音楽業界の “ゲーム” は常に変化しており、ヒップホップは長い間その触媒として機能してきた。
今もHot 97のオンエアからヒットが生まれているものの、近年は大きな話題を獲得するためには、インターネット上でバイラルヒットになれるポテンシャルを持ち合わせていることが問われるようになっており、YouTubeとSoundCloudがキング&クイーンとして君臨している。
ラッパーたちが口火を大きな炎に変えるチャンスが得られるのはこれらのフィールドであり、時代とタイミングさえ良ければ、無名のアーティストが一夜にして成功を掴むことができる。
しかし、全てのサクセスストーリーの裏には、ブレイクの持続時間を延ばせるチャンスも潜んでいる。
短命に終わりがちなヒップホップには、一発ヒットや退屈な続編が数多く存在するが、Playboi Carti、Lil Pump、そして彼ら以前にブレイクした数人のアンダーグラウンドラッパーたちは、チャンスを活かして自分たちの立場を確実なものにしている。
その中で、03 Greedo、Princess Nokia、JPEGMAFIA、Jay Critchなど、今回取り上げているアーティストたちはラップへの固定観念やヒップホップへの期待を裏切りながら、より大きなステージを目指している。
彼らのエナジーとパワーを無視することはできない。トラック、リリック、またはその両方を通じて彼らが打ち出しているメッセージは、ヒップホップという名前のゲームを守るためのものではない。彼らはまさしくゲームチェンジャーなのだ。
2018年は誰もが03 Greedoに注目している。カリフォルニア州ワッツ出身のこのラッパーは、エキセントリックでありながら本格派の風格も感じさせるというパーフェクトなバランスを誇っている。
ロサンゼルスの現在と世界が抱える問題を提示する陰鬱なストリートミュージックと呼べる彼のサウンドが最高の形で表現されているのが、2018年にリリースされた圧倒的なクオリティのミックステープ『The Wolf of Grape Street』だ。
03 Greedoは先日懲役20年の刑を宣告されたが、彼の代理人はファンに対して、本人が音楽活動を続けることを約束している。彼がロングミックステープを次々とドロップしながら、数々の素晴らしい才能を惹きつけている多作なアーティストであることを考えると何の不思議もない。
人工鼓膜の使用者で、足に金属版を埋め込んでいる03 Greedoは、今度は塀の中で生活を送らなければならないが、本人はこの先どんな問題が立ちはだかろうとも、10年以上前に顔に大きく草書体で施したタトゥーの文言 - “Living Legend” - になるという強い決意を持っている。
トラブル続きの生活が原因で母親の逆鱗に触れ、1年間強制的にセネガルで生活を送ったニューヨーク・ハーレム出身のSheck Wesは、1年前に音楽活動を再開させたばかりだが、すでにブレイクが約束されている。
Kanye WestのレーベルG.O.O.D Music、Travis ScottのレーベルCactus Jackと契約を済ませた彼のことを、先駆者たちの尻馬に乗ろうとしているアーティストだと揶揄する人もいるが、元モデルでバスケットボールの天才としても知られていた彼は、ビッグレーベルとの契約がなくても成功できることをすでに示しており、「Live SheckWes Die SheckWes」や「Mo Bamba」のようなトラックを自力でヒットさせている。
また、デビューアルバム『Mudboy』もリリース間近で、NIKEとのプロジェクトも進行中だ。彼の成功は誰もが確信している。
2018年で最もハードなラッパーが、テネシー州チャタヌーガ出身の4人の子供を持つ28歳の女性ラッパーになることを誰が予想しただろうか?
Bbymuthaのストーリーは、たったひと晩で成功と人気を手にするアーティストが多い昨今に良く見られる典型的な “成り上がり” とは異なるが、そのスペシャルなストーリーだけで彼女を語るべきではない。
Bbymuthaについては様々なストーリーが存在するが、彼女の真の魅力は、プロウーマン / セックス・ポジティブな芸術的才能にある。彼女のフロウとスピードはほぼ全てのトラックで同じだが、そこには常にリラックスした雰囲気がある。これは非常に希有な才能だ。
彼女はグライムの中をゆっくりと動きながら、トラック全体を機能させられる唯一のラッパーであり、自分が嫌悪する人物(ヒューストンのテレビ宣教師Joel Osteen)をインスピレーションの源にしてアルバム(『Prosperity Gospel』)を制作している唯一のラッパーでもある。
Cousin Stizzは、ラップという “ゲーム” をパーフェクトにプレイしている。クラシックだが同時に新鮮でもあるこのボストン出身のラッパーのサウンドは、本人に2018年を代表する数多のアーティストたちの中で独自のポジションを与えている。 Cousin Stizzのトラックはハイプに煽られてクラブヒットする類いのものではないが、ニューイングランド的視点でストリートの現実を鋭いナイフでスマートに切り取っている彼に小手先のギミックは必要ない。
イージーなフロウと中毒的なフックが選び抜かれたビートと見事に組み合わさっている彼のサウンドは、スローでヒプノティックなトラックで特に強い光を放つ。Cousin Stizzは、2018年内に次のプロジェクトを始動させて音楽の新しい地平を見せるとしているが、この発言は疑う理由はない。
SahBabiiがブレイクするきっかけとなったシングル「Pull Up Wit Ah Stick」は2017年を通じてあらゆる場所で聴けたが、それには理由があった。
というのも、このトラックは素晴らしいプロダクションと並外れたクオリティのフックを組み合わせることで、不可能と考えられてきた “スイートスポット” を見事に捉えていたからだ。
このアトランタ出身のラッパーは、デビュー当時こそYoung Thugと比較されて中々芽が出なかったが、以降は「Marsupial Superstars」などのトラックを通じて、ゴムのような柔軟さと、セクシーに緩さを持つ自分の声は唯一無二だということを明確に打ち出している。
リマスターされたミックステープやいくつかのジャムをリリースしてきた彼は、次の大きな一歩に踏み出す準備が整っている。デビューアルバム『Squidtastic』のリリースが楽しみだ。
Princess Nokiaは、『1992』をユニークなミックステープに仕上げた手法を使い続けても良かったはずだが、2018年に入ると全てをスローダウンさせ、本人が “エモミックステープ” と呼ぶ作品(『A Girl Cried Red』)をリリースした。
ファンの期待に応える作品をリリースする代わりに(ファンの多くが “Princess Nokiaは理解した” と安心していたはずだ!)、このニューヨーク出身のラッパーは勇敢な変化球を投げ、どんな結果が待っていようとも自分の足で自分の道を歩くことを選んだ。
2018年のPrincess Nokiaは、自分の美学の中で何が優先されているのかを明確に示している。今年がさらなる勇気ある活動に続く第一歩であることを願いたい。
Tay-Kが活動不可能な今、YBN Nahmirが若手ラッパーたちを率いる存在となっている。
テキサス州アーリントン出身でトラブルにトラブルを重ねているTay-Kと同じように、アラバマ州出身のこの17歳も、簡単に消化できるがインパクトの大きい、生々しくてシンプルなトラックを打ち出している。
YBN Nahmirがブレイクするきっかけになったのは、2017年にリリースされた「Rubbin Off The Paint」だが、最新シングルは彼が一発屋ではないことを示している。
その「Bounce Out With That」は、Tay-K的なサウンドにCole Bennettのインパクトのある映像を組み合わせることで、すでに再生回数7,500万回を超えている。
Wiz Khalifa、Chris Brown、G Herboたちとのコラボレーションも控えているYBN Nahmirは、年内にソロデビューアルバムもリリースする予定だ。XXLの取材に対して彼はこう回答している。「2018年? ブッ飛ばすつもりさ」
世の中には高慢な態度のラッパーがいるが、Valeeはそれが気にならないほどスムースで自信に溢れている。彼のラップは非常にストレートかつ滑らかで、まるでウィルスのようにリスナーの中に忍び込んでくる。
Kanye WestのG.O.O.D Musicから2018年にリリースされた「GOOD Job, You Found Me」は、このシカゴ出身のラッパーに秘められた確かな才能の一部でしかない。
冷然としたミニマルビートと見事なフロウが特徴のValeeは、風の街シカゴのヒップホップシーンをかき回すはみ出し者たちの代表だ。
彼の素晴らしいフックがそのクオリティに相応しいインパクトをもたらせれば、2018年末までにシカゴのラップシーンは完全に覆されるだろう。
本名はMaria Kellyだが、我々の中ではRico Nastyとして知られている。または、TacobellaやTrap Lavigneとして知っている人もいるだろう。
現代がアバターとアイデンティティが乱立するメディア偏向社会であることを踏まえれば、若干20歳のメリーランド州出身のこのラッパーがまるでシャツを着替えるかのように次々と新しいアイデンティティを打ち出していることは不思議でも何でもない。
Rico Nastyが次にどんなアイデンティティを用意するのかを予想するのは難しいが、彼女の中核に位置しているアイデンティティ、つまり、境界線をプッシュする無作法で反抗的な人間性は、どのトラックでも確認することが可能だ。世の中をポップにあざ笑うTacobella名義でも、厚顔無恥なトラップを打ち出しているRico Nasty名義でもそこは変わらない。
「Sugar Trap 2」と「Tales of Tacobella」のサウンドは、彼女が “ビッグリーグ” に加わるプレリュードだ。ビッグリーグで彼女がどんなアイデンティティを打ち出すのかが今から楽しみだ。
ニューヨークは次のBobby Shmurdaを探し続けているが、現在この都市のヒップホップシーン全体が注目しているのがJay Critchだ。
ニューヨークをテーマにしたトラックをほんのひと握りリリースしただけで話題を集めているCritchは、すでに誰もが望むネクストスターの椅子を手に入れており、彼の次のアクションは、ニューヨークのヒップホップシーンのデファクトスタンダードとして扱われることになる。
彼のこの状況は、今回取り上げているラッパーたちと比べても非常に興味深いものだ。なぜなら、今回取り上げているラッパーの多くが自分の音楽でその地位を確立させている一方、Critchは長尺の作品をまだひとつもリリースしていないからだ。
しかし、Rich Forever Musicとの契約とテレビドラマ『アトランタ』への出演が何かを意味しているのであれば、それは彼は必ずや頂点に立つということだろう。
JPEGMAFIAは長年に渡り、形式化したサウンドと伝説を破壊することで “これからのラップ” を表現してきたが、有り難いことにようやく時代が彼に追いついてきた。
2018年初頭にリリースされた彼がセルフプロデュースしたアルバム『Veteran』は世界的な高評価を得た。人間が作り出したジャンルという境界線を見事に飛び越えているJPEGMAFIAの勇敢な音楽的意思表示、アンダーグラウンドラップとエクスペリメンタルミュージックの合間を行くサウンドは、非常に芸術性が高く、肉体性が感じられ、不気味なパワーに溢れている。
JPEGMAFIAのサウンドは、音楽と政治の両面で恐ろしいほど革新的かつ非道なまでに挑戦的だ。彼の次の作品が楽しみだ。
最近はInstagramへ適当に投稿したフリースタイルでも世間の注目を集めることができる。
Diamonté HarperことSaweetieは、Khiaが2002年にリリースしたシングル「My Neck, My Back」に合わせて即興でラップしている姿をInstagramに投稿したことで一気に人気を獲得した。
そして2018年、彼女は初のメジャー作品(ハイクオリティなプロダクションが光る「High Maintenance」EP)とソーシャルメディア上での努力の結果と言える忠実なファンベースを手に入れている。
嬉しいサプライズと言えるのが、彼女の最近の作品、「B.A.N.」や「Agua」は、彼女の知名度を高めたバイラルヒットトラック(「ICY GRL」)よりレベルアップしていることだ。
ベイエリア出身のこのラッパーの次の一手は夏にリリースされる予定のアルバムだ。この作品が、彼女が自身に課した難しいがエキサイティングな目標「女性ラッパーの意味を変える」を実現する助けになることを願っている。
Lil Skiesは現在人気急上昇中だが、彼に業界からの評価は必要ない。現在19歳のペンシルヴァニア州出身のこのラッパーは、数ヶ月前から一気に話題となっおり、そのディープでカルチャーの香りが感じられる彼のトラック群はそれぞれが100万単位の視聴回数を記録している。
当然、今年のXXLの “Freshman List” 入りに相応しいアーティストで、今をときめくビデオグラファーCole Bennettのバックアップも受けているが、本人はアンフェアな形で成功を手に入れたくないとしており、“Freshman List” の投票が始まる前に自分の立場を確立させようとしている。
最近の若者たちは “業界の企み” を簡単に見抜ける。そして、Lil Skiesにはそのような企みがなくても問題なくやっていける才能がある。
CupcakKeは常に “誇張” と結びつけられてきた。彼女のアーティスティックな側面、つまり、ダンスパーティ的なアクションとダーティなリリシズム、そして仰々しいファッションはとにかく過剰なため、逆効果になりがちだった。
しかし、強烈な個性とハングリーなラップで知られるこのシカゴ出身のラッパーは、その激情と派手な言葉遊びを抑えた赤裸々で啓蒙的なリリックと共に、摂食障害、国民の意識、性的暴行、貧困などの問題に立ち向かう時がある。
表面的に何が歌われていようと、CupcakKeは自らのトラックを通じて人生はリリックと同じくらい酷いものになる可能性があることをリスナーに教えてくれる。
「ヌードと性的コンテンツ」を理由にYouTubeが彼女のミュージックビデオを早々に削除したという事実は、彼女のその非凡な才能を逆に際立たせている。
オハイオ出身のTrippie Reddは今回取り上げているアーティストの中で最もフレッシュなアーティストで、2017年に初のミックステープをリリースしたばかりだが、実は、今回のリストの中で最大のアーティストでもある。
Diploと組んだミュージックビデオをリリースし、Erykah BaduとLil Wayneがデビューアルバムに参加することも決まっている彼は、世界最多視聴者回数を記録したDrakeの「God’s Plan」にもフィーチャーされる予定だった。
このような急速な人気獲得は、レコード会社の企みによって生み出されることも多いが、Trippie Reddの場合は、単純に彼が無視できない才能を備えているからだ。
より簡潔に説明すれば、Reddは他のアーティストより優れたメロディを絶え間なく生み出せる才能を備えており、自分の才能を自覚できる感覚も備えているのだ。次の目標は世界レベルの人気獲得だ。