「バイクの整備はすべて馴染みのショップにお任せ」のタイプだろうと、自宅のガレージにF1チームのファクトリー顔負けの設備を備えていようと、トレイルでMTBをスムースに走らせるためには工具が必要不可欠だ。工具類は無数に存在するが、当然ながらそれぞれが目的と共にデザインされている。各工具の正しい使用法を改めてしっかりと認識しておけば、不意に訪れるメカニカルトラブルにも冷静に対応できるはずだ。
六角レンチセットは揃えておきたい工具のひとつ© [unknown]
自分のMTBの細部をよく見てみると、そのほとんどが様々なサイズのアーレンキー・ボルトで締結されていることに気づくはずだ。穴が六角形のこのボルトは1910年以来使用されている歴史ある規格で、ヘックス・キー(六角キー)と呼ばれることもある。一部にはインペリアル・メジャメンツ(編注:英国式のポンド・ヤードに基づいた単位)に基づいたアーレンキーも存在するが、自転車業界で標準的なサイズは2.5から8mmのメートル法に基づいたものだ。各サイズが1個のリングでまとめられた携帯用に便利な安価製品も出回っているが、自宅ガレージで使うならばしっかりとしたクオリティのレンチを各サイズ揃えておいた方が作業効率という点ではベターだろう。アーレンキー・レンチの一部製品には長辺の先端が球形となったタイプもあり、これはボルトに対してレンチをまっすぐな角度で差し込むことができないトリッキーな場所での作業の際、レンチを斜めに差し込むための工夫だが、接触面が少なくなるために強いトルクをかけるとボルトがなめやすくなるので注意が必要だ。
エアサスペンションを装備した高級車に乗っているのなら、質の良いショックポンプは絶対に欠かせないアイテムだ。コイルスプリング式と違い、エアサスペンションでは空気圧の調整によって細かく減衰力を調整できるが、その際にショックポンプがあれば繊細な空気圧調整をごく手軽に行うことができる。
通常のレンチでボルトを締め付ける際、どこまで固く締めて良いのか分からなくなってしまうことが良くある。トルクレンチが1本あればそんな手探りの作業におさらばできる。かつてトルクレンチといえば高価なものと相場が決まっていたが、近年では比較的手頃な価格で質の高い製品が出回っている。トルクレンチはその名の通りあらかじめ所定のトルクで確実にボルトを締結することを可能にし、不快な軋みやガタつきを未然に防いでくれる。
トルクスレンチはアーレンキーとは似て非なるもの© [unknown]
T25サイズのトルクスヘッドと4mmのアーレンヘッドを間違えて締め込んでしまう失敗はビギナーの通過儀礼のようなものだ。そして、自分の失敗を認め、どうにも外せなくなったネジを抜き取ってもらうために近所のバイクショップへ涙目で向かう途中に「今度こそトルクスレンチを一式揃えよう」と決心するのだ。12種のサイズを揃えたトルクスレンチ・セットを手にすれば、ディスクブレーキ・ローターの交換も的確に行うことができるため、「買ってよかった」と思えるはずだ。トルクスレンチは米国のCamcar社が開発したネジ規格で、星形のヘッドで6点接触タイプのネジを締め込むことでトルクの伝達効率を高める。また、磨耗や割れの原因となる応力の集中が少なくなるために耐久性も高い。
An indispensable piece of kit© BlickPixel
もちろんマイナスドライバーも持っておくに越したことがないが、品質の良いプラスドライバーはリア周りのポジションのファインチューンを行う際に決して欠かすことのできない必須工具だ。
ある意味矛盾しているように聞こえるかもしれないが、プラスチック樹脂もしくはラバー製のハンマーはバイクの整備においては非常に便利なツールだ。考えてみればすぐ分かるが、フォークやクランクの取り外しの際に金属でできたバイクを金属製のハンマーで叩くことは、単なる破壊行為に等しい。そんな時、打撃部分が軟質素材で作られたハンマーを使えば大事なバイクを傷つけることなくフォークやクランクの交換が可能になる。
タイヤ空気圧のチェックは一連のバイクメンテナンスにおいて最も見落とされやすい項目のひとつだが、ライディング時のパフォーマンスとフィーリングに大きく影響する部分だ。したがって、正しい空気圧設定を手早く正確に行うことが肝心だ。空気圧ゲージ付きのトラックポンプを使うのも良いが、ギーク的な嗜好を持つライダーなら、ほんの少し予算を追加してデジタル計測が可能な携帯用空気圧ゲージの購入を検討してみるのも悪くないだろう。
目立たないが非常に便利なワークスタンド© Nathan Hughes
これがなければ決してバイクのメンテナンスができないというわけではないが、自分や友人のバイクを整備する時のために作業用ワークスタンドを用意しておくことはクレバーな選択だと言える。作業用ワークスタンドはチェーンに潤滑油を塗布する際や、レース当日のセッティング作業の際に大きく役立つ。