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ファミコン版『ウィザードリィ』(1987年/アスキー)生誕30周年を機に、今年(2017年)の5月に『ウィザードリィの深淵』という同人誌が発売され、ファンの間で話題を呼んでいる。知らない人のために説明すると、『ウィザードリィ』は、1981年にアメリカでAppleII用のソフトとして誕生したRPGの大御所的作品。その後いくつもの続編が登場し、日本でもPCや家庭用ゲーム機など様々な機種に移植され、多くのファンを獲得している。
RPGというジャンルの発展に大きく貢献し、かの『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』といった家庭用ゲームにも影響を与えた、まさに古典的名作である。
この、"ゆずもデザイン"が制作した同人誌『ウィザードリィの深淵』には、様々な形で『ウィザードリィ』に携わった関係者11名の貴重なインタビューが掲載されている。光栄ながら、筆者・忍者増田も『ウィザードリィ』愛好家のひとりとして、メールでのインタビューに回答させていただきました。
このときいただいた質問に、「『ウィザードリィ』はいまだに続編が作られているが、なぜここまで愛され続けているのだと思いますか?」というものがあった。私は、とてもひと言では答えられないと前置きしながらも、理由のひとつとして「プレイヤーの想像力でいかようにもなるゲームだから」と回答。『ウィザードリィ』の魅力はたくさんあれど、"長く遊べる理由"であればここに行きつくだろうと思ったのだ。
『ウィザードリィ』では、マイキャラの姿や装備品などはいっさいグラフィック表示されない。冒険中に、ストーリーを押しつけるような過剰な演出もない。ビジュアルや物語が極端にシンプルなぶん、己の想像を自由に働かせて楽しめるゲームであることはファンなら周知の事実。想像力豊かなプレイヤーならば、何度プレイしても、そのつど違う物語ができあがったりもするのである。これが『ウィザードリィ』の素晴らしくもズルいところで、長く遊べる大きな理由のひとつだと私は考えている。妄想家限定だけど。
実際に私自身も、アイテムの形状ひとつに想像を巡らせて『ウィザードリィ』を楽しんでいたことを思い出した。本作の"シナリオ1"に登場する忍者最強の武器"手裏剣"は、私が最初にプレイしたPC-8801版では名称が"SHURIKENS"であり、アイテム鑑定前の不確定名が"STARS"であった。ここで、この手裏剣は棒状ではなく、十字手裏剣のような星型のタイプだと想像ができる。"SHURIKENS"と複数形になっているから、何枚かで1セットなのだろう。そして私はのちに、『ウィザードリィ』の生みの親であるロバート・ウッドヘッド氏に取材する機会に恵まれ、手裏剣は「星型のものが数枚セットになっていて、それを敵に投げて攻撃するイメージだった」という正解を聞き出すことができた。
しかし、グラフィックが表示されていないのだから、制作者のイメージに捉われなくてもいいのである。実は私のなかの『ウィザードリィ』の手裏剣は、白土三平の忍者漫画に登場する大型の手裏剣、"風車手裏剣(ふうしゃしゅりけん)"ということで確定していた。わからない人は、『TIGER & BUNNY』の折紙サイクロンが背負っている巨大な十字手裏剣をイメージしていただきたい。ってコチラもわからなかったらごめんなさい。
とにかく、ゲーム内での手裏剣の破壊的なダメージ値を考えると、小さい手裏剣をちまちま投げて攻撃する姿が結びつかなかったのである。だいたい、そんなものを投げていたらすぐなくなってしまうはず。その点、風車手裏剣ぐらい巨大であればなくならないし、ダメージが大きいのも納得できる。当然1枚しか持てないが、名称が複数形なのは、星型手裏剣の形状なら刃が複数あるからだと強引に解釈させていただいた。
一方、『ウィザードリィ』の手裏剣を"苦無(くない)"であると解釈し、自著の小説に登場させた人もいる。『隣り合わせの灰と青春』の著者として知られるライター・小説家のベニー松山さんだ。苦無とは、柄尻が輪になった短刀のような形状をした忍者用具で、穴を掘ったり、壁に穴を開けたりなど多目的に使用できる万能ツール。いざというときは武器にもなるし、実際に忍者漫画などで、苦無を手裏剣や刀のように使用しているケースも多い。
『隣り合わせの灰と青春』では、手裏剣を投擲専用の武器とはせず、1本の苦無を刀のように持って敵を攻撃するという設定が採られている。私は当時この小説を読んだときに、「なるほど、苦無という解釈があったか」と唸らされた。まだ『NARUTO』の連載も始まっておらず、苦無という忍者アイテムが現在ほど一般的に知られていなかった時代でもあった。
補足すると、ベニーさんは『ウィザードリィ』をオリジナルのAppleII版からプレイしている人である。AppleII版での手裏剣の名称は"SHURIKEN"であり、不確定名は"WEAPON"。これはファミコン版"シナリオ1"も同様であり、AppleII版やファミコン版に準じて想像するならば、星型の手裏剣に捉われる必要もないわけだ。名称が複数形でもないから、苦無1本というのも自然で納得できる話なのである。
せっかくなのでこの機会に、ベニー松山さんご本人に、手裏剣を苦無と解釈した経緯を伺ってみた。ベニーさんは、「ゲームの戦闘で起こることを自分のなかで納得できるよう考察したときに、十字手裏剣のような投擲武器としてはイメージできなかった」という。
なぜなら、多数の敵を相手に手裏剣を投擲武器として使用すると、1ターンごとに投げては回収するという現実性の低い行為を繰り返さなくてはならないからだ。そこで苦無という、棒手裏剣とも解釈できる忍者特有の道具を持ち出し、投げるのではなく刀のように敵を斬るという設定を用いたわけだが、ウマいなぁと思う。
さらに小説内で、「戦士は"力"で、侍は"気"で、忍者は"スピード"で敵を斬る」とベニーさんは記しているが、当時この解釈にもとてもしっくりきた記憶がある。スピードで敵を斬るために苦無のような軽い小刀を用いるのは理にかなっているし、その姿は忍者のイメージにもピッタリだ。
ちなみに私が解釈した風車手裏剣は、大きくても投擲武器には違いないから、やはり攻撃後には回収が必要となる。自分ではそれなりに理屈をつけて設定したつもりでも、大きな穴があるわけだ。でもベニーさんは、「風車手裏剣もアリなんじゃない? すごい高いダメージを与えられるけど、取りに行く時間を考えて1回の攻撃が2〜3ターンかかるとかならアリだと思う(笑)」とやさしくフォローしてくれたことを付け加えておこう。『ウィザードリィ』の新作を出そうと考えているメーカーさん、ぜひこのシステムを採用してください。
我々独自の手裏剣の解釈、いかがだっただろうか? たった1アイテムでこれだけ自由に想像を広げて楽しめるのは、『ウィザードリィ』ならではだと思う。私も今回、ベニーさんと久しぶりにこういう話をして楽しかったし、「やはりこんなに想像を働かせて論議できる『ウィザードリィ』ってイイよね」という結論で落ち着いた。同人誌のインタビューを受けたのをきっかけに、またひとつ『ウィザードリィ』の魅力を再確認できたのだ。
『ウィザードリィ』にご無沙汰している昔のファンがいたら、この機会に久しぶりに遊んでみてはどうだろうか? 人間の想像力は、成長するものである。少年時代にプレイしたときより、もっともっとおもしろい物語が待っているかもしれない。
◆◆◆ベニー松山氏の著書◆◆◆
ベニー松山氏の著書について補足する。『隣り合わせの灰と青春』と、続編の『風よ。龍に届いているか』、『不死王』などの『ウィザードリィ』小説は、現在Kindle版が配信中。また、プレイステーションVitaのRPG『新釈・剣の街の異邦人』限定版に同梱された小説に新規エピソードを追加した『墜ちて修羅、鋼刃舞うは極夜の空』も、小説単独で発売中だ。『剣の街の異邦人』も『ウィザードリィ』チックな匂い漂う名作なので、ゲームをプレイしてまだ小説を読んでいない人はぜひ。
《画像クレジット》
*1・・・Copyright (C) 1987 by Andrew Greenberg, Inc. and Robert Woodhead, Inc. and Sir-tech Software, Inc. Copyright (C) 1987 by GAME STUDIO Inc. and ASCII Corpration for Japanese translation. Wizardry-Proving Grounds of the Mad Overlord, is a copyrighted program licensed to ASCII Corpration by Sir-tech Software, Inc. Wizardry is a registered trademark of Sir-tech Software, Inc. All rights reserved.
*2・・・Copyright (C) 1992 by Sir-tech Software, Inc. All rights reserved. WIZARDRY is a registered trademark of Sir-tech Software, Inc. WIZARDRY is a series of copyrighted programs licensed to ASCII Corp by Sir-tech Software, Inc. Modifications for the GAME BOY format (C) 1992 by ASCII Corp All rights reserved.







