かき氷を食べたような頭痛を感じ、顔に痛みが走り、つま先の感覚がなくなる… 冬のトレイルランニングは、最悪の日は、この3拍子が揃ってしまう。しかし、最高の日なら、5歳児の頃に戻り、白く輝くウインターワンダーランドに足跡をつけながら、知性が感じられない満面の笑顔でスキップできる。
そして幸運なことに、天候と地形に合ったウェアを着込み、安全が確保できるアイテムを用意すれば、最悪を最高に変えることができる。トレイルランのエキスパート、ケリー・ウォレスがそのためのヒント&アドバイスを話してくれた。
1:ヘッドライトを用意する
冬は日照時間が短いので、すぐに夜がやってきます。そこで、200~600ルーメンの出力で、バッテリー持続時間が長いヘッドライトを用意しましょう。スマートフォンのライト機能をヘッドライト代わりにすることはできない(スマートフォンのバッテリーは低温環境では急減する)ので、軽量のヘッドライトをバックアップとして持ち歩くようにしましょう。
2:ハットをかぶる
ハットを被れば保温性が高まりますが、ハットは蒸れるのでトゥーマッチだと思う人もいるでしょう。そのような人は、ヘッドバンドで耳を冷たい風から守ってください。寒い日はネックゲーターやハイネックのベースレイヤーも有効です。
3:レイヤーを重ねる
寒さ対策のベストソリューションがレイヤーの重ね着です。また、レイヤーの重ね着は温度調節の選択肢も増やしてくれます。下の3種類のレイヤーを用意するのが良いでしょう。
4:完全防水機能付きジャケットを着る
夏用レインジャケットでは吹雪に耐えられないので、完全防水機能付きジャケットを用意しましょう。冬のトレイルで必要になるのは「耐水 / ウォーターレジスタント」ではなく「防水 / ウォータープルーフ」です。
完全防水機能が備わっている「防水 / ウォータープルーフ」ジャケットは、ウォータープルーフメンブレンと呼ばれる防水皮膜が張られている上に、縫い目も完全に閉じられているので、水が入ってきません。一方、「耐水 / ウォーターレジスタント」は、縫い目が完全に閉じられていないので、水が入ってくる可能性があります。
自分の体型に合っていて、フードの微調整が可能な製品を手に入れてください。フードが耳元でばたついていると正気を失ってしまいますよ!
5:グローブを重ねる
防風(ウインドプルーフ)のグローブを装着しつつ、保温性に優れた軽量のグローブを緊急時用として持ち歩きましょう。
両手を使うスクランブリングが必要なコースを走っている時、または大雪が降っている時は、グローブを数枚重ねるのが役に立ちます。グローブが濡れてしまえば手の温度が下がって機能性と反応性が低下するので、スクランブリングを含むトレイルラン全体の危険度が高まってしまいます。
6:フルレングスのスポーツタイツを履く
暖かい日なら、ショーツやカプリパンツでもトレイルランを楽しめますが、雪が深く積もっている場所や凍てついた草原を走るなら、すねを完全にカバーする必要があります(寒さで傷ついてしまいます!)。また、薄氷が張っている水たまりの上を走ると、割れた氷で足首やすねを切ってしまうでしょう。
冬のトレイルでは足首までカバーしているフルレングスのタイツ(レギンス)を必ず履くようにしてください。
7:雪と氷に対応しているトレイルランニングシューズを履く
冬の凍てついたトレイルを走るには、靴底の凹凸が大きい、または靴底に金属製スパイクがついているトレイルランニングシューズが良いでしょう。
また、ランニングシューズのトラクションを向上させるストラップタイプも選択肢のひとつに含めることができます。日本ではマイクロスパイク、ミニクランポン、マイクロクランポンなど様々な名称で呼ばれているこのアイテムは、ゴム底のトレイルランニングシューズに装着するだけで、低標高地でのトラクションを高めてくれます(高地では本格的なスノーブーツとクランポンが必要です)。
いくつかの国では、スノーブーツでのトレイルランが積極的に行われています。また、ストックやポールを使えば、冬のトレイルでのグリップや安定性を高めることができます。
シューズ選択に関しては、アンクルゲーターや防水ソックスについても考えておきましょう。走行距離が短いなら、分厚いウール地の登山用ソックスで問題ありませんが、数時間走るつもりなら、防水ソックスがつま先を冷えから守ってくれるでしょう。いずれにせよ、冬のトレイルランニングシューズは、分厚い靴下を履くことを考慮してサイズを選びましょう。
8:念には念を入れる
ランニングバッグのパッキングをしている時は、常に “ランニングを途中で辞めざるを得ない場合 / 足止めを食った場合” の防寒対策を考えましょう。
最低限の準備として、晴天以外の全天候に対応できる防水機能付きウェア、合成繊維・断熱素材のジャケット、予備のハットとグローブ、地図、コンパス、サバイバルバッグ、大量の食料と飲料を用意しましょう。
9:山を軽視しない
冬の山を走り回る予定なら、夏の山とは完全に異なる環境に身を置くことを意識する必要があります。冬のトレイルランでは、アイスアックスやクランポンなど、“登山用” アイテムが役に立つでしょう。
最近は、装着簡単な軽量の登山用アイテムが数多く売られていますが、これらを使うつもりなら、使用方法を完全に理解しておく必要があります。また、トレランポールがアイスアックス代わりになると考えるのは大間違いです。軽量のスキーツーリング用セルフアレストポール / アックスを持ち歩き、滑落停止方法を学びましょう。
また、雪崩の危険があるエリアを走る予定なら(もちろん、単独ではなくペア以上でのランニングが絶対条件ですが)、トランシーバー(ビーコン)、シャベル、プローブもバッグに入れておきましょう。
冬のトレイルランニングは、部分的に夏のマウンテンランニングと似ている部分があり、つまりは、簡易版・軽量版登山とも言えます。冬のトレイルラン、夏のマウンテンランニング、本格的な登山の境界線は年々あやふやになってきていますが、ひとつだけ確かなのは、この3つ全てでハイレベルな能力・知識・経験が必要になるということです。
10:行き先を誰かに教えておく
必ず行き先を誰かに伝えましょう。また、冬のトレイルランでヒーロー気分を味わおうとするのは愚の骨頂です。冬は夏よりもトレイルランが難しくなります。雪で覆われて見えなくなる部分が増え、視界も頻繁に悪くなります。地図とコンパスのスキルを高めておき、可能ならバックアップ用としてGPSデバイスも準備しましょう。
ケリー・ウォレス:経験豊かなフェルランナー / スカイランナー。クライミングと登山にも通じており、現在は地元スコットランドでGirls on Hills Ltd.のディレクター / トレイルランガイドを務めている。Girls on Hills Ltd.は、公道や公園でのランニングではなく、山地でのランニングを楽しみたい女性を対象にしたガイド付きフェルランニングとトレイルランを提供している。