The Everest Marathon is one insane running challenge
© Laura Jones
探検

エベレストマラソン:知っておくべき15の事実

標高5,364m、酸素濃度は平地の約半分… エベレストマラソンは常軌を逸したチャレンジだ。想像を絶するほど過酷なこのマラソンを完走したランナーが攻略法を明かす。
Written by Katie Campbell Spyrka
読み終わるまで:10分Published on
エベレストはアドベンチャー・忍耐・勇気の代名詞だ。よって、この世界最高峰で開催されるマラソンレースが比類のないチャレンジだという事実は驚きではない。
エベレストマラソンは、どのマラソンレースとも異なります」と語るのは、Monix Adventuresローラ・ジョーンズだ。
昨年、彼女は1年以内に世界7大陸で7つのマラソンレースを走るという『ICANRUN7チャレンジの一環として、エベレストマラソンに参加した(彼女は他にもキリマンジャロユーコン川でのマラソンレースにも参加した)。
「わたしはこれまでに様々なマラソンレースを走ってきましたが、エベレストマラソンは独特です。単なるマラソンにとどまらない、ひとつの旅でもあります」
クンブ氷瀑エベレスト・ベースキャンプからスタートし、ゴラクシェプを駆け下り、ナムチャバザール標高3,540m)でフィニッシュするエベレストマラソンは、登山家サー・エドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイが1953年に達成したエベレスト人類初登頂記念として毎年5月29日に開催されている。
様々な地形を制するヒントから装備品のアドバイスまで、エベレストマラソンについて知っておくべき15の事実を紹介しよう。

1. スタート地点までの道のりが過酷

スタート地点まで続く長いトレックは高度順応のためには不可欠

スタート地点まで続く長いトレックは高度順応のためには不可欠

© Laura Jones

レースナンバーが書かれたゼッケンを身につけてスタート地点に立つ自分を想像する前に、ルクラからそこまでの12〜14日間続くトレッキングについて考える必要がある。
「シェルパの村々を抜けながら、有名なエベレスト・ベースキャンプまで続くトレイルをひたすら登ることになります。濡れた地面や生い茂った森を相手にしながら最大2週間をかけて歩き、ベースキャンプを目指します」とローラは説明する。
高度順応のためにゆっくりと進むこのトレッキングには、ネパール式の山小屋やティーハウスでの宿泊が含まれている。

2. 食欲が減退する

標高や麺類(あるいは粉ミルク入りのシリアル類)だけの食事など原因は様々だが、エベレストでは食欲が失われる。
「高地では栄養補給が必要になりますが、しばしば食べる気が起きなくなってしまいます。胃に余裕がある時はおかわりしておきましょう」と語るローラは、キットバッグにスナック類を詰め込んで英国を出発した。
「ポーターに運んでもらう間に溶けてしまわないようなスナックを選びましょう。わたしたちは、ゼリー系のスイーツドライフルーツなどを持参しました」
また、高地では水分も不可欠なので、こまめな補給を心がけたい。
キャメルバックを装着しておけば、ボトルを取り出すためにいちいち立ち止まる必要がないですし、持続的な水分補給が可能になります。わたしたちはフレーバー付き電解質タブレットを持ち込んで、水に風味を足していました」

3. 地形は多様で手強い

「氷河の上に立つと、氷にひびが入ったりする音や不気味な音などが実際に聞こえます」

「氷河の上に立つと、氷にひびが入ったりする音や不気味な音などが実際に聞こえます」

© Laura Jones

エベレストは足元が滑りやすく、マラソンの大半は足元を見つめながら過ごすことになるとローラは警告する。彼女は2017年のエベレストマラソンを9時間半で完走した。
「スタート地点のベースキャンプの地面は凍結している不安定なガレ場なのでとても滑りやすく、大きな氷のクレバスや穴もあります。氷河では足元がずっと不安定に動き続け、氷にひびが入る音や不気味な音などが聞こえてきます」
レースが進んでいくと、コース上には極めて大きな巨石が現れる。
「これらの巨石は両手を使って飛び越える必要があります。そこから少し道が開けてくると、今度は地面が小石で覆われているので、足を取られたり滑ったりします」
「また、ゴラクシェプの前には、午後に落石が起きることで知られているエリアがあるので、わたしはなるべく早くここを走り抜けて、落石に遭わないようにしました」
マラソン前半は徒歩でも呼吸が乱れてしまいます
ローラ・ジョーンズ

4. アイマスクと耳栓は必須

ベースキャンプに向かうトレッキングの途中には、旅行者用の山小屋がいくつかあり、宿泊者の多くは早朝にロッジを出てトレッキングを続ける。
「ティーハウスはかなりうるさいので眠れませんし、ベースキャンプも朝が早くて騒々しいので、アイマスクと耳栓がかなり役立ちます」

5. "アウトアンドバック" に注意する

絶景+過酷な耐久スポーツ=エベレストマラソン

絶景+過酷な耐久スポーツ=エベレストマラソン

© Laura Jones

公式なマラソン距離に適合させるため、エベレストマラソンにはアウトアンドバック方式(一度通ったルートを再び走る)のセクションが含まれている。
ランナーに混乱をもたらすことで知られているこのセクションは、レースの中間地点に近い、ディンボチェの上にある。
カトマンズである人から『ディンボチェに1日、2日滞在して、セクションの下見をしておいた方がいい』と勧められましたが、アドバイスに従って正解でした。どこから始まってどこまで続いているのか良く分からないんです」
「誰もがこのビブレ・ループは苦手だと言っています。厳密に言えば、ここがエベレストマラソン最難関セクションなので、事前にルートを知っておくと良いですね」

6. レース中の考えすぎは禁物

レースのために多くの労力を注ぐ必要がある上に、高山病への恐怖が頭の中をよぎるエベレストマラソンでは、自分の体調を心配しすぎてしまう。
「ベースキャンプにいるドクターが参加者がスタートできる健康状態かどうかを判断します。ですので、ベースキャンプに到着するまでになんとか高地順応しようと必死になるんです。『気分は悪くないか?』、『お腹の調子は大丈夫?』など、常に自問するようになってしまいます」とローラは説明する。
しかし、焦る必要はない。
「実は、ベースキャンプまでのトレッキングがエベレストマラソンの真のハイライトなんです。時間をかけてトレッキングすれば、途中で軽めのランを何度か行えますし、体調が問題ないことを繰り返し確認できます」とローラは語る。

7. トレッキングポールは必需品

川を渡り、巨石や岩の多いセクションをクリアするにはトレッキングポールが必須

川を渡り、巨石や岩の多いセクションをクリアするにはトレッキングポールが必須

© Laura Jones

川、巨石、岩のセクションを乗り越えるためには、トレッキングポールが不可欠だ。
「トレッキングポールなしでのエベレストマラソン参加は薦められません。トレッキングポールがあれば、2本の足を4本に増やせます」とローラは語る。
「滑りやすい小さな岩の上では、常に警戒しておく必要があります。このような状況ではトレッキングポールが大いに役立ちます」と語るローラは、軽量で折り畳み可能なトレッキングポールを薦める。
「わたしが使用していたものは少しかさばるので、バッグに収納せずに常に持ち歩いていました。9時間半もポールを持ち続けていたので、ゴールする頃にはすっかり肩が痛くなってしまっていました」

8. 歩き続ける覚悟が必要

高地ではただ歩いているだけでも息が上がるので、そこでの "レース" は肉体の限界を完全に超える(シェルパ並みの心肺能力を持っているなら別だが)。
「マラソン前半は徒歩でも呼吸が乱れてしまいます。体内に取り込める酸素量や状況に応じて、走る、ジョグ、歩くのどれにするかを判断します」とローラは語る。
ここに難しい路面条件が加わるエベレストマラソンでは、走るよりも歩く時間の方が多くなる

9. グリップに優れたトレイルシューズを持参する

ローラはエベレストマラソンを「人生を肯定する体験」と讃える

ローラはエベレストマラソンを「人生を肯定する体験」と讃える

© Laura Jones

滑りやすく予測しにくい地形に対応すべく、ローラはSalomon Speedcross 4をシューズに選んだが、このシューズは他の参加者の多くも使用していた。
「Salomon Speedcross 4はエベレストマラソンに最適なシューズですね! グリップが素晴らしいので、岩の上でも優れた運動性を発揮します」
クライミング用品を一切使わずに岩を登るスクランブリングはトレーニングに役立ちます。不安定な地面では素早く動きながらバランスを保つ必要があります
ローラ・ジョーンズ

10. スタート地点の道幅は狭い(時にハイペース)

エベレストマラソンはスタート時点から過酷だ。
「スタートの号砲が鳴ると、他のレースと同じでその瞬間我を忘れてしまい、いきなり飛ばしてしまう可能性があります」
「スタート直後の道幅はとても狭いため、スタート直後のペース管理は難しいですね。追い抜きを試みようとするランナーが常に背後にいるのでペースが上がりますし、他のランナーを追い抜きたいという気持ちに駆られる時もあります。ペースを乱されればあっという間に息が切れてしまいます」

11. バックパックに現金を用意する

ルート上に点在する売店を活用して水分補給しよう

ルート上に点在する売店を活用して水分補給しよう

© Laura Jones

レース中に大金が必要になる瞬間はないが、最後の急坂の手前にある最終チェックポイントに小屋が建っており、ランナーの救世主として活用できる。
「テンボチェの修道院から駆け下りたあと、600mの急坂に挑むのですが、その手前にある小屋で軽食類が売られているんです。栄養補給しておくのはグッドアイディアに思えたので、ここで小休止したあと一気に坂を登りました。そのおかげで、最終チェックポイントで160位だったのに、120位でフィニッシュできました!」

12. カットオフタイムに注意する

午後4時までに最終チェックポイントを通過できなければ、そのランナーは翌日までレースを再開できなくなる。
「カットオフタイムに引っかかってしまうと、その場に留まり、他のランナーがひとりもいない暗闇の中で一夜を過ごさなければなりません。翌朝6時になればレースを再開できますが、3時間のタイムペナルティが加算されてしまいます」とローラは説明する。

13. スクランブルルートでトレーニングする

スクランブリングはレースでの敏捷性向上に役立つ

スクランブリングはレースでの敏捷性向上に役立つ

© Laura Jones

「クライミング用具を一切使わずに岩を登るスクランブリングは、トレーニングに役立ちます」と語る英国人のローラは、エベレストマラソンの滑りやすい路面を想定したトレッキングポールを使ったトレーニングには湖水地方が最適だったと振り返る。
「不安定な地面では、俊敏に動きながらバランスを保つ必要があります。近所の道路や森でのランニングでフィットネスを向上させつつ、エベレストの地形に慣れるために、スクランブルルートでトレーニングしておくと良いですね」

14. 正しい用具に予算をかける

レース当日の夜明け前、エベレストはマイナス10℃に冷え込む。ローラはinov-8製ミット長袖のベースレイヤーinov-8製サーモシェルジャケットを着て朝を迎え、軽量なUltimate Direction製AK Mountain Vestを着用しながら走った。
AK Mountain Vestは素晴らしい製品でした。ランナーの動きを妨げませんし、さらには便利なポケットがあちこちに用意されているので、ゲルブロックやリップバーム、日焼け止めなどを立ち止まることなく取り出せました」
また、サングラス寝袋用ライナー(「エベレストの夜は冷え込みが厳しいので、Namche製フリースライナーを持ち込みました」とローラは語っている)などの携行も薦めたい。

15. そして最後に − とにかく楽しむこと!

レースのあらゆる瞬間を楽しもう

レースのあらゆる瞬間を楽しもう

© Laura Jones

「悠久の歴史と素晴らしい絶景に身を浸しましょう」とローラは語り、さらに続ける。
「エベレストの雄大な姿に息を呑むはずです。エベレストに挑んできた人たちの歴史、そして彼らを惹きつけてやまない魔力をまざまざと実感します」
「これまで参加してきた他のマラソンとは違い、エベレストマラソンに辛い瞬間はひとつもありませんでした。1分1秒まで楽しみ尽くしました」
2018年のエベレストマラソンも例年通り5月29日に開催される。エベレストマラソンの詳細情報はこちら>>