A photo of The Winstons, the band responsible for Amen, Brother, which is one of the most sampled tracks in history.
© Michael Ochs Archives/Getty Images
ミュージック

サンプリング回数最多記録を誇る楽曲は?

過去30年間のポップミュージックはサンプリングという技法抜きでは成立しなかった。数々のヒット曲誕生の元となった名曲たちを紹介する。
Written by Chris Parkin
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WhoSampled.comが登場するまでは、どのアーティスト、どの楽曲が最もサンプリングされているかを把握するには長時間が必要だった。しかし、現在はWhoSamped.comとその17,000人以上の熱心なユーザーのおかげで、最もサンプリングされたアーティスト(これは今回の記事を読めば分かる)/ 最もカバーされた楽曲(The Beatles「Yesterday」)/ サンプルを最多使用したアーティスト(これは予想通りMadlib、DJ Premier、J Dillaの3名)など、古今東西のポップミュージックにおけるあらゆる相関データを即座に知ることができる。過去8年間でWhoSamped.comとそのユーザーたちは40万曲・22万5,000曲分ものサンプリング参照元を解き明かしてきた。
サンプリングという技法がなければ、我々が知っているヒップホップは存在しなかった。これはエレクトロニック・ミュージックにも同じことが言える。Beyonce「Crazy In Love」は、The Chi-Lites「Are You My Woman(Tell Me So)」のイントロがなければ全く別の曲になっていただろう。また、A Tribe Called Quest「Can I Kick It?」がLou Reed「Walk On The Wild Side」の存在なしに成立したとは考えにくく、De La Soul「The Magic Number」もBob Doroughが制作した子供番組向けサントラがなければ生まれなかったはずだ。Jay-Zの最新アルバム『4:44』のタイトルトラックも、Hannah Williams And The Affirmations「Late Nights And Heartbreak」からのサンプルがあってこそ初めて成立する楽曲だ。
サンプリングというひとつのアートに敬意を表し、今回はWhoSampled.comの協力のもと、音楽史上最も多くサンプリングされた10曲を紹介しよう。
1:The Winstons「Amen, Brother」
1969年に発表されたこの楽曲は、現時点で2,637回もサンプリングされている。ワシントンD.C.出身のこのカルトなソウルバンドのわずか6秒間のドラムソロは「Amen Break(アーメン・ブレイク)」として広く知られており、英国のレイブミュージックの基礎中の基礎になったことはとみに有名だ。この楽曲がかの『Ultimate Breaks And Beats』シリーズに収録されたのは1980年代中盤のことだったが、これより前の段階でヒップホップのパイオニアAfrika Bambaataaがこのブレイクを使用しており、NWAや2 Live Crewなどが使用して定番ブレイクになったあと、大西洋を渡って英国に上陸し、ブリティッシュハードコアやジャングル / ドラムンベースの基礎となった。The WinstonsのドラマーGC Colemanは一切のロイヤリティを得ることなく2006年にこの世を去ったが、GoFundMeというキャンペーンの尽力により2万5千ポンド(約360万円)以上の寄付が集まり、バンドのフロントマン兼著作権保有者Richard Spencerに届けられた。
2:Beside「Change the Beat」
この楽曲はこれまで1,986回サンプリングされているが、最も多く使用されているパートを聴くには曲の最後まで待たなければならない。Fab 5 Freddyが1982年にリリースしたシングル「Change the Beat」のBサイドに収録されていたこのバージョンは、女性がフランス語でセクシーなラップを聴かせており、曲の最後でボコーダー処理されたボイスが「Ahhh, this stuff is really fresh」と囁く。Herbie Hancockが「Rockit」でこのボイスを初めてサンプリングしたのを皮切りに、現在に至るまでBeastie Boys、Gang Starr、OutKast、Missy Elliot、Run The Jewels、Justin Bieberなどあらゆるアーティストたちがこぞって使用している。
3:Lyn Collins「Think(About It)」
これは最も分かりやすいサンプルの一例だろう。James Brownが作曲とプロデュースを手がけたこの楽曲は、1972年にJBのセルフレーベルからリリースされた。ソウルの帝王が手がけた問答無用のキラーチューンだが、リリース時にチャートインを果たせなかったという事実は興味深い。ともあれ、この楽曲はやがて隠れた名曲として親しまれるようになり、1986年にリリースされた「Ultimate Breaks And Beats #16」を含む多数のコンピレーションに収録された。そして、ヒップホップの音楽性を大きく飛躍させることになる名機サンプラーE-mu SP-1200が1987年にリリースされると、プロデューサーたちがこぞってこのブレイクを引用するようになった。特に有名なのは「Yeah! Woo!」という掛け声が入るブレイクを使ったDJ E-Z Rock「It Takes Two」だろう。この「Think(About It)」はこれまでDizzee Rascal、EPMD、Janet Jackson、REM、Mr Oizoなど、1,901曲でサンプリングされている。
4:James Brown「Funky Drummer」
James BrownとThe JB’sが存在しなければ、ヒップホップは一体どうなっていただろう? JBの楽曲群は合計6,889回サンプリングされているため、彼は最も多くサンプリングされたアーティストとなっている。彼の楽曲群の中で最多サンプリング回数(1,410回)を誇るのが「Funky Drummer」だ。Clyde Stubblefieldによる力強いドラムブレイクをサンプリングしたヒップホップクラシックの多さを考えると、この数字はやや少なく思える。Public Enemyが「Rebel Without A Pause」や「Fight The Power」でこのブレイクを使用したことがとみに有名だが、その他にもLL Cool J、Run-DMC、Eric B And Rakim、Ice T、そしてGeorge Michaelまでもがこのブレイクを引用している。
The Godfather Of Soul James Brown in the late 1960s. He is the most sampled artist in music history to date.
James Brown
5:Dough E Fresh And Slick Rick「La Di Da Di」
この楽曲も数多くのヒップホップアーティストにサンプリングされているヒップホップクラシックのひとつだ。Doug E Freshがビートボックス、Slick Rickがラップを担当した「La Di Da Di」は1985年にリリースされたシングルのBサイドに収録されていた楽曲で、これまで860回サンプリングされている。Snoop Doggは1993年リリースのデビューアルバム『Doggystyle』でこの楽曲を「Lodi Dodi」として収録した。また、リリックもRobbie Williams(「Rock DJ」)やNotorious BIGなどに引用されている。リリックをサンプリングしたアーティストとしては、他にも DJ Premier、Ini Kamoze(大ヒットシングル「Here Comes The Hotstepper」)、Ludacris、De La Soul、Kelis、Mary J Bligeなどが挙げられる。
6:James Brown「Funky President(People It’s Bad)」
またしてもゴッドファーザー・オブ・ソウルの登場だ。当時就任したばかりの米国大統領Gerald Fordを題材にJBがペンを執ったこの1974年リリースのシングルは、WhoSampledのデータによると802回サンプリングされている。このリストの中では比較的少ないサンプリング回数だが、「Funky President」を引用して大ヒットとなったヒップホップクラシックは数多く、サンプリング回数以上の存在感を放っている。この楽曲で最も有名なパートは、イントロのドラムフィルとワウギターだ。Eric B And Rakimは、このブレイクを使ってその名も「Eric B Is President」を生み出した。このサンプルは他にもNWA「F*** Tha Police」、Public Enemy「Fight The Power」、DJ Jazzy Jeff And The Fresh Prince「Summertime」、Naughty By Nature「Hip Hop Hooray」など数々のヒップホップクラシックで引用されている他、Calvin HarrisやThe Offspringなどもこれを使用している。
7:Public Enemy「Bring The Noise」
Public Enemyが1987年にリリースした「Bring The Noise」に使用されたサンプルリストの膨大さはまさに卒倒ものだ。この楽曲をプロデュースしたThe Bomb SquadはMarva Whitney、James Brown、Funkadelic、DJ Grand Wizard Theodore、The Soul Children、Commodoresなど膨大な数のサンプル、さらにはMalcolm Xの演説まで使用している。しかし、彼らのセカンドアルバム『It Takes A Nation of Millions To Hold Us Back』(1988年リリース)に収録されていたこの楽曲は、De La Soul、Kanye West、Beastie Boys、Prince、Ludacrisをはじめとするアーティストたちによって、さらに744回もサンプリングされているのだ。ちなみに最も多くサンプリングされているパートはChuck Dの声だ。
Public Enemy are one of hip-hop's greatest groups, and feature in the 10 most sampled songs ever list.
Public Enemy
8:Melvin Bliss「Synthetic Substitution」
Melvin Blissが1973年にリリースしたシングル「Reward」のBサイドに収録されていたこの楽曲は、オリジナルリリース元のレーベルが消滅していたため永遠に失われる可能性があったが、Kool Keithが在籍していたUltramagnetic MCsが、1986年にリリースしたクラシック「Ego Trippin」でBernard Purdieが叩いたこの楽曲のドラムブレイクをサンプリングしたため、再び日の目を見ることになった。以来、このブレイクはNWA、Gravediggaz、Guru、Wu-Tang Clan、Danny Brown、Justin Bieber、Kanye West、The-Dreamなど数々のアーティストにサンプリングされてきたが、このブレイクがひときわ強い光を放っているのはRedman「Jam 4 U」だろう。本来この「Synthetic Substitution」の歌詞はテクノロジーの進歩への憤慨をテーマにしていたが、図らずもテクノロジーのおかげで後世に語り継がれることになった。
9:The Honey Drippers「Impeach The President」
1973年にサザンソウルシンガーのRoy Charles Hammondによって発掘されたこのクイーンズ出身のハイスクールソウルバンドはウォーターゲート事件で全米が激震に揺れる中、「Impeach The President」(「大統領を弾劾せよ」の意)を含む数曲をリリースした。当初は知る人ぞ知るマイナーソウルだったこの楽曲は、MC Shan「The Bridge」で、Marley Marlがイントロのドラムシークエンスを王道のヒップホップサンプルに変えたことで一躍有名になった。LL Cool J、EPMD、Shaggy、Janet Jackson、さらにはGeorge Bensonまでもがこのブレイクを引用しており、Wu-Tang ClanのGZAに至っては「As High As Wu-Tang Get」の中で「You can't flow, must be the speech impediment / You got lost off the snare off Impeach The President」という巧みなライムを披露している。WhoSampledユーザーの調べでは、「Impeach The President」は723曲でサンプリングされている。
10:Run-DMC「Here We Go(Live at the Funhouse)」
これは誰もが知る有名なサンプルだ。Joseph "Run" Simmons、Darryl "DMC" McDaniels、Jason "Jam Master Jay" Mizellの3人 ― つまりRun-DMCが1985年にリリースしたこの楽曲は、LMFAO、J Dilla、The Orb、Autechreなどによって様々なパートが引用されている。とりわけJason Nevins and Run-DMC「It's Like That」でも再利用された「… and it goes a little something like this」というフレーズは、誰もが聴いた覚えがあるはずだ。この楽曲は幅広く引用されており、今回の記事執筆時点で686回サンプリングされている。