ゴス(Goth)とは何か? かつてヨーロッパの大部分を制圧していたゲルマン人の西ゴート族(Visigoth)や東ゴート族(Ostrogoth)の話をしたいわけではない。我々が話したいゴスとは、神話、SF、ホラー映画、ディストピア思想、ホレス・ウォルポールやエドガー・アラン・ポー、メアリー・シェリー、H・P・ラヴクラフトなどの小説を好む、黒ずくめでアイラインを引いているダウンビートロックファンのことだ。このニヒリスティックな側面も持つサブカルチャーは、1970年代後半のパンクから派生したと言われているが、おそらくは、それよりも前、ダークで儀式的なロックバンドが登場した1960年代と1970年代前半から存在していた。
いつ始まったかはさておき、ゴスは死を拒否し続けてきたサブカルチャーで、吸血鬼のようなファッションが特徴的だったThe Sisters of MercyやThe March Violetsなどを擁していた英国・リーズのゴシックロックが登場した1980年代からスポーツウェアとディストピアを意外な形で組み合わせた最近のヘルスゴスまで、各時代に上手く順応しながら生きながらえてきた。今回は、代表的なスタイルを取り上げながら、ゴスファッションの歴史を振り返っていこう。
トラディショナルゴス
ゴスを定義づけるファッションスタイルは、パンクが生まれ、Siouxsie Sioux and The Banshees、The Damned、Joy Divisionなどが台頭した1970年代後半から始まった。当時のヨーロッパと米国の若い世代は健康優良になることを拒否し、その代わりにあらゆるサブカルチャーの共通項と言える "ヴィジュアル・アイデンティティ" を求めて、反体制で病的な黒ずくめの衣装を身にまとい、コールのアイラインを引くことを選んだ。
そして、ロンドンのクラブBatcaveの常連や米国のデスロックファンが闇に目を向けるこのアイディアに目を付けると、1980年代初頭には、逆立てた黒髪にダークなカラーリングのオーバーコート、スリムフィットジーンズ、ミニスカート、フィッシュネットストッキングなどを身に付けるという定番のゴスファッションが生み出された。以来、このファッションはBauhaus、The Cure、The Sisters of Mercy、The Birthday Party、Einstürzende Neubautenなどのバンドファンのユニフォームとなった。
ロマンティックゴス
ニッチな仲間と一緒にいたいが、誰かと一緒にされるのは嫌だというパラドックスを抱えている若者たちで構成されているあらゆるユースカルチャーと同じように、ゴスの中にも様々なサブカルチャーが生まれた。
1990年代に生まれたロマンティックゴスはその中の最初のひとつで、映画『アダムス・ファミリー』に登場するモーティシア・アダムスのルックスがこのサブカルチャーのファッションアイディアをほぼパーフェクトに捉えている。ロマンティックゴスは、墓場をうろついたり、枯れた花を集めたり、ゴシック建築や文学を学んだりと、ゴスカルチャーのダークな側面を好んでいたが、優雅なブラックドレスとゴスジュエリーを身につけ、幽玄なサウンドを打ち出していたCocteau Twinsなどの4AD系クラシックゴスロックやBrahmsやWagnerのようなクラシック音楽を聴いていた。ロマンティックゴスが好む美学には、スチームパンクに影響を与えたヴィクトリアンゴスとの共通点が確認できる。
サイバーゴス
サイバーゴスが他の伝統的なゴスと大きく異なる点は、彼らが聴いている音楽だ。1990年代後半にドイツで生まれたこのニュータイプゴスは、当時の音楽ファンと同じく、ロックに背を向け、エレクトロニック・ミュージックを聴いていた。
サイバーゴスのファッションは、レイブキッズの色鮮やかなカラーリングを採用していたが、21世紀になる頃には、カラフルなヘアエクステンションとネオンカラーのフェイクファーが、仰々しいゴーグルや厚底ブーツ、真っ黒な服など、インダストリアルなアイテムに取って代わられた。サイバーゴスの好むエレクトロニック・ミュージックはトランス、ガバ、インダストリアル、そしてニューロファンクなどのニッチなサブジャンルが定番だった。
ニューゴス
ニュー(Nu)ゴスは、若いゴスファンたちが準備に何時間もかかる髪型やコルセットとは無縁のスタイリッシュな普段着を欲し始めた2000年代終わりに誕生した。日本のパステルカラーのカジュアルなゴスシーンに影響されつつも黒を基調にしていたニューゴスのシックでモダンなファッションは、映画『ザ・クラフト』とドラマ『New Girl / ダサかわ女子と三銃士』の間に位置しているが、様々な論争を生み出した。
トラディショナルゴスをはじめとするほかのゴスは、ニューゴスをサブカルチャーの名を借りたヒップスターだと非難し、一方、ニューゴスファンは、自分たちはただのゴス以上の存在だと訴えている。ニューゴスはパンクロック、メタル、オカルト、タトゥー、デヴィッド・リンチの映画、Nick Cave and The Bad Seedsなど、ダークで内省的なものを好んでいる。
ヘルスゴス
ゴスの歴史の中で最も新しいヘルスゴスは、非常に興味深い存在だ。ヘルスゴスは、2013年に米国のポップデュオMagic Fades(Mike GrabarekとJeremy Scott)とアーティストのChris Cantinoの3人が、ハイテクとディストピアにインスピレーションを得たアートを投稿するために立ち上げたFacebookページからスタートした。3人にとってのヘルスゴスとは、無菌の環境、バイオメカニクス、トランスヒューマニズムをイメージさせるものだった。
やがて、このインターネットミームは現実世界のストリートウェアに流用されるようになり、映画『マトリックス』や『ブレードランナー』の衣装デザイナーが手掛けた衣装のような、黒くて近未来的なデザインが生み出されていった。ニューゴスと同じく、このファッションはゴスロックファンだけではなく、ヒップホップ、グライム、テクノ、そしてミステリアスなエレクトロニカなどのファンにも好まれた。ヘルスゴスは21世紀から先のゴスファッションと言えるが、ヘルスゴスには、Kornなどに代表される1990年代後半の米国のメタルバンドが好んで着ていたスポーティーなゴスファッションとの共通点が確認できることを付け足しておこう。