マウンテンバイク・ダウンヒル(略称:MTB DH)は、テクニックと肉体の限界突破が求められる最もエキサイティングな自転車競技のひとつで世界的な人気を誇るが、レースフォーマットやルールなどを理解している人は意外と少ない。
現在、このスポーツの最高峰に位置するUCIワールドカップ 2021シーズンが開催中で、全戦がRed Bull TVでライブストリーミングされている。そこで今回は残りのシーズンを楽しんでもらうためにビギナー用観戦ガイドを用意した。レースフォーマットやルールなどを理解して中継をさらに楽しもう!
01
レースフォーマット
MTBダウンヒルの魅力のひとつは、そのシンプルなレースフォーマットにある。誰よりも速く丘を走り下りたライダーが優勝するのだ。
出走順などの予選および決勝の詳細は後述する。
02
トラックウォーク
メカニックたちがバイクを調整している間、ライダーたちはレーストラックを歩いて下見する。ライダーたちは決勝の3日前(予選の2日前)に行われるこのトラックウォークで最速ラインをある程度見極めるが、決勝まで時間があるため、天候変化やトレーニング&予選でのレーストラックの疲弊も考慮しなければならない。
ダウンヒルではライン選択と障害物の回避方法がタイムに大きく影響してくる。直滑降ラインが最速タイムに繋がると考えがちだが、必ずしもそうはならない。
コーナーをタイトに回れば距離は稼げるかもしれないが、障害物を乗り越えなければならないなら、大きく回って障害物を回避するよりもスピードが落ちる可能性がある。そのため、ライダーたちは常にバランスを考える必要がある。スピードを落とさずに自然地形をいかに攻略するかが上位進出のカギになる。
03
トレーニング
決勝の2日前(予選前日)に行われるトレーニングでは、各バイクに計時用トランスポンダー(発信器)が装着され、ライダーたちはタイムを計測しながら最適なラインを見極めていく。トレーニングではポイントや賞は与えられないが、ライダーたちの間では、ライバルがどのラインでどんなタイムを出したのかをチェックする心理戦が展開される。
また、トレーニングではライダーがレーストラックの途中で降車してラインや障害物をチェックするときがあるため、ファンにとっては憧れのライダーを間近で見られるチャンスになる。
04
予選
2021シーズンの予選は、最新ワールドカップランキング(開幕戦は前シーズンの最終ランキング)の男子トップ60・女子トップ15が "リバースオーダー"(ランキングの逆順)で出走する。尚、このランキング圏外のライダーはランダム順で出走する。
"リバースオーダー" は、スタート順が遅いほど目標タイムが明確になるアドバンテージを上位陣に与えるために採用されている。
また、予選でも男子トップ20・女子トップ10にワールドカップポイントが与えられる(シーズン最終戦を除く)。
予選の順位が決勝のスタート順を決める(後述)。
UCIワールドカップでは、予選でもアグレッシブなライディングが求められるときがある。決勝の天候が崩れてコンディション不良になり、好タイムを記録できなくなるときがあるため、決勝・予選を問わず、レーストラックのコンディションが良い時にベストを尽くしておく必要があるからだ。
しかし、レーストラックをまだ完全に掴めていない予選での全力ライディングはリスキーなので、ライダーたちにはレースウィークエンド全体を読む力が求められる。
05
プロテクテッド・ライダー
近年のUCIワールドカップ・ダウンヒルには《プロテクテッド・ライダー(Protected Rider)》という特別枠が男女に設けられている。
これは、予選がどのような結果に終わっても決勝を出走できる権利が "守られている" ライダーを意味し、前シーズンの最終ワールドカップランキングの男子トップ10・女子トップ5と、彼・彼女たちを含めた最新ワールドカップランキングの男子上位20人・女子上位10人が対象になる。
少し分かりにくいので補足しておこう。たとえば、前シーズン男子総合5位のライダーAが今シーズンの最新ワールドカップランキングで80位に沈んでいる場合、次戦の男子の《プロテクテッド・ライダー》は、ライダーAと最新ワールドカップランキングの上位19人の合計20人になる。
ちなみに、開幕戦は前シーズンのワールドカップランキング男子トップ20・女子トップ10が《プロテクテッド・ライダー》になる。
また、《プロテクテッド・ライダー》は決勝を必ず出走できる権利を得ているが、予選も必ず出走しなければならない。
06
決勝
決勝の出走順は予選順位の "リバースオーダー" になるが、ここで《プロテクテッド・ライダー》が大きく関わってくる。決勝では、《プロテクテッド・ライダー》と彼らを除いた予選上位男子5人・女子2人が "最終出走グループ" を構成するのだ。この "最終出走グループ" の出走順は予選の順位が反映される。
通常、決勝の朝にはプラクティスセッションが設けられており、ライダーたちはこの時間を使ってレーストラックを最終確認したあと、チームに戻ってウォームアップを始める。ライダーの大半はレーストラックの頂上でローラー台に乗って出走に備える。
ゴール地点には暫定首位が座るホットシートが用意されており、ライバルたちは暫定首位のタイムの更新を狙うことになる。レースが進むにつれてホットシートに座るライダーが入れ替わるが、UCI ワールドカップでは先に走ったライダー(予選下位のライダー)がそのまま優勝するときもある。
たとえば、2015シーズンのルルドでは、予選21位のアーロン・グウィンが好タイムを叩き出し、後続の予選上位ライダーたちを抑えて優勝した。
07
ワールドカップポイント
UCIワールドカップの各レースで優勝すれば、トロフィー以外にも受け取るものがある。賞金もそうだが、何よりも重要なのがワールドカップポイントだ。シーズンを通じて最多ワールドカップポイントを獲得したライダーが総合優勝、"ワールドチャンピオン" を勝ち取る。
【ワールドカップポイント】
※:括弧内は予選ポイント。男子は20位以降も60位まで1ポイント刻みでポイントが与えられる。
順位
男子エリートクラス
女子エリートクラス
1
200 (50)
200 (50)
2
160 (40)
160 (40)
3
140 (30)
140 (30)
4
125 (25)
125 (25)
5
110 (22)
110 (20)
6
95 (20)
95 (16)
7
90 (18)
80 (14)
8
85 (17)
70 (12)
9
80 (16)
60 (10)
10
75 (15)
55 (5)
11
70 (14)
45
12
65 (13)
35
13
60 (12)
25
14
55 (11)
15
15
50 (10)
5
16
45 (9)
17
44 (8)
18
43 (7)
19
42 (6)
20
41 (5)
08
ワールドカップと世界選手権
最後にひとつ加えておこう。混同されがちだが、UCIワールドカップ(World Cup)とUCI世界選手権(World Championship)は別物で、世界選手権はワールドカップ中に開催される1発勝負の国対抗イベントだ。
尚、チームライダーとしてワールドカップを転戦することを重視するライダーと、国の代表として出場する世界選手権を重視するライダーの間でシーズンの捉え方が食い違うケースも見られる。
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