勝田貴元
© Maruo Kono / Red Bull Content Pool
WRC

【WRC】勝田貴元が語る『世界で勝つため』のマインドセット

ケニアでの悲願のWRC初優勝、そしてクロアチアでの劇的な逆転勝利。世界の舞台で結果を重ね続ける勝田貴元は、日本のモータースポーツ史に新たな景色を切り開いた。だが、華々しい結果の裏で、当の本人は驚くほど静かだった。
Written by Tokio Ito
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ポイントリーダー? あまり気にしてなかったですね

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勝田はそう言って笑う。

クロアチアでの勝利後、日本人ドライバーとして初めて、WRCのチャンピオンシップランキングトップ(ポイントリーダー)に立った勝田貴元。その快挙について尋ねると、返ってきたのは、予想以上に淡々とした言葉だった。

勝田 貴元: 「大事なのは、それをどう継続するか。

『ここまでの結果として、ポイントリーダーだった』というだけの感覚です。簡単に言えば、1つのラリーでステージ10までトップだったぐらいのイメージ。

今は、シーズン終盤にトップいるには何が必要なのか、ということしか考えてないです」

勝田貴元

勝田貴元

© Jaanus Ree / Red Bull Content Pool

華々しい結果を重ねても、勝田の視線がそこで止まることはない。「勝つこと」だけではなく、「年間を通して勝負し続けること」。どんなラリーでも上位に踏みとどまり、チャンピオン争いの中に残り続けることが重要だと彼は語る。
01

“静かな貪欲さ”というマインドセット

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勝っても負けても、満足しない
勝田貴元

勝田貴元

© Taku Tsutsui

F1をはじめ、数多くの日本人ドライバーが世界最高峰へ挑み続けてきた。それでもなお "モータースポーツにおいて" 世界で勝ち続けるという壁は高い。では、なぜ勝田はその壁を越えられたのか。
本人は「秘訣」という言葉を使わない。ただ、その言葉を辿ると、ひとつの哲学が見えてくる。
それは、何事にも貪欲であること。

勝田 貴元: 「勝っても負けても、“もっとできたんじゃないか”って考えるんです。自分が満足したら、“それ以上“を目指すことがなくなるじゃないですか」

常に自分に何が足りなかったのかを問い、改善点を積み重ねていく。勝っても満足せず、浮かれすぎない。結果の先に、また次の課題を見つける。その姿勢こそ、勝田の強さを支えている。派手な闘争心というよりも、“静かな飢え”に近いものだ。
さらに印象的なのは、「モノのせいにしない」という考え方だ。
勝田貴元

勝田貴元

© Jaanus Ree / Red Bull Content Pool

モータースポーツは、ドライバーだけでは成立しない。マシン、タイヤ、セッティング、路面状況。無数の要素が絡む世界だからこそ、時に「クルマが悪かった」と言いたくなる瞬間もある。
それでも勝田は、どんな状況でも自分に問いを向ける。

勝田 貴元: 「実際そうだったとしても、“自分に何ができたか”を考える。そこをやらないと成長しないと思うんです」

勝田貴元

勝田貴元

© Taku Tsutsui

そしてもう一つ。勝田が繰り返し語ったのが、“大きな夢を持つこと”だった。
できると信じ、公言し、周囲を巻き込みながら前へ進む。その考え方もまた、今の勝田を形づくる重要なマインドセットのひとつだ。

勝田 貴元: 「できないと思ったら、絶対できない。できるって思うことが大事。公言することで、周りの環境も少しずつできていく部分はあると思うので」

貪欲さ、自責、そして信じる力。勝田の強さは、意外なほどシンプルだった。
02

フィンランド時代の絶望がつくった“折れない土台”

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周りの声に振り回されない
勝田貴元

勝田貴元

© Jaanus Ree / Red Bull Content Pool

しかし、その思考にたどり着くまでの道は平坦ではなかった。
フィンランドへ拠点を移した当初、サーキット出身ならではの「100%全開で攻める癖」が抜けず、クラッシュを繰り返した。頭では理解していても結果につながらない。焦りがミスを呼び、そのミスがまた不安を生む。何をやっても噛み合わない感覚が続いたという。
さらに当時はSNSで「親の七光り」「出来レース」といった言葉も向けられた。
若かった勝田にとって、それらを受け流すことは簡単ではなかった。

勝田 貴元: 「うつまではいかないけど、かなり憂鬱でした。でも、そこで諦めて全て終わりにしちゃったら、自分に向けられた周りからの誹謗中傷を肯定したことになっちゃうじゃないですか」

勝田は精神的にも追い込まれながら、それでも歩みを止めることはなかった。
しかしその後、転機が訪れる。2018年、WRC2で初優勝。世界の舞台で結果を残したことで、それまで向けられていた周囲の声は少しずつ変わっていった。

勝田 貴元: 「自分にもできるんだっていう証明になりましたね。

あと、WRC2で優勝した途端に意見を変えていく人達の姿を見て、こういう人たちの声に振り回される必要はないな、と思うようになりました」

WRC2での勝利は、勝田にとって単なるリザルト以上の意味を持っていた。外からの評価に揺さぶられ続けた日々を経て、徐々にその声との向き合い方も変わっていったという。
世界で戦う土台は、才能だけで作られたものではない。苦しさの中で折れずに積み重ねた時間が、今の勝田を支えている。
03

世界のトップと戦う“静かな強さ”

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無理に速さを証明しない
勝田貴元

勝田貴元

© Maruo Kono / Red Bull Content Pool

ラリーでは、時速150kmを超える速度で先の見えないコーナーへ飛び込む。恐怖との戦いに見えるが、勝田は特別なルーティンはないと言う。

勝田 貴元: 「基本的に常にゾーンに入ってる感じですね。」

感情を大きく揺らさず、フラットでいること。それが極限状態で崩れない理由なのかもしれない。
そして今、かつての自分との最大の違いをこう語る。

勝田 貴元: 「今は無理に速さを証明しようとしていないです。

変なミスによる取りこぼしは絶対にしたくない。調子が悪い時こそ、粘り強く戦い抜くことが大事だと思っています」

以前は、自分の存在意義を示そうと焦っていた。しかし今は違う。チームも、自分の速さを理解している。だからこそ、調子が悪い時に無理をしない。勝てる時に勝ち、耐えるべき時に耐える。
けれどその奥には、日本人初の世界王者という、誰も見たことのない景色へ向かう確かな意志が宿っていた。
勝田貴元

勝田貴元

© Taku Tsutsui