The long-awaited Tekken 8 is here.
© Bandai Namco Studios
eスポーツ

『TEKKEN 8』:開発チームが語るシリーズ最新作の魅力と特長

約9年ぶりの人気獲得ゲームシリーズ最新作のリリースを前に、開発チームのデザイナーとディレクターが今作ならではの機能やAI採用の背景、新キャラクターの魅力などについて語った。
Written by Joe Ellison
読み終わるまで:13分公開日:
8年と11ヶ月8日はゲーミングシーンでは「かなり長い時間」だが、ここまで正確に数えているのには理由がある。
2015年の名作をさらにスケールアップさせた『TEKKEN 8』が、格闘ゲーム史上最大のアイディアとともに1月26日にリリースされるからだ。そして「格闘ゲーム史上最大」と断言できるのは、私たちがテストプレイの機会に恵まれたからだ。
ロンドンで開催された試遊イベントで、私たちは『TEKKEN 8』デザイナーのマイケル・マレー(Michael Murray)氏とディレクターの池田幸平氏をキャッチし、シリーズ最新作について話を聞くことに成功した。
旧タイトルからの継続部分から、AIの採用、カルト的人気の獲得が約束されている新キャラクター陣、アーケード時代へのラブレター《Arcade Quest》まで、ワールドクラスの開発チームで仕事を続ける2人が、世界有数のゲームシリーズのひとつに持ち込まれているものについて詳しく語ってくれた。

先行公開してきた『TEKKEN 8』の新機能の中で、どれがファンに最も大きな驚きをもたらしたと思いますか?

マレー氏: 難しい質問ですね。グラフィックスかもしれませんが、“グラフィックス” というひと言ではすべてを説明できません。今作のキャラクターモデルにおけるディテールの細かさですね。世間は私たちがただコピペをしていると思っていますが、私たちはいちから作り直しています。開発が始まったときはゼロで、そこからかなり細かく作り込んでいきました。

ご存じの通り、『鉄拳』シリーズには長い歴史がありますので、誰もが “仁” のルックスを知っているはずですが、デザイナーがいちから作り直すと「仁には見えない。何かがおかしい。ニセモノみたいだ」などと言われます。ですので、新しく作るときはグラフィックスとストーリーあるいはキャラクターとのバランスを見つけていく必要があります。

池田氏: 当然ですが、プレイヤーが最初に気付く違いはグラフィックスとゲームエンジンですので、これらにリソースと時間、予算を費やしましたが、今作はストーリーモードも素晴らしい出来です。ベテランプレイヤーと新規プレイヤーの両方が楽しめます。初めてプレイする人たちのためのアクセシビリティの工夫は『鉄拳』シリーズの特長のひとつですね。

完全新作『TEKKEN 8』

完全新作『TEKKEN 8』

© Bandai Namco Studios

今作では新キャラクターも登場します。

マレー氏: そうですね。新キャラクター陣は人気が出ると思います。『鉄拳7』でもキャラクターを数多く追加しましたが、今作ではリリースと同時にユニークな3人を追加します。私のお気に入りはレイナです。彼女は長い時間をかけて作り上げました。私たちは、見栄えのする電撃系の技が多いユニークなプレイスタイルを備えた非常に強い女性キャラクターが必要だと思っていました。

さらに、池田が知っていたかどうかは分かりませんが、彼女のイメージカラーは私の好きな色の紫と黒になっています。レイナはリリース時に収録されるキャラクターの中でお気に入りのひとりですね。

レイナの技の中で特に気に入っているものはありますか?

マレー氏: また別の話になりますが、レイナは電撃系の技に加えて、他のキャラクターの技も数多く備えています。ただのコピーではありません。派生形です。また、レイナをプレイすると、コンボダメージがあまり高くないように思えるかもしれませんが、技の多さがその理由です。

ミステリアスな新キャラクター、レイナ

ミステリアスな新キャラクター、レイナ

© Bandai Namco Studios

池田氏のお気に入りのキャラクターも教えてください。

池田氏: アズセナですね。私はテクニカルなキャラクターが好きなので。テクニカルなアズセナには相手の攻撃をかわせる構えがあるので、自分が相手よりも遙かに上手いように思えます。プレイしていて楽しいキャラクターですね。テクニカルな部分だけではなく、彼女の性格やゲーム内における立ち位置も開発していて楽しかったです。

彼女をペルー出身のキャラクターにするのは最初から決まっていました。私はマチュピチュをはじめとする歴史のあるロケーションや世界遺跡が好きなので、それらを上手く取り込みたいと思っていました。アルパカをステージに配置するのも楽しかったですね。

『鉄拳6』をプレイした方なら、ユニークなサウンドトラックと羊が用意されていたステージ(Hidden Retreat)を思い出すでしょう。今作ではアズセナのステージ “Ortiz Farm” でアルパカを使って似たようなステージを作ろうとしました。

その他にプレイヤーに楽しんでもらいたい部分があれば教えてください。

マレー氏: 私のお気に入りの機能のひとつが《My Replay & Tips》です。新作格闘ゲームのプレイを始めるときは、多くのことを学ぶ必要があります。私も『Guilty Gear -Strive-』がリリースされたタイミングで『Guilty Gear』シリーズデビューをしたのですが、知識がほとんどなかったのでかなり色々学ぶことになりました。

私が池田と格闘ゲームで対戦するとかなり一方的にやられてしまいます。ですので、私はインターネットを検索して上達方法を学ぶ必要があるのですが、自分のどこがダメなのか分かっていません。ですが、《My Replay & Tips》ではそこを教えてもらえます。

リプレイの途中で一時停止して「あなたはこの攻撃をガードしましたが、反撃を入れていません。この状況での最適な反撃はこちらです」「ここで投げられていますが、このボタンで反撃を入れていれば回避できていました」「この空中コンボを入れていますが、ダメージはそこまで大きくありません。こちらのコンボの方が大きなダメージを入れられます」などと教えてもらえます。

プレイヤーがプレイを続けるきっかけになりますね。

マレー氏: 正直に言いますと、格闘ゲームにはプレイヤーが脱落してしまうハードルがいくつもあります。ですが、私は『鉄拳』シリーズにはそうなって欲しくないと思っていました。

《My Replay & Tips》は、初期バージョンを『鉄拳7』のシーズン3でデビューさせましたが、そこから時間と労力を費やさなくても格闘ゲームが上手くなれる仕組みを作ることを目標にアップデートを重ねてきました。

プレイヤーにプレイを続けてもらうことが開発チームの目標

プレイヤーにプレイを続けてもらうことが開発チームの目標

© Bandai Namco Studios

ステージについて聞かせてください。どのステージも破壊可能で色々と変化があり、個性が備わっているのでキャラクターのような印象です。デザインプロセスを教えてください。

池田氏: 各ステージには多くの要素が含まれています。すべてのステージはストーリーモードでも使用するので、ストーリーの雰囲気に合ったモチーフを用意しています。たとえば、マチュピチュやウィーンの道場では、新キャラクターにフィットしていて、プレイヤーに訴えかけられるモチーフを用意したいと思っていました。サイズと形状を上手く使って全体的なスケール感を出そうとしました。

『TEKKEN 8』は壮大なストーリーモードが備わっており、すべてのステージがそのストーリーの特定のシーンの背景になるので、ステージの雰囲気が使用されるシーンにマッチする必要もあります。

しかしながら、ストーリー以外では、新キャラクターが強いインパクトを残す助けになることが重要です。たとえば、ヴィクター・シュヴァリエのパリのステージではセーヌ川に巨大な客船を浮かべています。

マレー氏: 新キャラクターを紹介するときは、彼らをシリーズ歴代の人気キャラクターたちに追いつかせる必要があります。ユニークなステージを用意することはその助けになります。

また、先ほど破壊可能という表現がありましたが、そこには破壊できるだけではなく、形や大きさ、ギミック、壁と床のどちらが壊せるのか、そしてこれらの違いがステージをどのくらいダイナミックに変化させるのかなど、プレイスタイルに関わってくる部分もあります。

《Super Ghost Battle》ではAIがプレイヤーの立ち回りを学び、自分はもちろん、他のプレイヤーのコピーとも対戦できますが、AIを採用した開発はどうでしたか? AIがプレイヤーにフレッシュな要素を提供できると思える理由を教えてください。

池田氏: 『TEKKEN 8』の開発が始まったとき、個別でテクノロジー関連のリサーチをしているエンジニアがいました。そのエンジニアが、ゴーストがどのようなものになるのかを示してくれたのですが、かなり驚かされました。

それまでのAIでは数百回、数千回プレイしたあとでもAIが私たちの期待している動きをしませんでした。ですが、今回の新しいAIでは、AIが経験を積んでいく様子が分かるからです。動きを記憶してすぐに再現できるのは素晴らしいですね。誰もが驚くと思いますし、楽しんでもらえると思います。

上手く使えば、現実世界では絶対にできない、自分との対戦も楽しめます。自分との戦い、CPUとは完全に異なる人間の動きを再現するゴーストとの戦いを通じてプレイヤーが成長できます。私は対人戦で敗戦すると気落ちしてプレイをやめていました。ですが、今作のゴーストとの対戦は楽しいですし、成長もできます。AIはステップ・バイ・ステップで今後も積み上げていきたいですね。

私たちも《Super Ghost Battle》をプレイしましたが、あっという間に自分に負けてしまいました。謙虚な気持ちになりますよね!

マレー氏:: (笑)。AIとの開発を進めていく中で、自分との対戦が非常に面白くなる可能性に気付きました。プレイヤーとして上達して、自分のゴーストをさらに強くしよう思うようになるからです。AIと対戦しているときは、人間と対戦しているように感じますが、どういうわけか、負けたときに実際の対人戦よりも嫌な思いをしないのです。

既存のキャラクター陣の中でファンに好印象を持たれるのは誰だと思いますか?

池田氏: 個人的には風間準に一番驚きましたね。メインストーリーに彼女が戻ってくるのはかなり久々です。彼女の復活はファンが望んでいたことですが、私は、メインストーリーへの復活だけではなく、プレイスタイルにも驚きました。

風間家の能力をベースに再デザインしてあるので、その能力が立ち回りに影響するようになっています。似た技を備えている風間飛鳥も同じですね。彼女も再デザインされてユニークなキャラクターに仕上がっています。

マレー氏: 私はデビル仁だと思います。ファンは彼がまだ存在していることに驚いていますが、同時にメインキャラクターのひとりである彼のプレイの印象が少し変わったことにも驚いています。開発チームのデザイナーのひとりが、デビル仁の立ち回りを大きく変えたのです。ボタン入力などすべてに変更が加えられました。

これまでのデビル仁はタイトルごとに大きく変わることはありませんでしたが、今作では基本技はそのままですが、新しい技や立ち回りが増えています。

復活の風間準

復活の風間準

© Bandai Namco Studios

デビル仁の変更について詳しく教えてもらえますか?

マレー氏: はい。デビル仁にはチェーンを放つ技があります。そのあと宙に浮かび、宙に浮いたあと択攻めを仕掛けられます。ですので、デビル仁をプレイした経験がある人はかなり大きな違いを感じるはずです。これまでのデビル仁はコンボがかなりテクニカルで、入力も手間でしたが、今作ではかなり洗練されているので、プレイしやすくなったと思います。

個人的には、デビル仁は難しいキャラクターですし、彼の習得に費やしてきたこれまでの時間を考えると苛つきます。今作のデビル仁は簡単にプレイできるようになりましたからね! ですが、彼を選び、彼のクールな魅力に気付いてくれるプレイヤーが増えると思います。

あなたたち2人の仕事関係はどのような感じなのでしょうか?

マレー氏: 私がバロメーターですね。池田が私に何かのデザインを見せたときに、私が「これは素晴らしい!」と言えば、池田はOKが出たと判断しています。

ヒートシステムでは、プレイヤーが好きなタイミングでアグレッシブに攻めることができます。このシステムはタクティカルな側面を強めると思うのですがいかがでしょう?

マレー氏: 良い指摘ですね。

池田氏: そこがヒートシステムの最も重要なポイントです。レイジシステムとは違う使い方ができます。ヒートシステムは攻撃を仕掛ける新しい方法として用意したいと思っていました。

『TEKKEN 8』のバトルコンセプトは “アグレッシブ” ですので、アグレッシブに仕掛けて対戦で勝利するチャンスを生み出せるようにしたかったのです。攻撃的なシステムとして使用したいと思っていました。

格闘ゲームでは、対戦するプレイヤー2名の実力が拮抗していると、攻撃的なプレイをするのが難しくなるときがありますが、今作では「カウンターを狙っていくぞ」と前に出られます。攻撃を仕掛けるのが楽しいデザインです。

マレー氏: 私も同じ意見です。私は高火力なキャラクターが好きですが、彼らには弱点があります。たとえば、『ストリートファイター』シリーズの豪鬼は非常に火力が高いですが、トレードオフとしてHPが低く設定されています。

ですので、私はヒートシステムを超強力なテクニックや技を使用できるものとして考えていますが、対戦を通じて使い続けることはできないので、対戦を退屈に感じることはありません。使用回数は制限されています。

たとえば、デビル仁はレーザービームも放てますが、これが際限なく使えたら明らかに強すぎですし、ゲームに上手く収まりません。ですが、ヒートシステムなら一時的に使えるだけですし、爽快です(笑)。ヒートシステムはタイミングがすべてです。対戦の流れを引き寄せたいときに使ってください。

《Arcade Quest》はアーケード時代へのラブレター

《Arcade Quest》はアーケード時代へのラブレター

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《Arcade Quest》ではプレイヤーが自分のアバターを作って他のプレイヤーとアーケードで出会うことができます。アーケードへのラブレターと言えるモードですね。

マレー氏: その通りです(笑)!

オンラインが充実していく中、アーケードを訪れる機会は減っていますので、バーチャルではありますが、嬉しい機能だと思います。

池田氏: そうですね。神戸のアーケードがなくなってしまったことを特に強く意識していました。私たちはあそこのアーケードをゲーム内に再現したいと思っていたのです。『TEKKEN 8』の開発中に、日本を含む様々な国でプレイヤーたちが集まれる場所が大量になくなっていきました。

『TEKKEN 8』もアーケードで稼働させたいと思っていたのですが、そもそもプレイヤーが集まれる場所がないという問題を解決しようという話になりました。それで《Arcade Quest》と《Tekken Fight Lounge》を用意したのです。プレイヤーとコミュニティが集まって楽しい時間を過ごせる空間、毎日遊びに行けるような空間を作りたいと思っていました。

ですので、これはアーケードカルチャーへのラブレターです。西側は日本やアジアよりも早くにアーケードが減少しましたよね。

マレー氏: 『TEKKN 8』開発中はパンデミック下だったので、イベントやトーナメントなど、かつて楽しんでいたものが楽しめなくなってしまいました。昔はアーケードへ行けば誰かがいましたし、同じレベルのプレイヤーとの対戦は楽しいので、プレイを飽きずに続けていけました。

今作では、アーケードと同じように、プレイヤーにプレイを続けるモチベーションを与えたいと思っていました。

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