Carla Molinaro competes at Red Bull Steeplechase on October 9, 2016
© Olaf Pignataro/Red Bull Content Pool
ウルトラ ランニング

【初めてのウルトラマラソン】意外と簡単に始められる5つの理由

飲み食いしながらスローペースで美しい自然の中を走るウルトラマラソンは、思っているよりも敷居が低いスポーツだ。
Written by Isaac Williams
読み終わるまで:10分最終更新日:
マラソンが持久系の頂点として考えられていた時代があった。マラソンを完走できれば、最高にフィットしているという評価が得られた。
しかし、開催されるマラソンイベントと完走者の数が増えていくにつれ、42.195km(今もまだ非常にタフな距離だが)は徐々にその神秘的な雰囲気を失っていき、ランナーたちはマラソンよりも長く、タフで、参入障壁が高い “ウルトラマラソン” の完走を目指すようになっていった。
厳密に言えば、マラソンの距離を “超える” あらゆるレースは “ウルトラ” を名乗れるが、現実を言えば、この世に存在するウルトラマラソンの大半は30マイル(48km)以上で、Western States Endurance RunUltra-Trail du Mont-Blancのような世界的な人気を誇るプレミアレースは、100マイル(160km)級のコースを用意している。
しかし、ウルトラマラソンのその “ウルトラ” な距離は、「実はランナーの多くが完走できる」というひとつのシンプルな事実を覆い隠してしまっている。そこで今回は、ウルトラマラソンがイメージよりも簡単な理由を5つ挙げていく

1. 景色に鼓舞される

約5,000kmというとんでもない距離を走らなければならないSri Chinmoy Self-Transcendence 3,100 Mile Raceや24時間トラックレースのような例外もいくつかあるが、ウルトラマラソンの多くは人里離れた広大な自然の中で開催されている。山脈山道をイメージしてもらえば良い。
つまりこれは、ウルトラマラソンデビューを飾る前にトレイルランニングの経験を多少積んでおく必要があることを意味している。しかし、多くのウルトラマラソンがこのような地形で開催されているという事実は、このスポーツの人気の理由でもある。
HOKA ONE ONEのアスリート、マグダ・ブレ@RunBoulet)は次のように語る。
Instagramやソーシャルメディアのパワーを過小評価してはいけませんわたしがトレイルランニングの世界に飛び込むきっかけになりましたからね
「15年前はトレイルやレースの美しさを紹介するツールは多くありませんでした。ですが、今はあらゆるウルトラランナーが山に囲まれた景色や美しいトレイルの写真で自分たちのフィードを埋めているので、それらを見て “素敵!” と思う人が増えています」
美しい景色は、ウルトラマラソンに興味を持った人たちを自分たちが想像していたより遠くまで走らせる要因でもある。
景色がほとんど変わらない舗装路やトラックでのレースとは異なり、ウルトラマラソンは美しい景色や冠雪の山が次々と目に飛び込んでくるので、辛さを忘れてしまう人が多いのだ。

2. マラソンよりもスローペース

多くのランナーが思っているよりもウルトラマラソンの敷居が低いことをより明確に示しているのが、距離が短い他のレースよりスローペースで走るという事実だ。ウルトラマラソンではコースの大半を走らなくても問題ない。
ウルトラマラソンでは歩くことが重要なんです」と語るのは、レッドブルアスリートディラン・ボウマン@dylanbo)だ。米国出身32歳のボウマンは世界を代表するウルトラランナーだが、「40%は歩いていた」レースを先日完走したばかりだ。
距離が短いロードレースでは「歩行は絶対に避けるべきこと」だが、ウルトラマラソンでは歩くことが推奨される時がある。ボウマンが続ける。
「急峻な登りでは特にそうですね。こういうセクションでは走るよりも歩く方が効率が良いんですよ。前半の登りを歩いておけば、残り4分の1まで来た時にまだ “脚に余裕がある” ことに気が付くでしょう。これが好タイムに繋がります。トレーニングにハイキングを取り入れることをオススメしますよ
ウルトラマラソンを完走するには歩くことも重要

ウルトラマラソンを完走するには歩くことも重要

© Miles Holden/Red Bull Content Pool

これはブレも触れているポイントだ。彼女は次のようにコメントしている。
急坂を登る時は、走るよりもスピーディなパワーハイク(両膝に手を置く歩行)が良いですね。エナジーをセーブできます。ウルトラマラソンを始めた頃は、坂を走っている間にハイクが上手い他のランナーたちによく抜かれていたのを覚えています」
「また、その頃はハイクをしている自分に不甲斐なさを感じていましたが、戦術的な理由からランからハイクに切り替えると、レース終盤に脚が疲れていないことに気付きました」
ウルトラマラソンを代表するイベントWestern States 100を制した(しかも、100マイル初挑戦で!)女子ランナーが採用しているのなら、我々が採用しない理由はない。
戦術的な理由からランからハイクに切り替えると、レース終盤に脚が疲れていないことに気付きました
マグダ・ブレ
しかし、ブレは “スローはイージーとイコールではない” と指摘する。
「スローペースに騙されてはいけません。平均速度がロードマラソンのようなイベントよりも遅いからといって、イージーではありません。ウルトラマラソンの多くは、地形やアップダウンの多さが非常にチャレンジングですし、8時間もレースしていると、地形を問わずあらゆるペースの維持が困難になります

3. フィジカルよりメンタル

長時間走るという事実は、ウルトラマラソンはフィジカルだけではなくメンタルの強さも必要になるレースということを意味している。
つまり、意志は強いが圧倒的なスピードやフィットネスは備えていないランナーには向いているが、内なる疑問の声を振り払うのが難しいランナーは苦しむことになる。ブレは次のように説明する。
100マイル級の超長距離レースでは、ランナーの多くが途中で苦しい時間帯を経験することになります。再び快適に感じられるまでその時間帯を耐えるのは簡単ではありません。ですが、そのような時間帯を乗り越えることが、ウルトラマラソンを非常に満足度の高いレースにしているのです」
一方、ボウマンは、モチベーションと共にレースに臨むことがウルトラマラソン攻略のカギになるとしている。
「モチベーションがあれば、メンタルチャレンジをクリアしやすくなりますし、誇りに思える結果を出したいという気持ちが、辛い時間帯を乗り越えさせてくれます。トレーニングも重要ですが、僕に言わせれば、“アドベンチャーを楽しむぞというモチベーションが何よりも大事ですね」
モチベーションがあれば、メンタルチャレンジをクリアしやすくなりますし、誇りに思える結果を出したいという気持ちが、辛い時間帯を乗り越えさせてくれます
ディラン・ボウマン
ボウマンは、ウルトラマラソンの世界で成功を収められた要因はポジティブなマインドセットにあったと考えている。
トレイルランニングとウルトラランニングに出会うまではランニングに一切興味がありませんでした」と振り返るボウマンは、子供の頃にチームスポーツを楽しんでいたため、ある程度のフィットネスと運動能力は備えていたとは認めているが、デビューレースまでランニングの経験はゼロに等しかった
あの時の僕にあったのは、 “完走してやる” という強い気持ちと、チャレンジを前にした子供的な興奮だけでした。僕に言わせれば、ランニングの経験よりもこのような気持ちの方がよっぽど重要ですね」
ボウマンは「ボジティブなマインドセットこそ重要」と語る

ボウマンは「ボジティブなマインドセットこそ重要」と語る

© Justin Sund / Red Bull Content Pool

しかし、マラソンの距離を走ったあと、同距離をさらに走らなければならないウルトラマラソンで、モチベーションやポジティブなマインドセットをどうやって維持すれば良いのだろうか?
スポーツ心理学教授アンディ・レーンは「ウルトラマラソンを完走するカギは、コース全体を自分で管理できる短い距離に分けて捉えることにあります」とし、次のように続ける。
「たとえば、3マイル / 5km程度で区切ってみましょう。ランナーの多くは近所の公園で走り込んでいるので、そこでいつも走っている距離を単位にしてレースを区切ることが長距離を完走する助けになります」
もうひとつのカギは我慢です。1日中体を動かすことになるという事実を受け容れ、自分の意志でそれを選択したことを前向きに捉えながら、落ち着いて走り続ける必要があります」
ランナーの多くは近所の公園で走り込んでいるので、そこでいつも走っている距離を単位にしてレースを区切ることが長距離を完走する助けになります
アンディ・レーン教授

4. 飲み食いしながら走れる

ウルトラマラソンにはユニークな特徴がいくつもあるが、その中で最もユニークなのが、栄養補給の重要性だろう。
Born To Run 走るために生まれた』の著者として知られるクリストファー・マクドゥーガルは、ウルトラマラソンを「運動と景色を多少加えた飲食イベント」と定義している。この表現は誇張されすぎかもしれないが、伝えようとしているメッセージは真実だ。ウルトラマラソンは大量に飲食するレース、むしろ、飲食が必要不可欠なレースなのだ。
ブレは次のように説明している。「ウルトラマラソンではロードレースよりも食べることになります。ですが、何を食べるにせよ、素早く吸収できて、胃に優しいものである必要があります」
実戦の前に自分に合う食べ物や飲み物を見極めておこう

実戦の前に自分に合う食べ物や飲み物を見極めておこう

© Red Bull Content Pool

そして他と同じく、飲食も「習うより慣れろ」だ。ブレが続ける。
トレーニング中に食べ方や飲み方の練習をして、レース中の栄養補給で問題を抱えないようにしましょう。ランニング中に複数の食料や液体を吸収・消化できるように内臓を鍛えることも可能です」
「食べたり飲んだりしたことがない物をエイドステーションで見かけて、良さそうだと思ってむやみに摂取してしまうと、失敗に繋がる可能性があります」
ボウマンも、ウルトラマラソン中の栄養補給のチョイスは個人によって大きく異なるとしている。
カロリー補給はドリンクで行っている。基本的には高カロリーのミックスドリンクを飲んでいるんだけど、エイドステーションのスープで補完する時もあるね。でも、サンドイッチやフルーツ、エナジーバーなど “リアルな食べ物” を好んでいるランナーもいる」
「だから、自分にとって何がベストなのかを見極めることと、レースで失敗しないようにトレーニングで事前にテストしておくことが非常に重要だ」

5. 練習が成功に直結する

スローペース、美しい景色、大量のスナックという3点があらゆるランナーをウルトラランナーに引きつけるはずだが、他と同じで本番までのトレーニングを軽視してはいけない。ブレは次のように語っている。
ウルトラマラソン挑戦前は、少し気が重くなるくらいが丁度良いと思います。大変そうだと思えば、正しいトレーニングプランを用意して準備するはずですし、結果的に、ウルトラマラソンなんて余裕だと考えていた人より楽に完走できるでしょう」
「完走だけが目的でも、無事にフィニッシュラインを越えるためには、そして、レース後の健康やリカバリーに悪影響を与えないためには、正しいトレーニングを積んでおくことが重要です」
「ゆっくりと時間をかけて歩けば、ほとんどのランナーが完走できるでしょう。ですが、重要なのはそれが楽しいかどうかです。また、体を酷く痛めてしまえば、二度と走れなくなってしまう可能性もあります」
準備をしておけば、それだけ楽しくなりますし、競技を長く続けられる基礎を得ることもできます
しかし、ウルトラマラソン挑戦はまだ早いと思っている人でも、ウルトラマラソンを目指して距離を延ばしていくトレーニングならできるはずだ。ブレが続ける。
今走っているロングランの距離が何であれ、2~3週間ごとに1.5~3km距離を延ばしてみましょう。それを続けていくうちに、ウルトラマラソンに近い距離を走れるようになっているはずです。そして、その距離を走るのが楽しいと感じるようになれば、もっと遠くまで走りたいと思うようになるでしょう!」
(了)
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