Tapping Style

美しい音色を奏でるがための《タッピング奏法》とは? その優位性を検証!

© RED BULL MUSIC

タリラタリラ…だけがタッピングじゃない、というのは今や当たり前。だけどタッピング奏法ってこんなにも美しいものなんだって知ってた? そう思わせてくれる才気溢れるプレイヤー達を紹介してみたい。

むかーしむかし、あるギター初心者がおりました。彼はFのローコードすらまともに鳴らせないくせに、当時のヒーローであったエディ・ヴァン・ヘイレンのライトハンド奏法(いわゆるタリラタリラ…)をひたすら練習するという、あまりに偏った初心者ライフを日々送っていました。ちなみに当時、そんな若者はゴマンと存在していたとかいないとか…。
…と、当時の自分を懐かしむような私小説さながらの導入で始めてしまって大変申し訳ないが、実際、タッピング奏法の普及におけるエディの功績は大変なものがあった。
とはいえ、彼が提示して見せたあの印象的なトリルスタイル。それは間口の広いタッピング奏法という技術の中でも、特異性というほんのひとつまみの要素を提示したに過ぎなかったのは、タッピング奏法そのものが劇的な進化を遂げた現代から見れば明らか。それほど現代のタッピング技術の幅は大海のように広く、そして深い。
つまり何が言いたいかというと、今やタッピングそのものの特異性以上に、音色や音楽性の向上のための必然としてタッピング奏法が用いられる時代になったということ。
当時初心者であった筆者が安易に考えていたような、ただただトリッキーさを狙うだけのものではなくなったというわけだ。
さて、そんな、高い音楽性を高度なタッピング技術を駆使して表現するアーティスト、プレイヤーは今や枚挙にいとまがない。なかでも筆者的にこれは! と感じたお勧めプレイヤーを紹介しつつ現代ギターテクニックにおけるタッピング技術の優位性を紐解いてみたい。

マスロックとタッピングの親和性の高さを証明する“Yvette Young”

7弦ストランスバーグの指板上をクラシックバレエのステップさながらに指を踊らせ、美しい旋律を生み出しているのはマスロック色の強い3ピースバンド、COVETの中心人物、Yvette Young。
彼女の経歴を軽く紐解いてみると、幼少の頃からクラシック音楽の英才教育を受け、3歳でピアノを始め、7歳でバイオリンをマスター。学生時代はバイオリンプレイヤーとして参加していたオーケストラの公演で日本を訪れたこともあるという。
そんな彼女だからこそ、ピックを使用する通常のギター演奏スタイルに比べると、幅の広い音楽的表現の可能性が広がるタッピング技術の方により魅力を感じたのは当然だったのではないだろうか。
さらにそのクラシックの素養は、バンドの特徴である変則的なリズムと特異なメロディといった、いわばマスロック的スタイルにも十二分に反映されているのだが、そのバンドサウンドの要として聴かれるメロディは、まさにタッピングだからこそ再現可能な複雑な旋律
Yvette Young
Yvette Young
加えて言えば、ピッキングよりもサウンドの均一性が高いタッピングは、演奏動作も含めてピアノとの共通点も多く、ピアノを嗜んでいた彼女が好むのも頷ける。
自らが持つ音楽的素養、そして音楽的欲求の赴くまま、タッピング奏法を極めたYvette Young。アコースティックギターからギターの世界に入ったという彼女ならではのフィンガーピッキングとタッピングの融合は、見た目のインパクトはもちろん、マスロックの新しい可能性をもたらしてくれるはずだ。

アコースティックだからこそ、ダイナミクスに富んだタッピングを可能にする“Eeik Mongrain”

アコースティックギターの歴史の中でも、重要なポジションに位置付けされるであろうマイケル・ヘッジスの影響を色濃く感じるが、更にそこから新たな可能性を見いだしたかのような演奏を繰り広げる Eeik Mongrain。
カナダ出身の彼が繰り出すサウンドはまるで空間のあちこちに火花が散るかのような、タッピングならではといえる予測不可能な旋律でありつつも、演奏が終わった瞬間にまるで残像のように全体像が浮かび上がる不思議な感覚を与えてくれる。
この曲は「ラップタッピング」と呼ばれる、ギターをひざの上に水平に寝かせて両手でタッピングする奏法で演奏されている。
元来、アコースティックギターはダイナミクスに優れた楽器であるが、その能力を最大限に引き出すかのようなたっぷりアンビエントの効いた独特の演奏は圧巻だ。
通常のタッピングとタッピングハーモニクスを複雑に組み合わせることでダイナミズム溢れる鋭角な旋律を作り出していく様はまさにタッピング奏法を交えたスタイルだからこそ。
Erik Mongrain
Erik Mongrain
ちなみに彼はラップタッピングスタイルでの演奏だけではなく、むしろギターを抱える通常の演奏方法も得意としている。
アコースティックギターが潜在的に有している性能を引きずり出すかのように様々なテクニックを使いこなす彼のギタースタイルのなかでは、タッピング奏法は一つの可能性でしかない。が、そこに未知の驚愕がたっぷり詰め込まれているのは間違いない。
是非彼の音世界を堪能して欲しい。

アコギの奏法をベースに応用? “Grant Stinnett”

変則チューニングを駆使し、4弦ベースでダイナミックな演奏を繰り広げてくれるのはソロ・インストゥルメンタルプレイヤー、Grant Stinnett。
彼の演奏の特徴は、アコースティックギターで使われる技術をベースに応用したかのような多彩なテクニックを基礎として、そこにベースならではのレンジの広いサウンドを活かした旋律を組み合わせたことにある。
もちろんそのサウンドの中で重要なポジションを占めているのがタッピングプレイ。あくまで筆者の個人的な意見だが、元々ダイナミックレンジの広いベースとタッピングとの相性はとても良いと考えていたので、彼のプレイをYouTubeの大海の中から見つけ出した時には、まるで筆者の持論を代弁してくれたかのようでとても嬉しかったのを憶えている。
Grant Stinnett
Grant Stinnett
しかも彼のタッピングプレイは、例えばビリー・シーンのようなスタイルとは正反対のアコースティッ ク的なものであるがゆえに、どこまでもクリアーかつダイナミック。
それこそ上で紹介したアコギプレイヤー、 Eeik Mongrainの演奏とも共通項が見いだせる部分も多いので見比べてみると大変興味深い。
彼が繰り出すタッピングプレイは、現代のタッピング技術のなかにあってはもはやシンプルな部類といえるが、ベースという楽器の特性を熟知しているからこその“響き”を重視したサウンド、旋律は、タッピングの持つサウンドの均一性の高さをも証明してくれるものとなっている。

タッピングって面白くて美しく、ギター奏法の可能性も引き上げてくれるモノなのだ

「タッピングってアレでしょ? チャラチャラ弾くやつ…」なんて、ある一定の年代の諸兄のなかには、すこ〜しチャラい印象を持っている方も多いと思われる。
しかし、そもそもそういった印象が付いてしまった’80年代のハードロック/ヘヴィメタルよりももっと古くから、なんならギターという楽器が誕生した次の瞬間には使われていたであろうタッピング奏法は、実はとっても奥深く、美しいものであるのが理解していただけたかと思う。
実際、今回紹介した3人に共通した要素が“アコースティックギター”だったのはただの偶然ではないはず。それこそ、美しい音色を奏でるための優位性が、タッピングというテクニックに内包されている証明だと言えるのではないだろうか。
…と、そんな小難しい理屈を並べてはみたが、そもそも単純に弾いているそのヴィジュアルがまず見ていて楽しいと思いませんか?
しかも聴こえてくる旋律は、押弦してピックで弾く通常のギター演奏とはまったく違ったもの。きっとタッピング奏法の潜在能力はまだまだこんなモンじゃないはず。世の才能溢れるプレイヤー達に今後も大いに精進して頂きたいものだ。
もちろん筆者も一人の音楽好きとして追いかけていく所存。さて、まずはエディのトリル奏法を勉強し直すことから始めなきゃな…。