【The Another Story】金魚湯© Nahoko Suzuki
スケートボード
vol.5【内木晴樹(金魚湯)】滑って風呂入って飯食って帰る! 純日本風総合スケートスパ施設の創設者
人物写真のない人物インタビュー企画。スケーターの「創造力」にフォーカスする異色の連載『The Another Story』。
Written by Tatsuya Matsui Edit by Hisanori Kato
公開日:
この連載では、独特の感性で現代を生きる人物をフィーチャー。制限なく様々なクリエイターを紹介していくわけだが、ただ一つだけ取材対象者に共通点を設けた。それは、

スケートボードから学んだ、固定概念に縛られずに自由に自らを表現する《精神》が宿っている人物であること。

先入観は不要。そのマインドを少しでも純粋に感じ取ってもらうため、ここでは主人公の容姿はあえて排除する。彼らの言葉と、制作物だけで読み解く、スケーターが歩むもう一つの物語、『The Another Story』の世界へようこそ!
【The Another Story】金魚湯
【The Another Story】金魚湯
第5回目に登場するのは、スケートのできる銭湯を経営する内木晴樹氏。スケーターにとって究極の癒しスポットを創り上げた人物の物語を紹介しよう。
今回訪れたのは、白壁と瓦のコントラストが美しい蔵の町として知られる栃木県栃木市。その中心にほど近い商店街に金魚湯という銭湯がある。大きな2匹の金魚が外壁に描かれた風情ある入り口にかかる暖簾をくぐると、昔ながらの番台が入浴客を迎え入れてくれる。明治22年創業という老舗中の老舗であり、昔ながらの伝統的な銭湯のスタイルを貫く金魚湯だが、銭湯には似つかわしくない施設が併設されている。それは「屋内スケートパーク」。なぜ老舗銭湯にスケートパークを作ることになったのか。そこには一人の男が孤独に立ち向かう姿があった。

始まりは知らない土地で感じた"孤独"

スケートボード×銭湯」という異色の組み合わせを実現した内木氏は、もちろんスケーター。スケートボードに初めて触れたころの話をする内木氏は、少年スケーターの目で当時を振り返る。
【The Another Story】金魚湯
【The Another Story】金魚湯
「スケートボードを始めたのは中学生くらい。スケート好きの友人だけで30人くらいの仲間がいつも周りにいて、純粋に毎日すごく楽しかった。でもだんだん大人になって、みんなスノーボードや車に興味を持ち始めたころから、次第に人数が少なくなっていきました。最終的にはスケートするのは自分だけになっちゃった」
そんな内木氏も服飾関係の仕事に就き、多忙な毎日を送るうちにスケートする時間もない生活を送ることになっていた語る。
「スケートしていない自分に疑問がありながらも、日々の生活にただただ追われてしまっていました。そんな生活が結婚をきっかけに大きく変わったんです」。内木氏は苦笑いしながら付け加えた。「でも良い方向に変わったわけではなかったんですけどね」
結婚して婿として迎えられたのが、現在働く銭湯「金魚湯」だ。
【The Another Story】金魚湯
【The Another Story】金魚湯
「結婚生活はもちろん楽しかったんですよ。でも単純に生活が辛かった。毎朝5時から薪をトラック3台分運び、くたくたになるまで働いているにも関わらず、婿だったので給料はゼロ。家族に渡せるお金もなくて、何のために働いているのかわからなかった」
そんな内木氏が何より辛かったと語るのは、知らない土地で過ごすことによる"孤独"だった

スケートを知らない人にこそ"スケートっていいな"と思ってもらいたかった

「死ぬほど銭湯で働いても銭湯に来るお客さんは年配の方ばかり。知り合いもいない土地に独りぼっちの感じでしたね。当時は毎日イライラしてたし、銭湯が大嫌いだった。そんな時って自分自身を見つめ直したりするじゃないですか。その時に思ったのが、"もう一回スケートボードに乗らなきゃ"ってことだった
【The Another Story】金魚湯
【The Another Story】金魚湯
孤独に耐えられなくて再びスケートボードに乗り始めた内木氏。昔のような仲間ができることを望んでいたというが、実際はそんなにうまくいかなかったようだ。
「最初は全然友達と呼べる人がいませんでした。なんていうか、一緒にスケートしていても仲間になれなかったんですよ。どうしても一人が辛くて、ある時スケートセクションを作って持っていけば人が集まるんじゃないかと思ったんです。金槌も握ったことがなかったけど見様見真似で必死に作りました。それで、人は集まるようになったけど、でも本当に仲間って感じにはなれなかった」
しかしある日、内木氏は、自分のスケートに対する態度がすべての原因なんじゃないかと思い立った。それまでは「あんまり上手じゃないし、でしゃばるのは嫌」だったと話す。内木氏は、その日を境に、スケートに対する姿勢を"とにかく全力で挑戦するスケートスタイル"に変えた
「そうするとみんなが注目してくれるんです。一緒にメイクを喜んでくれたり、声をかけてくれるようになった。すごく嬉しかったですね。やっと一人じゃなくなったって」
仲間の存在が支えになっていたとはいえ、銭湯となると依然辛い日常を過ごしていた。
「銭湯を仕切っていた先代は、"ガキの遊びばっかりしやがって"って、スケートに対する理解をまったく示してくれなかったんです。頑張って作ったランプも取り壊されることもしばしば。その度に作り直して、壊されてっていう毎日で、喧嘩が絶えませんでした。でも俺にはスケートを諦めることはできなかった」
スケートに対する理解を得るために、あらゆる工夫をしたという内木氏。地元のお祭りやイベントにも頻繁に参加し、町の目抜き通りにべニアを敷き詰めてスケートのデモを仲間と披露することもあった。
「自分たちが楽しむイベントを開催するより、地元の人の理解を得るためのイベントを開催するほうが大変でした。スケート本来のポジティブな面を見せたかったから、スケート仲間にもイベントの趣旨を説明して、スケートのイメージを変えられるようなイベント作りを心掛けました。スケートを知らないお客さんにこそ"スケートっていいな"と思って帰ってもらいたかったんです」

最高の銭湯と最高のパークが生み出した人のつながり

長年の草の根活動が功を奏し、スケートボードに対する理解が得られかけていた矢先、先代が亡くなった。これを機に銭湯に併設されたスケートパーク作りに本格的に着手した内木氏。以前から存在していた屋根付きランプに加え、使われていない宴会場を改装した屋内パークを自作で新設した。当時は、自分だったらどんな場所でスケートしたいかを考え、最高の場所を提供するつもりで金魚湯を経営することばかり考えていたという。いつしか、嫌いだった銭湯経営にも全力を尽くすようになっていた。
「パーク目当てのスケーターにも、銭湯の入浴客にも最高の場所を作らなきゃいけないと思ったんです。スケートして、お風呂に入って、妻が作るご飯を注文して、大満足して帰ってもらいたかった。その一心でやり続けていたら、予想以上に多くのお客さんが来てくれるようになりました
明治22年創業という長い歴史のある金魚湯をより特別なものにするために「完全井戸水、釜炊き銭湯」という手間のかかる昔ながらの給湯形式を採用し、銭湯の雰囲気を壊さないように内装は木製の手作り家具で統一。家族で経営する食事処「こうしんの店」では、味を落とさず、価格を下げたいという理由から、使用する野菜の一部は自分たちで栽培することにした。そして、スケートパークは、"スケーター目線で面白いと思えるセクション作り"という考えを徹底し続けている。
価格にもこだわりがあります。誰でも平等に遊べる屋内パークを作りたいので、1日500円という滑走料をキープしています。しかも風呂代込み!
金魚湯には次第に若者が集まるようになり、銭湯のお客さんの年齢層も幅広くなった。多くのつながりが金魚湯から生まれ、東日本大震災時には仲間が集まって壊れた設備をボランティアで直してくれるまでに人の輪が広がっていた。

銭湯とスケート、どちらも人をつなげてくれるもの

【The Another Story】金魚湯
【The Another Story】金魚湯
何事にも真剣に取り組み、カッコつけないことが何より大事だと内木氏は言う。
「金魚湯のスタイルは、何事も一生懸命挑戦して人とつながっていくこと。変にカッコつける必要はないんですよ。上級者も初心者も誰もが気負いなく平等に楽しめるパークが作りたいんです。気の利いた内装のパークも素晴らしいけど、金魚湯は落ち着く場所、自分の家みたいに感じられる場所、そういうスタイルでこれからもやっていきたい」
そして、一度孤独を経験した内木氏は、やはり人のつながりの重要性に言及する。
銭湯もスケートも、俺にとっては人をつなげてくれるものなんです。知らない人たちでも同じ立場で話ができるための道具みたいなもので、どちらも社会的な側面が強い。だから金魚湯でも夏休みには地元の子供たちのためにプールを出したり、みんなで流しそうめんをやったりしてるんです。みんなで一緒に楽しく何かをやるって、当たり前だけど実はすごく大事なことですよ」
スケートを通じて人間として成長できたという内木氏。今の楽しみは、パークに来る子供たちの成長を見守ることだという。
「最初はパークに入れない子が次第にスケートに対して真剣になっていく様子や、軽口たたいてた小学生がいつの間にか敬語で話せるようになっていく様子を見ていると本当に嬉しいですね。俺自身もスケートで成長できた人間だからよくわかります。スケートを通じて手に入れた強い心を普段の生活に活かしてほしい
最後に、読者に向けて金魚湯を紹介できるならどういう場所だと伝えたいですか、と尋ねてみた。すると内木氏曰く金魚湯とは、
面白いパークでスケートして、うまい飯食って、最高の風呂入って、気分良く帰る。それができる場所」とのこと。
日本初の純和風スケート総合スパ施設「金魚湯」。残暑厳しいこの季節、スケーターならこの夢のような場所に一度足を運んでみてはいかがか。
【了】
◆SpecialThanks
金魚湯(玉川の湯)
栃木県栃木市室町3−14
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