Scientists in a research vehicle observe a tornado near Dodge City, Kansas, May 24, 2016.
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探検
40年以上竜巻を追い続ける男
竜巻が直撃し、大自然が猛威を振るう時、瓦礫をかき分けて最初に現場へ到着する男がストームチェイスに惹かれ続けている理由を探る。
Written by Will Gray
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米国中西部では、毎年春と初夏になると大自然の怒りが竜巻となって猛威を振るう。
この竜巻がもたらすアドレナリンラッシュは、数百人のストームチェイサーをこのエリアへ集めており、彼らの多くはこの驚愕の自然現象に何とか接近して撮影し、ニュースチャンネルに販売したり、ソーシャルメディアでバズろうとしている。
しかし、竜巻の破壊力はしばし強大になるため、ティム・マーシャルというストームチェイサーは、竜巻を追うことと同じくらい、竜巻が通過した直後の場所へ急行することにも力を注いでいる。ストームチェイスと竜巻の被害調査に40年以上関わってきたマーシャルは、竜巻の全てを目にすると同時に、九死に一生を得る体験もしてきた。
ベテランストームチェイサーのティム・マーシャル
ベテランストームチェイサーのティム・マーシャル© Will Gray
竜巻に興味を持ったきっかけは?
昔から破壊に興味があってね。子供の頃は、車のおもちゃに花火を仕込んで遊んでいたものさ。ある日、父がM80普通弾をごっそりと家に持ち帰ってきたことがあったんだが、あれは楽しかった。
その後、私が10歳の頃、地元を強烈な竜巻が直撃した。1967年4月21日のことだ。トレーラーハウスが集まった一帯が破壊され、ひどいありさまだった。33人の死者を出し、その中には私が知っている人もいた。3日後、母がその現場へと連れて行ってくれた。あの日以来、竜巻に興味を持つようになった。
どのような方法でストームチェイスを始めたのですか?
地元の街に竜巻が襲来したあと、気象観測用の機材をいくつか買って、独学で気象予報を学ぶようになった。
ストームチェイス用に買った最初の車、Chevy Camaroを手に入れてから数年後、ウィチタフォールズ(テキサス州)に大きな竜巻が発生した。ものすごい規模の竜巻だった。これがきっかけとなって、竜巻がもたらす被害について勉強したいと思うようになった。
ストームチェイスはどれくらい続けているのですか?
かれこれ40年以上になる。私はテキサス州ダラス周辺地域をベースにしているが、これまで竜巻を追って移動した距離を合計すると約80万4,000kmになる。
200個以上の竜巻を見てきたが、そのほとんどはテキサス州のパンハンドル地域(編注:テキサス州をフライパンに見立てた際に、取っ手の部分に相当する地域のこと。「回廊地帯」と呼ぶ場合もある)、ウィチタオクラホマコロラドだ。
竜巻に限りなく接近した経験もあるのでしょうか?
直撃を受けた経験はまだないが、瓦礫が頭上から降ってくる距離まで近づいたことはある。普通の人からすれば、「近すぎる」距離だ。
竜巻に再接近した経験は何回もあるが、自慢にはならない。というのも、ストームチェイサーなら竜巻の直撃はなるべく避けるべきだからだ。直撃を避けてもトラブルに巻き込まれる時もある。
道路が封鎖されたり、あるいは地図には載っているはずの道路が実際は存在しなかったりもする。竜巻がこちら側へ向かってきているのに、車が泥にスタックしてしまったことも2度あったが、あれは生きた心地がしなかった。
ストームチェイサーはできる限り安全なポジションを確保するものだが、それでも “絶対” はありえない。
どのくらい危険な目に遭ったのでしょうか?
竜巻が農場を破壊する様子を目の前で目撃したこともあるし、自分のすぐ隣にあった変電所が吹っ飛ばされて間一髪助かったこともある。金属製の巨大なタンクが破壊され、転がり回るのを見たこともある。幸い直撃は免れたがね。
雹の粒が直撃した時もあった。3インチ(約7.6cm)大の雹が車を直撃したんだ。金属製のゴミ箱の中に入って、50人に外側からバットで殴られているみたいだった。あれはかなり怖かった。
巨大な雹が直撃したこともあった
巨大な雹が直撃したこともあった© NWS Aberdeen/Wikimedia Commons
竜巻が数本の木を根こそぎ引き抜いたあと、それらを巻き込んで振り回しながらこっちへ向かってきたことがあった。いつどこに吹っ飛んでいってもおかしくなかった。
夜間に竜巻と接近したこともある。竜巻の位置が視認できないのでかなり怖かった。私たちは車の外に飛び出した。そのまま車内に留まっていたら車ごと吹き飛ばされると思ったからだ。橋の下をよじ登らなければならず、竜巻は私の近くをかすめていった。
命の危険を感じたことは?
当然ある。竜巻に直撃されるのは誰だって怖い。犠牲者になりたい人間はいない。ストームチェイサーは竜巻のど真ん中を捕らえたいわけではない。竜巻を見て、チェイスを続けたいだけだ。
竜巻の発達を追った連続写真
竜巻の発達を追った連続写真© JasonWeingart/Wikimedia Commons
ストームチェイスを続けている理由は?
私は空の美しさ、どこまでも開けた広い空間、一直線の道路、そして遥か昔に未開だったこの地に暮らしていた人たちに敬意を示すためにチェイスを続けている。それに、竜巻を捕らえた時のスリルも理由のひとつだ。本当に興奮する。
では、楽しみのためだけにチェイスしているのですか?
そういうわけではない。私は竜巻の被害調査も行っていて、その力を確認するのは非常に興味深い作業だ。竜巻の被害を見ると背筋に寒気が走る。
現地を歩いていると、自分が穏やかな天気の中にいることを実感すると同時に、ちょっと前までは非常に暴力的で酷い場所だったということを思い知らされる。
2013年にオクラホマを襲ったムーア竜巻の被害を調査するマーシャル
2013年にオクラホマを襲ったムーア竜巻の被害を調査するマーシャル© NWS Norman/Wikimedia Commons
竜巻の被害調査ではどんな発見があるのでしょう?
興味深い発見が沢山ある。初めて竜巻被害調査を行ったのは1980年だった。グランド・アイランド(ネブラスカ州)という街を猛烈な竜巻が通過して、翌日にその街を訪ねた。
コンクリートボード製の屋根を持つモーテルを見かけたが、その屋根が竜巻で剥がされて160m先まで飛ばされていた。矢のように飛び、落下地点の家屋やセミトレーラーハウスを貫通していた。度肝を抜かれたよ。
私がこれまで見た中で最大の竜巻被害は、1997年のテキサス州ジャレルだ。ゆっくりと移動する竜巻で、時速は14km/h、幅は約1.2kmだった。つまり、住宅を通過するのに約3分かかっていた。この竜巻は住宅を粉々にし、地面を切り裂きながら多くの命を奪った。
このような竜巻は、大きなパズルのピースだ。竜巻をより深く理解する必要がある。竜巻の発生プロセスやサイズを決める要因を理解する必要がある。発見方法を見つけ、避難勧告を速やかに行い、より頑丈な建物を建てる必要もある。これら全てがストームチェイスなんだ。
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