サーファーと信仰心
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サーフィン

【Surf For Life #14】サーファーと信仰心

サーファー 間屋口 香がサーフシーンのリアルを綴る。サーファーならずとも、そしてサーフィン初心者でも胸にグッとくる、ハートウォーミングな連載コラム『Surf For Life』。
Written by Kaori Mayaguchi
読み終わるまで:4分公開日:
あなたはその「何か」を感じますか? その「何か」を信じますか?
私にとって他国へサーフトリップに向かう時、波とセットとなって楽しめるのが食と文化だ。カルチャーショックが大きければ大きいほど面白い。むしろそこを求めてサーフトリップの行き先を考える自分がいるかもしれない。
食と文化、そしてそこに大きく関わってくるのが宗教だと思う。
異国へ行くと、そこの人々の信仰の熱心さに感心させられることが多い。
16歳の時、初めてインドネシアのバリ島に行った時、ここは「神様の島だから」と教えられた。聞くまでもなく、その神様の島を目のあたりにした。一日に決められた回数のお祈りとお供え物が至る所で見られるし、ことあるごとに「お祭りだから」とサーフィンをお休みするバリヒンドゥーのローカル達。
かと思えば、イスラム教のサーファー達も大勢いる。インドネシアの他の島に行けば、イスラム色が強く、女性サーファーは肌を見せないように長袖のラッシュガードとレギンスを履いてサーフィンをしなければいけない場所もある。
先日ドバイに行った時、世界最先端の知恵を集めたハイテクノロジーシティーの中でも宗教色がとても強くあることを知って、カルチャーショックだった。目以外の全身は全部黒い衣装で覆っているアラブの女性達が、波乗りを始めるのはとてつもない大きな壁を乗り越えなければいけないのだろう。
クリスチャン圏では、海に入る前に胸で十字を切っているサーファーを見ることができるだろう。
クリスチャンと言っても沢山の宗派があるだろうけれど、海に入る前に彼らが十字を切るのは「お守りください」という意味があるらしい。
日本人はどうだろうか? 目にすることは少ないが海に入る前、上がった時に一礼をするサーファーがいる。その一礼には「ありがとうございます」の礼、敬意を示すための礼なのかもしれない。その礼は神様というより別の「何か」に対する敬意なのだろうか?
他国と日本、宗教、信仰と無神論者……、答えはでないのだが、そこをサーファーとかけて思い巡らすとけっこう面白いのだ。
日本ではお寺と神社が至る所にあり、本来とても信仰心の熱い人種だったことを語っている。
知らないだけで、暦や行事の起源をたどると、神様仏様が元となっていたりする。
多くの日本人が宗教離れしてしまうことは、不安定な世界情勢、不公平と感じる世の中、物や時間に追われる生活をしていれば当然の流れかもしれない。
ただ、その中でも、サーファーは違う流れや受け止め方、悟りを開いていると感じるのは私だけではないだろう。
無宗教、無神論者のサーファーでも、人間の業ではなし得ない「何か」を感じているかもしれない。
大きな海原で一人無力を感じる時。
波しぶき、太陽の光、風が調和した中に自分が居合わせた時。
荒れ狂う海を見て、恐怖を覚える時。
波に乗りながら、波にぐりんぐりんに巻かれながら、サーファーは身体全部をもって自然からのパワーを感じる。
自ずと畏怖の念、敬意の念をいだくまでに導かれる。
また海に行きたい、海に行かなければいけないという念にかられるのであれば、それはその「何か」を感じている証拠かもしれない。
サーファーとは人種。
サーフィンとは宗教。
と言い伝えられてきた。
何か嫌なことが起こった時、ストレスを感じている時、海へ向かい波に乗り巻かれると、
心もすっきりをしているのを感じるだろう。
海があるから自分を保ち、生活の軸ができると感じるのであれば、あなたは立派なサーフィン教の信者だ。
いくらパドリングしても進まない時、力つきそうな時、そんな時はその「何か」に祈ってしまう自分がいるかもしれない。困った時の神頼みではないけれど、海でも人生でもそんな場面は多々ある。
そんな時、サーファーなら知っている様々な掟を当てはめてみるといいかもしれない。
自然に逆らってはいけない、流れに任せなければいけない、進むか待つか、自然と接するサーファーなら海、もしくは自然という教典から教えられたことを当てはめていけばいい。
◆Author Profile
間屋口 香(まやぐち・かおり)
プロサーファー。10代で全日本タイトルを獲得し、20代は世界レベルで活動。ASP WQS6などの世界大会で好成績を残す。現在はコンペティションシーンからは引退し、地元である徳島県をベースに「サーフィンの楽しさを伝える」活動に従事する。
◆Information
本連載の公開中記事がイッキに読めるまとめページはこちら >> プロサーファー間屋口 香の連載コラム【Surf For Life】