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同人ゲームサークル「スタジオ シエスタ」のReboot Story

ハイクオリティーかつ独自性の高いシューティングゲームをリリースする同人ゲームサークル「スタジオ シエスタ」。その謎に包まれた実体に迫る。
Written by Giichi Totsuka
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実際にプレイして初めてわかった“異質”の弾幕シューティング

2015年末、米Valve社が運営するPCゲームダウンロード販売プラットフォーム「Steam」でリリースされた、国内デベロッパー開発のオリジナルシューティングゲーム『ヴァルシュトレイの狂飇(きょうひょう) - コラテラル・ハザード -』。私がこの作品を知ったのは、今年9月に幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2016」の、インディーゲームコーナー取材時だった。
ぱっと見は、よくありそうな縦スクロール弾幕シューティング。ジャンルとして好きではあるものの、昨今の作り手が想定する水準の腕前を持っていないことを自覚しているため、普段であれば見流していたかもしれない。しかしこの時は、なぜか惹かれるものを感じ、前の人の試遊が終わるのを待って、コントローラーを手に取った。
気がつくと、一機も失うことなく、何ステージも進んでいた。恐ろしい数の敵弾に追い詰められ、何度も被弾しているはずなのだが、短時間に連続で食らいさえしなければ、ミスと判定されないようだ。簡単で退屈だったのかといえばその逆で、プレイ中、ずっと充実していた。高難度かつ弾幕が鮮やかなシューティングゲームを、本当はこんな風にスイスイこなしたかった……というヘボゲーマーの理想が、みずからのプレイの感触として、叶っていたからだ。ボーナススコア獲得時の大仰な演出も、昔懐かしい小気味よさがあり、ドバドバ湧き出すスコアアイテムのビジュアルも心地よい。そうか、私はこういう気持ちを味わっていたいから、ずっとゲームが好きなんだなと、自身のゲーマーとしての“原点”に立ち返れた気がした
興奮冷めやらぬままプレイを終え、ふと目をやると、同一ブースの隣には、見覚えのあるゲームが展示されていた。それが、いまから10年近く前に同人ゲームとしてリリースされ後にアーケードゲームにもなった、国内外に多くのファンを有する横スクロールシューティングゲームの最新作だと気づくのに、時間はかからなかった。
▲初心者が本格的に見える弾幕シューティングを気持ちよく遊べるように……とのコンセプトで企画・開発された『ヴァルシュトレイの狂飇』。敵を倒すことで上昇するシールドゲージが60パーセント以上に達していれば、被弾を無効化できるなど、昨今のシューティングゲームのセオリーを覆す、画期的な要素が導入されている。現在、Steamで980円で販売中。今後は、DMM GAMES での配信も予定されている。
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“本業”のかたわらの、同人ゲーム開発

「スタジオ シエスタ」は、2002年に結成された同人ゲームサークルである。
その母体は、大阪府に本社があるソフトウェア開発メーカーの、東京支社のゲームソフト開発部スタッフ。同部門の解体を機に一斉退職・独立し、商用ゲームのグラフィックを受注制作していたメンバーが、「同人ゲームがおもしろそうだ」ということで、本業と並行して、みずからが企画・開発するゲームの制作を始めたという。
第1作目の『AIRRADE』は、当時人気の高かった美少女ノベルゲームの世界観とキャラクターを使用した、二次創作もの。開発メンバーが得意とするドットグラフィックの魅力をフルに生かした横スクロール型シューティングゲームで、最初に生産した5000本はあっという間に売り切れ、最初の1か月で、追加生産を合わせた10000本のセールスとなった。
▲2000年代にスタジオ シエスタがリリースした、ウィンドウズPC用同人ゲームのパッケージ(※一部例外あり)。筆者も当時『AIRRADE-AIR-』(新攻撃などが追加された、『AIRRADE』のパワーアップ版)を同人ゲーム取り扱いショップで購入し、遊びまくっていた。
スタジオ シエスタ設立時からの中心人物メンバーであり、ゲームソフト受注開発会社「ロケットエンジン」の代表取締役・近藤勇氏は「当時は同人ゲームブームだったので……」と謙遜する。とはいえ、初年度で約25000本の“大ヒット作”となった要因が、そういったタイミングの問題や、二次創作のネタ元の影響力だけであるはずがない。本作がシューティングゲームとしてよくできていたこと──原作美少女ゲームの興味から入った初心者にも取りつく島があり、かつ、コアなシューターが納得いくエッセンスが詰まっていたからこそ、話題が話題を呼んでいったのだろう。
小学生時代、地元のゲームセンターに足しげく通っては『グラディウス』(1985年/コナミ)をプレイしていた近藤氏にとって、シューティングゲームは特別なゲームジャンルだった。ハードなやり込み系ゲーマーとして、1980年代以降にリリースされたありとあらゆるシューティングゲームを仲間たちとプレイし、プレイヤーとして突き詰めた上での醍醐味を享受してきたが、その一方で、「すごくおもしろいのに、これ、初心者やシューティングが苦手な人は体験できないんだよな」という思いを持ち続けていたという。
ジャンルのコアなプレイヤーの要望に応える形で、特定の方向性で進化・鋭利化していく、商用シューティングゲーム。そうしたタイトルを受注案件として仕様書通りに開発するかたわら、「システム面に何かしら画期的なギミックがあり、それによってうまくない人も楽しめる」ことを信条とした同人ゲーム開発を行っていたスタジオ シエスタの活動は、文字通り“Siesta(※スペイン語で「お昼休み」の意)”だったに違いない。
▲ロケットエンジン代表取締役の、近藤勇氏(左)と西澤昇氏(右)。いずれもスタジオ シエスタ設立時からのメンバーで、同人・商用を問わず数々のゲームソフト開発に携わってきた。余談だが、お二人にお話を伺ったロケットエンジンのオフィスは、近藤氏の地元である埼玉県伊奈市の住宅街にある一軒家で、常時10人近くが開発作業に従事しているとのこと。

トラブルを乗り越えての、さらなる飛翔

『AIRRADE』以降、同作をブラッシュアップした続編や、某レトロタイトルに似過ぎていたため後に“封印”された縦スクロールシューティングゲームの開発を経て、2007年、スタジオ シエスタ完全オリジナルの横スクロールシューティングゲーム『トラブル☆ウィッチーズ 〜アマルガムの娘たち〜』(Windows PC用)が、リリースされた。本作は、自分たちで作りたいゲームはあっても、オリジナルものだと誰からも見向きもされないのでは……というメンバー間の懸念にたいする“回答”となった。
コミカルタッチのかわいらしいグラフィック世界と、展開することで範囲内の敵弾の動きを遅くするとともにボーナススコア稼ぎの契機にもなる“魔法陣”システムが好評を博し、セールス面でも上々だった。本作を研究しやり込んだプレイヤーは、ゲーム内ショップで強力な攻撃を購入しながら魔法陣展開で稼ぐスコアよりも、リソースを節約したプレイの全ステージクリアー時に加算されるボーナススコアを狙った方が高くなることに着目し、ストイックかつ地味なプレイによってハイスコアを競いあっていたという。そういった、自分たちの思惑から外れたプレイスタイルにたいしても、メンバーは「いろいろなプレイをしてもらえている」と好意的に解釈し、本作の基本システムに、確かな手応えと自信を感じていた。
「せっかくここまで作ったのだから、もっとこうすれば面白くなるだろうという思いは、つねにみんな持っていました」という近藤氏のコメント通り、『トラブル☆ウィッチーズ』は後に、アーケード版(※『トラブル☆ウィッチーズAC 〜アマルガムの娘たち〜』。システム基板用とNESiCAxLive配信用の2バージョンがある)、Xbox 360版(※『トラブル☆ウィッチーズ ねぉ!』。XboxLIVEアーケード配信タイトル)を自社で移植開発。SNKプレイモアの販売で、国内外のシューティングゲームファンへの知名度をさらに高めた。実はそれぞれの開発中、いずれも外的な要因のトラブルに見舞われ、一時期はリリースが危ぶまれる状態にまで陥ったという。受注の商用タイトル並みにリソースを割いていたこともあり、サークルの母体となる会社の存続も危ぶまれたが、後に無事リリースされ、「いまでは笑って振り返られる思い出」になったという。
▲2016年10月下旬にSteamで配信開始予定の、スタジオ シエスタ最新作『トラブル ウィッチーズ Orijin ~アマルガムの娘たち』。アーケード版のゲーム性をベースにしつつ、本作用のバランス調整が施され、新規のストーリーモードとプレイヤーキャラが追加されるなど、単なる移植作におさまらない構成となっている。「(以前からアナウンスしている)『トラブル☆ウィッチーズ2』の足がかりとして、とりあえず前作をSteamで出しておこうとなったのですが、いざ開発が始まると、近藤が新要素を盛りまくって、こういう形になりました」(西澤氏)
©Rocket-Engine Co.,Ltd./Studio SiestA/©Adventure Planning Service.
©2015Valve Corporation.All rights reserved.

“同人ゲームサークル”としてあり続けることの意義

アーケード版『トラブル☆ウィッチーズ』開発後、ロケットエンジンとして大口の案件を請け負ったことで、同人ゲームサークルの実質的な活動が約7年間手つかずだったという、スタジオ シエスタ。その“復帰”1作目である『ヴァルシュトレイの狂颷』にたいする、冒頭の感想を述べたところ、近藤氏は「私たちが伝えたかったことがまさにそれで、そう言っていただけると、嬉しいですね」と、照れくさそうに笑った。
実際のところ、『ヴァルシュトレイの狂颷』にたいするSteamユーザーの評価には、手厳しいものも多い。「初回プレイでクリアーしてしまったからつまらない」など、シューティングゲームのコツをある程度知っている人にとって、被弾を無効化するシールドのシステムは“甘過ぎる”のだ。
そうした指摘を受けることを承知の上でリリースされた『ヴァルシュトレイの狂颷』だが、2016年10月現在、アップデートパッチは10回以上配布され、ゲームのバージョンは”4.00”となっている。「せっかくのSteam販売ということもあって、本作の試行錯誤の延長として、ユーザーの要望をなるべく反映するようにしています。本業の合間を見計らって、『そういうものかなぁ……なら、これでどう?』みたいな感じで(笑)、システムを調整したり、新モードを追加したりしています」という近藤氏の発言からは、自分たちがこれだと思うシューティングゲームのあり方を、いかに多くのプレイヤーが納得いく形で提示できるかを追求し続ける真摯さが、感じとれた。
インタビュー取材の最後に、スタジオ シエスタはなぜ“同人”を名乗り続けるのか、個人的な興味で訊ねてみた。作品のクオリティー面でいえば明らかに商用レベルであり、組織の実態としても、ロケットエンジンという独立系デベロッパーの内部チームだからだ。
「商業的な考え方に固執していないからでしょうね」と、ロケットエンジン代表取締役の西澤昇氏は答えた。
「スタジオ シエスタとしてゲームを開発する時は、自分たちが満足いくものをまず出そうという、クリエイター集団としての方向性でいっちゃうので、利益を追求する“株式会社ロケットエンジン”とは、相反するものがあります。我々のスピリットとしてまずスタジオ シエスタがあり、その容れ物が必要だということでロケットエンジンがある……という認識ですね」(西澤氏)