Gaming
“サイバーパンク” という言葉を聞いて真っ先に思い出すのは、『Deus Ex』や『Shadowrun』、そして『サイバーパンク2047』あたりだろう。
しかし、『Stray』では最新テクノロジーで肉体を強化した人物をプレイすることも、サイバースペースに飛び込んでシステムをハックすることもない。この作品を開発したBlueTwelve Studioは、人類の仄暗い未来をまったく違う視点から描いている。その視点とは、ベルベッドのような柔らかい毛に覆われた私たちの長年の友人の視点だ。
『Stray』
世界の終わりを美しく描く
というわけで、『Stray』では、人類がとうの昔に滅亡した世界で気ままな生活を送っているキュートな猫としてプレイする。かつて存在した文明社会の名残とそこにまだ残っている人型ロボットたちだけが、人類がかつてそこに生存していたことを示している。
ゲーム序盤、主人公の猫は谷底に落ちたあと不穏な地下世界に辿り着く。暗黒が支配し、ケバケバしいネオンライトが差し込み、機械たちが金属音を鳴らしているこの世界におけるプレイヤーの目的は、地下世界を抜け出して地表に戻ることだ。
『Stray』のゲーム内世界は、典型的で不気味なサイバーパンクの世界だ。狭隘な通りと派手な広告は東京をはじめとするアジアの都市を彷彿とさせる。このゲームの面白さは、プレイヤーが探索する様々なロケーションが、人間が住んでいた頃の様子を想像させるところにある。壁はポスターやストリートアートで埋められており、メランコリックでディストピアな景観は非常に特別な雰囲気を醸し出す。
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12分
LAストリートアート -創造か、犯罪か-
ロサンゼルス初のギャラリー主催ストリートアートショーは大きな議論を呼び起こし、この街を象徴するアートの存在意義が問われた。アーティストと業界関係者たちがグラフィティに対する意見をぶつけ合う。
キャットシミュレーター2022
全体的に『Stray』は探索に重きを置いている。プレイヤーは猫のため、当然ながら機敏な動きができるので、細い梁の上を歩いたり、壁を乗り越えたりすることができる。
しかし、このようなアクションはコンテキストに沿った形でしか行えない。残念ながら、好きなタイミングで好きな場所へ移動したり飛び移ったりすることはできないのだ。すべてのインタラクトはボタン操作の指示に沿わなければならない。このような仕様はやや残念だが、ゲーム内世界が非常に興味深く描かれているため、何かを発見する楽しさは損なわれていない。
猫好きでなくてもこのゲームの魅力に抗うのは難しい
しかし、『Stray』は、ただの通りの探索を超えた “猫的” ゲームプレイを提供してくれる。ボタンでインタラクトすることで物をどかしたり、布張りの家具で爪を研いだり、鳴いたりすることができる。
もちろん、これらすべてはギミックに過ぎないのかもしれないが、小さなパズルを解くよりもよっぽど重要に感じられるときがある。このような細部までの拘りが猫好きのハートを鷲掴むことに成功している。猫好きでなくてもこのゲームの魅力に抗うのは難しい。
当然ながら、『Stray』はただのキュートな猫のゲームではない。探索を続けていけば、地下世界とそこに住むロボットたちについて学んでいくことになる。ロボットたちはこの世界に留まろうとした人間たちの生活を真似ようとしているように見え、AIを進化させることで個々の願いを叶えようとしている。
もちろん、すべてのロボットがプレイヤーに対して同じ態度を取るわけではない。ひとつひとつ異なるロボットとの関係もまた『Stray』の大きな魅力のひとつだ。
このゲームにバトルらしいバトルは存在しない。プレイヤーは危険から逃げたり、危険なエリアを抜けたりするだけだ。このようなシーケンスはゲームプレイに嬉しい変化を加えてくれているが、やり甲斐のあるチャレンジでもない。開発チームがこのような部分にフォーカスしていないのは明らかだ。
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27分
パルクール ABC
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ゲーム内世界がもうひとりの主人公
『Stray』が非常に上手くやっていることがひとつある。それは、世界をキャラクターとして表現しているところだ。残念ながら、このレベルで実現できているゲームは他にほとんど存在しない。この作品はあえて比較的平坦なゲームプレイにすることでこの特徴を際立たせている。
もちろん、いくつかのプラットフォームパズルが用意されているが、手に汗握るアクションを期待しているプレイヤーは落胆するだろう。とはいえ、ゲーム内世界に5〜10時間は没入できるようになっているため、そのような欠点は気にならない。猫と周辺環境のインタラクトにおける細部への拘りが、この作品のリアリズムを高めている。
この特長が、『Stray』をビデオゲームの可能性を示す好例にしている。このようなタイプのゲームは毎年リリースされているように感じる。過去には『The Artful Escape』のような作品がリリースされた。口の悪いゲームファンはこのようなタイプのゲームを “ウォーキング・シミュレーター” と呼ぶだろう。しかし、多様なスタイルとキャラクターが用意されている世界なら歩くだけでも楽しいのだ。
『Stray』の美しいビジュアルと素晴らしいサウンドが、この作品の大きな助けになっている。猫のアニメーションは見ているだけで癒され、その細かい動きに思わず笑顔になってしまうときもある。最長10時間ほどのプレイタイムなので、やや物足りなく感じるプレイヤーもいるかもしれない。
しかし、プレイすればあらゆる感情とエキサイティングな探索が楽しめる。一方で、他のゲームがアクションにフォーカスしている中で、パーフェクトにスローなゲームライフを提供してくれるかもしれない。しかし、まずはこちらがそのペースに慣れる必要があるだろう。
いずれにせよ、『Stray』をプレイする誰もが非常に雰囲気のあるアドベンチャーを楽しめるはずだ。そして言うまでもなく、猫好きにはマストだ。『Stary』はパーフェクトなキャットシミュレーターだ。
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