No wind in sight on the bow of Team Alvimedica
© Amory Ross/Team Alvimedica/Volvo Ocean Race
セーリング

60秒で体感する『砂漠のような大海原』

赤道無風帯の大海原でセーラーたちが感じる孤立感を疑似体験してみよう。
Written by Corinna Halloran
読み終わるまで:3分公開日:

1分

60 seconds to make you feel the ocean is a desert

You've never seen the ocean like this before – without a lick of wind.

普段陸地で生活している我々からすると、海に対して抱くイメージは無慈悲な嵐やビルほどの高さで迫る大波、咆哮のような風などに限定されがちだ。しかし、海という場所は辺り一面の時間が止まってしまったかのような静けさが支配することもある ― そう、とりわけ赤道近くの海では。こうした赤道近くの海は「熱帯収束帯」と呼ばれ、「赤道無風帯」としても知られている。まったく凪いだ状態の海が見渡すかぎり続く様子は、さながら「海の砂漠」だ。
言うまでもなく、赤道無風帯はおそらく地球上で最も暑い場所のひとつだ。とりわけ、各国の港から港までをひたすら9ヶ月以上かけてノンストップで移動するVolvo Ocean Raceに参戦するセーラーたちにとっては非常な過酷な環境と言える。
刺すような日射しとは良く言われるが、赤道無風帯での日射しの強さはもはやレーザービームに等しい。セーラーたちはこの強烈な太陽光に晒されながら、日の出から日没まで突き刺すような痛みと付き合い続けなければならない。ヨットで1日を過ごしていると、日没など永遠にやってこないのではないかという気分にさせられ、体にこもった太陽熱はまるで糖蜜のように絡み付き、決して消えることはない。水平線は1日を通じて、遠ざかりもしなければ近づくこともなく、まるでサハラ砂漠を延々と彷徨っているような感覚にさせられるが、2014-2015シーズンのVolvo Ocean Raceでは、セーラーたちはこの悪名高いエリアを実に5回も通過し、世界中を延べ60,000kmも航海した。
我々の多くは、クリスタルブルーのプールのごとき色彩を呈する海を見て「まるで天国じゃないか」と思うかもしれない。だが、Volvo Ocean Raceで戦うセーラーたちが抱く印象はまったくの逆のものだ。どれほど海が魅力的な姿を見せたとしても、セーラーたちは完全なレースモードに切り替わっているので、快適な午後のスイミングのことなどすっかり脳内から消し去っている。海面が完全に凪いでいるということは、まったくの無風状態であることを意味する。風が吹かなければ、20m近いカーボンファイバー製のボートは進むことも戻ることもかなわない。赤道近くの海を航海していて最も御免こうむりたいのは、製氷機もエアコンもない状態でこの静止状態をやり過ごさなければならないことだ。大海原の真っただ中で無風状態の中で動けないときは、虫眼鏡の餌食になった小さなアリのような気分になるそうだ。
チュニー流の赤道無風帯への暑さ対策

チュニー流の赤道無風帯への暑さ対策

© Matt Knighton/Abu Dhabi Racing/Volvo Ocean Race

海が完全に凪いでしまうと、船首で座り込むしかやることがない

海が完全に凪いでしまうと、船首で座り込むしかやることがない

© Matt Knighton/Abu Dhabi Ocean Racing/Volvo Ocean Race

赤道無風帯でのこの苦難に追い打ちをかけるかのように、巨大で劇的なスコールがクルーたちをたびたび襲う。スコールを発生させる雲はみるみるうちに成長し、あたり一帯の風という風を残らず吸い込んでしまう。ただ、タイミングさえ良ければ、スコールが文字通り恵みの雨になる。熱がこもりつづけ、もうこれ以上暑くならないだろうという時に、いよいよ雲が我慢しきれずに雨を放出しはじめると、それまで雲が溜め込んでいた風も一気に解放され、その下界にいるセーラーたちに前進する力を与えてくれるのだ。
小さな雲がみるみるうちに大きく成長しスコールをもたらす

小さな雲がみるみるうちに大きく成長しスコールをもたらす

© Matt Knighton/Abu Dhabi Ocean Racing/Volvo Ocean Race

スコールが降る様子を遠くに眺めるニコライ・セへステッド

スコールが降る様子を遠くに眺めるニコライ・セへステッド

© Brian Carlin/Team Vestas Wind/Volvo Ocean Race

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