見るよりもよっぽどアクティブです。自分の頭でパズルを解いたり、他のプレイヤーと協力したりするのですから。
メインストリームメディアによってビデオゲームが悪役にされているのは受け容れられません
ステファニー・ベンディクセン
− 以前からビデオゲーム業界で働きたいと思っていたのでしょうか?
まったく思っていませんでした。私が大学で演劇を学んでいる頃、若い世代を対象にした新しいチャンネルを立ち上げるので、プレゼンターになりたいならオーディション用テープを送ってくれとABCが募集をかけたんです。
そこで私はSF系コンベンションでオーディション用テープを撮影しようとしたのですが、偶然、そこに『Good Game』のプレゼンターが居合わせたのです。その彼から、番組がプレゼンターをもうひとり探しているという話を聞きました。それで、こんなチャンスはないと思った私は、家で何タイトル分ものレビューを書いて彼らに送りました。『Good Game』は好きでしたし、彼らのスタイルを分かっていたので、仕事を得ることができました。
− 最初のエピソードは緊張したのでは?
緊張しましたね。私は新しい仕事に興奮を覚えていたのですが、状況が一気に変わる事態が起きました。私が番組に加入したタイミングで、それまで出演していたプレゼンターのひとりが番組を去ったのです。彼は、自分の希望で去ったわけではないと公に発言していたので、多くの視聴者が私に疑いの目を向けました。私はゲーマーではないのだろう、ルックス重視で選ばれただけだと考えたのです。今振り返ると笑ってしまいますね!
− 苦情が直接届くようなことはあったのでしょうか?
2009年でしたので、ソーシャルメディアはまだ始まったばかりでしたが、インターネット上には嫌悪や怒りのコメントが溢れ、ドキシング(編注:嫌がらせを目的として他人の個人情報をインターネット上に無断でさらす行為)をする人などが出てきました。一瞬で最高の夢が最悪の悪夢に変わってしまったのです。
多忙な今もTwitchのストリーミングを続けている

多忙な今もTwitchのストリーミングを続けている

© Stephanie Bendixsen

− 誰かに助けを求めたのでしょうか?
収録前のメイク中に泣き崩れてしまったことがあったのですが、有り難いことに、オタクでゲーマーの『Good Game』の女性プロデューサーから「ねぇ、誰かに自分を証明する必要なんてないのよ。自分の仕事をしていればやがて状況は変わるはず」と言われました。これまで受け取った中で最高のアドバイスですね。
仕事でベストを尽くし、ビデオゲームへの愛情を示し続けていくと、やがて怒りの声は小さくなっていきました。そして突然、若い女性たちからファンレターが届き、女性がプレゼンターとして番組に出演していることや番組の女性の扱い方を褒めてもらえるようになったのです。
− 自分を嫌う人たちの意見に振り回されてはいけないことを示す好例ですね。
そうですね。仕事を続けていくうちに、色々な人から「あなたが番組に出始めた頃、あなたにはかなり酷いことを言ってしまった。申し訳なく思っています。今はあなたのことを心から尊敬しているので、あらためて謝罪させてください」という内容のメールが届くようになりました。あれはクールでしたね。
キャリアをスタートさせた頃からゲーミング業界が大きく変わっていく様子を見守ってきました
ステファニー・ベンディクセン
− ゲーミングシーンをよりインクルーシブにするためにさらなる努力が必要だと思いますか?
全体について話すと、私は、キャリアをスタートさせた頃からゲーミング業界が大きく変わっていく様子をずっと見守ってきました。ビデオゲームの開発に携わる女性の数は徐々に増えています。開発チームやパブリッシャーの雇用アプローチも多様性が増したので、より幅広い層にアピールできるストーリーを備えたゲームが生まれています。このような取り組みがドミノ効果でさらなる変化を生み出しています。
− Twitchとテレビの違いを教えてください。
Twitchではその場でコミュニケーションが取れます。自宅とファンが直接繋がっている感じですね。丁寧にキュレーションされていて、プレゼンターが番組を仕切っていくテレビ番組から、まるでひとつの部屋でみんな一緒に会話を楽しんでいるようなルーズなストリーミングへのシフトに慣れるまでは少し時間がかかりましたが、ファンは、プレゼンターではない自然な私を気に入っているんです。Twitchではフィルターがかかっていないコンテンツを提供しています。
− プレッシャーはないですか? あなたはプロゲーマーではないですよね。
私のファンは、美しいヘッドショットをチェックしたいからストリーミングを視聴しているわけではありません。彼らは、私のテレビ番組に長年親しんできたから、そしてビデオゲームへの純粋な情熱を持っている人の話を聞きたいから視聴しているのです。
自分を嫌う人たちの意見に耳を傾けないことが重要

自分を嫌う人たちの意見に耳を傾けないことが重要

© Steph Bendixsen

− 他のゲーマーよりも練習量が多ければプロになれるのでしょうか? それとも天賦の才がなければなれないのでしょうか?
他の伝統的なスポーツと同じだと思いますよ。天賦の才を備えていて、それを活かしてプロになる人がいる一方、ひたすら練習を重ねているのにプロになれない人もいます。また、伝統的なスポーツと同じ "選手寿命" もあります。瞬発力や反応力はここに関わっていますし、より若く、より速いプレイヤーがどんどん出てくるでしょう。
− 2017年にあなたは民放局で『ScreenPLAY』をホストしましたが、たった1年で去っています。その理由を教えてください。
民放局での経験がなかったので、経験を積んでおきたいと思って仕事を請けたのですが、酷い経験になってしまいました。何ヶ月も番組が軌道に乗りませんでした。上層部にビデオゲームの知識がなく、eスポーツに特化した “夜のスポーツニュース” のような番組にしようとしたのです。
この方向性は上手く機能しませんでした。なぜなら、eスポーツに興味がある層は、自分たちが好きなゲームの特定のコンテンツをオンラインでチェックするようになるからです。
視聴者と一緒に作り上げている『Back Pocket』

視聴者と一緒に作り上げている『Back Pocket』

© back-pocket

− 民放局での仕事はカルチャーショックだったのでしょうか?
ABCでは自分らしく振る舞ったり、自分の好きな衣装を着たりできたので、民放での仕事を甘く考えていたんです。民放局では「女性らしい衣装を着てください」、「デモグラフィックは若い男性がメインです」などと指示されました。
私は、自分のファッションやスタイルよりも話す内容にフォーカスしてもらいたかったので、あえてオーバーサイズTシャツを着るようにしていたのですが、民放局では衣装をニーズに合わせなければならなくなりました。とてもフラストレーションが溜まりましたね。
− そして今は『Back Pocket』をホストしています。一般からサブスクリプション制で資金を集めているので、登録者全員がコンテンツに意見を言えます。
Patreon経由で自分の経済状況に合わせてカスタマイズできるサブスクリプション制番組を立ち上げました。しばらく前から私たち独自の番組を作って欲しいとファンから言われていたのです。彼らはオーストラリアのゲーミングシーンの真の代弁者がいないと感じていたのです。
ここまで多くの人が最初から参加してくれるとは思ってもいなかったので、ここ半年は状況に追いつくのがやっとでしたが、ようやく追いつけた感覚があるので、今後は視聴者をさらに増やす取り組みをしていきたいです。『Back Pocket』はこれまでやってきた仕事の中でベストのひとつに数えられますね。
− 好きな服を着られますしね。
(笑)。好きなだけオーバーサイズTシャツを着ることができますよ。