2つのVan Halenモデル
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ミュージック

【間違いだらけのギター論】MUSIC MAN、PEAVEY。2つのVan Halenモデル

ありがちな試奏レビューなど一切無し!ギターの見た目&サイドストーリーだけで、名機に隠された物語を独断で読み解いていく新企画。今回は前項に引き続き、一人の天才が生み出した2つの名機の物語を紐解いていこう
Written by 藤川経雄
読み終わるまで:9分公開日:
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天才ギタリストが細部にまで拘った始めてのシグネイチャー、MUSIC MAN EVH

エドワード・ヴァン・ヘイレン。いまさら説明の必要もない天才ギタリストであり、今なお現役バリバリ(しばらく音沙汰が無いがそうと信じたい)の不世出の音楽家である。 前項では彼の最大の特徴である柔軟過ぎる発想力と、長年に渡る音楽活動のなかで蓄積した膨大な経験値を基に生み出された“2つのWolfgang”を紹介したが、折角なので今回は更に時代を遡って、実際に世に流通した、という意味ではエディシグネイチャーモデルの原点といえる“ERNIE BALL MUSIC MAN EVH ”(以下、MUCIC MAN)も絡め、エディシグネイチャーの歴史を独断と偏見を絶妙に混ぜ合わせつつ、少し紐解いてみたいと思う(ちなみにここで登場するPEAVEYは筆者所有物、MUSIC MANは制作チーム関係者からお借りした個人所有物です)。
時は1980年代後半。当時エドワード・ヴァン・ヘイレンが自身のシグネイチャーモデルを開発している、という情報が漏れ伝わってきた時には、にわかには信じられなかったファンも多かったように思う。実際筆者もそのクチであった。なぜなら当時のエディはKRAMER社とエンドースメント契約を結んではいたが、実際に愛機として使用していた、後にKRAMER5150と呼ばれることとなる個体を元にしたシグネイチャーモデルはついに登場することは無かったからだ。あまりにもKRAMER社が重い腰を上げないものだから、当時沢山存在していた信者同様、筆者も所有していたアイバニーズのピックアップを1ハムにし(もちろんボディ直付け)、ボディにガムテープ(マスキングテープ? なにそれオイシいの?)をあのストライプに似せてマスキングし、缶スプレーでペイントして悦に入っていたものである。ちなみにエディ自らがKRAMERの工場へ出向き、様々なモデルのパーツを好みでチョイスして組み上げたとされるその個体は、今でもその詳細、経緯がいまひとつハッキリしていない。そう、エディのイクイップメンツ(機材)に関してはこの5150の例を持ち出すまでもなく常に仮定の範疇を越えなかった。
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シグネイチャーモデルはベールに包まれた“音色の秘密”を解き明かす

例えば有名なマーシャルの昇圧問題や、フランケンストラトについても。ボディの材質やES335からトレードしたというオリジナルPAFピックアップのカスタマイズなど、噂や謎とされている話題は未だに多い。それもこれもエディ自身が自ら編み出した秘伝を他人に教えたくなかったため、適当にお茶を濁していた話を当時のメディアがそのまま伝えてしまっていた、というのが事の顛末なのだそうだが…。事実、マーシャル昇圧の件では、当時事実ではないことを話した、と最近になってコメントを残している(現在では減圧だったという説が濃厚。真似したくてもできなかった筆者は勝ち組)。いかにもひねくれ者の天才、エディらしいエピソードと言えば可愛らしいが、そういった行動で「自らを煙に巻く」エディがオフィシャルでシグネイチャーモデルなどを出す筈がない、 と筆者などは信じて疑わなかった。それこそ自らの秘伝を世に晒してしまうことになるからだ。
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エディならではのアイデアが始めて具現化されたギターとは

だからこそ、 MUSIC MANと契約したという情報を耳にした時は意外過ぎて驚いたのだが、本当に心底驚いたのは MUSIC MAN EVH(当時はMUSIC MAN Edward Van Halen Modelと呼ばれていた)のプロトタイプが発表されたその瞬間だった。デビュー以後、ほぼ一貫して使い続けた1ハムバッキングのストラトタイプというフォーマットから完全に逸脱したその仕様。そして当時のロックギターのトレンドからは少し距離を置いたかのようなそのフォルムは様々な意味で鮮烈であった。そういう意味では今になってみればやっぱりエディは一筋縄ではいかない天才なのだと納得もするのだが…。
そんな意外性に満ちた経緯で生み出された MUSIC MAN EVHだが、改めて眺めてみると、見事にエディの持つ一貫したコンセプトの過去と現在を繋ぐ重要な役目を担っていたのだと気付かされる。前項でも記した通り、エディのサウンド的な嗜好は一貫してレスポール寄りであり、現在のEVHもまさにその方向性で作られていると推察されるが、このMUSIC MAN以前はレスポールとはむしろ逆の方向性を持ったギターを使い続けていた。KRAMER然りフランケン然り、オールドファンにとってはストラトを抱えた姿の方が自然だと感じる程に強烈に脳裏に焼き付いている。もちろんエディ自身もストラトを始めとしたフェンダー系の持つ操作性との相性の良さは自身の演奏技術にも必須であるため、それを内包したままレスポールの良さも取り入れるべくして誕生したのがMUSIC MAN EVHであったように思う。
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メイプル指板のボルトオンネックにボディを小振りにするためのテレキャスターを思わせるシングルカッタウェイ、そしてフラットトップなど、操作性に直結する仕様はフェンダー系のそれであり、ブリッジ下部のふくよかなボディラインや木目を生かしたメイプルトップ、バスウッドバックのラミネートボディなどの音質に関わる部分はレスポールのそれを取り入れているのは間違いない。更にそこにエディならではの仕様、例えばほぼ無塗装に近いオイルフィニッシュネックやピックアップのボディ直付け、Dチューナーなどを加える事で、未だにAXSISと名を変えてMUSIC MANのカタログに継続ラインナップされる程の名機が生み出されたわけだ。実際に現在過去問わず多くのプロミュージシャンが使用しているのを見ても、いかにMUSIC MAN EVHがギタリストにとって良く出来たモデルかが理解できる。
そんなエディ至上初の“オフィシャル”シグネイチャーモデルはそれはもう話題を呼び、なおかつ評価も高かった。実際にエディオフィシャルがEVHブランドとなった今でも、程度のいい中古品を探し求める好事家も多いと聞く。その理由の一つは圧倒的なプレイアビリティの高さなのは間違いないが、中でもネックの良さは傑出していた。滑らかな運指を実現するための左右非対称ネック形状にほぼ無塗装の握り心地の良さ、そして緩いRは付いているもののほぼフラットな指板。一度握ったら忘れられない、そんな麻薬のようなネックの良さ、そして全体像はそのままに、更にそこから改良、熟成を加えて完成したのがPEAVEY Wolfgangである。
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“二代目”PEAVEY Wolfgangのキーワードは「継続」と「変革」

PEAVEY Wolfgangは各部のディテールを見ても分かる通り、多くの面でMUSIC MAN EVHを見本とし、踏襲しているのが理解できる。前述のネックのディテール然り、ボディマテリアル然り、違うメーカーであるはずなのに纏っている雰囲気は驚く程似通っている。それはMUSIC MAN EVHが現在のEVHまで連なるエディシグネイチャーモデルの、まさに原点となっていることを意味する。しかしその反面、新しい試みや改良点がPEAVEY Wolfgangには膨大に詰め込まれている。それはエディの好みの変化であったり、MUSIC MANを使い続けた上で発見した改善点であったりと様々だが、まず見た目で分かるのがボディ形状の変化だ。前項でも少し触れたが、レギュラーモデルではアーチドトップを採用(フラットトップの「スペシャル」などもあるが)することでよりレスポールに近くなった部分はエディの好みの変化によるものと推測できる。その一方でシングルカッタウェイがストラトを思わせるダブルカッタウェイとなり現代的にアップデート。見た目は人それぞれの好みによるので一概には言えないが、個人的にはよりスタイリッシュになったように思える。
そしてあの弾きやすく、グリップ感に優れたネックは、更なるアップデートとしてトラスロッドにカーボンを使用することでより剛性を確保。これは、無塗装に近いMUSIC MAN EVHネックのコンディションの不安定さが度々報告されていたことに対する対策と推察される。実際にファンウェブなどでは「ネックがよく動く」というユーザーの報告も多いと聞く。但し撮影用に用意した個人所有のMUSIC MANはまったくそんな事は無いという事らしいのでもちろんこれは個体差によるものと思われるが、量産品として世に出す以上、より高い安定性を追求するのは当然のことであろう。ちなみに筆者のPEAVEY Wolfgangネックはまったくメンテナンスをしていないにも関わらずすこぶるグッドコンディションで、他の所有機全てをまったく同じネックに交換したいほどお気に入りである。
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シグネイチャーモデルの意義を改めて世に問うたその存在感

ギターヒーローなどという言葉が飛び交っていた80年代の洋楽ハードロックシーンでは、それこそ誰々モデルと冠の付いたシグネイチャーモデルが雨後の筍のように生み出されていた。なかには既存モデルのカラーリングを変えただけの商売っ気しか感じないようなものがあったし、そもそもシグネイチャーモデルとはそのギタリストのファンが購入するコレクターズアイテムとして、実際の性能面にはそれほど気を配っていなかったものも多かったように思う。もちろん全てがそうだったと言うつもりはないが、例えばボリュームポットのカーブ特性にまで拘った、そのアーティスト本人が使用しているものと完璧に寸分違わぬ“同じ”ものが市販モデルとしてその辺の楽器屋で手に入れられて、ギターとしても質も非常に高く、むしろ積極的に一軍として使いたい。現役アーティストのシグネイチャーモデルとして、そう感じさせてくれる存在感を発揮したのはMUSIC MAN EVHが最初であったように思う。
そして今やシグネイチャーモデルは名機と呼ばれるモデルの宝庫だ。例えばスティーヴ・ヴァイのIbanes JEM/UV(7弦)シリーズや高崎晃氏のKiller PRIMEなどを始めとして、フェンダーやギブソンも一昔前に比べてシグネイチャーモデルに積極的だ。MUSIC MAN EVHの登場がそういった潮流を生み出す一つの大きな切っ掛けであったのは間違いないであろう。そして思い出して欲しい。そう、エディが愛してやまない“レスポール”がそもそもアーティストモデルであったことを。