サーフィン

《ヴィム・ホフ》寒さと呼吸法がもたらすメリット

氷水に2時間浸かる “アイスマン” ことヴィム・ホフが教える呼吸法をトップアスリートたちが積極的に取り入れ始めている。
Written by Justin Housman
読み終わるまで:8分最終更新日:
私にとって寒さは神だ。私は寒さに耐えるのではなく、寒さを愛しているのだ。
ヴィム・ホフ
この発言は大いに結構だ。しかし多くの人は、寒さを “避けるもの” 、もしくは “身を守る対象” として捉えており、法外に高価なダウンジャケットや高機能のウェットスーツを身に着けたり、毛布にくるまったりして寒さをしのいでいる。
そして彼らは、聖書に出てくる預言者のような、『ゲーム・オブ・スローンズ』の北方人のような姿をした、“寒さに挑み続ける” 57歳の奇妙なオランダ人のファンでもない。
恵まれた遺伝子(これはあくまで予想だが)と、時として “エクストリーム” とさえ表現される呼吸と瞑想への強いこだわり(呼吸と瞑想に “エクストリーム” が存在するのかどうかは疑問だが)を組み合わせることで極限の寒さに長時間身を置けるホフは、常人には異常としか思えない挑戦を次々とクリアして20のギネス記録を持っている。
その結果、ホフはアドベンチャースポーツのアスリートたちを含むカルト的なフォロワーを世界中に抱えており、年々増え続けているそのフォロワーたちは、彼のメソッドが肉体にもたらすメリットを自分たちも得ようとしている。
ホフが得ているメリットを挙げていこう。たとえば、ホフはキリマンジャロをショートパンツ1枚で登頂し、エベレストにも同じ格好で挑んだ。結果的にエベレスト登頂は標高6,706m地点で断念したのだが、それでもこれは素晴らしい結果と言える。
また、ホフは北極圏内をマラソンしたり、氷水に笑顔で90分間浸かったりすることもできる。もはやジェダイ的存在とさえ言えるホフは、意思の力だけで免疫システムをコントロールできる “フォース” を備えているのだ。世間が彼に興味を持つのは当然だ。
氷水に浸かる

氷水に浸かる

© [unknown]

このホフのメソッドはアクションスポーツのアスリートたちに大きな恩恵を与えることができる。極寒の高地環境で自由自在に自分の免疫システムをコントロールできる能力は、登山家やバックカントリースキーヤーにとってゲームチェンジャーになるだろう。
また、自分の意思で寒さに耐えたり、強烈な波の中で肉体と呼吸を落ち着かせたりできるようになれば、エクストリームなサーフポイントでビッグウェーブに挑んでいるサーファーたちをスーパーヒーローのような存在にするだろう。
しかし、極寒に耐えられるその能力で世界的に有名なホフだが、彼のメソッドの第一章に書かれているものは寒さとは関係ない。そう、呼吸だ。ホフは呼吸を素早く大量に行うことが重要だとしている。これは彼の全てのメソッドに通底しているものだが、言い換えれば、コントロールされた過呼吸ということになる。
科学の世界では、過呼吸は肉体に奇妙な影響を与えるとされている。過呼吸状態になると、二酸化炭素の排出量が必要量を超えてしまうため、血液のアルカリ度の上昇、血液の酸素飽和度の上昇、アドレナリンの放出、そして軽い幻覚などの症状が起きるようになる。
過呼吸を起こした際の最も分かりやすい症状、そしておそらく肉体にとって最も良くない症状が、脳血管の収縮だ。脳血管が収縮すると眩暈が生じ、失神してしまう時さえある。
ケリー・スレーターはその失神を経験している。ワールドチャンピオンを11度も獲得した経歴を持つキング・オブ・サーフィンことスレーターは、2017年春にヴィム・ホフの呼吸法クリニックを訪問した際に過呼吸で失神したのだ。
もちろん、スレーターはその恥ずかしい瞬間をInstagramに投稿し、世界中の人たちとシェアしたのだが、ヴィム・ホフのメソッドを取り入れようとしているのはスレーターだけではない。
身の毛もよだつようなビッグウェーブに挑んでいるハワイ出身のプロサーファー、コア・スミスをはじめとする世界各地のビッグウェーブサーファーたちも取り入れようとしている。スミスはその理由について次のように説明している。
「僕はヴィム・ホフのメソッドを取り入れようとしているから、周りからビッグウェーブサーフィンやブレスホールドエクササイズに役立つのかどうか質問されるんだけど、答えはイエスさ。でも僕が彼のメソッドを取り入れているのは、自分の人生を最高の状態で送れるようになるからさ。自分の感情のコントロール方法を教えてくれるんだ。これは自分を最適化するためのメソッドさ。誰だって取り入れることができるものなんだよ」
また、ホフはアイスバスも積極的に取り入れている。寒さの中に身を置くことは、生理的炎症を減少させ、脂肪代謝を促進するが、ホフは、アイスバスはメンタルの強度を高めることにも役立つとしており、自分の呼吸法と組み合わせればその効果は更に高まると考えている。
凍えるような水温のアイスバスに長時間座れるようになれば、ほとんど全てのことに対応できるようになるのだ。ビッグマウンテンフリースキーヤーのジョニー・コリンソンは自らの体験を次のように振り返っている。
「アイスバスに入った時に呼吸法が非常に有用だということに気がついたんだ。長時間浸かっているのは無理だろうと思っていたんだけど、呼吸で自分を落ち着けていくと、自分の体に「限界だ」と伝えてくる衝動をコントロールできるようになる。僕はアイスバスに10分間浸かっていたけれど、アイスバスから出た時に体が震えなかった。あれには驚いたよ」
ホフの全てのメソッドは、肉体のコントロール能力を高めることが目的に設定されている。強制的な過呼吸は、体内のシステムに意図的にアドレナリンを注入できるツールとして機能するが、同時に血液内の酸素量と二酸化炭素量のバランスをより深く理解できるようにもなる。
また、意志が弱くて泣き虫で寒がりな我々に自分の肉体は想像以上にタフなのだということを改めて教えてくれるものでもある。ホフのメソッドを正しく学ぶことができれば、アスリートたちは夢にさえ思わなかった肉体のコントロール方法を見出せるかもしれないのだ。これは想像しているよりも大きなメリットを彼らにもたらすはずだ。
ヴィム・ホフのメソッドは、トリプルコークをメイクできるスキーヤーや、エアリバースをメイクできるサーファーのような既に肉体のコントロール方法を知っているアスリートにより高度な肉体のコントロール方法を授けることになる。
ホフのメソッドを取り入れれば、劇的かつ瞬間的にライバルたちの上に立てるようになるのだ。コリンソンが説明する。
「ホフのメソッドは、スキーヤーはもちろん、あらゆるアクションスポーツアスリートに役立つものさ。これは頭を使いながら、自分の体内に起きる衝動を乗り越えていくテクニックで、寒さや自己疑念、緊張などに対応できるようになる。彼のメソッドは完全に集中してその瞬間に身を置くためのものだ。これは高いレベルで戦いたいと思っている全てのアスリートに必要なものだよね」
ヴィム・ホフのメソッドを導入したビッグウェーブサーファーが北カリフォルニアの強烈なサーフポイント、マーベリックスに挑む姿を想像してもらいたい。
ホフによって超人的な呼吸法や精神を落ち着ける方法、そして常人のレベルを遥かに上回る耐寒能力を授かったそのハイレベルな “ホフ” フォロワーが、ラインアップで凍えている平均的な肺機能と耐寒能力しか持たない他のサーファーたちとは全く違う存在だということは、すぐに誰の目から見ても分かるようになるはずだ。
では、誰もがケリー・スレーターのように失神するレベルの過呼吸を行い、裸同然の姿で北極に向かうべきなのだろうか? おそらくそうではないだろう。ただし、そうなっても悪いことはひとつもない。
言うまでもないが、ワールドクラスのアスリートは、血液科学について多くを学ぶ必要があり、可能ならば血流のコントロール方法を身につける必要もある。ホフ本人がアイスバスに何時間も浸かり、裸で雪の中を走り、意思の力だけで疾患を遠ざけていることを踏まえれば、そのようなコントロール方法を身につけるのは可能なのだろう。
しかし、ホフはそのようなトレーニングを何年も繰り返してきた人物だ。言うなれば、ヴィム・ホフはプロの “ヴィム・ホフ” なのだ。よって、我々は彼とは違うということは意識しておく必要があるが、ホフの呼吸法には学べる部分が数多くあり、肉体に関する気付きを得たり、肉体を強くしたりできる。しかも素晴らしい “上着” にもなるのだから、彼のメソッドを取り入れることには何も問題もないはずだ。

ヴィム・ホフの偉業

1:フィンランド・オウルの雪の中を裸足でマラソンした(ハーフマラソン)
2:マンハッタンのストリートで72分間首まで氷水に浸かった
3:氷が張った水の中をショートパンツ1枚で60m以上泳いだ
4:水分補給を一度も行わずに砂漠でマラソンした(フルマラソン)
5:これら全てを笑顔でこなした
(了)
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Ian Walsh

American Ian Walsh is a man who has tackled all sorts in the sea and knows that it’s all about keeping things interesting.

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