WRC
【WRC】勝田貴元が語る『世界で勝つため』のマインドセット
ケニアでの悲願のWRC初優勝、そしてクロアチアでの劇的な逆転勝利。世界の舞台で結果を重ね続ける勝田貴元は、日本のモータースポーツ史に新たな景色を切り開いた。だが、華々しい結果の裏で、当の本人は驚くほど静かだった。
ポイントリーダー? あまり気にしてなかったですね
勝田はそう言って笑う。
クロアチアでの勝利後、日本人ドライバーとして初めて、WRCのチャンピオンシップランキングトップ(ポイントリーダー)に立った勝田貴元。その快挙について尋ねると、返ってきたのは、予想以上に淡々とした言葉だった。
華々しい結果を重ねても、勝田の視線がそこで止まることはない。「勝つこと」だけではなく、「年間を通して勝負し続けること」。どんなラリーでも上位に踏みとどまり、チャンピオン争いの中に残り続けることが重要だと彼は語る。
01
“静かな貪欲さ”というマインドセット
勝っても負けても、満足しない
F1をはじめ、数多くの日本人ドライバーが世界最高峰へ挑み続けてきた。それでもなお "モータースポーツにおいて" 世界で勝ち続けるという壁は高い。では、なぜ勝田はその壁を越えられたのか。
本人は「秘訣」という言葉を使わない。ただ、その言葉を辿ると、ひとつの哲学が見えてくる。
それは、何事にも貪欲であること。
常に自分に何が足りなかったのかを問い、改善点を積み重ねていく。勝っても満足せず、浮かれすぎない。結果の先に、また次の課題を見つける。その姿勢こそ、勝田の強さを支えている。派手な闘争心というよりも、“静かな飢え”に近いものだ。
さらに印象的なのは、「モノのせいにしない」という考え方だ。
モータースポーツは、ドライバーだけでは成立しない。マシン、タイヤ、セッティング、路面状況。無数の要素が絡む世界だからこそ、時に「クルマが悪かった」と言いたくなる瞬間もある。
それでも勝田は、どんな状況でも自分に問いを向ける。
そしてもう一つ。勝田が繰り返し語ったのが、“大きな夢を持つこと”だった。
できると信じ、公言し、周囲を巻き込みながら前へ進む。その考え方もまた、今の勝田を形づくる重要なマインドセットのひとつだ。
貪欲さ、自責、そして信じる力。勝田の強さは、意外なほどシンプルだった。
02
フィンランド時代の絶望がつくった“折れない土台”
周りの声に振り回されない
しかし、その思考にたどり着くまでの道は平坦ではなかった。
フィンランドへ拠点を移した当初、サーキット出身ならではの「100%全開で攻める癖」が抜けず、クラッシュを繰り返した。頭では理解していても結果につながらない。焦りがミスを呼び、そのミスがまた不安を生む。何をやっても噛み合わない感覚が続いたという。
さらに当時はSNSで「親の七光り」「出来レース」といった言葉も向けられた。
若かった勝田にとって、それらを受け流すことは簡単ではなかった。
勝田は精神的にも追い込まれながら、それでも歩みを止めることはなかった。
しかしその後、転機が訪れる。2018年、WRC2で初優勝。世界の舞台で結果を残したことで、それまで向けられていた周囲の声は少しずつ変わっていった。
WRC2での勝利は、勝田にとって単なるリザルト以上の意味を持っていた。外からの評価に揺さぶられ続けた日々を経て、徐々にその声との向き合い方も変わっていったという。
世界で戦う土台は、才能だけで作られたものではない。苦しさの中で折れずに積み重ねた時間が、今の勝田を支えている。
03
世界のトップと戦う“静かな強さ”
無理に速さを証明しない
ラリーでは、時速150kmを超える速度で先の見えないコーナーへ飛び込む。恐怖との戦いに見えるが、勝田は特別なルーティンはないと言う。
感情を大きく揺らさず、フラットでいること。それが極限状態で崩れない理由なのかもしれない。
そして今、かつての自分との最大の違いをこう語る。
以前は、自分の存在意義を示そうと焦っていた。しかし今は違う。チームも、自分の速さを理解している。だからこそ、調子が悪い時に無理をしない。勝てる時に勝ち、耐えるべき時に耐える。
けれどその奥には、日本人初の世界王者という、誰も見たことのない景色へ向かう確かな意志が宿っていた。