マンチェスターは最高だ。
この都市の灰色の空と、さらに灰色の建物の奥からは、昔からアーティスティックでクリエイティブなシーンが生み出されてきた。
ポストパンクからThe Haciendaのアシッドハウス、ブリットポップのケンカ仲間、DJコレクティブのHoya:Hoya、UKベースシーンまで、マンチェスターは永遠に思えるアートをタイミング良く生み出してきた。
しかし、マンチェスターが持ち合わせているのはブームを生み出す才能だけではない。
この都市は最先端の音楽に印象的なヴィジュアルを組み合わせる才能も持ち合わせており、ミュージシャンと同じくらい有名なアルバムアートワークを世に送り出してきたことでも知られている。
今回はマンチェスターが生み出したアートワークの中からベストと思える10枚をピックアップし、伝説となった背景を少しばかり解説することにする。
Joy Division:『Unknown Pleasures』(1979年)
Joy Divisionのメンバーは『Unknown Pleasures』のアートワークに関して明確なイメージを持っており、使用してもらいたい図形をFactory RecordsのグラフィックデザイナーPeter Savilleに手渡した。
その図形は『Cambridge Encyclopedia of Astronomy』に収録されていたもので、説明によると「パルサーの周波数を相対表示したもの」らしいのだが、筆者には何を言っているのかさっぱり理解できない。
長年愛されてきた「ロックンロールの因習を強烈に破壊したアートワークの代表作」として知られるこのアートワークは、笑えるほどオタク的なアイディアから生まれたのだった。
The Fall:『Hex Enduction Hour』(1982年)
このポストパンクバンドはいくつかの強烈なアートワークを生み出してきた。『This Nation’s Saving Grace』や『Live At The Witch Trials』などをチェックしてもらえば分かるだろう。
しかし、Mark E. Smithの常人とは異なる脳の仕組みを最も良く理解できるアートワークは『Hex Enduction Hour』だ。
このアートワークに書かれている「Have A Bleedin Guess / 当ててみろってんだ」、「Hail Sainsbury’s / Sainsbury’s 万歳(※)」、「Flabby Wings / たるんだ二の腕」などの言葉は、このアルバムについて知っておくべきことを教えてくれている感じがあるが、完全に無意味でもある。
(※)・・・Sainsbury’sは英国のスーパーマーケットチェーン。
The Smiths:『The Queen Is Dead』(1986年)
MorrisseyはThe Smithsのヴィジュアル面をコントロールしていたことで知られており、このアルバムのアートワークでは、1964年の映画『さすらいの狼』のアラン・ドロンを使用することを選んだ。
このアートワークは、典型的なMorrisseyデザインと言えるが、1986年にリリースされたこのアルバムに裁判所レベルの話題性を与えたのは、アートワークや音楽ではなく、アルバムタイトル − “女王は死んだ” − だった。
このアートワークには今もパワフルに思える魅力が備わっているが、女王の死とどう関係しているのかは明確には記されていない。むしろ、その無関係さこそがこのアートワークの肝なのだろう。
Happy Mondays:『Bummed』(1988年)
1980年代を通じてFactory Recordsと蜜月の関係にあり、映画『24 Hour Party People』のオープニングシーケンスをデザインしたことでも知られるCentral Station Designが手がけた『Bummed』のアートワーク - カラフルで雑なタッチで描かれている半分ふざけたShaun Ryderの顔 - は、Happy Mondaysの魅力を上手くまとめている。
実にShaun Ryderらしい顔だ。おそらく今この瞬間もこの表情をしているに違いない。
The Stone Roses:『The Stone Roses』(1989年)
Jackson Pollockは真似るのが簡単なアーティストだ。目を閉じたままキャンバスにいくつかの色をまき散らせば完成だ。しかし、John Squireが自由きままに塗ったこのアートワークは、バンドのルーズなシルエットとドラッギーなイメージを上手く体現している。
1968年のパリ五月革命を題材にしたこのアートワークは『Bye Bye Badman』というタイトルが付けられており、実はレモンも作品の一部だ。というのも、革命側が催涙弾の中和剤として使っていたからだ。
ということで、ひとつ勉強になった。今後催涙弾を撃ち込まれるようなことがあれば、レモンを手にすれば良い。ありがとう、Wikipedia。
Oasis:『Definitely Maybe』(1994年)
当時のギタリストだったPaul “Bonehead” Arthursの家の居間(Boneheadは壁を白く塗ったのは自分だと公言している)で撮影されたこの写真は、置かれている小さなアイテムが何なのかを確認するのがひとつの遊びとして機能しており、Burt Bacharachのポスター、テレビに映る『続・夕陽のガンマン』、ロドニー・マーシュ(元マンチェスター・シティ)の写真などが置かれている。
非常にシンプルなこのアートワークのクオリティは、このアルバムに収録されている音楽と同じく、Oasisが最後まで上回ることができなかったものだった。
Elbow:『The Seldom Seen Kid』(2008年)
Elbowをニッチなインディーバンドから父親のカーステレオ用プレイリストに入るまでのバンドに押し上げたのがこのアルバムだ。
「There’s a hole in my neighbourhood down which of late I cannot help but fall / 近所に穴があるんだ。最近はそこに落ちずにはいられない」 - つまり、我々がパブと呼ぶ場所をルービックキューブのようなデザインで描いているJames McNeill Whistler的な水彩のアートワークには、アルバムの歌詞の主要テーマが全て落とし込まれている。
派手さも仰々しさもないが、このバンドと同じく「そこが魅力」なのだ。
The Chemical Brothers:『Further』(2010年)
彼らの最高傑作からはほど遠いが、アスリートJenny Goddingが水中に飛び込む姿を捉えた『Further』のアートワークは、彼らのアルバムアートワークの中で最も魅力的で、この作品の酩酊しながら広がっていくサイケデリックな世界観を見事に表現している。
Zed Bias:『Biasonic Hotsauce: Birth Of The Nanocloud』(2011年)
アートワークのお手本だ。強烈な3色で強烈に描かれたコミックブックのようなこのアートワークは、David Mackとソニック・ザ・ヘッジホッグの狂気のコラボレーションのような雰囲気を携えている。
2000ADやMarvelと仕事をしてきたBoo Cookが手がけたこのアートワークには、アルバムのタイトル "Biasonic Hotsause" を作っていると思われるマッドサイエンティストが描かれている。
このアートワークは無視できないインパクトを備えており、音楽がどれだけデジタル配信されようとも、先進的なアーティストにとって優れたアートワークは今も昔も重要なのだということを思い出させてくれる存在だ。
Delphic:『Collections』(2013年)
Delphicからオファーを受ける前、ポルトガルのグラフィティ / ストリートアーティストのVhilsことAlexandre Fartoは、巨大で魅力的なアーバンポートレートで知られていた。Banskyから「イタズラ好き」を引いた存在を想像すれば良いだろう。
Vhilsはその才能を遺憾なく発揮してDelphicのセカンドアルバムのアートワークを作り出しており、ごく普通のバンドメンバーのポートレートにカラフルなコラージュ感を加えている。壁に掛けたくなるアートワークだ。